2006/05/14

幼稚文体の薦め


  毎度の如く思いつきで始めた、7言語・日替わり更新ですが、3週間経過した現在、慣れたような苦しいような複雑な状況にいます。

  母語である日本語は気楽なようですが、日本語の文は他より長くしているので、それはそれで負担が大きいです。 しかし、母語を書くのも面倒臭いなどと言い出したら、サイトもブログも成り立たないので、こんな愚痴は厳禁ですな。

  外語で一番楽のなのは、韓国朝鮮語ですかね。 なぜかというと、翻訳ソフトを実用的に利用できるからです。 日本語と韓国朝鮮語は文法がほぼ同じなので、翻訳ソフトの仕事は単語の置き替えに限定されます。 機械翻訳はどの言語でも押し並べてまだ幼稚ですが、単語レベルの置き換えくらいなら、相当の信用度でこなしてくれます。 私の仕事は、機械が訳した文に目を通して、明らかな間違いが無いかチェックするだけ。 同音異義語などで、機械が勘違いする事がたまにありますが、その程度の間違いなら私の能力でも見抜けます。

  次に楽なのは英語です。 これも翻訳ソフトの信頼度が高い事に因ります。 機械に訳させて、「ここはちょっと変だな」と思う所だけを直して行くわけです。 英語の文法は比較的単純ですし、中学以来さんざんやって来たので、文法的な誤りは大体分かります。 ただ、慣用表現のレベルまでは到達していないために、文が幼稚になるのは避けられません。 「取り敢えず、通じればいいか」という開き直りで押し通すのみ。

  その次が中国語。 中国語はあれやこれやで15年近く習っていた、私が辞書無しで読める唯一の言語です。 当然、書く方も楽勝と言いたい所ですが、そうは問屋が卸してくれないのであって、英語よりも時間がかかります。 翻訳ソフトが役立たずで、自分で辞書を引いて、文を組み立てなければならないからです。 ≪ヤフー・翻訳≫で、日本語を中国語にすると、まったく意味が通らない滅茶苦茶な文が出てきます。 こちとら、読むだけは読めますから、顎が外れるような文をそのまま使うわけにも行かず、結局一から作り直すという事になりわけです。 それにしても、どこのどいつが、こんな翻訳ソフトを作ったんでしょうね? お話にならんでよ、われ。 知らない人は、「へえ、これが中国語か」と思って、そのまま使う可能性がありますが、背筋が凍るような話です。 駄目駄目、全然通じないって! およしなさい、お若いの。 年寄りの言う事を聞きなされ。

  その次がフランス語。 勉強を始めてから一年半ですが、昨年の夏以来、≪日本携帯蔵≫で毎週フランス語と格闘して来たせいで、今や私が最も多く訳文を作った言語になってしまいました。 こういうのは経験値が物を言いますから、量をこなしたものが慣れるんですな。 フランス語は、翻訳ソフトで訳した文を、修正していく方法で作ります。 日⇔韓を除く翻訳ソフトの大半は、一旦英語に訳してから対象言語に訳しなおすという構造になっていて、日⇔中などは、そのせいでグヂャグヂャになってしまうのですが、フランス語の場合、英語との近縁性が高いので、それほど滅茶苦茶にはなりません。 ただし、一応全部の単語を辞書で引き直して、チェックします。 一度、≪植物≫と書くべき所を、≪工場≫と書いてしまって、大恥を掻いた事があり、それ以来、神経を使うようになりました。 間に挟まっている英語では、両方とも≪Plant≫である為に起こった現象ですが、こういう例が結構あるのです。

  つい最近始めたばかりのドイツ語とスペイン語は、未だに五里霧中の有様です。 そもそも原文をほとんど読んでいないのに、それを書こうって言うんだから、元から無理があります。

 「ドイツ語は英語に近い」という話を聞いていたんですが、いざ習ってみたら、近いのは単語の語源だけで、文法は天地ほども離れている事が分かりました。 英語とフランス語の違いは、修飾語の位置と、目的語になる人称代名詞の位置くらいのものですが、ドイツ語では語順そのものが丸っきり変わってしまうのです。 SVOじゃないんですよ、たまげた事に! 習ってみなければ分からない事ってあるんですねえ。

  スペイン語の方も、同じロマンス諸語であるフランス語に近いと思っていたんですが、語順は相当変わっていました。 英語とフランス語の語順は規則性が高いですが、ドイツ語とスペイン語の語順は自由度が高く、その点、日本語に近いと言えます。 ただし、≪てにをは≫ではなく、単語の活用で格を表わすので、一筋縄では行きません。 動詞、名詞、形容詞など、すべての単語が活用するのです。 これなら、語順が決まっていても、単語が変化しない方が楽なような気がします。

  ドイツ語・スペイン語を始めて良かったと思うのは、今まで無茶苦茶に難しいと思っていたフランス語が簡単に思えて来た事です。 講談社新書の≪はじめてのフランス語≫という本に、「フランス語は、英語以外のヨーロッパ言語に比べると、それほど難しくない」と繰り返し書いてありましたが、確かにその通りでした。 現在フランス語に苦しんでいる方々には、是非ドイツ語かスペイン語の学習をお薦めしたい! 気分がガラリと変わりますぜ。 いや、ほんと。


  語学の習得には、≪読む・書く・聞く・喋る≫の四つの柱があります。 普通、≪読む≫が最も簡単で、≪書く≫、≪聞く≫と続き、≪喋る≫が最も難しいとされます。 私の場合、将来に亘って外国に行く予定が無く、国内で外語人と交際する機会も無いので、≪聞く≫と≪喋る≫には縁がなくて、≪読む≫と≪書く≫だけが学習の目標になります。 通説に従えば、≪書く≫よりも、≪読む≫方が簡単なはずですが、最近必ずしもそうではないのではないかと思うようになりました。 文のレベルを問わないのであれば、まったく読めない言語でも、書く事が出来ると分かったからです。 名文にしようと欲張るから、慣用句や諺といった文学的修辞が必要になるのであって、意味を通じさせるだけなら、中学一年生レベルの英語で政治談議をする事も不可能ではありません。 論理さえ通っていれば、関係代名詞や従属接続詞など一切使わなくても、≪しかし≫と≪だから≫だけで、文章は繋げられるのです。

  「レベルを欲張らない方がいい」と言うのには、もう一つ理由があります。 それは、どんなに時間と労力を費やして勉強したとしても、外語人が母語話者と同じレベルの文を書けるようにはならないという、厳しい現実がある事です。 これは、外語人が書いた日本文を読むとよく分かります。 10年、いや、30年日本語に携わっている学者であっても、間違いを全て無くす事は出来ません。 10行書いてあれば、「え?」と思うような間違いを一ヶ所や二ヶ所は、必ずやらかしています。 外語というのはそういうものなのです。 そして一ヶ所でも間違えれば、母語話者から子供扱いされてしまいます。 努力が正当に報われない世界なんですな。 どうせ完璧を期せないのなら、≪労力対効果≫を優先して、幼稚な文体でもいいから、どんどん書きまくってしまった方が、自分の為になるような気がします。 「変な文になると恥かしいから・・・」など恐れていて書かなければ、永久に書けるようになりませんからの。