2006/06/04

語学参考書


  語学の参考書には、出来不出来があります。 最近、ドイツ語とスペイン語を始めたので、「参考書もそれぞれ一冊くらいあった方がよかろう」と思って、図書館や本屋に調べに行っているのですが、つくづくそれを感じます。

  今、書籍は本当に高くなってしまい、語学参考書で1500円以下というのはほとんど見当たりません。 こちとら大人買いが出来るので、それは構わないんですが、同じ価格帯でも中身に天地の差があるとなると、どれでもいいというわけには行かなくなります。 一方、辞書はどれを買ってもそれほどの差はありません。 両者の違いは、執筆者が複数であるか個人であるかに関わっているようです。 辞書は、出版社の人間も含めて、複数の人間で作られるので、意見の相違があれば中間点を取る形になり、結果的にあまり突飛な物ができる事はありません。 それに対して、参考書は普通個人が書きます。 執筆者は大抵専門の学者なので、編集者が内容に口を出す事も少なく、個人の意見がそのまま本になります。

  ここ15年ほど、やたらに増えたのは、≪初めての○○語≫、≪やさしい○○語会話≫、≪○○語会話、初歩の初歩≫といった名前が付けられた、初心者向けの参考書です。 この種の本は以前からあるにはありましたが、今のように全体の八割以上を占めるほど多くはありませんでした。 そういえば、NHK教育テレビの語学番組も、昔は≪○○語講座≫と言っていたのが、ある時期から≪○○語会話≫に変わってしまいました。 やさしくしよう、とっつき易くしようという傾向なのですが、長年語学と死闘を繰り広げてきた経験者の目から見ると、あまり感心しません。 なぜというに、外語というのは、結局のところ難しいのであって、難しいものを簡単に習えるわけがないからです。

  この種の本をいくら読んでも、日常会話はおろか、旅行会話レベルにすら到達できないでしょう。 判で押したように、対話形式の例文を中心にして簡単な解説を付ける形式になっていますが、作文の参考にしようと思うと、何の役にも立ちません。 また、やたら字が大きく、行間が広く、「絵本か?」と訝るような物もありますが、ページ数を増やして値段を吊り上げようという魂胆が透け透けスケルトンで、その知性の欠落ぶりに悪寒がしてきます。 紙を不必要に厚くしたり、二色刷りにしたりするのも、恐らく同じ企図でしょう。 この種の本から得られる程度の情報なら、高い金を出さなくても、ネット上で入手できるので、コストパフォーマンス的に失格と言っていいと思います。 100円ショップに行くと、簡単な会話集が売っていますが、内容的に大差ないです。 1500円などという価値は到底無しですな。

  あと、章ごとに練習問題をしこたま盛り込んだ参考書がありますが、ありゃもう何の疑いもなく、ページの水増しですな。 練習帳じゃないんだから、そんなの要りませんぜ。 無理にでも有効に使いたかったら、正解を先に書き込んでしまって、単なる例文として見るようにするしかないですな。 そういえば、未だに≪誤文訂正≫の問題というのがあるようですが、あれは百害あって一利無い最悪の問題なので、決して見ない方が良いと思います。 語学というのは覚えてなんぼの勉学ですから、間違った文を覚えてしまう危険性は極力排除した方が良いです。 「そういえば、こんな文をどこかで見たな」と思い出した文が、練習問題の誤文だったら、まずいでしょ?

  参考書を買うなら、会話よりも文法について詳しく書かれた物でなければ価格に見合いません。 そして、その種の本は、最近ほとんど見られなくなりました。 分厚い学術書風の文法書ならありますが、手頃な価格帯の物は全滅状態にあります。 去年、土居寛之さんの≪基礎フランス語入門≫を購入し、これは満足できる本でしたが、発行年は30年以上前でした。 詳しい文法書は売れないから出版しなくなったというより、最近の参考書執筆者が程度の低い内容しか書けなくなったのだと思います。 知能が低下しているのは、学生だけではなく、学者も同様なんでしょう。 ≪基礎フランス語研究≫と同じレベルの参考書が、ドイツ語やスペイン語でもあればいいんですが、今のところ見つかっていません。

  語学参考書は、本屋の店頭でパラ読みしただけでは、良し悪しが分からない事が多いので、購入する前に、図書館で借りてきて、一通り目を通してみるのが良いと思います。 もしかしたら、買うよりも、そっちの方が学習効率が上がるかもしれませんな。 決定版を一冊だけ買って全面的に頼るより、様々な参考書を一通り読んでみる方が、要点が記憶に残り易いかもしれません。 これは重要だと思ったところだけ、ノートに書き写しておけば、自分専用の参考書が出来上がるというわけです。

  ちなみに、最も詳しい語学参考書は、辞書です。 あまり知られていませんが、辞書をよく読めば、ほとんどの文法解説は載っています。 ただ、辞書は単語を中心に書いてあるので、文法の解説が分散していて、探しにくいんですな。 そこで、文法解説だけをまとめた参考書に需要が出てくるというわけ。 しかし、うまく使えば、辞書だけでも文法学習は可能です。

  文法に詳しい参考書が良いと書きましたが、詳しいといっても、内容が理解できないほど細かかったり、説明が回りくどかったりする物は除きます。 何が書いてあるか分からないのでは、そもそも使い物にならないからです。 そういう参考書も実在するので要注意。 ヨーロッパ系言語なら、関係代名詞か従属接続詞の項目を読んでみれば、分かり易いかどうか判断できます。 中国語では完了態の説明がすんなり分かれば、その参考書は上物と言えます。

  あ、そうそう、語学学習に関するオマケですが、中学一年で英語を習い始めた方々や、大学初年で第二外語を習い始めた方々に一言アドバイスを。 教科書や参考書を手に入れたら、一通り全部読んでしまいましょう。 授業の進捗にあわせて、後ろの方は読まずに取っておくなど、たわけの律儀です。 言語というのは、読むにせよ、書くにせよ、聞くにせよ、喋るにせよ、全ての知識が同時に必要になるので、「基本文型や冠詞の用法は先に覚えなければならないが、関係代名詞や仮定法は後回しにしても良い」などという事はありません。 最初から全てを知っている方が断然有利なのです。 項目によっては理解しにくい物もありますが、それは、どの段階で習っても理解しにくいのであって、後回しにすれば楽になるというわけではありません。 文法というのは繰り返し何度も接している内に徐々に頭に入ってくるので、早目に目を通しておいた方が良いのです。 特にヨーロッパ系言語では、関係代名詞が分からないと、ニュース記事の文章など一文さえも読めませんから、習得の優先順位は高いと思います。