2006/11/12

民主主義の袋小路










補佐官
「大統領。 良い知らせと悪い知らせがございます」
大統領
「良い方から聞こうか」
補佐官
「ディズニーランドをご訪問なさった時に応募した懸賞が当たり、≪白雪姫の鏡≫が届きました」
大統領
「なんだ、その程度の良さか・・・。 で、悪い方は?」
補佐官
「中間選挙で上下両院とも完敗しました」
大統領
「ああっ! それは聞きたくなかった! どうしよう、どうしょう!」 おろおろ
補佐官
「この上は世論の声に従い、国防長官を罷免なさるしか道はありません」
大統領
「そんな事は分かってる!」 机ドン! 「だが、彼は長年の盟友なのだ! 辞めてくれなどと簡単にいえるか! どうやって話を切り出せばいいのだ」
補佐官
「弱気になってはいけません。 選挙大敗の原因は国防長官にもあります。 ここは一つ開き直って、ズバッと責任をなすりつけてやるのが適当かと思われます」
大統領
「それはそうだが、あいつ、タフだからなあ。 ちょっと自信ないなあ」
補佐官
「練習してみてはいかがでしょう。 ちょうど鏡がありますし」
大統領
「お誂え向きだな。 よし、」 深呼吸。 鏡に向かって人差し指を突きつけ 「おい! 選挙に負けたのはお前のせいだ! 今すぐ辞表を提出しろ! お前が勝手放題やったせいで、世界は9.11以前よりもっと危険になってしまったではないか! このおいぼれめ! 能無しの役立たずめっ! お前なんかクビだ!」
白雪姫の鏡
「それはあなたです」



  小話はさておき、アメリカの中間選挙で民主党が勝ちました。 ここ五年間で最も明るいニュースに、思わず知らずホッと安心してしまい、全身の力が抜けました。

  アメリカの人口は全人類のの20分の1に過ぎませんが、その国の国政選挙の結果が、世界の命運を左右するというのですから、何とも奇妙なご時世です。 今後、中国・インドの経済発展が進み、EUの政治統合が進めば、アメリカはミドル・パワーに成り下がり、今のような状況は変化しますが、それでも、まだ10年以上は、アメリカの選挙のたびにヒヤヒヤし続けなければなりますまい。

  アメリカ人やその同盟国といわれる国々の人間は、選挙による間接民主主義を、この世に存在する最も理想的な政治制度だと信じ込んでいます。 もちろん、日本人も含まれます。 しかし、それは完全な錯覚です。 昨今よく聞くようになった、≪ポピュリズム≫という言葉があります。 ≪大衆迎合主義≫と訳され、「民主主義が陥ってはならない警戒すべき状態」とされます。 しかし、この説明は自家撞着を起こしています。 民主主義国で選挙の基準になるのは、一にも二にも、候補者の≪人気≫であり、大衆に迎合すればするほど人気が上がり、選挙に勝ち易くなるのですから、大衆迎合主義は民主主義の本質そのものだと考えるべきです。

  大衆迎合主義の非常に分かり易い例は、フィリピンの大統領選に見ることが出来ます。 前大統領は映画俳優でした。 政治能力など全く無いにもかかわらず、人気オンリーで大統領選に出馬し、あっさり当選してしまったのです。 就任以後、政治は何もやらず、毎日飲んだくれていたそうですが、元々政治に対する興味など微塵も無いのですから、何も出来なくても無理は無い話です。 あまりにも無能なので、国民の不満が爆発し、結局辞任に追い込まれてしまいましたが、当人が悪いというより、人気だけで大統領に当選してしまう民主主義という制度に問題があるというべきでしょう。

  外国の事ばかり言っていられません。 大衆迎合主義の事例は日本にもあります。 それどころか、今は正に花盛りという状況で、首相選など、与党内の人気だけで決まっています。 資質なんてどーだっていいんですよ。 最も恐ろしいのは、外交政策がいつのまにか大衆迎合主義に塗り潰されてしまった事です。 本来、外交は非常に専門性が高い分野で、大衆の受けを狙うなど言語道断なのですが、今や外交のプロである外交官は単なる現場係員に成り下がり、外交政策を決定しているのは、国際問題の≪こ≫の字も知らず、マスコミに扇動されて感情的に激昂するだけが能の大馬鹿な国民世論なのです。 こんな有様で外交がうまく回るはずがなく、ここ数年というもの、外国との軋轢が増幅する一方ですが、誰も止める事が出来ません。 馬鹿につける薬は無いからです。

  さて、かくも恐ろしい大衆迎合主義と切っても切れない関係にある民主主義ですが、その根本的欠点ゆえに、いずれ修正が加えられると私は思っています。 たとえば、選挙前に候補者に試験を課し、平均より知能・知識・教養の低い人物は立候補できないようにすれば、相当マシになるでしょう。 たぶん、今、アメリカや日本の国会にいる代議士達の9割方は、所払いを喰らうでしょう。 侵略と防衛の区別も付かない馬鹿ばかりなんだから、しょうがないわな。

  自分の生まれた国の制度が一番優れていると思い込んでいる人は多く、特にアメリカ及びその同盟国では、「民主主義は絶対的に優れている」と何の疑いも持たず信じ込んでいる人々で埋め尽くされていますが、≪井の中の蛙≫もいい所です。 政治制度について自分の頭で考えた事が一度もないのでしょう。 問題が起こるという事は、欠陥がある証拠なのです。 恐らく、50年後には、今のような民主主義国は地球上から姿を消している事でしょう。