2006/08/20

十国峠

  この夏の連休は、静岡市北部の井川ダムにツーリングに行こうと思っていたんですが、連休前に引いた風邪の回復が遅れたのと、天候不順の時期にバイクで山道を走る怖さが邪魔をして、敢えなく断念しました。 さりとて、どこにも行かないのも惜しいので、超近場に車で出かける事にしました。 箱根の≪十国峠≫です。

  ≪十国峠≫は、よくテレビで紹介される芦ノ湖近辺の箱根から、箱根連峰の尾根を5キロばかり東南へ行った所にあります。 その名前は、≪相模、武蔵、安房、上総、下総、駿河、遠江、信濃、甲斐、伊豆≫の十カ国を一望できるという意味で、眺望が良いというだけで堂々と世にはばかっている正統派の観光地です。 静岡県東部や神奈川県西部では知らない者がいないほど有名で、大抵の人が子供の頃に親に連れられて行っています。 あまりにもメジャーすぎで、大人になってから行くのが憚られるような雰囲気すらあります。 ちなみに、「十国峠」の正確な発音は、「じっこくとうげ」ですが、今は普通、「じゅっこくとうげ」と言います。 言葉は世に連れですな。

  芦ノ湖から南下しても行けますが、沼津からだと、清水町経由で函南に出て、熱海峠に登った方が早いです。 熱海峠から、1キロ北上すれば、右手に大駐車場を備えたレストハウスが見えてきます。 山の上で、他の何にも無いですから、間違えようがありません。 それはさておき、この登り坂は、軽ワゴンには結構きつかったです。 一名乗車で、エアコンも送風も全部切ってエンジン負担を軽くしていたにも拘らず、アクセルは始終ベタ踏み。 後続車がいなくて助かりました。 ホンダの≪ライフ≫ですが、山を登るには重量が重過ぎるんですよ。 完全な平地用ですな。 やはり軽はボンバンに限る。


  さて、このレストハウス自体はちっとも眺望がよくないので、ケーブルカーで頂上に登らなければなりません。 「十国峠とかけて、ケーブルカーと解く。 その心は、十国峠だから」というくらい古くからケーブルカーがあります。 レストハウスから頂上までは見えるくらいの距離で、歩いて登っても全く大した事はないんですが、結構しつこく探したにも拘らず、登山道を見つけられませんでした。 登山道入口の跡らしき場所はありましたが、閉鎖されて久しいようで、中は笹薮がぎっしり。 おそらく、ケーブルカーの客を増やすために、歩いて登れないように画策しおったのでしょう。 こういう自由を束縛するような事をやってるから、リピーターが増えないんですが、気付かないんですよ、観光地というのは。


  片道210円ですが、何せ登山道が無いので、またケーブルカーで下りて来るしかなく、結局、420円の往復券を買う事になります。 往復だからといって、一円も安くなるわけではないから、ますます腹が立ちます。 しかも、乗車時間は、片道たったの三分。 距離的に言えば、片道100円くらいが妥当な値段でしょう。


  車体全景。 かなりの年代物です。 私が子供の頃に乗った物と同じ車両ですから。


  この種の古い乗り物は、昭和中期の平均体型に合わせて作られているので、席も通路も小さくて、とても寛げるものではありません。


  ケーブルカーはレールの上を上下するだけなんですが、なぜか運転手がいます。 何を操作しているのかは不明。 ハンドルはいらんと思いますが。

  さて、高い料金ふんだくられたのが癪なので、ケーブルカーの中で写真を撮り捲ってやろうと思ったいたら、発車と同時に、デジカメの電池が切れました。 これには真っ青・・・。 まだ峠からの眺望を一枚も撮っていないというのに、写真無しで帰れるか! やむなく、頂上の展望台についてから、土産物屋で電池を買いました。 単三アルカリが二本で210円。 百円ショップの4倍! しかし背に腹は代えられません。 買いましたよ、このケチの私が。  で、生き返ったカメラで早速撮ったのが、十国峠の大パノラマです。


  どーんと広いです。 ここへ踏み出した途端に、ケーブルカー料金の高さを忘れてしまいます。


  駿河湾方面。 このサイズの写真だと分かりませんが、沼津の香貫山や象山がはっきり見えました。


  相模湾方面。 こちらは手前に小山があるせいで、熱海の街や相模湾は見えませんでした。 それにしても山の上がこれだけ平らというのは奇観。


  芦ノ湖方面。 雲にひきつけられて、切れてしまいましたが、右端に見えるのが芦ノ湖。 距離が近いので、湖畔の街がはっきり見えました。


  富士山方面。 富士山が見えたんですが、好天で光が多すぎたせいで、この写真では飛んでしまいました。 柔らかそうな黄緑色の部分は、実は笹の薮でして、ちっとも柔らかくありません。


  観光客の一人が、「この凄さは、写真じゃ分からないだろうなあ」と言ってましたが、確かにそんな感じでした。 なるほど、これだけ眺めがよければ、他に何もなくても観光地としてやっていけるはずですわ。 素晴らしい!


  十国峠のシンボルになっている円筒形展望台。 ケーブルカー同様にえらい年月を経ていて、もはやボロボロですが、却って古色が付いて、貫禄が出ていました。 山の上にこういう非日常的な形態をした建物があるというのは、幻想的で面白いです。


  景勝地になくてはならぬアイテム、100円双眼鏡。 子供がとびつく様子は昔も今も変わりません。 財布を気にする親が一回しか使わせない所も。


  展望台から南方向の尾根が大きく切り開かれていて、広大な空き地になっています。 実に気持ちがいい所。 夏だと暑すぎますが、春か秋にくれば、ピクニックに最適でしょう。 凧を揚げている親子がいました。 子供にとっては一生忘れられない思い出になると思います。


  更に南に行くと、≪日金山東光寺≫に繋がります。 地蔵菩薩が本尊のかなり有名な霊場。 伊豆地方の霊魂はここを通って極楽往生するといわれています。 十国峠一帯そのものが極楽みたいな雰囲気の場所ですから、ここに霊場を作ろうと考えた昔の人の気持ちはよく分かります。


  ここも観光寺院の一脈らしく、ミニ地蔵の奉納をやっていました。 金儲けばかり考えていると、罰が当たりそうです。 でも、お気楽な観光客にしてみれば、何も無いよりは華やかでいいです。


  「雰囲気的に見て、ありそうだな・・・」と思っていたら、やっぱりあった五百地蔵。 なぜかここでも風車を持っている地蔵がかなりありました。 最近の流行? それとも、昔からの風習? 手前に並んでいる角石は、墓石の廃品。 下にあった骨はどうなったやら。


  ミニ地蔵の墓場。 飾りきれなくなったものを、ここに移しているようですが、処理に困っているらしい事が見え見え。 


  霊園もありました。 こんなに眺めのいい所に葬られると思えば、死ぬのも満更悪くないかもしれません。 少なくとも死後の楽しみが一つ出来るわけですな。 しかし、墓参りは大変そうです。


  どうぞ、やすらいで下さい。 しかし、死んだ後も文字で意思表示を続けるというのは如何なものか? 煩悩丸出しという気がせんでもなし。


  炎天下に無帽で一時間くらい歩いていたので、些か熱射病気味になり、へろへろになって展望台に戻ってきました。 缶のサイダーで一服してから、再びケーブルカーでレストハウスへ下りました。


  行きに電池切れで撮影できなかったので、帰りに線路の様子を撮りました。 単線ですが、真ん中付近だけ複線になっていて、そこで上りと下りがすれ違います。


  こんな具合です。 別に見世物として面白いからすれ違わせているわけではなく、二台の車両が一本のケーブルで繋がっていて、一方が重力で下がる力を利用して、もう一方を持ち上げているので、否でもこうせざるをえないんですな。


  もちろん、ケチは土産なんぞ買いません。 どうせただの峠に特産品などあるわけがないから、いいんです。 饅頭くらいならどこにでもありますが、伊豆近辺の土産物は三島市の製菓会社で作っている場合が多く、わざわざ遠くまで行って、隣町の産物を買ってくるのも馬鹿馬鹿しいですから、なるべく買わぬようにしています。

  帰り道は下りだったので、車に負担も掛からず、割と楽に下りてきました。 山道の下りでは、標識の指定があるなしに拘らず、≪2≫レンジを積極的に使うと運転し易いですな。 カーブに入る時のブレーキングの怖さが相当和らぎます。 付いている機能は使わねば。

  十国峠は本当に眺めが良かったので、また来たいと思いましたが、次は涼しい時にバイクで来ようと思います。 ケーブルカーに乗らなくて済むように、日金山東光寺側から登るようにして。