2006/07/09

リアエンジン

  ガソリン価格の高騰で、自動車の販売が各社軒並み落ち込んでいるようですが、その中で、三◇だけが伸びているのだそうです。 理由は、今春発売したリアエンジンの軽自動車が好調だから。

  三◇といえば、トラックのタイヤ・ハブ破損やドライブシャフト脱落、クロカン車のブレーキチューブ破損など、安全に関わる重大欠陥を頻発させた上に、評判が落ちるのを恐れてリコールをしなかったり、問題が露見した後に交換した部品がまた破損したりと、めちゃくちゃな事をやらかし、一時期、会社の存続すら危ぶまれたメーカーです。 それがここへ来て、持ち直したというわけですな。

  しかし、この好調のリアエンジン車、私は全然勧めません。 安全上重大な問題があるからです。 この車だけが特別危険だというのではなく、リアエンジンというのがそもそも感心しません。 なぜ、この世にリアエンジン車が少ないのか、三◇も、この車を買った人達も分かっていないものと思われます。

  三◇がなぜ、この車にリアエンジンを採用したかというと、最初の目的は、室内空間を広く取る事だったようです。 フロントにエンジンがなければ、居室をギリギリまで前に伸ばせるから、邪魔なエンジンは後ろへ持って行ってしまえば良いと考えたわけです。 ここまでは自動車のレイアウトを考えた事がある人間なら誰でも一度は思いつきます。 しかし、普通はそこで没にします。 なぜなら、居室を前に持って行き過ぎると、衝突した時に、前席乗員の脚を潰してしまうからです。 実は、トラックやワンボックスカーなども、乗員の脚から車体前端までの距離が短いので、レイアウト的には非常に危険なのですが、「安全よりも空間利用が優先」という、一種の≪究極の選択≫によって、作り続けられています。

  三◇もその事は気になっているらしく、テレビCMでは、「タイヤを四隅に配置して、衝撃吸収ゾーンを広げた」などという説明を入れていますが、この説明は明らかに欺瞞です。 そもそも、前席の足元から車体前端までの距離を短くする事を目的にこのレイアウトを採用したのですから、衝撃吸収ゾーンなど作れるはずがないのです。 矛盾もいいところなんですが、「弱味を突かれる前に、先手を打って説明し、言葉でごまかしてしまえ」と考えたのでしょう。 三◇という会社は、至って日本企業的な、姑息な気風を持つので、考え方が手に取るように分かります。

  この車を街で見かけると、確かに居室空間は広いです。 そして前席の乗員が、普通の車よりもずっと前の方に座っているのが分かります。 それを見るたびに私は身震いします。 「ぶつかったら、脚はグチャグチャだろうなあ」と思わずにはいられないのです。 この世にフロントエンジン車が多い理由は、車体前端と前席足元の間にエンジンルームが入る事で、衝突の時にエンジンルームが先に潰れ、衝撃を吸収する効果があるからです。 長年の自動車発展の歴史を経て採用されたレイアウトであり、ちょっとした思い付きで否定できるようなものではありません。

  リアエンジンの問題点は、エンジンが後ろにあるという事自体にも存在します。 衝突した時には慣性の法則が働きますから、重い物は軽い物よりも減速が遅くなります。 これはどういう事かというと、重いエンジンは、軽い居室より減速が遅れるので、エンジンによって後ろから居室が押し潰される事を意味します。 フロントエンジン車では、前の方が重いので、こういう事はありません。

  物理が苦手で感覚的に分かりにくいという人は、簡単な模型を作って実験してみると一目瞭然で理解できます。 タバコの箱くらいの大きさの箱を薄い紙で作り、その一方の端に、エンジンの代わりとして単三の乾電池を貼り付けます。 まず乾電池がついている方を下にして、30センチくらいの高さから床に落としてみてください。 箱自体は壊れないはずです。 これがフロントエンジン車です。 次に、今度は乾電池がついていない方を下にして、同じように落としてみてください。 紙の箱は乾電池に押し潰されて、クチャクチャになってしまいます。 これがリアエンジン車です。

  ポルシェや旧フォルクスワーゲン、スコダの昔の車などはリアエンジン車で、それが個性になっていましたが、いずれの場合も、前席足元から車体前端までの距離は充分に取っていました。 居室を広くする事を目的にしていたわけではなかったので、前を切り詰める必要がなく、衝突時の安全性を考慮すれば、フロントを長く取るのが当然だったわけです。 ところが、三◇のこの車には、その種の配慮が全く見受けられません。 考え足らずとしか言いようがない稚拙さを感じます。

  三◇という会社は、自動車会社として、重大な欠点を持っているような感じがします。 一言で言うと、作る物が子供っぽいのです。 地に足が着いていないというか、「カッコよければいいだろう」といった単純さが正面に出てしまって、車作りの哲学など持っていないのではないかと思えます。 また、三◇車を買う人も買う人で、メーカー同様、「カッコよければいい」と思っているんでしょう、きっと。 このリアエンジン車で衝突事故を起こして死傷した場合、作った方と同じくらい、買った方にも責任があります。 自動車の専門家でなくても、レイアウトを見ただけで、危険だと判断できるからです。

  なんなら、実車で実験してみましょうか? 私がフロントエンジン車に乗り、三◇の開発責任者をこの車に乗せて、チキンをやってみましょう。 なーに、エアバッグがあるから、直ぐには死にません。 少しずつスピードを上げながら何回でも繰り返し激突し、どちらかが先に死んだら終わりという事にしましょう。 私は絶対に生き残る自信があります。 もっとも、三◇の方は、一回目の衝突で脚がグシャグシャになって、二回目以降は続けられないと思いますけど。