2006/07/30

図書館美人

  この場合の美人とは、女性の事です。 図書館に行くと、美少女や美女がたくさんいるという話。

  私はかれこれ20年以上、市立図書館を利用しているのですが、街中の平均に比べると、図書館内を歩いている美人の比率は明らかに高いです。 私とて変質者ではないので、視界に入った女性の顔を一人余さず観察しているというわけではありませんが、たまに顔を見てしまった時に、「うわっ! なんで、こんな美女がこんな古本臭い所にいるんだ?」と驚く事が大変多いのです。 私だけの思い込みではないと思うので、どなたでも、最寄の図書館へ赴いた折に、チェックなさってみると宜しい。

  なぜ、図書館には美人が多いのか? 思うに、彼女らは小学校や中学校の時に必ずクラスに数人はいる、≪美少女で優等生≫の成れの果てなのではありますまいか? 成れの果てと言っては語弊がありますか? 今でも充分、美人で聡明なんですから。 しかし、やはり成れの果てといった方がピタッと当て嵌まると思います。

  小・中学生の美少女は二種類に分けられます。 一方はただ顔が可愛いだけで、頭の中はスッカラカンというタイプ。 こういうタイプは、長じた後、異様に早く結婚してしまうか、水商売などのサービス業に従事するという特徴があります。 自分は外見だけが取り柄だと分かっているので、その特性を充分に発揮して生きて行こうとするわけですな。 彼女らは一言で言うとアホなので、学校にいる間は周囲の軽蔑を受けて暮らしますが、一たび世の中に出ると、人が羨むほど幸福な家庭を作ったり、色も金も自由自在といった華やかな生活を送ったりします。

  一方、美少女でありながら、同時に頭もいいという、天に二物を与えられたタイプは、学校にいる間は天国です。 男子生徒からはモテるし、女生徒からは嫉妬混じりの羨望を受けるし、教師からは可愛がられて、特別扱いを満喫します。 と・こ・ろ・が・だ! 学校から出た途端、彼女らの境遇は急転直下、地獄へ落ちてしまいます。

  現在、ほとんどの女性が学校卒業後、何らかの職業につくと思いますが、その職場で彼女らはまず間違いなく、友人を作れません。 職場は学校と違って同僚の数が少ないので、彼女らと話が合うような聡明な人間が同じ職場にいる確率が非常に低いからです。 アホならどこにでもいますが、幼い頃から20年以上優等生を続けて来た彼女らは、今更アホにレベルを合わせるわけにも行かず、ほぼ100%が孤高の道を選びます。 「お高く止まって付き合いにくい奴」と謗られながらも、わが道を行くんですな。

  学生時代の友人と交際を続けようと試みても、別の会社に就職してしまえば、ただ会うだけでもスケジュールを調整しなければなりませんから、何かと面倒が多く、だんだん疎遠になるのがお決まりのパターン。 また彼女らは真面目な生活様式が染み付いているので、レジャー施設をうろつくという事もしません。 夜遊びすらしない。 タバコはもちろん、酒も飲まない。 また、大概のレジャー施設は複数人で行くように出来ていますから、友人を失った彼女らには近寄り難い場所になってしまうんですな。 一人で行けるレジャー施設といえば、パチンコ屋くらいのものですが、まあやらんでしょう。 なぜというに、真面目な彼女らにとって、パチンコ屋に入り浸っているような連中は、みんなゴロツキなのであって、聡明な彼女らは、そんな危なっかしい場所に近づいたりしないからです。

  そういう孤独な状態に陥った元美人で優等生達が、安心して行ける所が図書館なのです。 学生時代から利用しているので、勝手知ったるホームグラウンドになってるんですな。 しかし、寛げるというだけなら、家にいればいいわけで、わざわざ図書館まで出て来るのには別の目的があります。 他に行く所がない彼女らにとって、図書館は、≪晴れの場≫になっているのです。 「図書館なら不愉快な思いをせずに、私の美しさを見せびらかせる」と考えて、≪沈黙のショー≫をぶちかましているわけですな。

  彼女らは、いかにも≪文学少女≫、もしくは、さながら≪深窓の令嬢≫といった清楚な出で立ちで、図書館にやってきます。 茶髪、ピアス、パンダ目、ハエジゴク睫毛などという化け物女が闊歩する当世、時間が20年前に戻ったかのような印象を受けますが、図書館美人達は何ら小細工を施さずとも自分が充分に美しい事を知っているので、堂々とトラディショナルな服装を選べるわけです。 ちなみに、Tシャツ、ジーパンで図書館に来ているような女性がいたら、たとえ顔立ちが整っていても、それは図書館美人ではありません。 その辺の奥さん、もしくはお母さんです。 他人の目線を意識していないので、立ち居振る舞いに緊張感がありません。 歩き方など、風呂上りのオッサンに近いものあり。 オッサンに図書館美人の称号はやれませんや。

 「ちょっと待て。 それだけでは、図書館に美人が多い説明にはなるまい。 真面目なブスだって、来るのではないか?」

  と思う方もおられましょうが、残念でした、来ないんですよ。 最近のブスは自分の醜さをよーく知っているので、恥かしくて外出できないのです。 パラサイト・シングルで、ずーっと親元で養われている娘というのがたくさんいますが、そういう女性達は大概、仰天するほど醜く、また決まってデブです。 醜いから外出を嫌がり、家に篭っているから、食っちゃ寝ばかりで、どんどん太り、ますます醜くなるという悪循環。 ≪晴れの場≫すら持てないんですな。 当人の責任ではないのに気の毒に・・・・。

  さて、図書館美人に話を戻しますが、彼女らも、≪晴れの場≫を持っているだけで、それ以上の幸福を掴めないという点では、在宅ブスとさして変わらぬ気の毒な身の上です。 いくら美しさをひけらかしたって、それだけでは自己満足で終わりです。 彼女らが図書館で同性の友人や、彼氏を見つけられるかといえば、そんな事はあり得ません。 図書館というのは、そういう出会いが起こる場所ではないんですよ。 まず、基本的に声を出してはいけない空間ですから、他人と知り合うきっかけが出来ません。 まして、図書館美人達が夢に描いていると思われる、≪知的な美青年にナンパされる≫などという事件は、巨大隕石が落下するより発生確率が低いです。 図書館でナンパしてる奴なんて見たことねーよ。 また、百歩譲って、奇跡的にナンパされたとしても、絶対に会話が噛み合わないって。 ナンパ男なんざ、十中八九、パッパラプーですから、文学少女と交わす話題なんざあるものかね。

  これが30年前であれば、見合いシステムが生きていましたから、彼女らも何かしら縁談にありついて、結婚できたのでしょうが、今はもうお先真っ暗です。 知性と美しさを無為に消費しながら、年追うごとに容色衰えて、やがて≪晴の場≫を求める事も憚られるほど、醜く老いさらばえて行くのでしょう。 そういえば、図書館には男の老人は多いですが、老女はほとんどいません。 ≪晴れの場≫原理が働いていて、出て来れないのかな?

  嗚呼、哀しき図書館美人よ。 汝ら、さまで美しきは誰が為ぞ。 何故、人並みの幸福だに得ること能はずや。 過ぎて真面目に育てし親を恨むこと勿れ。 すべては、無常なる世の宿命なれば。