2014/02/09

岩手ふたたび

  北海道から戻って早々に、こんな話もなんですが、今度は、5月から、岩手に行く事になりました。 しかも、応援ではなく、異動です。 つまり、移籍であり、会社を辞めない限り、定年まで、戻って来れない事になります。 詳しい事は、企業内情報になってしまうので、書けないのですが、私以外にも、かなりの人数が、移動対象になっており、断りたくても、断れない雰囲気があります。

  会社としては、「各事業所の将来の生産力配分を見通した経営戦略の一環としての施策」なわけですが、入社以来、一貫して、私生活に軸足を置いて生きて来た私にしてみれば、そんな事は知った事ではなく、瑞々しいほど純粋に、迷惑千万。 しかし、「出てけ。 岩手工場しか働く所は無いぞ」と言われてしまったら、もう、どーしょもないですな。 会社を辞めるか、岩手に行くか、それが問題だ。

  私の場合、独身親元住まいだった強みで、そこそこの蓄えがあるので、会社を辞めても、当座、生活には困りません。 そこで、両親に、「会社を辞めれば、家にいられるが、どうするか」と訊いたところ、何よりも世間体を気にする年寄りの事とて、「家で、ぷらぷら遊んでいられては困る」という、予想していた通りの返事が返って来ました。 よく言うわ、自分らだって、もう10年もぷらぷら遊んで暮らしているくせに。 「会社を辞めて、こっちで、再就職しろ」などと気楽に言いますが、私の歳で、求人などあるわけがなく、今更、アルバイトでチマチマ働くのも嫌だし、まるで、気乗りがしません。

  その上、あろう事か、母親が、「おまえは、どっちにしろ、最終的には、この家からは出なければならない」などと、とんでもない事を言い出しました。 つまり、兄夫婦に家を継がせるつもりでいたわけですな。 なんたる、愚かさ! 結婚して家を出た長男が、いつか実家に戻って来ると、本気で信じているのです。 そんな話、もう20年も実例を聞いた事がありません。 どこの家でも、結婚すれば、家を出るのが当たり前。 そして、両親が生きていれば当然の事、片方死んでも、両方死んでも、決して、実家には戻らないものです。 なーんでか? 実家を継いだが最後、親の介護や、迷惑なだけで糞の役にも立たない親戚づきあい、目障りで耳障りな近所づきあい、墓の管理、先祖の法事など、諸々の厄介事を、一切合財、背負い込まなければならないからです。 誰が、わざわざ、そんな恐ろしい所に、戻ってくるもんですか。

  「子供は、財産が欲しいから、必ず、実家を継ぎたがるもの」と思い込んでいる、その考え方が、絶望的に古臭い! 「もはや、人生の価値は、金じゃないんだよ! 実家を取り合っていたのは、30年も昔の風習だ。 今は、実家を押し付けあう時代なんだよ! よく見ろ。 親戚でも近所でも、結婚して家を出た子供が、戻って来た例が、一件でもあるか?」と、指を突きつけて言ってやったのですが、まるで、聞く耳持ちません。 およそ、年寄りというのは、世情に曚いだけでなく、頑迷固陋で、子供の言う事など、頭から信用していないものです。 これだもん、オレオレ詐欺に騙される馬鹿な年寄りが、後を断たないわけだわ。 納得、納得。

  ・・・納得している場合ではない。 でねー、言ってやったんですよ、「兄貴が、ほんとに帰って来る気があるか、ちゃんと、確認してみな」って。 そしたら、「訊いてみる」と答えましたが、それから、もう、2週間、その話題に触れようとしないところを見ると、まだ訊いていないんでしょう。 馬鹿だね。 「帰る気はない」って言われるのが怖くて、訊けないんだよ。 ほんと、馬鹿だ。 こんな馬鹿な人間の面倒を見るつもりで、実家に残っていた自分が情けない。 信じられますか? 自分を追い出す気でいた人間に、孝行してやろうと思ってたんですよ。

  信頼関係というのは、壊れる時には、一瞬ですな。 本音が一言、ポロリと漏れただけで、もう、永久に信用できない人間になってしまいます。 家族の絆もへったくれもあったもんじゃない。 自分を追い出すつもりでいた人間が、どうなろうが、知ったこっちゃないですよ。 お望み通り、出て行ってやるから、後は、好きにしな。 たぶん、兄貴は帰って来なくて、父が死んだ後、一人ぼっちになった母が、私に、「戻ってきな」などと、泣きついて来るでしょうが、何度も言っている通り、今は、一度家を出た子供は、決して、戻る事は無いのであって、私もその例外にはならないでしょう。 頼れない人間を頼り、頼れる人間を追い出した報いを、甘んじて受けるこってすな。

  いや、こうなってしまった以上、親なんかどうでもよい。 自分の身の振り方を考えなければ。

  自分で安い家を買うなり、アパートを借りるなりすれば、こちらにいられますが、その場合、結局、実家を出て独り暮らしをする事になるわけで、「そーれじゃ、岩手で、独身寮で暮らしたって、同じやないか!」という事になってしまいます。 いや、その場合、働かなくてもいいわけですから、岩手で奴隷のように扱き使われるよりは、ずっと気楽なわけですが、どうもねー・・・、気乗りがしないのですよ。

  これが、若い頃なら、「働かないで暮らせるのなら、それ以上、幸せな事は無い」と思ったでしょうが、今の私は、人間の生活というものが、そんな単純なものでない事を知っています。 毎日、ぷらぷらしているというのは、辛いものですよ。 趣味なんて、すぐに飽きますし、家事を毎日こまめにやっても、時間はたっぷり余ります。 結局、世に溢れる年寄り達と同じように、テレビ漬けの毎日になってしまうのです。 そして、テレビ番組は、全然面白くないと来たもんだ。

  読書に、ポタリング? あー、それらも、すぐに行き詰りそうですなあ。 そもそも、読書というのは、これから、社会に打って出るつもりでいる人間が、知識・教養を身につける為に励むものであって、引退した中年男が暇潰しにするものではありません。 ポタリングは、健康には良さそうですが、出発ポイントが決まっていると、毎日、同じ道を通る事になり、うんざりして来ます。 車に自転車を積んで・・・、いやいや、それは駄目だ。 引退生活に入ったら、経済的に、車なんか維持できません。 今でさえ、お金が惜しくて、持ってないのに。

  そう考えて来ると、「バイトでいいから、一日、3・4時間でも働いていれば、生活に張りが出るだろう」と思うわけですが、週休二日で、一日、3・4時間のバイトだと、収入は、10万円行きません。 そう思うと、今の正社員の給料を捨てるのが、勿体無いと思えてしまうんですわ。 バイトは、インカム・パフォーマンスが悪過ぎる。 それに、私ができるバイトと言うと、飲食業くらいのものですが、ああいう所は、若者が中心の職場なので、中年には居心地が悪いのですよ。 「あのオッサン、なんで、こんな所で働いてんの?」という陰口が、今から聞こえて来るようだ。

  うーむ、堂々巡りしとるのう。 考えられる選択肢を整理すると、

1 岩手へ行って、働く。
2 実家で、働かずに暮らす。
3 こちらで独居し、働かずに暮らす。
4 こちらで独居し、バイトして暮らす。

  私としては、2が一番気楽ですが、親が許さないから、没。 3と4は、まず、会社を辞めるという、思い切った決断が必要になり、あと、2ヶ月で、それを決めるのは、かなり厳しいです。 辞めるのはいつでもできますが、一度辞めたら、もう、元には戻れませんからねえ。 岩手へ行ってみて、仕事の具合を見て、どうにかやって行けるようなら、続ける事にし、「とてもじゃないが、10年も我慢できない」と思ったら、辞めて帰って来て、3か4の路線へ切り替える事にしますか。

  というわけで、とりあえず、どう転んでもいいように、岩手へ行く準備を進める事にします。 やれやれ、この歳になって、こんな目に遭うとは、思いもしなかった・・・。