読書感想文・蔵出し (88)
読書感想文です。 読書感想文が出て来るという事は、他に、出す記事がないという事です。 近況に触れますと、2月に母が寝たきりになり、その後、回復して、ほぼ、元の生活に戻って、それが、今現在まで続いています。 何となく、薄氷を踏むような日々ですが・・・。
≪オリエント急行の殺人≫
クリスティー文庫 8
早川書房 2003年10月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
中村能三 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【オリエント急行の殺人】は、コピー・ライトが、1934年になっています。 約410ページ。
イラクでの仕事の帰途、トルコのイスタンブールから、フランス・カレー行きのオリエント急行に乗る事になった、ポワロ。 季節的にガラガラのはずの一等車が、なぜか、ほとんど埋まっており、合い部屋で一晩を過ごしたが、その間に、殺人事件が起こった。 列車が大雪で立ち往生し、犯人は、一等車の乗客と車掌に限定されたが、各人の証言は錯綜して、犯人像が結べない。 やがて、容疑者達に、意外な共通点が見つかって・・・、という話。
わざわざ、梗概を書くまでもなく、【オリエント急行殺人事件】を、映像作品で見た事がない人は、稀だと思います。 そして、一度見たら、ストーリーを忘れる人も、皆無でしょう。 私も、そうです。
この作品は、映像作品を見る前に、原作小説を読むべき作品の、典型例ですな。 その点、【アクロイド殺し】や、【そして誰もいなくなった】と同じ特徴をもっています。 【ABC殺人事件】も、その中に入れていいかもしれません。 それでいて、これらの作品は、焼き直しではなく、それぞれ、まるで、違う話なのだから、クリスティーさんは、とんでもないアイデアを産み出せる人物だったんですなあ。
以下、ネタバレ、あり。
先に、映像作品を見ていると、後から、原作小説を読んでも、全然、面白くありません。 流れとしては、
「事件発生まで」→
「事件発生」→
「現場の調査」→
「聞き取り」→
「荷物調査」→
「謎解き」
となりますが、一番ボリュームが大きいのは、「聞き取り」場面で、最も多くのページ数を割いてあるにも拘らず、ストーリーを先に知ってしまっていると、尋問される容疑者達の証言が、全て嘘である事が分かっているので、真面目に読んで頭に入れる気にならないのです。 というわけで、その辺りは、ほとんど、飛ばし読みしました。 読めないんですよ。 意味がないと分かっているから。
話を知らない内に、推理しながら読んで行った人が、ポワロによる謎解きに至って、「あっ! やられたっ!」と驚くのは、無理もない。 一種の、アン・フェア物なわけですが、怒るより先に、感服させられてしまうと思います。 フー・ダニット物のパロディーと見てもいいです。 読者は、当然、フー・ダニット物のつもりで、犯人は誰かと、推理を働かせながら、読み進めるわけですが、そう思い込んでいるが故に、ものの見事に騙されてしまうんですな。
映像作品を見ておらず、話を知らない人には、大いにお薦め。 知っている人は、読んでも、あまり、意味がないです。 買う前に、図書館で借りて、少し読んでみた方がいいでしょう。 たぶん、私同様、ほとんど、飛ばし読みになると思います。
ラストですが、映像作品によって、処置が異なります。 原作は、軽く纏めてあり、ポワロには、犯罪者を見逃す事への葛藤が、全くありません。 その為に、被害者を極悪人に設定してあるわけですが、そこに違和感を覚えた映像作家達が、いろいろと、自分なりの解釈を施しているわけですな。
私としては、原作の処置は、軽過ぎると思います。 「それ相応の理由があれば、殺人も許される」というのなら、法治が成り立ちますまい。 明らかな謀殺となれば、尚の事、情状酌量の対象になり得ないのでは?
≪青列車の秘密≫
クリスティー文庫 5
早川書房 2004年7月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
青木久惠 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【青列車の秘密】は、コピー・ライトが、1928年になっています。 約432ページ。
アメリカの大富豪の娘が、爵位目当てに、ろくでなしのイギリス貴族と結婚していたが、夫に愛人がいると知って、愛想を尽かし、父親と離婚について相談し始める。 そんな彼女が、ヨーロッパ大陸を、寝台列車で旅行中に殺される。 多額の遺産が入った夫や、夫の愛人、彼女の昔の恋人などに嫌疑がかかるが、アリバイがある者が多く・・・、という話。
タイトルの「青列車」は、「ブルー・トレイン」の直訳ですが、日本のブルー・トレインとは、意味合いが違っていて、上流階級用の列車だったとの事。 寝台列車が殺人の舞台になるものの、【オリエント急行の殺人】とは違い、列車内だけで、話が進行するわけではありません。 というか、列車の中で起こる場面は、殺人と、犯人指名だけで、他は全て、地上での展開になります。
典型的な、フー・ダニット物。 容疑者を何人も出しておいて、みんな怪しいと読者に思わせておき、「この人かと思ったら、そうではなかった」というパターンを、数回繰り返して、最後に真犯人の指名に至るというもの。 元は、短編からスタートした推理小説を、長編に伸ばす為に考案された手法なのだと思います。 フー・ダニットだから、面白いというわけではなく、むしろ、パターンが分かってしまっていると、ゾクゾク感を損なう欠点もあります。
登場人物の多くが、怪しく描かれているのだから、読者側で真犯人を推理するのは、非常に難しいです。 真犯人が誰かについては、前の方に、ヒントが隠されているものですが、これだけ、容疑者が多いと、そんなのに気づけと言う方が無理な相談。 作者は、話の途中からでも、真犯人を変える事ができるのだから、お気楽でしょうな。 フー・ダニットは、複雑そうに見えて、書く側にとっては、むしろ、捏ね回し易い話なわけだ。
被害者や目撃者の若い女達の周囲にいる若い男達が、軒並み、ろくでなしか、犯罪者というのが、上流階級の腐敗具合を、よく表していますなあ。 仕事らしい仕事もせず、ぷらぷら遊んでいれば、どんな人間でも、腐って行くものなんでしょう。 もろに犯罪者で、詐欺師か泥棒かというのも、しょーもない。 仕事をしていないより、尚、悪い。
ポワロに言わせると、若い女性は、そういう危ない雰囲気をもった男に惹かれるものらしいですが、それはその通りとは思うものの、余りにも、若気の至りが過ぎるのでは? 人生、方向性だけでも、真面目に考えておかにゃいかんよ。 遊び人の紐男や、犯罪者と結婚して、明るい未来があると思うかね? 馬鹿馬鹿しい。 考えなくても分かりそうなものです。
≪メソポタミヤの殺人≫
クリスティー文庫 12
早川書房 2003年12月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
石田善彦 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【メソポタミヤの殺人】は、コピー・ライトが、1936年になっています。 約410ページ。
イラクで遺跡を発掘をしている調査隊の隊長から、妻の世話をして欲しいと依頼された若い看護師が、現地に赴く。 隊長の妻は、魅力のある美人だったが、その為人は、接する相手によって、評価が別れていた。 彼女は、若い頃に別れた前夫らしき人物から、脅迫状が送られて来ていると訴え、その影に怯えて暮らしていたが・・・、という話。
うーむ。 こういうストーリーの場合、感想を書くにも、ネタバレなしというわけには行きませんねえ。 デビッド・スーシェさん主演のドラマ・シリーズでは、【メソポタミヤの殺人】は、ほぼ原作通り、映像化されていたので、こんなところで、他人の感想を読んでいる人達なら、ドラマを見て、知っているのでは?
というわけで、以下、ネタバレありです。
隊長の奥さんは、第一の被害者で、殺されてしまいます。 第一にして、メインの殺人でして、第二の殺人は、第一の殺人の真相に気付いた人物が、同じ犯人に消されてしまうというパターンです。 これ以上は、書かない事にしましょうか。
フー・ダニットにして、ハウ・ダニット、しかも、密室殺人と、欲張った内容です。 殺害方法は、物体的なものですが、単純すぎて、種明かしをされないと、分かりません。 たとえ、推理して気づく読者がいたとしても、確信が持てないのではないでしょうか? その犯行が可能であった人物が誰かを考えれば、犯人が分かるわけですが、凶器の回収方法まで当てなければ、不十分なわけで、難しいと思いますねえ。
フー・ダニットの欠点で、大勢の登場人物達への聞き取り場面が延々と続くのは、読む側にとって、相当な苦痛です。 しかし、クリスティーさんは、会話が多い文体だから、嫌になるほど、くどいという事はありません。 この文体も、多くの読者を獲得した理由なんでしょうな。
で、犯人ですが、分かると、ビックリします。 まず、その人が犯人だという事にビックリし、次に、犯人の正体が何者であるかを説明されて、もう一度、ビックリします。 隊長の妻が受け取っていた、前夫の脅迫状は、てっきり、妻自身が書いた狂言だと思わされていたので、最後の最後に、それが活きて来て、「あっ、やられたっ!」と思うわけです。 まったく、クリスティーさんには、やられっ放しだな。
≪三幕の殺人≫
クリスティー文庫 9
早川書房 2003年10月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
長野きよみ 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【三幕の殺人】は、コピー・ライトが、1934年になっています。 約366ページ。
高名な俳優の家で開かれたパーティーで、牧師が二コチンの大量服用で死ぬ。 しかし、配られたグラスには、ニコチンは入っておらず、他殺とは見做されなかった。 次に、精神科の医師の家で開かれた、ほぼ同じ招待客のパーティーで、医師自身が、今度は、確実に毒殺され、最近雇ったばかりの執事が姿を消す。 高名な俳優と、彼を慕う若い女性、芸術のパトロンの三人が、二つの事件は、同一人物による殺人だと考えて、調査を始める。 最初のパーティーに加わっていたポワロは、途中から、探偵グループに加わり・・・、という話。
この話ですが、デビッド・スーシェさん主演のドラマ・シリーズで、私が、はっきり覚えているものの一つで、タイトルもしっかり記憶に残っており、読み始める前から、犯人が誰か、知っていました。 「推理小説の結末を喋ってしまう奴は、死刑に値する」とは、よく言われる事ですが、全く、その通りで、誰が犯人か分かっていると、面白さが、10分の1くらいに減じてしまいます。
フー・ダニット物なのですが、犯人が分かっていると、関係者への聞き取り場面を真剣に読めないから、大変、つまらない。 犯人でないと分かっている人物を、疑いながら読み進めるなど、できるものではないので、ほとんど、飛ばし読みになってしまいます。 原作とは、映像作品を見る前に、読むべきなんですな。 当然と言えば、当然の事ですが。
以下、ネタバレ、あり。
この作品が、少し変わっているのは、犯人が、探偵側に加わっている事です。 その点、【アクロイド殺し】に似ていますが、あちらは、一人称、こちらは、三人称で、アン・フェア度は、ずっと低いです。 注意して読むと、犯人に関しては、心理描写が、ほぼ皆無である事が分かります。 倒叙物でもないのに、犯人の心理描写をしてしまったら、まずいですから。
他方、犯人以外の探偵グループのメンバーに関しては、ポワロは別として、一人は心理描写があり、もう一人は、ありません。 つまり、心理描写がない人間を二人にしておく事で、勘のいい読者でも、心理描写の有無で、犯人を見分けられないように工夫してあるわけです。 さすがに、よく考えてあります。
中心人物が、高名な俳優なので、演劇に関わる道具立てが多く、それが、この作品を、しゃれた印象にしているのですが、それは、読んでいる私が、演劇とは無縁の人間だからで、演劇関係者が読むと、逆に、素人っぽさを感じるのかも知れません。 ちなみに、トリックや謎を解くのに、演劇の専門知識は不要です。
ドラマの方では、ポワロと高名俳優が、一緒に捜査しますが、原作では、ポワロは、前面に出て来ません。 その代わりに、芸術のパトロンが出ているという形。 ポワロは、後半になって、関わって来ます。 正直な感想、ドラマの方が、面白いと思いましたが、それは、やはり、私が先に、ドラマを見てしまったからでしょう。
以上、四冊です。 読んだ期間は、今年、2022年の、
≪オリエント急行の殺人≫が、2月20日から、23日。
≪青列車の秘密≫が、2月25日から、3月2日。
≪メソポタミヤの殺人≫が、3月2日から、7日まで。
≪三幕の殺人≫が、3月9日から、13日まで。
クリスティー文庫のお陰で、割と安定的に、図書館通いが続いています。 選ぶ必要がなく、順番に借りて来ればいいので、楽なのです。 クリスティーさんの作品が、大変、高品質である事を認めるのに吝かではありませんが、どうして読みたいというわけでもなく、他に読む物がないから読んでいるというのも、否定できません。 私が、読書家として、すでに、枯れてしまっているんでしょうな。
≪オリエント急行の殺人≫
クリスティー文庫 8
早川書房 2003年10月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
中村能三 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【オリエント急行の殺人】は、コピー・ライトが、1934年になっています。 約410ページ。
イラクでの仕事の帰途、トルコのイスタンブールから、フランス・カレー行きのオリエント急行に乗る事になった、ポワロ。 季節的にガラガラのはずの一等車が、なぜか、ほとんど埋まっており、合い部屋で一晩を過ごしたが、その間に、殺人事件が起こった。 列車が大雪で立ち往生し、犯人は、一等車の乗客と車掌に限定されたが、各人の証言は錯綜して、犯人像が結べない。 やがて、容疑者達に、意外な共通点が見つかって・・・、という話。
わざわざ、梗概を書くまでもなく、【オリエント急行殺人事件】を、映像作品で見た事がない人は、稀だと思います。 そして、一度見たら、ストーリーを忘れる人も、皆無でしょう。 私も、そうです。
この作品は、映像作品を見る前に、原作小説を読むべき作品の、典型例ですな。 その点、【アクロイド殺し】や、【そして誰もいなくなった】と同じ特徴をもっています。 【ABC殺人事件】も、その中に入れていいかもしれません。 それでいて、これらの作品は、焼き直しではなく、それぞれ、まるで、違う話なのだから、クリスティーさんは、とんでもないアイデアを産み出せる人物だったんですなあ。
以下、ネタバレ、あり。
先に、映像作品を見ていると、後から、原作小説を読んでも、全然、面白くありません。 流れとしては、
「事件発生まで」→
「事件発生」→
「現場の調査」→
「聞き取り」→
「荷物調査」→
「謎解き」
となりますが、一番ボリュームが大きいのは、「聞き取り」場面で、最も多くのページ数を割いてあるにも拘らず、ストーリーを先に知ってしまっていると、尋問される容疑者達の証言が、全て嘘である事が分かっているので、真面目に読んで頭に入れる気にならないのです。 というわけで、その辺りは、ほとんど、飛ばし読みしました。 読めないんですよ。 意味がないと分かっているから。
話を知らない内に、推理しながら読んで行った人が、ポワロによる謎解きに至って、「あっ! やられたっ!」と驚くのは、無理もない。 一種の、アン・フェア物なわけですが、怒るより先に、感服させられてしまうと思います。 フー・ダニット物のパロディーと見てもいいです。 読者は、当然、フー・ダニット物のつもりで、犯人は誰かと、推理を働かせながら、読み進めるわけですが、そう思い込んでいるが故に、ものの見事に騙されてしまうんですな。
映像作品を見ておらず、話を知らない人には、大いにお薦め。 知っている人は、読んでも、あまり、意味がないです。 買う前に、図書館で借りて、少し読んでみた方がいいでしょう。 たぶん、私同様、ほとんど、飛ばし読みになると思います。
ラストですが、映像作品によって、処置が異なります。 原作は、軽く纏めてあり、ポワロには、犯罪者を見逃す事への葛藤が、全くありません。 その為に、被害者を極悪人に設定してあるわけですが、そこに違和感を覚えた映像作家達が、いろいろと、自分なりの解釈を施しているわけですな。
私としては、原作の処置は、軽過ぎると思います。 「それ相応の理由があれば、殺人も許される」というのなら、法治が成り立ちますまい。 明らかな謀殺となれば、尚の事、情状酌量の対象になり得ないのでは?
≪青列車の秘密≫
クリスティー文庫 5
早川書房 2004年7月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
青木久惠 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【青列車の秘密】は、コピー・ライトが、1928年になっています。 約432ページ。
アメリカの大富豪の娘が、爵位目当てに、ろくでなしのイギリス貴族と結婚していたが、夫に愛人がいると知って、愛想を尽かし、父親と離婚について相談し始める。 そんな彼女が、ヨーロッパ大陸を、寝台列車で旅行中に殺される。 多額の遺産が入った夫や、夫の愛人、彼女の昔の恋人などに嫌疑がかかるが、アリバイがある者が多く・・・、という話。
タイトルの「青列車」は、「ブルー・トレイン」の直訳ですが、日本のブルー・トレインとは、意味合いが違っていて、上流階級用の列車だったとの事。 寝台列車が殺人の舞台になるものの、【オリエント急行の殺人】とは違い、列車内だけで、話が進行するわけではありません。 というか、列車の中で起こる場面は、殺人と、犯人指名だけで、他は全て、地上での展開になります。
典型的な、フー・ダニット物。 容疑者を何人も出しておいて、みんな怪しいと読者に思わせておき、「この人かと思ったら、そうではなかった」というパターンを、数回繰り返して、最後に真犯人の指名に至るというもの。 元は、短編からスタートした推理小説を、長編に伸ばす為に考案された手法なのだと思います。 フー・ダニットだから、面白いというわけではなく、むしろ、パターンが分かってしまっていると、ゾクゾク感を損なう欠点もあります。
登場人物の多くが、怪しく描かれているのだから、読者側で真犯人を推理するのは、非常に難しいです。 真犯人が誰かについては、前の方に、ヒントが隠されているものですが、これだけ、容疑者が多いと、そんなのに気づけと言う方が無理な相談。 作者は、話の途中からでも、真犯人を変える事ができるのだから、お気楽でしょうな。 フー・ダニットは、複雑そうに見えて、書く側にとっては、むしろ、捏ね回し易い話なわけだ。
被害者や目撃者の若い女達の周囲にいる若い男達が、軒並み、ろくでなしか、犯罪者というのが、上流階級の腐敗具合を、よく表していますなあ。 仕事らしい仕事もせず、ぷらぷら遊んでいれば、どんな人間でも、腐って行くものなんでしょう。 もろに犯罪者で、詐欺師か泥棒かというのも、しょーもない。 仕事をしていないより、尚、悪い。
ポワロに言わせると、若い女性は、そういう危ない雰囲気をもった男に惹かれるものらしいですが、それはその通りとは思うものの、余りにも、若気の至りが過ぎるのでは? 人生、方向性だけでも、真面目に考えておかにゃいかんよ。 遊び人の紐男や、犯罪者と結婚して、明るい未来があると思うかね? 馬鹿馬鹿しい。 考えなくても分かりそうなものです。
≪メソポタミヤの殺人≫
クリスティー文庫 12
早川書房 2003年12月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
石田善彦 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【メソポタミヤの殺人】は、コピー・ライトが、1936年になっています。 約410ページ。
イラクで遺跡を発掘をしている調査隊の隊長から、妻の世話をして欲しいと依頼された若い看護師が、現地に赴く。 隊長の妻は、魅力のある美人だったが、その為人は、接する相手によって、評価が別れていた。 彼女は、若い頃に別れた前夫らしき人物から、脅迫状が送られて来ていると訴え、その影に怯えて暮らしていたが・・・、という話。
うーむ。 こういうストーリーの場合、感想を書くにも、ネタバレなしというわけには行きませんねえ。 デビッド・スーシェさん主演のドラマ・シリーズでは、【メソポタミヤの殺人】は、ほぼ原作通り、映像化されていたので、こんなところで、他人の感想を読んでいる人達なら、ドラマを見て、知っているのでは?
というわけで、以下、ネタバレありです。
隊長の奥さんは、第一の被害者で、殺されてしまいます。 第一にして、メインの殺人でして、第二の殺人は、第一の殺人の真相に気付いた人物が、同じ犯人に消されてしまうというパターンです。 これ以上は、書かない事にしましょうか。
フー・ダニットにして、ハウ・ダニット、しかも、密室殺人と、欲張った内容です。 殺害方法は、物体的なものですが、単純すぎて、種明かしをされないと、分かりません。 たとえ、推理して気づく読者がいたとしても、確信が持てないのではないでしょうか? その犯行が可能であった人物が誰かを考えれば、犯人が分かるわけですが、凶器の回収方法まで当てなければ、不十分なわけで、難しいと思いますねえ。
フー・ダニットの欠点で、大勢の登場人物達への聞き取り場面が延々と続くのは、読む側にとって、相当な苦痛です。 しかし、クリスティーさんは、会話が多い文体だから、嫌になるほど、くどいという事はありません。 この文体も、多くの読者を獲得した理由なんでしょうな。
で、犯人ですが、分かると、ビックリします。 まず、その人が犯人だという事にビックリし、次に、犯人の正体が何者であるかを説明されて、もう一度、ビックリします。 隊長の妻が受け取っていた、前夫の脅迫状は、てっきり、妻自身が書いた狂言だと思わされていたので、最後の最後に、それが活きて来て、「あっ、やられたっ!」と思うわけです。 まったく、クリスティーさんには、やられっ放しだな。
≪三幕の殺人≫
クリスティー文庫 9
早川書房 2003年10月15日/初版
アガサ・クリスティー 著
長野きよみ 訳
沼津図書館にあった文庫本です。 長編1作を収録。 【三幕の殺人】は、コピー・ライトが、1934年になっています。 約366ページ。
高名な俳優の家で開かれたパーティーで、牧師が二コチンの大量服用で死ぬ。 しかし、配られたグラスには、ニコチンは入っておらず、他殺とは見做されなかった。 次に、精神科の医師の家で開かれた、ほぼ同じ招待客のパーティーで、医師自身が、今度は、確実に毒殺され、最近雇ったばかりの執事が姿を消す。 高名な俳優と、彼を慕う若い女性、芸術のパトロンの三人が、二つの事件は、同一人物による殺人だと考えて、調査を始める。 最初のパーティーに加わっていたポワロは、途中から、探偵グループに加わり・・・、という話。
この話ですが、デビッド・スーシェさん主演のドラマ・シリーズで、私が、はっきり覚えているものの一つで、タイトルもしっかり記憶に残っており、読み始める前から、犯人が誰か、知っていました。 「推理小説の結末を喋ってしまう奴は、死刑に値する」とは、よく言われる事ですが、全く、その通りで、誰が犯人か分かっていると、面白さが、10分の1くらいに減じてしまいます。
フー・ダニット物なのですが、犯人が分かっていると、関係者への聞き取り場面を真剣に読めないから、大変、つまらない。 犯人でないと分かっている人物を、疑いながら読み進めるなど、できるものではないので、ほとんど、飛ばし読みになってしまいます。 原作とは、映像作品を見る前に、読むべきなんですな。 当然と言えば、当然の事ですが。
以下、ネタバレ、あり。
この作品が、少し変わっているのは、犯人が、探偵側に加わっている事です。 その点、【アクロイド殺し】に似ていますが、あちらは、一人称、こちらは、三人称で、アン・フェア度は、ずっと低いです。 注意して読むと、犯人に関しては、心理描写が、ほぼ皆無である事が分かります。 倒叙物でもないのに、犯人の心理描写をしてしまったら、まずいですから。
他方、犯人以外の探偵グループのメンバーに関しては、ポワロは別として、一人は心理描写があり、もう一人は、ありません。 つまり、心理描写がない人間を二人にしておく事で、勘のいい読者でも、心理描写の有無で、犯人を見分けられないように工夫してあるわけです。 さすがに、よく考えてあります。
中心人物が、高名な俳優なので、演劇に関わる道具立てが多く、それが、この作品を、しゃれた印象にしているのですが、それは、読んでいる私が、演劇とは無縁の人間だからで、演劇関係者が読むと、逆に、素人っぽさを感じるのかも知れません。 ちなみに、トリックや謎を解くのに、演劇の専門知識は不要です。
ドラマの方では、ポワロと高名俳優が、一緒に捜査しますが、原作では、ポワロは、前面に出て来ません。 その代わりに、芸術のパトロンが出ているという形。 ポワロは、後半になって、関わって来ます。 正直な感想、ドラマの方が、面白いと思いましたが、それは、やはり、私が先に、ドラマを見てしまったからでしょう。
以上、四冊です。 読んだ期間は、今年、2022年の、
≪オリエント急行の殺人≫が、2月20日から、23日。
≪青列車の秘密≫が、2月25日から、3月2日。
≪メソポタミヤの殺人≫が、3月2日から、7日まで。
≪三幕の殺人≫が、3月9日から、13日まで。
クリスティー文庫のお陰で、割と安定的に、図書館通いが続いています。 選ぶ必要がなく、順番に借りて来ればいいので、楽なのです。 クリスティーさんの作品が、大変、高品質である事を認めるのに吝かではありませんが、どうして読みたいというわけでもなく、他に読む物がないから読んでいるというのも、否定できません。 私が、読書家として、すでに、枯れてしまっているんでしょうな。
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