2024/09/01

読書感想文・蔵出し (116)

  読書感想文です。 今回も、4冊です。 別に、批評で食っているわけではないから、読まなくてもいいんですが、一度、やめてしまうと、それっきりになって、認知不全を招き寄せてしまうのではないかと、それが、怖いから、読み続けている次第。





≪火星人ゴー・ホーム≫

ハヤカワ SFシリーズ 3003
早川書房 1965年3月15日 再版発行
フレドリック・ブラウン 著
森郁夫 訳

  沼津図書館にあった、新書本です。 長編、1作を収録。 フレデリック・ブラウンさんの作品。 ネット情報では、1954年に雑誌掲載され、翌55年に、本になったとの事。 二段組で、作者のあとがきも入れて、約178ページ。


  突然、地球上の様々な場所に現れた、10億人の火星人。 瞬間移動能力と透視能力をもっていて、どこにでも入り込んで、地球人を観察し始めたが、厄介な事に、嘘をつかないので、秘密をバラしまくる。 あるアメリカ人の小説家を、主な軸にして、火星人が世界中に引き起こした悲喜劇を描く話。

  ハードSFの対極にある作品。 SFというより、風刺小説の趣きですが、何を風刺しているのか、焦点が定まらないところがあります。 テーマなんか、ないです。 大雑把なアイデアが頭に浮かんだだけで、テキトーに書き始めて、テキトーに書き進め、テキトーに終わらせた、という態。 SF小説として、タイトルは、割と有名だと思いますが、勝負作品などでは、毛頭ないので、気合いを入れて読み始めると、肩透かしを食らうと思います。

  有名な作家であっても、やっつけ作品を書いてしまう事はあるものでして、新人や、売れない作家なら、編集者が没にするところを、なまじ、有名作家であるが故に、名前だけでも、読む人がいるから、こういう作品が、世に出てしまうんですな。 実際問題、これを、新人が書いて、編集者に見せたら、「こんな、お遊びで、作家になれると思ったら、大間違いだ」と、一時間も説教を食らうのが落ちでしょう。

  本気で風刺作品にしたいのなら、小説家などという、変わった職種の人物を中心にするのではなく、もっと一般的な人々に、火星人をぶつけてみれば良かったのに。 なぜ、小説家なのかというと、書いている作者も小説家だから、楽だと思ったんでしょう。 もう、最初から、手抜き全開ですな。

  こういう作品を、「傑作」などと讃えていると、ジャンル全体が、衰退して行きます。 読む方も読む方で、「こういうのも、アリ」などと、分かったようなフリをしない方がいいです。 業界内で、お遊びを許してしまうと、どんどん、読者が離れて行ってしまいます。 絶対、駄目とは言いませんが、こういうのが許されるのは、短編に限りでしょう。




≪盗まれた街≫

ハヤカワ文庫 SF 1636
早川書房 2007年9月25日 発行
ジャック・フィニイ 著
福島正実 訳

  沼津図書館にあった、文庫本です。 長編、1作を収録。 コピー・ライトは、1955年。 約360ページ。 筒井さんの、≪漂流≫に載っていた作品。


  アメリカ西海岸の小さな町。 地元で生まれ育った開業医のもとに、「家族の一人が、別の人間になっている」と訴える患者が、立て続けにやって来る。 友人の小説家に相談されて、彼の家の地下室に行くと、友人に良く似た人体があるのを見せられる。 それは、生きてはいないが、死体でもなく、徐々に、その家の住人そっくりに変わって行って、いずれ、取り変わってしまうのだった。 何者かによる、乗っ取りが進行していると気づいた時には、町の住人のほとんどが・・・、という話。

  原題は、「THE BODY SNATCHERS」で、「体を奪う者」という意味。 内容を、そのまま、表しています。 大抵、邦題は、原題より、無粋になるものですが、「盗まれた街」も、内容をよく表していて、なかなか、いい題だと思います。 珍しい。

  原題で、何回か、映画化されているそうです。 私は、どれも、見た記憶はないですが、似たようなアイデアは、他の作品でも、よく使われているせいか、「どこかで、読んだような、見たような話だな」と思わせるものがあります。 どうやら、この小説が、それらの作品の嚆矢である模様。

  映画の話は別にしても、小説として、面白いです。 ページをめくる指が止まらなくなるタイプの作品。 私は、家事やら買い物やら、他にしなければならない事が多いので、三日に分けて読みましたが、閑な人なら、読み始めたが最後、夜中までかけても、読んでしまうのでは?

  解説によると、作者は、SF専業作家ではなく、推理小説や、ファンタジー小説も書く人らしく、スティーブン・キングさんが、この作者のファンらしいですが、なるほど、いかにも、キングさんが好きそうな話です。 また、SF専業でない作家の作品らしく、ハードな科学技術知識は、一切、使われていません。 日本にも、北杜夫さんや、横溝正史さんのSF作品がありますが、必ずしも、ハード知識がなくても、SFは書けるわけだ。

  そして、大変、上質な小説になっています。 こういう繊細な描写は、SF専業作家だと、書けないかもしれませんねえ。 アメリカの小説は、創作形容や、一人の人物を複数の呼び名で書くなど、非常に悪い癖がある作家が多いですが、この作品には、そういうところが全くありません。 翻訳も巧いのでしょうが、これだけ緻密でありながら、全ての文字を読んで行っても、スイスイと、先に進んで行きます。

  見せ場の配分も、巧み。 クライマックスが二段構えで、一段目は、冒険小説でよく使われる、監禁された部屋からの脱出です。 その類いの中では、他に例がないような、奇抜な方法をとります。 作品独自のSF設定を、うまく利用しているのです。 この作者、様々なジャンルの小説を、たくさん、読んでいるんでしょうねえ。

  無理やり、粗を探すとすれば、やはり、SF設定に、甘いところがあるという点でしょうか。 莢から出て来た種が変身して、人間そっくりになるわけですが、入れ代わられた元の人間が、どうなってしまうかについて、詳しく書いていません。 骨格標本を身代わりにする件りで、大雑把に書いてあるだけ。 予め、決めないまま書き始め、後回しにしていたけれど、結局、うまい処理法を思いつかなかったのかも知れませんな。

  そういえば、この作品でも、人種差別問題が、取り上げられています。 靴磨きをしている中南部アフリカ系の男が、普段、客のヨーロッパ系におべっかばかり言っているのが、隠れた所で、激しく、ブチ切れているというもの。 アメリカで、1950年代中期というと、公民権運動が始まった頃ですが、その問題に触れなければいけないような雰囲気が、世の中にあったのかも知れません。 

  総括。 小説でも映画でも、先に類似作品に触れていると、新鮮な感じはしませんが、それでも、読んで損する小説ではないです。 面白いという点では、太鼓判を押します。 とはいえ、買うほどではないかなあ・・・。 こういう作品は、何年経っても、内容を忘れないから、読み返す事は、そうそう、ないと思うのです。




≪人間の手がまだ触れない≫

ハヤカワ文庫 SF 1597
早川書房 2007年1月30日 発行
ロバート・シェクリイ 著
稲葉明雄・他 訳

  沼津図書館にあった、文庫本です。 短編、13作を収録。 コピー・ライトは、1954年。 52年、53年に雑誌発表された作品を集めたようです。 全体のページ数は、約328ページ。 筒井さんの、≪漂流≫に載っていたもの。 解説によると、作者は、「不条理SF作家」と呼ばれるのを、気に入っていたとの事。 ちなみに、筒井さんが、売り出し中に、「和製シェクリイ」と言われていたそうです。


【怪物】 約24ページ

  ある惑星に、地球のロケットが下り立った。 出て来た地球人が、大変、醜い姿をしている事に、現地の人間は驚く。 現地人は、女性が、男性の8倍生まれる生態で、25日に一度、妻を殺して、新しいのに取り換える習慣があったが、地球人の女性にも、同じ扱いを・・・、という話。

  一見、「異なる文化の習慣は、尊重すべきである」というテーマのように取れますが、作者の狙いは、そんな高尚なところにあるのではなく、日々、女房を殺したくてうずうずしている亭主どもの、溜飲を下げる為に、こういう設定を考えたのでしょう。 分からないでもないですが、こんな作品を読んで、喝采している暇があったら、もっと理性的に、離婚手続きを進めては如何か。


【幸福の代償】 約22ページ

  様々な家電製品で埋め尽くされている家。 便利ではあるが、高価なので、一生かかっても、ローンが払いきれない。 息子にも、債務を負わせて、更に、新しい家電を買おうとするが、息子は・・・、という話。

  星新一さんのショートショートみたいな雰囲気です。 新しい家電が、どんどん増えるというのは、この頃の、アメリカの家庭で、よく見られる現象だったんでしょう。 「家電が増えるほど、幸福になる」という感覚は、誰でも、経験した事があると思いますが、何年かしてみると、錯覚である事が分かります。


【祭壇】 約16ページ

  ある町に住んでいる人物。 よそ者に道を訊かれたが、初めて聞く宗教関係の名前で、まったく、心当たりがない。 どうやら、怪しい宗教間の対立が、この町で起こりつつあるようだが、市長に訊いても、知らないという。 真相を探ろうと、再び出会ったよそ者に、ついていくと・・・、という話。

  SFというより、犯罪小説でしょうか。 怪しげな宗教団体の名前が出てくるところで、ゾクゾク感を覚えないでもないですが、アメリカのものなので、日本人には、今一つ、ピンと来ません。


【体形】 約32ページ

  体形を自由に変化させられる宇宙人。 原子力資源を求めて、地球に、何回か、調査隊を送ったが、一人も帰って来ない。 調査隊員達は、地球の生物種が、大変、多様で、化け甲斐があり、征服するよりも、自分達で好きな事をやった方がいいのではないかと考えて・・・、という話。

  ページ数が多い分、描き込みも細かくて、普通に、小説として、読み応えがあります。 アイデアは、奇抜とまでは行きませんが、まずまず、楽しめるもの。 ラストは、純文学的で、感動を覚えます。 人間が、動物に変身するというのは、どうして、こんなに心を打つのだろう? 人間より、動物の方が、生き物として、素晴らしいと思っているからでしょうか。


【時間に挟まれた男】 約40ページ

  人工的に作られた銀河の一部で、時間の歪みが発生。 ニューヨークに住む男が、階下へ下りようとすると、先史時代へ行ってしまい、逆に高い所へ上がると、酸素もないような遥か未来へ行ってしまう、という案配で、建物から出られなくなってしまう。 引っ越しの期限が迫っているのに、どうしよう・・・、という話。

  以上のような基本ストーリーに、タイム・パラドックスによる影響を避けようとする意思が加わって、主人公の制約が、更に、大きくなります。 結末は、ショートショート的な、気が利いたもの。 「悪事を企んでいる者といっても、消してしまうのは、まずいのでは?」と思わないでもないですが、銀河規模の問題と相対化されて、そのくらいは、小さな事と、片付けられています。


【人間の手がまだ触れない】 約34ページ

  食料が尽きた状態で、ある惑星に到着した、二人乗りの宇宙船。 尖った山の上に、ドーナツが引っ掛かっているような形の建造物を見つけるが、その惑星の人類は、他の星へ移民したようで、無人になっていた。 残された物資の中から、食べられそうな物を探すが、その惑星の人類が、何を食べていたのかさえ分からず・・・、という話。

  この短編集の表題作ですし、タイトルからして、深遠な哲学でもテーマにしているのかと思っていたんですが、そうではありませんでした。 とはいえ、短編SFのアイデアとしては、一級のもの。 化学や、栄養学がモチーフですが、さほど、ハードには踏み込みません。 一般的なSFファンには、分り易いですが、ハード好きの面々には、食い足りないかも。


【王様のご用命】 約24ページ

  店から電気製品が盗まれるのを捕まえようとした、共同経営者の二人。 張り込んでいたら、やって来たのは、魔神だった。 王様の命令で、王様が欲しがる物を盗みに来ているとの事。 魔術には魔術という事で、いろいろな呪文を試すが、魔神は聞いた事もない名前で、何の効果もない。 二人は、知恵を絞った挙句・・・、という話。 

  こういうのも、星新一さんのショートショートには、よくあります。 発表年から見て、これらの作品が、星さん始め、日本のショートショートに影響を与えたと見るべきか。 あまり、キレのいい結末ではないです。 魔神が、どこから来たのかも、最後に明かされますが、1970年代くらいまでならともかく、今では、ちょっと、ピンと来なくなっていますねえ。


【あたたかい】 約22ページ

  ある男の中から、別の者の声が聞こえて来る。 男は、近しい女性を誘って、パーティーに行こうとしていたが、声と話をする内に、人間の本質が何なのか、理解が進み、女性は袖にしてしまい・・・、という話。

  「人間なんて、所詮、ただの原子の塊に過ぎない」という、冷めに冷め切ったものの見方になって行くわけですが、そういう割り切り方が、役に立つ場合もありますな。 結末が付いているのですが、なぜ、そうなるのか、しっくり来ない所があります。 結末だけ見ると、ドラえもんに似たような話がありました。


【悪魔たち】 約22ページ

  街を歩いている時に、突然、消えてしまった保険外交員の男。 現れた先では、一人の人物がいて、どうやら、男の事を、悪魔だと思っているらしい。 「呼び出された悪魔は、必ず一つ、命令を聞かなければならない」そうで、ある物を持って来いと命じられるが、その物が、何なのかが分からない。 放免された男は、呪術を調べ、自分も悪魔を呼び出して・・・、という話。

  ループ型のストーリー。 ショートショート的で、そこそこ、気が利いた結末です。 しかし、大人が、真面目に読むような内容でもないか。 こういう話ばかり考えているから、ショートショートというジャンルは、消滅してしまったんですな。


【専門家】 約34ページ

  その宇宙船は、各部のパーツが、それぞれ、生物で、それぞれ、意思を持っていた。 事故で、「推進係」の生物が死んでしまう。 推進係がいないと、超光速移動ができないので、帰還ができない。 最寄の惑星から、推進係タイプの生物を探したところ、ちょうど、地球人がそれで・・・、という話。

  普通、物体と思われているものが、生物として描かれていると、異化効果が凄まじい。 筒井さんの、【虚航船団】が、それですが、もしかしたら、この作品から、ヒントを得たのかも。 ただし、こちらは、虚構文学ではなく、割と普通のSF小説です。

  スカウトされて、最初、渋っていた地球人が、結局、承諾するのですが、その気持ちはよく分かる。 私が同じ立場でも、誘惑に勝てないでしょう。 ラストで、全くやり方を知らなかったのに、他の部品達の力を借りて、「推進」をやってのける場面には、爽快感を覚えます。


【七番目の犠牲】 約30ページ

  戦争の代わりに、攻撃欲が強い人間だけ、自発的に登録して、殺し合いをさせる制度がある社会。 10人殺すと、名誉あるクラブに入る資格が得られる。 ある男が、7人目のターゲットに近づくが、相手の女は、狙われていると知らされているにも拘らず、全く無防備。 声をかけてみると、殺される覚悟でいるらしい。 女を好きになってしまった男は・・・、という話。

  これも、星新一さんのショートショートに、同じような設定の話がありました。 こちらの方が、先である事は、間違いありますまい。 星さんの作品より、結末の意外性が強いです。 1965年に、映画化されているそうですが、確かに、映画になりそうな話。 相当、膨らませてあるとは思いますが。


【儀式】 約18ページ

  かつては、様々な異星人の宇宙船を受け入れていた星の一族。 ある時を境に、宇宙船が寄りつかなくなった。 久しぶりに来た宇宙船に、歓迎の儀式を、5千年前の型で臨もうとする長老と、3千年前の改良された型を推す若者との間で、軋轢が起こる話。

  ネタバレさせてしまいますと、大抵の宇宙船の乗組員は、やっと辿り着いた惑星で、水や食料が欲しいのに、5千年前型では、踊りばかり踊っていて、一向に、出て来ない。 改良された3千年前型では、最初に、飲食物を出せとなっているという違い。 ちょっと、アイデアが、安直か。 ショートショートのコンテストに応募したら、一次審査で落とされそうです。 書き方が、プロのものなので、そこそこ、面白く読めますけど。


【静かなる水のほとり】 約10ページ

  小惑星に住み着いた男。 ロボットを改良して、話し相手になるようにし、何年か暮らしたが、やがて、岩盤から酸素を汲み出す機械が衰えて、耕作ができなくなり、男も歳をとり、ロボットも歳を取って・・・、という話。

  これは、小松左京さんの、【SOS印の特製ワイン】が、似ています。 もちろん、こちらの方が先に書かれています。 細部は事なりますが、基本的な設定と、読後に残る余韻が、ほぼ、同じ。


  ≪人間の手がまだ触れない≫の総括ですが、筒井さんが、「和製シェクリイ」と言われていたというのは、一部の作品についてだけ、納得できる事。 どちらかというと、星さんに与えた影響の方が大きいんじゃないでしょうか。 星さんといえば、日本のSF小説界の基礎を作った人なので、シェクリイさんは、更に、その基礎になっているわけだ。

  今まで、シェクリイ作品を一つも読まなかった私に、問題があります。 逆に、翻訳されるなり、片っ端から読んでいたという人達は、日本の作家が書いたSFを読むと、「ああ、これは、シェクリイからいただいたな」と、白けていたのかも知れませんねえ。




≪ドノヴァンの脳髄≫

ハヤカワ・SF・シリーズ 3002
早川書房 1957年12月31日 初版発行 1995年9月30日 4版発行
カート・シオドマク 著
中田耕治 訳

  沼津図書館にあった、新書サイズの本です。 長編、1作を収録。 2段組みで、186ページ。 雑誌発表が、1942年から、1943年。 単行本になったのが、1943年。  筒井さんの、≪漂流≫に紹介されていたもの。


  小型飛行機の墜落事故で、瀕死状態になった男の体から、脳髄を摘出して、脳髄だけで生存させる事に成功した医師。 脳髄の主は、事業家の大富豪だった。 精神感応で、脳髄から指令を受ける事ができるようになった医師は、命じられるままに動いて、大富豪のやり遺した事を実行しようとするが・・・、という話。

  脳髄だけで生存させるのは、現代でも不可能で、一見、リアルなようでいて、そうでもない、微妙なSF設定です。 冒頭からしばらく、医学・生命科学の専門用語が頻出するので、作者は、医師なのかと思いましたが、別に、そうではない様子。 おそらく、作品に必要な部分だけ、医学書を調べたんでしょうな。

  摘出した脳髄と、どうやって、意思の疎通をするかが問題でして、手足はもちろん、口も耳も目もなく、脳髄だけでは、脳波くらいしか、調べようがありません。 それが、ある時、実験室内で、ちょっとした事故が起こり、それをきっかけに、精神感応で、医師の左手が、脳髄の指令で、文字や図を書く事ができるようになります。 精神感応では、降霊術と大差ないのであって、ここで、ハードSFとしては、失格になります。 もっとも、SFは、必ず、ハードでなければならないという法はありません。

  そこから先は、脳髄の主である、大富豪のやり遺した望みを叶える展開になるのですが、アメリカ映画によくある、「血も涙もない男が、死ぬ寸前に、他の人間の体を借りて、迷惑をかけた人々に、罪滅ぼしをして回る」、あのパターンに、なって行きます。 この大富豪の場合、「罪滅ぼしをする為なら、新たな罪を犯しても構わない」という、罪の意味が分かっているのかいないのか、よく分からない人格でして、体を貸している形の医師は、窮地に立たされるわけですが。

  というわけで、後半は、SFではなくなってしまうわけです。 しかし、普通に、小説として、読み応えがあり、最後まで、一気に読み通す事ができます。 元々、文章力がある作家が、たまたま、SFのアイデアを思いつき、抓み食い程度の動機で、SFを書くと、SF度は低いけれど、小説としては、面白いという作品ができる傾向がありますねえ。




  以上、4冊です。 読んだ期間は、2024年の、

≪火星人ゴー・ホーム≫が、5月28日から、30日。
≪盗まれた街≫が、6月8日から、10日。
≪人間の手がまだ触れない≫が、6月11日から、13日。
≪ドノヴァンの脳髄≫が、6月23日。

  4冊とも、古典SF。 古典になっているという事は、面白いという事ですが、人によって、面白さのツボが異なるので、やはり、当たり外れがあります。 時代が変わって、今、新作として出すのは、無理というモチーフもありますが、そういう点は、甘めに勘案して、読む事にしています。 アメリカSFに、人種差別や、その、わざとらしい否定は、必ず出て来るから、端から拒絶すると、読めなくなってしまうからです。