2006/01/12

失敗者の経験談

  父に車で送ってもらって、脱臼の診断書を会社に届けてきました。 その時の、新任組長の反応が凄い。

「固定に三週間もかかるというのは長すぎる。 病院が悪いんだろう。 他へ行ってみろ」

  私が治療を受けたのは、沼津市で最も信頼性が高い整形外科なんですが、その事を伝えると、返事がまた呆れる。

「腕が良すぎて、慎重すぎるんだろう。 他へ行ってみろ」

  するとなにか? わざわざ腕の悪い病院へ行き直せというのか? 自分の体だったら、そうするか?

  実はこの組長、以前から私にいい印象を持っておらず、イジメるつもり満々なのです。 それが分かっていたので、たぶん、しょーもないケチをつけてくるだろうと予想していたんですが、その通りの反応でした。 もし私が、その指示に従って、肩関節を駄目にしてしまった場合、責任は自分にかかってくる事になるのですが、そこまで先を考える事が出来ないのです。
  ただ、こういう血の巡りの悪い輩は、社内に珍しくないため、慣れっこになってしまって、さほど腹が立ちません。 いわゆる、『馬鹿の壁』という奴ですな。 ほとんどが、知力より体力、理屈より気合、で生き延びてきた手合いなので、理解能力に限界があるのは致し方ありません。 むしろ、哀れむべきなのです。 諸葛孔明も言っているように、相手の知力に応じて対処せねばなりません。
  ちなみに、『プロジェクトX』などを見ると、日本の生産現場には知的かつ合理的思考の持ち主が犇いているかのように描かれていますが、実態はこんなものです。 日本の経済は馬鹿が動かしています。 いや、ほんと。

  その場は生返事をして帰ってきました。 まだ治療が始まったばかりなのに、他の病院へ行くなんて、聞いた事がありません。 医学百科事典を読んでも、ネットで調べても、『肩関節脱臼後の固定は、最小限三週間』となっているので、整形外科の常識なんでしょう。 それ以下の期間で良いと言う医師がいたら、そちらを信用できないと考えるべきです。 つまり、聞きに行くだけ無駄。

  と、そんな事を考えつつ、ネットで肩関節脱臼経験者のサイトを読んでいたのですが、読み進むうち、ある事に気付き、考え方が変わってきました。

  どのサイトでも、体験談の中に必ず書いてあるのが、「最初に脱臼した時に、整形外科医の指示に従い、しっかり固定期間を守っていれば、脱臼を何度も繰り返す肩にならなくて済んだのに・・・」という後悔の言です。 「二度目をやると、骨が外れる軌道のようなものが出来てしまって、その後簡単に脱臼するようになる。 ひどいケースでは、一日に二回外れたり、寝ている間に寝返りを打っただけで外れるようになる」 そんな事例ばかり読んでいると、ぞーっとして、自分も固定期間は絶対に守らなければ・・・と思えて来ます。

  しかし、この種の体験談を書いている人達には、私と決定的に違う点がありました。 みんな、ハードなスポーツをやっているのです。 柔道、レスリング、ラグビー、水泳、テニス、サーフィン、ボディー・ビルなど、肩を激しく使うものばかり。 あるスポーツをやっていて脱臼したのなら、そのスポーツをやめるのが先決のような気がしますが、彼らにとってそんな選択肢は問題外らしく、むしろ、そのスポーツを続ける為に、脱臼癖を治そうとしているのです。 つまり、逆に考えると、肩を激しく使うスポーツをしていなければ、脱臼が再発する危険性は著しく減るのではないでしょうか?

  ネット上に見られる、病気経験者による医学知識には、ある傾向があります。 現在その病気で苦しんでいる人はサイトを作りたがるが、治った人は作ろうとしないという事です。 治ってしまうと、ゲストとして書き込む事はおろか、サイトを見に行く事すらしません。 私は若い頃に胆石をやってますが、治ってから相当経過しているので、ネット上で胆石を調べた事は一度もありません。 喉もと過ぎれば熱さ忘るるといいますが、病気に対する興味などそんなものです。

  当然、これは脱臼にも当てはまります。 脱臼サイトに書き込む人達は、現在も再発し続けている人たちであって、一回だけやって治ってしまった人は、やって来ないのです。 初回治療の失敗者だけが体験を語っていると言っていいです。 これでは、判断材料として偏りがあるのは否めません。 「固定期間を守らなかったから、再発した」というのは、初回治療失敗者の推測に過ぎず、定則とはいえません。 「固定期間を守らなかったけど、再発しなかった」人がどれだけいるか分からないからです。

  また、初回治療失敗者の中には、「固定期間を守ったけれど再発した」という人が若干おり、「たぶん、固定の仕方が悪かったからだ」と自己分析していますが、それが原因なのかどうか本当の所は分かりません。 「固定だけでは、再発は防止できない」という学説もあるらしく、そうなってくると、固定期間を律儀に守る事にどれだけの意味があるのか、怪しくなってきます。

  固定を三週間していると、筋肉が衰え、それを元に戻すだけで何週間もリハビリしなければならないのですが、固定そのものに治療効果がないとしたら、わざわざ筋肉を衰えさせるためにやっているようなもので、大変馬鹿馬鹿しい努力をしている事になります。

  さあ、困ったぞ。 これはどうしたものか。 馬鹿組長に意趣返しするのなら、診断書通りに、きっちり一ヶ月休んでやるのが一番ですが、実際に迷惑を掛ける相手はリーダーや指導員など、私の代わりに工程に入る人達なので、この際、馬鹿の相手などしてられません。 復帰は早ければ早いほど良いのです。 しかし、早すぎて、早々に脱臼再発をやらかすのも怖いです。 ここは一つ、中を取って、二週間だけ休んで体を自己調整する事にしましょうか。 筋肉の衰えを防ぐ為にも、そうした方がいいような気がしてきました。