2005/11/09

最後通帳


  積立貯蓄の引き落とし用に使っていた普通預金通帳が一杯になってしまいました。 やれやれ、また窓口が開いている時に、銀行に行かなければなりません。 繰り越し通帳が作れるATMというのが、ある所にはあると、風の噂に聞いた事がありますが、私の利用している銀行でもそういう機械を入れて欲しいものです。 何が馬鹿馬鹿しいと言って、ただ通帳のページが一杯になってしまったというだけで、貴重な休日の時間を潰さなけばならないというのが納得できません。 行って、手続きして、帰って来るだけでも30分はかかりますが、それを済ませたからといって、その後の私の生活に何らかのプラスがあるわけではないのですから。

  それはさておき、何気なく使っている銀行の通帳ですが、この薄っぺらな冊子には、どのくらいの信用度があるんでしょう? 通帳自体には、紙幣のような偽造防止の工夫がなされているわけでもないし、肝心の数字はただのインクで印刷されているだけです。 確かに普段、機械に入れればお金を引き出せますし、窓口へ持って行っても、通帳の記載と銀行側のデータが一致しないという事は無いんですが、もし、銀行のデータが何らかの理由で失われてしまった場合、通帳の記載だけで、預金の残高を証明できるんでしょうか? 考え出すと、どんどん不安になってきます。

  私は年代的に経験がありませんが、その昔、通帳の記載は、印刷ではなく、手書きされていたらしいです。 銀行の窓口係がボールペンで書いてよこしたというのです。 それはそれで、冷や汗が出るほど不安なシステムですな。 その頃は、銀行員の信用度は今よりずっと高かったんでしょうねえ。 今だったら、手書き文字なんて絶対信用しません。 まず、相手の銀行員そのものが信用できない。 ただの人間でんがな。 後で、「こんな数字を書いた覚えはありません。 お客様が勝手に書き込んだんじゃありませんか?」 などと言われたら、もうそれっきりです。

  いまや、覚えている人も少なくなってしまいましたが、1999年から2000年に切り替わる時、コンピューターが誤作動を起こすという危険性が声高に叫ばれました。 『2000年問題』 とか言ってましたっけ。 疑り深い私は、銀行を信用できなかったので、1999年の年末にわざわざ銀行に行き、通帳とは別に 『残高証明書』 を貰って来ました。 そして2000年になってから、また銀行に行き、狂いがないか確認してもらいました。 当時、普通預金と定期預金を合わせて、4ヶ所の金融機関に小額ずつ分散してましたから、4ケ所で同じ事をして貰ったわけです。 自分でも 「猜疑心が強い嫌な客だ」 とつくづく思いながら、寒空の下を銀行巡りしたのを、よく覚えています。

  銀行と労金は、『2000年問題』 絡みの問い合わせである事を直ぐに理解して、快く残高証明書を発行してくれましたが、郵便局だけは違ってました。 説明しても、こちらの意図が理解出来ないらしいのです。 「なぜ、そんな事を知りたいんですか? 通帳に書いてあるんだから、その通りでしょう?」 と真顔で聞き返して来ます。 私は、ムッとしましたが、ここで引いてはガキの使いになってしまうと思い、食い下がって、一から丁寧にこちらの意図を説明し直しました。 それで、ようやく通じたようだったのですが、その後の向こうの返答には愕然としました。 「データが無いので、残高証明書なんか作れません」 というのです。 つまり、郵便局側には、私がいくら預金しているかの記録が存在せず、私が持っている通帳に記載されている数字だけが、その証明だと言うのです。 これには、びっくりどころの話ではなく、悪質な冗談か、悪夢としか思えませんでした。 それでは、客が通帳の記載を偽造したら、いくらでも預金額を増やせるじゃありませんか!

  実際には、そんな事はありえず、郵便局だってコンピューターを使っているのですから、データはあるに決まっているのです。 たぶん、残高証明書の書式を用意していなくて、簡単に発行が出来なかったのでしょう。 銀行と違って、郵便局には、私のように確かめに行く客がほとんどいなかったのかも知れません。 その局員が面倒臭がっただけという可能性も考えられます。 郵便局の局員は、昔は客を見下していたのが、少しずつ応対が丁寧になって行ったのですが、2000年の時点では、まだこういう風に、客を自分と対等な相手と見て、サービスという所まで行かない態度を取る人がいたのです。

  まあ、郵便局非難はさておくとして、通帳の信頼性の話に戻りましょう。 金融機関のデータ管理は、当然、何重にもバックアップがされていると思いますが、事故には対応できても、悪意のデータ書き換えなどには、対応に限度があると思います。 もし銀行員の誰かが、客の預金を盗もうとして、データを書き換えた場合、客が持っている通帳の記載と、銀行にある書き換えられたデータのどちらが信用されるんでしょう? また、悪意ある客が、通帳の記載を偽造した場合も同じです。 偽札などに比べれば、通帳の記載など、いとも容易に偽造できそうです。 さて、銀行は、どちらを信用するんでしょうか? 考えれば考えるほど、不安になります。

  ただ、「銀行が信用できない」 といって、箪笥貯金にしていたり、全財産をバッグに入れて持ち歩いている人達に言いたいですが、そんな危険な事をするよりは、銀行の方がまだ安心出来ると考えてよいと思います。 文句を言いに行く場所があるだけでもマシです。 実際に、全財産入れたバッグをひったくられたという事件がありましたが、犯人が捕まらない限り、裁判に訴える事すら出来ないわけで、それではもう、地団駄踏む以外ないではありませんか。