2005/10/08

環境保全の落とし穴


  この夏の 『クールビズ』 に続いて、これから冬に向けて 『ウォームビズ』 が提唱されているようです。 地球環境をこれ以上悪化させない為に、省エネ活動に社会全体で取り組もうというわけです。 しかし、よくよく考えると、ウォームビズは本当に省エネになるのか、疑問が湧いてきます。 もしかしたら、『良かれと思って悪くした』 事例の一つになってしまうのではありますまいか?

  クールビズが省エネに寄与する事は、割と簡単に納得できます。 夏場、軽装で過ごせば、余計な冷房をする必要が無くなりますから、電力消費が減るのは誰でも分かる事です。 それまで着ていた物を脱げばいいわけですから、何の出費もいらない大変賢い省エネ方法だと言っていいでしょう。 しかし、ウォームビズは、そうは行きません。 暖房費を抑える為に余分に服を着ろというわけですが、それまで着ていなかった物を着るとなれば、着る物を新たに買わなければなりません。 手持ちの服で間に合えばよいですが、新調する人も膨大な数に上ると予想できますから、節約した暖房費を衣類の購入費が上回らないとは限りません。

  また、単に当人の出費だけでなく、衣類の生産にかかるエネルギーまで勘定に入れると、ウォームビズは、省エネどころか、大変な 『浪エネ』 なのではないかと思えて来ます。 物を作る為には、当然エネルギーが必要なわけで、原材料の生産、工場の操業、製品の運搬、消費行動、どれ一つ取っても、エネルギーを使わない過程などありません。 もちろん、各段階で汚染物質も排出されます。

  一昔前に、割り箸の使用が資源の浪費だといって批判され、塗り箸を持ち歩いているのを自慢にしている人がかなりいました。 しかし、あれは、ある経済学者の指摘によれば、「塗り箸を洗う水の浪費について何も考えていない行為」 なのだそうで、そのせいかどうか知りませんが、いつのまにか塗り箸携帯ブームは消散してしまいました。 「自分は環境に優しい行為をしている!」 と絶対の自信を持っていた人達が、「却って他の資源を浪費している!」 と言われて、急に自信を失い、「ああ、世の中は私が考えているより、ずっと複雑なんだなあ・・・」 と感慨に耽って、元の木阿弥と成り果てたのかもしれません。 ウォームビズにも、同種の 『考え足らず』 の雰囲気がプンプン立ち込めています。

  非常に奇怪だと思うのは、クールビズやウォームビズの経済効果を賞賛する風潮です。

「省エネや環境保全になる上に、衣類が売れて経済まで活発になる、一石二鳥の万々歳ではないか!」

  まあ、落ち着いて考えてみようじゃありませんか。 そんな事、両立するわけ無いでしょう? 上に書いたように、経済活動そのものがエネルギーを必要とするんですから。 クールビズの時でさえ、ワイシャツが売れたと言って大喜びしていた業界がありましたが、地球規模の省エネが目的である事を考えると、冷房費が減った分、ワイシャツの生産エネルギーが増えたわけで、効果を相殺してしまっています。 これを本末転倒と言わずに何と言いましょう? 況や、ウォームビズに於いてをや・・・・・。

  今持て囃されている 『ハイブリッド車』 にも、同様の問題点があると思います。 あれは、本当に省エネなんでしょうか? 確かに燃費は良いですが、ハイブリッド車は普通のガソリン車より値段が数割高いので、相当な距離を走る人でない限り、差額分の元を取る事は出来ないと思われます。 次に環境問題の方ですが、バッテリーを大量に搭載している車ですから、廃車になれば、そのバッテリーの処分が問題になります。 今でも、処分に困って山の中に放置されているバッテリーをよく見かけますが、この調子でハイブリッド車が増えて行ったら、未来にどんな光景が待っているか、想像するだに恐ろしいです。 ほら、何となく、『割り箸と塗り箸』 の問題と相通じる胡散臭さが漂って来たでしょう?

  技術革新が省エネや環境保全に寄与するという事は確かにありますが、物事の良し悪しは、そうそう大根を包丁で切るようにサクッと気持ちよく分かれないものです。 そもそも、そんなに省エネ・環境保全に気を使っているというなら、車に乗らない方が遥かに貢献度は高いと思います。 歩けとまでは言いませんが、常識的なところで、車通勤をバイク通勤に変えるだけでも、排気量を数分の一に出来ます。 もちろん、ハイブリッド車より桁違いに安いです。 なぜ、やらぬ?

  かつて沖縄で、ハブの被害を無くす為にマングースを導入した時、後々悪い結果を招くなどとは誰も予想しなかったそうです。 天敵を利用する非常に賢い対策だと思って、期待満々でマングースを放したんですね。 ところが、放たれたマングースは、わざわざ死闘を繰り広げてまでハブを食べようとはせず、他の貴重な固有動物を餌食にして繁殖し始めたから、さあ大変! 死闘を繰り広げるのは、ハブとマングースではなく、人間とマングースになってしまったんですな。 これは、良かれと思って悪くした典型例ですが、ウォームビズやハイブリッド車が、同じ落とし穴に落ちない事を切に願います。 まあ、「悪い結果が出てからでないと、間違いに気付かないのが人間だ」と言ってしまえば、それまでですが。