2005/09/21

滅び行く見合い


  『フランス人が日本人によく聞く100の質問』

  図書館のフランス語関連書コーナーで見つけ、何気なく借りて来たこの本ですが、発行年が、1996年です。 もし、テレビ放送される映画の話だったら、96年製作というのは、まだ新しい作品の口という事になります。 もし、パソコン関係の書籍だったら、96年発行は、既に骨董品で、読むだけ時間の無駄という事になります。 9年前と言うのは、微妙な古さなんですね。

  で、この本はどうかというと、日本の風俗習慣を紹介するという内容なので、大半の記述は、今でもそのまま読む事が出来ます。 携帯電話については全く触れていませんし、インターネットの事も出てきませんが、それは、96年ですから、仕方ないですな。 とはいえ、その二つを除けば、日本社会は、9年前とそれほど変化していない事が、この本を読むと再認識できます。 地理・自然、家庭、生活、飲食物、住居、社会、政治経済、文化、宗教、スポーツ、趣味・娯楽と幅広く紹介されていますが、まあ、ほとんど同じですね。

  ところが、技術の進歩と関係のない分野で、一ヶ所だけ様変わりしてしまった項目があるのを見つけました。 それは、『見合い結婚』 です。 確かに10年くらい前までは行なわれていましたが、今は全くと言っていいほど、聞かなくなりました。 たとえば、会社の同僚の中に、この十年の間に見合いで結婚したという者は一人もいません。 私の父が招かれて出席する親戚の結婚式でも、なれそめが見合いという例は皆無です。 見合い結婚以前に、見合いそのものが行なわれなくなったような気がします。

  昨年、リメイクされて話題になった 『白い巨塔』 というドラマの中で、主人公が後輩の青年医師に見合いの口を世話する場面がありました。 確か、「医者は忙しくて女性と付き合っている暇がないんだ。 見合い結婚は珍しい事じゃないよ」 とかいうセリフがありました。 しかし、このセリフ自体が、原作にあった物かどうか怪しいです。 時代の変化で、見合いという習慣が消滅してしまったので、辻褄併せの為に、わざわざ入れた言い訳のように聞こえます。 実際、このセリフが添えられていても尚且つ、「今時、見合い~?」 と眉を寄せたくなるような違和感がありました。

  昔は、親戚や勤め先に一人や二人は 『世話焼き』 タイプの人がいて、適齢期に差し掛かった独身者がいると、勝手に見合いの口を探して来て、うるさいくらいに薦めたものです。 しかし、そういう世話焼きの人達がいなくなってしまったのです。 これは恐らく、見合いの成功率の低下が大きく影響しているものと思われます。 今から30年前以前であれば、見合いさえさせれば、後は家同士で話を進めて、当人同士の交際などまったくせずに結婚式に持って行ってしまうという事が出来たのですが、恋愛結婚が主流になってからは、こういう親任せ仲人任せの結婚というのが嫌われるようになりました。 「少しお付き合いしてから・・・・」 が出てくるようになったのです。 ところが、これが、よくないのです。

  そもそも、見合いというのは、恋愛結婚の補完として、自分で相手を見つけられない消極的な人間の為に用意されていた制度ですから、当然、対象者は、異性と付き合った経験が無い者同士という事になります。 どう付き合えばいいのか、ノウハウを知りません。 また、異性というのは興味の向いている方向が違っていて、話し相手として、同性ほど馬が合うものではありませんから、往々にして、「この人と一緒にいても、全然面白くない」 という気分に陥り易いです。 一旦そう思ってしまうと、恋愛のように下心からスタートしていない分、急速に嫌気が差してきます。 結果、「付き合ってみたけど、性格が合わなかった」 で、ご縁が無かった事になります。

  実際に結婚している方達は、恋愛と結婚がまったく別物で、性格が合わないけど、うまく行っている夫婦の例をいくらでも知っていると思います。 私の父の兄弟四人は、全員見合い結婚ですが、奥さんと性格が一致している人など一組もありません。 「性格なんぞ食い違っていても、結婚させてしまえばどうにかなるもんだ」 という事が分かっていたからこそ、見合い結婚制度が成り立っていた訳ですが、なまじ恋愛結婚の真似をして、交際などさせるようになった為に、成功率ががくんと落ちてしまったのです。

  成功率が落ちると、世話焼きの人達は、だんだん世話を焼くのが嫌になってきます。 うまく行けば、感謝されるし、尊敬も受ける、その上若干の実入りもあるので、進んでやるのですが、失敗ばかりでは、エネルギーを費やすのが馬鹿馬鹿しくなって来ます。 30年前から10年前にかけて、そんな傾向が徐々に強まり、10年ほど前に、見合いはとうとう絶滅したんですな。

  現在20代前半くらいの人で、日常的に異性と交際していない人達にご注意申し上げますが、「なーに、30歳過ぎたら、親か親戚が、見合いの口を持ってくるだろう」 と期待して、おっとり構えているのなら、すぐに考えを改めた方が良いです。 断言してもいいですが、絶対に来ません。 現在ですら皆無に近いのですから、今から10年後に期待する方がおかしいです。

  ぶっちゃけて言ってしまうと、現在20代前半で、異性と交際していない人は、20代後半になっても、そういう機会はまず訪れないと思います。 30代になれば尚更です。 性格はどんどんひねて行きますし、容姿はどんどん衰えていくのですから、より条件が良かった頃でも駄目だった事が、より条件が悪くなってからうまく行くなど、考えられないではありませんか。 そして、頼みの綱の見合い制度は既に存在しないと・・・・。 つまり、20代前半で異性と交際していない人は、もう結婚は出来ないと考えて良いと思います。 極端? 大袈裟? 脅かすな? いえいえ、私は至って堅実な分析をしているつもりです。 嘘だと思ったら、30代になるのを何の努力もせずに呑気に待ってみるのが良いでしょう。 気づいた時には、手遅れですが。