Let's ~ing !
「これからは英語の時代だ」 と、日本で最初に言ったのは、幕末の蘭学者だと思いますが、以来150年間、政府も民間も個人も、延々と英語教育の努力を積み重ねてきたにも拘らず、成果らしい成果が出ていません。 教え方が悪いのか、才能が無いのか、言語の性質が違いすぎるのか、はっきりしませんが、恐らく、その全てが原因なんでしょう。
さて、先日、在日フランス語人のブログを覗いていたら、その典型事例に出食わし、思わず大笑いさせられました。
≪ Ougl 『Let's!』 ≫
ブログの作者は、愛知県在住のフランス人で、英語教師をしている方です。 記事の内容は、「名古屋市教育委員会の名前で刷られた大学の食堂のメニューに、『Let's cooking !』 という英文があったが、『Let's cook !』 の間違いではないか?」 というもの。
ああ、言われてみれば、その通りですわ! なんで、『ing』 が付いているの? もう、何の間違いも無く、間違いですな。 わはははは! このブログ作者の方は、「名古屋市教育委員会は、配下に90人も英語教師(母語話者)を雇っているのに、このメニューを作る前になぜチェックを頼まなかったのか?」 と言っていますが、確かに、尋ねていれば、英語母語話者がこの間違いを見過ごしたはずはないと思います。
しかし、ここからが更に笑えるんですが、日本語母語話者の感覚で考えると、『Let's cooking !』 の方が、意味が理解し易いのです。 というか、『Let's cook !』 と言うと、大脳の中の、英語知識を司る部分に問い合わせないと、意味が取れません。 一方、『Let's cooking !』 は、日本語の中で処理できます。 くどく断っておきますが、『Let's cooking !』 は、英語としては間違いなんですよ。 ところが、それが、日本語としては正文として登録されているのです。 不思議不思議、Panglish !
これは、他の動詞でも同じです。 『Let's talking !』、『Let's driving !』、『Let's thinking !』、『Let's swimming !』・・・・・どうですか、日本語母語話者の方々、おかしいと思わないでしょ? では、これらから 『ing』 を取ってしまうと、どうです? 『Let's talk !』、『Let's drive !』、『Let's think !』、『Let's swim !』・・・・・「ああ、英語だな、これは・・・・・」 と思うでしょ。 理解はできるけれど、あくまで英語知識の領域での事であって、感覚的にかなり遠くなります。 例外は、『Let's go !』 と、『Let's try !』 くらいだと思いますが、これらは、決まり文句のように頻繁に使われるので、全体で一つの語として捉えられ、そのまま定着したんでしょう。
この現象をどう分析するかですが、二つの解釈が考えられます。
一つは、語感から来る勘違い説。 『Let's』 の 『's』 を、『is』 の省略と勘違いし、進行形の 『is ~ing』 を連想して、「動詞に 『ing』 を付けた方が、語感が英語っぽくなる」 と判断したのが、定着してしまったというもの。 言うまでもなく、『Let's』 の 『's』 は、『us』 の省略であって、もしこの説が正しいとすれば、勘違いに勘違いを重ねた事になります。
もう一つは、組み合わせ説です。 日本語母語話者は、『Let's』 と 『~ing』 を別々に考えていて、それを組み合わせているだけではないかというのです。 『Let's』 は 「さあ、やろう!」 という意味で捉え、『~ing』 は、動作を表わす名詞として捉えているのではないでしょうか? たとえば、『Let's cooking !』 ならば、「さあ、やろう! 料理!」 というわけです。 自分で考えておいて、こう言うのも何ですが、この説は些か眉唾で、こじつけ臭いです。 でも、『* Let's conversaition !』 のように、動作を表わす名詞を 『~ing』 形以外の物に入れ替えてみても、日本語の感覚ではおかしく聞こえない事を考えると、当っている面が無きにしも非ずです。
日本語に入った英語の中には、単語レベルで意味がズレてしまっているものは多いですが、文法レベルで混乱が起こっているのは珍しい事例だと思います。 日本語母語話者の方々、「『Let's ~ing』 は間違っている」 と外語人から指摘された時、上に記したような説を持ち出して、「これは、英語ではなく、日本語なんだよ」 と開き直る事も可能ですが、誇りと恥は紙一重ですから、まあやめといた方がいいでしょう。 カタカナで書けば、多少は恥度が減るかな?
『*』 は、実際には存在しない文に付ける注意記号です。
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