濫読筒井作品 ①
リハビリしつつ、読書に没頭する毎日。 図書館に再び行き、筒井作品を五冊借りてきて、二日で読みました。 以下、読んだ順の感想。
『邪眼鳥』 97年
断筆後復活第一作の中篇。 複数の登場人物が、自分の意思とは関係なく過去と現在を行き来し、互いの人生に関わりあうという話。 時間SFの様式で書かれていますが、狙いは純文学でしょう。 雰囲気は良いですが、はっきりした筋立てというものはないので、文字通り雲を掴むような感じがする話です。 筒井さんの名前と筒井さんの文章だから許されるのであって、もし同じアイデアで無名の新人がこれを書いたとしたら、没間違いなしという気がします。 長い散文詩のような感じ。
『RPG試案 夫婦遍歴』 97年
雲を掴むというより、わけの分からない話。 失業中のコンピューター・プログラマーとその妻が、再就職先を求めて京都へ行くが、朝飯を食いに山の中へ入ったところ、異世界に踏み込んでしまう・・・・といえば、何となくストーリーがありそうですが、その後がぐじゃぐじゃで、全然話になっていません。 『RPG試案』とあるように、この話、セガに持ち込んだらしいのですが、「純文学はゲームにならない」といって断られたとか。 いやいや、『純文学が』ではなく、この小説がわけがわからんのです。
97年というと、まだゲームに影響力があった頃ですが、どんどん減る読者に焦った小説家達は、何とか時代の流れに食いついていこうともがいていたんですな。 稼ぎ捲っていた筒井さんにしてこの様ですから、他の作家は生きた心地がしなかったでしょう。 2000年以降、ゲームは急激に衰退し、今や時代を動かす力などありませんが、まさかこんなに早く下火になるとは、思いもよらなかったのでしょう。 もっとも、ゲームが衰えたからといって小説の人気が盛り返したわけではありませんが。
『驚愕の荒野』 87年
SFファンタジーですが、やはり狙いは純文学です。 いかにも『実験小説』という感じがする構成ですが、意図もよく分かるし、読んでいて面白く、完成度は高いです。 舞台が、最初ファンタジックな異世界のように見せて、実は地獄なんですが、地獄観としては、割合平凡なタイプです。 しかし、その分分かり易く、安心して作品世界に浸る事が出来ます。 値段が780円になっていますが、87年頃は、ハードカバーの本がこんなに安く買えたんですねえ。
『恐怖』 00年
ある地方都市の文化人が一人ずつ殺されていくという話。 ホラーみたいな題名ですが、どちらかというとコメディーです。 中篇と長編の中間くらいの長さですが、しっかりした話になっており、雲を掴むような所はありません。 心理学知識を使った一般小説で、筒井作品の中では最も面白いジャンルなので、読んでいて楽しかったです。
『敵』 97年
引退した大学教授の一人暮らしの様子を細かくつづった話。 題名は内容と余り関係ないです。 終わりの方は現実と空想がごちゃ混ぜになり、またまた雲を掴まされる事になります。 これも実験小説なのかもしれませんが、単に、構想を固めないまま書き始めて、話として纏められなくなってしまったために、お得意の虚構化でお茶を濁して逃げただけのようにも見え、作者の意図が判然としません。 ただ、主人公の細々した日常の描写が異様に面白いため、それを読むだけでもこの本を手に取る価値はあります。
わびしい一人暮らしなのに、月に20万円も使っているのには呆れます。 私だったら、5万でもつりが来ますが。 唯一の生計である講演の最低料金が20万というのも高すぎる。 拘束時間から考えても、3万くらいがいいところでしょう。 いや、それでも高い。 そもそも講演なんぞで知識を得ようというのが心得違いなのであって、ほんの数十分喋るだけで万を超える料金が発生するなどというシステムがおかしいのです。
『パプリカ』 91~92年
精神医学を題材にした本格SF長編。 これは読み応えがありました。 アイデアそのものは、小松左京さんの『ゴルディアスの結び目』に近いですが、あちらが患者の内面意識そのものに外部から潜入していくのに対し、『パプリカ』は患者の夢に潜入していくという点で、話の展開がだいぶ変わってきます。 例によって、現実と夢がごっちゃになる形でクライマックスが構成されていますが、不明瞭ながらも一応現実世界での結末がつけられているので、読後、放り出されたような不安感はありません。
筒井作品で若い女性が主人公というと『七瀬シリーズ』を思い出しますが、それに似た雰囲気もあります。 何となく、虚無的、閉塞的で、暗いのです。 ただ、話の陰鬱さは七瀬シリーズほどひどくないので、読後感はずっと良いです。 これは、SF好きにはこたえられない作品ですな。
筒井さんの小説は、高校の頃から読んでいたのですが、断筆宣言の少し前頃から離れていたので、まるまる十年分くらい読んでいない本がたまっていて、今回は大いに助かりました。 干天の慈雨とはこの事ですな。 まだ十冊くらいあるようなので、引き続き耽溺する事にします。
『邪眼鳥』 97年
断筆後復活第一作の中篇。 複数の登場人物が、自分の意思とは関係なく過去と現在を行き来し、互いの人生に関わりあうという話。 時間SFの様式で書かれていますが、狙いは純文学でしょう。 雰囲気は良いですが、はっきりした筋立てというものはないので、文字通り雲を掴むような感じがする話です。 筒井さんの名前と筒井さんの文章だから許されるのであって、もし同じアイデアで無名の新人がこれを書いたとしたら、没間違いなしという気がします。 長い散文詩のような感じ。
『RPG試案 夫婦遍歴』 97年
雲を掴むというより、わけの分からない話。 失業中のコンピューター・プログラマーとその妻が、再就職先を求めて京都へ行くが、朝飯を食いに山の中へ入ったところ、異世界に踏み込んでしまう・・・・といえば、何となくストーリーがありそうですが、その後がぐじゃぐじゃで、全然話になっていません。 『RPG試案』とあるように、この話、セガに持ち込んだらしいのですが、「純文学はゲームにならない」といって断られたとか。 いやいや、『純文学が』ではなく、この小説がわけがわからんのです。
97年というと、まだゲームに影響力があった頃ですが、どんどん減る読者に焦った小説家達は、何とか時代の流れに食いついていこうともがいていたんですな。 稼ぎ捲っていた筒井さんにしてこの様ですから、他の作家は生きた心地がしなかったでしょう。 2000年以降、ゲームは急激に衰退し、今や時代を動かす力などありませんが、まさかこんなに早く下火になるとは、思いもよらなかったのでしょう。 もっとも、ゲームが衰えたからといって小説の人気が盛り返したわけではありませんが。
『驚愕の荒野』 87年
SFファンタジーですが、やはり狙いは純文学です。 いかにも『実験小説』という感じがする構成ですが、意図もよく分かるし、読んでいて面白く、完成度は高いです。 舞台が、最初ファンタジックな異世界のように見せて、実は地獄なんですが、地獄観としては、割合平凡なタイプです。 しかし、その分分かり易く、安心して作品世界に浸る事が出来ます。 値段が780円になっていますが、87年頃は、ハードカバーの本がこんなに安く買えたんですねえ。
『恐怖』 00年
ある地方都市の文化人が一人ずつ殺されていくという話。 ホラーみたいな題名ですが、どちらかというとコメディーです。 中篇と長編の中間くらいの長さですが、しっかりした話になっており、雲を掴むような所はありません。 心理学知識を使った一般小説で、筒井作品の中では最も面白いジャンルなので、読んでいて楽しかったです。
『敵』 97年
引退した大学教授の一人暮らしの様子を細かくつづった話。 題名は内容と余り関係ないです。 終わりの方は現実と空想がごちゃ混ぜになり、またまた雲を掴まされる事になります。 これも実験小説なのかもしれませんが、単に、構想を固めないまま書き始めて、話として纏められなくなってしまったために、お得意の虚構化でお茶を濁して逃げただけのようにも見え、作者の意図が判然としません。 ただ、主人公の細々した日常の描写が異様に面白いため、それを読むだけでもこの本を手に取る価値はあります。
わびしい一人暮らしなのに、月に20万円も使っているのには呆れます。 私だったら、5万でもつりが来ますが。 唯一の生計である講演の最低料金が20万というのも高すぎる。 拘束時間から考えても、3万くらいがいいところでしょう。 いや、それでも高い。 そもそも講演なんぞで知識を得ようというのが心得違いなのであって、ほんの数十分喋るだけで万を超える料金が発生するなどというシステムがおかしいのです。
『パプリカ』 91~92年
精神医学を題材にした本格SF長編。 これは読み応えがありました。 アイデアそのものは、小松左京さんの『ゴルディアスの結び目』に近いですが、あちらが患者の内面意識そのものに外部から潜入していくのに対し、『パプリカ』は患者の夢に潜入していくという点で、話の展開がだいぶ変わってきます。 例によって、現実と夢がごっちゃになる形でクライマックスが構成されていますが、不明瞭ながらも一応現実世界での結末がつけられているので、読後、放り出されたような不安感はありません。
筒井作品で若い女性が主人公というと『七瀬シリーズ』を思い出しますが、それに似た雰囲気もあります。 何となく、虚無的、閉塞的で、暗いのです。 ただ、話の陰鬱さは七瀬シリーズほどひどくないので、読後感はずっと良いです。 これは、SF好きにはこたえられない作品ですな。
筒井さんの小説は、高校の頃から読んでいたのですが、断筆宣言の少し前頃から離れていたので、まるまる十年分くらい読んでいない本がたまっていて、今回は大いに助かりました。 干天の慈雨とはこの事ですな。 まだ十冊くらいあるようなので、引き続き耽溺する事にします。
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