濫読筒井作品 ②
引き続き、筒井作品の感想。
『玄笑地帯』 85年
これはかなり古いですな。 小説ではなく、随筆です。 読んでいないと思って借りてきたんですが、目を通してみたら読んだ覚えがありました。 はっきり言ってしまうと、筒井さんの随筆は、小説ほどは面白くないです。 事実は小説より何とやらといいますが、筒井さんの小説は明らかに現実に起こる事件より面白いので、現実の枠から出られない随筆は、どうしても負けてしまうんですな。
話の中に当時の第一線作家達の名前が出てくるのですが、これが、今やほとんど忘れられた人達ばかりで、懐かしいやら古臭いやら、隔世の感があります。 特にSF作家の面々は、みなさんどこへ行ってしまったのかと、呆然とするばかり。 いやはや、20年前は大昔だわ。
『家族場面』 91~94年
短編集です。 『虚構船団』などの純文学長編期を抜け、断筆宣言に至るまでの中間期に書かれたもののようですが、どれもそれほど良い出来ではありません。 物語世界の設定は非常に面白いですが、本来なら中篇になるようなアイデアを短編に使ってしまっていて、勿体ない事この上無し。 『大官公庁時代』と『十二市場オデッセイ』は、倍くらいの長さにすれば、傑作になった事間違いなしだと思いますが、残念至極。 『九月の渇き』や『妻の惑星』は程良いバランスで宜しいですな。
『天狗の落し文』 91~01年
一編数行の散文を集めたもの。 随筆や創作のアイデア・ノートをそのまま出版したような感じで、作品という体裁ではないです。 ファン・クラブに入るくらいの読者なら喜ぶと思いますが、「筒井作品も好き」という程度の読者には、ちと読み切るのが辛いです。 一遍に読もうとするからいけないんですかね? 枕頭の書にしておいて、毎晩眠る前に一二編読むようにすれば、味わい深いかもしれません。
『最後の伝令』 90~92年
上の『家族場面』とほぼ同時期の短編集。 しかし、こちらの方が粒揃いです。 特に良いのが、『九死虫』、『最後の伝令』、『二度死んだ少年の記録』、『瀕死の舞台』の四編。 他に泣けてくるのが、『北極王』、『禽獣』の二編。 たった一冊の短編集に、これだけ心に響く物が詰まっていると、「ああ、やっぱ、この人ぁ天才だわ」と思わずにはいられません。 『二度死んだ・・・』の中に、飛び降り自殺をしたらどういう体になるかが記されていますが、あれにはびっくりしました。 いやあ、洒落にならないですわ。 金輪際、飛び降り自殺だけはしない事にします。 『禽獣』は、小動物好きの人にお薦めです。 些か切ない話ですが。
『魚籃観音記』 98~01年
断筆解除後の短編集です。 『魚籃観音記』は『西遊記』のエロ・パロディーで、かなり面白いです。 懐かしい登場人物の名前が続々出て来て、いとをかし。 『ジャズ犬』は野良犬・野良猫達が主人公の切ない話。 以上二編は面白いんですが、それ以外は、かなり落ちます。 テレビのバラエティー番組の用語で『企画のアイデア倒れ』というのがありますが、まさにそんな感じの中途半端な作品が並んでいます。 アイデアは面白いんですが、話の展開に興が乗らないのです。 ストーリーが完結しておらず、途中で終わってしまったような気持ちの悪さがあります。 『馬』などは、もっと長くして、それなりの説明を付けるべきでしょう。 落語の下げみたいな簡単なオチで終わらせるのは惜しいです。
『残像に口紅を』 88~89年
今回借りて来た中では、これだけが長編。 使える音節の数が、章を追うごとに減っていって、最後は『ん』だけで終わるという実験小説。 発表後いろいろと批判されたようですが、これではボロクソに言われるのも無理はない。 筒井作品の場合、『下らない』という感想は問題にならないとして、『つまらない』とわれてしまったら、もう完敗なのですが、この作品は本当につまらないのです。 使える音節がだんだん減っていくという設定は決めたが、肝腎の話の内容を決めずにスタートしたのが命取り。 途中で書く事がなくなってしまって、ストーリーの進行と関係なく、自叙伝が始まったのにはたまげました。
さすがに作者当人も読者に呆れられる事を恐れたのか、本の半分から後ろが袋綴じになっていて、『ここまでで読む気をなくした人は、出版社へ持参すれば代金を返します』という告知を入れていますが、本当に返金してもらった人は正解でした。 最後まで読んでも、「こりゃ、二度と読まないだろう」と思うようなつまらない終わり方をします。
この後、筒井さんの文学実験は下火になるのですが、この作品があまりにもつまらなかったために、自分で呆れてしまったのではないでしょうか? 面白いストーリーと面白い実験を組み合わせれば、面白い実験小説が出来ると思うんですが、もうその気はないかな?
まだ数冊あるようなので、引き続き読みます。 実は『虚構船団』がまだ残っていて、日曜までに読み終えられるか難しい所。 しかし、この機会を逃したら、また読書意欲を失ってしまうので、鋭意努力します。
『玄笑地帯』 85年
これはかなり古いですな。 小説ではなく、随筆です。 読んでいないと思って借りてきたんですが、目を通してみたら読んだ覚えがありました。 はっきり言ってしまうと、筒井さんの随筆は、小説ほどは面白くないです。 事実は小説より何とやらといいますが、筒井さんの小説は明らかに現実に起こる事件より面白いので、現実の枠から出られない随筆は、どうしても負けてしまうんですな。
話の中に当時の第一線作家達の名前が出てくるのですが、これが、今やほとんど忘れられた人達ばかりで、懐かしいやら古臭いやら、隔世の感があります。 特にSF作家の面々は、みなさんどこへ行ってしまったのかと、呆然とするばかり。 いやはや、20年前は大昔だわ。
『家族場面』 91~94年
短編集です。 『虚構船団』などの純文学長編期を抜け、断筆宣言に至るまでの中間期に書かれたもののようですが、どれもそれほど良い出来ではありません。 物語世界の設定は非常に面白いですが、本来なら中篇になるようなアイデアを短編に使ってしまっていて、勿体ない事この上無し。 『大官公庁時代』と『十二市場オデッセイ』は、倍くらいの長さにすれば、傑作になった事間違いなしだと思いますが、残念至極。 『九月の渇き』や『妻の惑星』は程良いバランスで宜しいですな。
『天狗の落し文』 91~01年
一編数行の散文を集めたもの。 随筆や創作のアイデア・ノートをそのまま出版したような感じで、作品という体裁ではないです。 ファン・クラブに入るくらいの読者なら喜ぶと思いますが、「筒井作品も好き」という程度の読者には、ちと読み切るのが辛いです。 一遍に読もうとするからいけないんですかね? 枕頭の書にしておいて、毎晩眠る前に一二編読むようにすれば、味わい深いかもしれません。
『最後の伝令』 90~92年
上の『家族場面』とほぼ同時期の短編集。 しかし、こちらの方が粒揃いです。 特に良いのが、『九死虫』、『最後の伝令』、『二度死んだ少年の記録』、『瀕死の舞台』の四編。 他に泣けてくるのが、『北極王』、『禽獣』の二編。 たった一冊の短編集に、これだけ心に響く物が詰まっていると、「ああ、やっぱ、この人ぁ天才だわ」と思わずにはいられません。 『二度死んだ・・・』の中に、飛び降り自殺をしたらどういう体になるかが記されていますが、あれにはびっくりしました。 いやあ、洒落にならないですわ。 金輪際、飛び降り自殺だけはしない事にします。 『禽獣』は、小動物好きの人にお薦めです。 些か切ない話ですが。
『魚籃観音記』 98~01年
断筆解除後の短編集です。 『魚籃観音記』は『西遊記』のエロ・パロディーで、かなり面白いです。 懐かしい登場人物の名前が続々出て来て、いとをかし。 『ジャズ犬』は野良犬・野良猫達が主人公の切ない話。 以上二編は面白いんですが、それ以外は、かなり落ちます。 テレビのバラエティー番組の用語で『企画のアイデア倒れ』というのがありますが、まさにそんな感じの中途半端な作品が並んでいます。 アイデアは面白いんですが、話の展開に興が乗らないのです。 ストーリーが完結しておらず、途中で終わってしまったような気持ちの悪さがあります。 『馬』などは、もっと長くして、それなりの説明を付けるべきでしょう。 落語の下げみたいな簡単なオチで終わらせるのは惜しいです。
『残像に口紅を』 88~89年
今回借りて来た中では、これだけが長編。 使える音節の数が、章を追うごとに減っていって、最後は『ん』だけで終わるという実験小説。 発表後いろいろと批判されたようですが、これではボロクソに言われるのも無理はない。 筒井作品の場合、『下らない』という感想は問題にならないとして、『つまらない』とわれてしまったら、もう完敗なのですが、この作品は本当につまらないのです。 使える音節がだんだん減っていくという設定は決めたが、肝腎の話の内容を決めずにスタートしたのが命取り。 途中で書く事がなくなってしまって、ストーリーの進行と関係なく、自叙伝が始まったのにはたまげました。
さすがに作者当人も読者に呆れられる事を恐れたのか、本の半分から後ろが袋綴じになっていて、『ここまでで読む気をなくした人は、出版社へ持参すれば代金を返します』という告知を入れていますが、本当に返金してもらった人は正解でした。 最後まで読んでも、「こりゃ、二度と読まないだろう」と思うようなつまらない終わり方をします。
この後、筒井さんの文学実験は下火になるのですが、この作品があまりにもつまらなかったために、自分で呆れてしまったのではないでしょうか? 面白いストーリーと面白い実験を組み合わせれば、面白い実験小説が出来ると思うんですが、もうその気はないかな?
まだ数冊あるようなので、引き続き読みます。 実は『虚構船団』がまだ残っていて、日曜までに読み終えられるか難しい所。 しかし、この機会を逃したら、また読書意欲を失ってしまうので、鋭意努力します。
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