2006/01/22

濫読筒井作品 ③

  とうとう終わりに近づいた筒井作品の感想。

『串刺し教授』 79~84年
  短編集。 これは微妙な時期の作品群ですな。 筒井さんが長編虚構純文学に傾倒していた頃に平行して書かれていた短編なので、みな虚構純文学の匂いがプンプンします。 実験小説も多く、SFや一般小説で筒井さんのファンになった読者には、馴染めない世界なのではないかと思います。 『きつねのお浜』、『追い討ちされた日』、『妻四態』などは私好みですが、素直に「素晴らしい!」と感じるような分かり易い物は一つもありません。

『原始人』 85~87年
  これも短編集。 まだ虚構純文学に浸かってますが、『虚構船団』を書き終えた後の作品群なので、『串刺し教授』のそれと比べると、ずっと読み易くなっています。 奇妙な事に、これより後の短編集『家族場面』よりも起承転結がはっきりしていて、物語らしくなっている作品が多いです。 『家具』と『屋根』以外は全部私好み。 ああ、こういう短編集は珠玉ですな。 『抑止力としての十二使徒』なんか、SF作家でなければ絶対に書けない作品で、痛快無比です。

『愛のひだりがわ』 02年
  面白い! これは素晴らしい!  長編の少年少女向け小説です。 12歳の少女が主人公で、一人称で書かれています。 漢字を抑えてあり、小学校高学年生くらいから読めるようになっていますが、話の内容はむしろ大人向けです。 20年後くらいの社会が荒廃した日本が舞台。 犬と話が出来る少女が、母親の死後、父を探して東海道を西から東へ旅をします。 道連れは幼馴染の犬や偶然知り合ったご隠居。 様々な事件が起こり、少女は成長して行きます。 『前半、箱から出して床に広げたオモチャを、後半、再び箱に収めて行き、綺麗にしまって、蓋をして終わり』といった構成の話で、読後実にスッキリした気分になります。 筒井さんくらいになると、こういう話を手もなく作り上げる事が出来るのでしょう。 随所に余裕が感じられます。
  それにしても、ここに描かれている荒廃した日本の未来は、本当にやって来そうで、ちと怖いです。 


  さて、来週から仕事に復帰するので、筒井作品濫読週間は幕を引きつつあります。 最後に残った『虚構船団』を日曜の午後から読み始めましたが、思っていたより読み易いので、事によったら一週間以内に読み終えられるかもしれません。