2006/04/02

暗澹たる予測


  トリノ五輪で荒川選手(一人だけ)が金メダルを取ろうが、WBCで日本チームが(不公正審判だったけど)優勝しようが、日本の未来は暗いままです。 ここ数年、国全体に厚い黒雲が覆いかぶさったような、重苦しい雰囲気が続いています。

  なぜ、日本に未来が無いように感じられるのか? また、どうして、≪ここ数年≫、そう感じられるようになったのか? たとえば、80年代には、未来観に暗さなど微塵も感じられませんでしたし、90年代の大不況の頃でさえ、「今は悪いが、その内回復するだろう」という希望があり、現在ほどの陰鬱さはありませんでした。 現在、景気が回復して来ているにも拘らず、どんどん閉塞感が高まっているのはなぜなのか?

  私は、その原因の多くが、対中関係の悪化にあると考えています。 凄まじい勢いで超大国への道を駆け上がっている中国との関係が悪化してしまった為に、「近い将来、中国が世界の中心になった時、日本は立つ瀬が無くなってしまうのではないか?」という懸念が、日本人の心の中に生まれているのでしょう。

  日本人は、海外旅行に行きたがる割に、国際情勢などにはとんと興味がなく、外交の基礎知識すらありません。 政府もマスコミも世論も、滅茶苦茶な外交論議を繰り広げて臆面も無い、非常に恥かしい民族なのですが、さすがに馬鹿にも限度があり、「今発展している国はどこか?」、「これから発展する国はどこか?」、「発展が限界に達してしまっている国はどこか?」くらいは分かるようです。 中国の発展は、一人当たり国内総生産が、アメリカと同程度になるまで続くと思われます。 一方、日本はもはや発展の余地などないですから、このまま衰退していくでしょう。 社会の活力というのは、その構成員が抱いている希望の大きさによって決まって来ます。 中国には、「これから豊かになりたい」という人々が何億という規模で存在するのに対し、日本では、「金があっても買いたい物がない・・・」という有様ですから、その違いは根本的な物で、口先で対抗意識を煽ったくらいでは、とても乗り越えられるものではありません。

  昨今、インドの経済発展が日本の新聞でよく報じられています。 しかし、その論調は政治的に偏っていて、鼻白むものが多いです。 そもそも、インドに詳しい日本人などほとんどいないのであって、インド関係の記事が雨後のタケノコのように増えるというのが不自然です。 では、どういうつもりでインドを持ち上げているかというと、中国の対抗軸に祭り上げるつもりなのです。 生理的に中国が嫌いという記者や経済学者達が、「中国よりもインドの方が大きな国になる」と言いたいばかりに、インドを賞賛しているのです。 その際、頻繁に使われる文句が、「インドは世界最大の民主主義国だ」という形容です。 つまり、中国は民主国家ではないので、インドの方が発展の可能性が高いと言いたいわけです。

  しかし、私の長年の観察から言わせて貰えば、経済と民主主義は、何の関係も無いと思います。 経済が発展するかどうかは、その国の政府の政策次第であって、政治家が民主的に選ばれているか否かは、まるで無関係です。 民主国家では、人気がある者が政治家になるので、もしその人物が経済に疎ければ、発展は見込めませんが、一党支配の国では、党の幹部が経済に明るければ、どんどんアクセルを踏みますから、むしろ民主国家よりスムーズに発展が進みます。 こんな事は、中国やロシアの辿った経済改革の経過を見ていれば、門外漢でも分かる事ですが、中国嫌いの人々は、最初から見方が偏っているので、見当違いの指摘をしている事に気付きません。

  そのせいで、インドの見方まで間違えてしまっています。 インドの人口が中国を抜くというのも、先走りのしすぎです。 経済が発展し、生活が豊かになれば、人口増加率は落ち始めます。 それはインドでも例外ではないはず。 ところが、現在の人口増加率がそのまま何十年も続く事を前提にして、中国を抜く抜くと言っているのですから、呆れます。 そういう事は、実際に抜いてから言っても遅くはありますまい。 私の予測では、中国とインドは、いずれ、ほぼ同じ人口で均衡し、世界の二大超大国として拮抗していくと思います。

  もうここまで書いてきただけで、こういう未来観についていけない人がうじゃうじゃいるでしょう? 「世界最大の国はアメリカで、日本が二番目で、西ヨーロッパ諸国が続いて・・・・」という20世紀的世界観が頭にこびりついている人達には、なかなか意識の転換が出来ないものです。 しかし、まず間違いなく、このようになります。 これは≪予言≫などではありません。 至って穏健な≪予測≫です。 経済を発展させる方法が分かってしまえば、どの国でも一人当たり国内総生産が同程度になる所まで発展する事が可能です。 民族の資質などほとんど関係ありません。 豊かになりたいという気持ちは人類みな同じなのですから。 そうなると、国家間で差が出るのは人口という事になり、人口が最も多い中国とインドが、二大巨頭になるのは理の当然というわけです。

  話を中国に戻しますが、とにかく、「日本は中国に対抗できる」などという馬鹿げた発想は、今すぐ捨てるべきです。 風車と蟷螂もいいところです。 話にもならない。 人口が十倍の相手に対抗できるというからには、日本人一人で、中国人十人分の経済力を持たなければなりません。 そんなに働くのか? そんなに食えるのか? そんなに物を持てるのか? 二人分でも到底無理だと思いますが、十人分など気違いの妄想としか思えません。 「日本人は特別優れている」という意識が錯覚に過ぎない事は、ゆとり教育の失敗で大学が馬鹿の巣と化した一事を見ただけでも分かる事。 国際競争に曝されている日本の製造業は、日本国内で優秀な技術者が確保できなくなったために、中国の大学で学生の青田買いをしているそうですが、一人一人の能力を比べても、中国の方が優れているのです。 それが十倍いるわけで、敵うと思う方がおかしいです。

  「日本にはアメリカがついているから、中国を無視しても平気」という考え方は、いかにも20世紀的で苦笑を禁じえませんが、アメリカはいずれ、ただの中規模国家になってしまいます。 それに、アメリカ人は危機に直面すると、至って論理的な思考をしますから、中国と敵対してまで日本の肩を持ったりはしないでしょう。 アメリカにとって今後最大の関心事になるのは、中国やインドといかにうまくやっていくかであって、日本のような小国に気を使う事ではないはずです。

  つまり、日本には、中国に対抗する余地など無いのですよ。 選択肢は二つしかないです。 日本側が努力して、良好な関係を維持するか、さもなければ、逆らって亡ぼされるかです。 ≪友好≫などという甘い関係では、もはや済まないのです。 現在アメリカの靴をなめているように、今後は中国の靴をなめなければ生き残っていけないのです。 東南アジア諸国は、その点極めて目敏く、さっさと、対中関係を外交の最重要項目にシフトしてしまいました。 ≪ルック・イースト≫などと言っていたのは大昔の話で、彼らにとって日本なぞ、もはや眼中にありません。

  ただ私は、日本を、そういう賢い生き残り方が出来る国だと思っていません。 それどころか、再び中国に戦争をしかけ、自分から亡ぼされに行くような国だと思っています。 現在の若手政治家を見ていると、そういう考え方の持ち主ばかりで、思わず背筋が凍りますが、自分の国である事を念頭に置かず客観的に見るなら、その種の考え方は、至って日本的・武士道的であるといえます。 「無茶苦茶やって、くたばって終わり」というタイプですな。 「怖い事を言うな!」と思いますか? いや、私は別に脅しているわけではなく、穏健に予測をしているつもりです。 今なら、友好関係に戻すのは簡単ですが、日本人全員の心に潜む野蛮性がそれを許さないでしょう。 きっと、行く所まで行きます。