2007/02/04

国力比較

  世界各国の経済力を国内総生産(GDP)で比較する時に、未だに≪為替相場換算値≫を使っているのは実に奇妙です。 貿易のみに関する事なら為替相場換算値の方が妥当ですが、国力比較をするのであれば、≪購買力平価換算値≫を用いなければ、正確な値が出ません。 為替相場換算値というのは、各国国内の物価の違いを全く計算に入れていないからです。 たとえば、A国とB国の物価の差が10:1だとすると、A国で1日分の食費にしかならない金額で、B国では10日食べられる事になります。 ドル換算すれば全く同じ金額になるのに、実際の価値は10倍も違うのです。 こんなに重大な点を無視して、国力比較など出来るわけがありません。

  2005年の国内総生産を為替相場換算値で比較すると、上位10国は以下のようになります。 括弧内の数字は1位を100とした時の大雑把な比較値です。

 1 アメリカ(100)
 2 日本(36)
 3 ドイツ(21)
 4 中国(17)
 5 イギリス(17)
 6 フランス(17)
 7 イタリア(13)
 8 カナダ(9)
 9 スペイン(9)
10 ブラジル(7)

  これが、新聞やテレビの報道で一般的に使われる比較値です。 ところが、これを購買力平価換算に変えると、順位が激変します。

 1 アメリカ(100)
 2 中国(77)
 3 日本(31)
 4 インド(29)
 5 ドイツ(20)
 6 イギリス(14)
 7 フランス(14)
 8 イタリア(13)
 9 ブラジル(12)
10 ロシア(12)

  ただ単に順位が入れ替わるだけでなく、顔ぶれも変わり、一位との比較値もがらりと変わります。 一目見て分かるように、中国がアメリカを急追し、インドが日本を抜く寸前である事が分かります。 昨今、≪BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)≫と呼ばれる国々の存在が注目されている理由は、購買力平価換算値を見なければ分からない事でしょう。

  購買力平価という概念を用い始めたのはアメリカで、世界戦略に必要な情報として、純粋な国力比較をする為に、CIAが統計に取り入れた事で有名になったようです。 純粋な国力を知る事が最も効果を表すのは、軍事費の比較です。 ドル換算で同じ額の軍事費でも、国内物価が安ければ安いほど、装備や兵員数が増やせるので、物価を計算に入れなければ、比較にならないからです。

  今回、なんでこんな話を持ち出したかというと、日本国内には、自称・識者も含めて、購買力平価という計算方法を知らないまま、為替相場換算で日本と外国の国力を比較して物を言っている者が非常に多い事に懸念を感じているからです。 割と客観報道に徹しているNHKやリベラル系の新聞社ですら、「世界第2位の経済大国・日本は・・・」といった言い方をしているケースが非常に多い。 最もよく聞くのは、中国と比較する時で、「中国の経済成長は目覚しいが、GDPを比較すれば、日本の3分の1に過ぎない」といった文脈で使われます。 そこには、≪見下し≫や、≪嘲り≫のニュアンスが含まれていて、わざわざその一言を入れた人物の下賎度がひしひしと分かるわけですが、実際の国力は、≪日3:1中≫どころか、≪日1:2中≫なのであって、しかも、成長率が日本足踏みにし対して中国は年率10%ですから、その差は猛烈な勢いで開く一方であって、もはや対等に比較するのも恥かしい有様なのです。

  実際、日本や独英仏など、成長が停止した小国群は、もう世界の力比べに於いては、落ち目の前頭クラスに過ぎないのであって、視野の外に置いても全く問題ないというのが現状です。 アメリカが恐れているのは、スバリ数年以内に自国を抜いてトップに躍り出る中国であり、十数年以内には同じように抜いていくインドなのです。 どの国も≪市場経済社会≫ですから、経済発展の条件は等しいのであって、最終的に一人当たりの経済力がほぼ同じになるとすれば、国力差を生み出すのは人口であり、中国・インドはそれぞれアメリカの約4倍の国力を持つようになる事が予想されます。 アメリカでも、この事が分かっていない人がかなりの割合で存在し、イラクやアフガニスタンで、やらなくてもいいような戦争にエネルギーを注ぎ込んでいるのは、自国の立場の危うさがよく分かっていない事の証拠でしょう。 しかし、アメリカ人は本当の危機に於いては合理的対応力を発揮しますから、中国に抜かれた時点で、世界戦略を大幅に変更し、中規模国家としての道を模索し始めると思います。

  問題は日本だよ。 今でも国民の99.9%は購買力平価など全く知りませんから、老若男女雁首揃えて、中国やインドを遙か後方で蠢いている貧乏国だと思い込んでいるわけですが、その愚かさ加減には笑うなという方が無理だよねえ。 「人民元のいっそうの切り上げを求める」なんて、国の経済担当者が平気で言ってますが、人民元が変動相場制になったら、為替相場が購買力平価に接近しますから、名実ともにあっさり抜かれますぜ。 その辺の所を分かってて言ってる? 人民元が高くなると中国製品の価格が高くなって輸出が打撃を受けるので、それを期待しているんでしょうが、安い物を輸出できなくなれば、高い物にシフトするのが世の常ですから、日本製品と競合する品目が激増して、日本のメーカーは全部倒産しますぜ。 その辺の事情を分かってて言ってる?

  もっと怖いのが軍事力比較の勘違いです。 為替相場換算だと日本の方が軍事費が多いので、「中国軍より自衛隊の方が装備がいい」などと漠然と思い込んでいる馬鹿者が政治家の中に無数にいますが、前述したように、軍事費の実態価値は国内物価の影響を最も大きく受けるので、中国の方が遥かに多いと見るべきです。 私は少年時代、兵器マニアだったので、そちらの知識はかなり豊富ですが、自衛隊の装備は購入費が高いばかりで、性能的には全く大した事がありません。 そもそも、自衛隊の兵器技術はアメリカからスペック・ダウンして与えられた物がほとんどで、最先端でも何でもありません。 もちろん量的にも、中国には遠く及びません。 「いざとなったら、自衛隊の最先端兵器で・・・」などと夢想している人がいたら、それは1945年の8月に「日本には連合艦隊があるから、絶対に負けない」と演説ぶっていた奴と同次元の大馬鹿者と見て差し支えないでしょう。 ちなみに、テレビの討論番組などに出てくるコメンテーターの大半は、戦車と装甲車の区別も付かないような軍事無知なので、言っている事を真に受けない方がいいです。

  もう、ありとあらゆる点で、中国は日本が対抗できる相手ではないという事に早く気付くべきです。 そして、いずれインドが同じ状態になります。 世界の勢力地図は激変の真っ最中なのです。 生き残りたかったら、自分の国の≪分≫を正確に見究め、立場を弁えなければなりません。 ≪毅然とした外交姿勢≫などに固執していると、あっさり滅亡しますぜ。