2007/02/18

対話と圧力

  時間が確保できそうに無かったので、今週は新しい文を書くのをやめようかと思っていたんですが、日曜の午前が雨になったせいで、犬の散歩がキャンセルになり、ネタも無いのに書く事になりました。 ネタが無い時には、時事問題を取り上げるしかないわけですが、今週最大の時事ニュースといえば、六者会談の合意です。

  笑ってしまうのは、合意に至った事に対して、日本のマスコミが「米朝接近は、日本にとって悪夢」というスタンスで報道している事です。 あのなあ、険悪な関係にある二国が、ある懸案で合意したというのだから、それは即ち戦争の危機が遠のいたという事なんだよ。 戦争の危機が遠のいたのが、何で悪夢なんだ? テレビの討論番組で、自称識者達が、「拉致問題はどうなる?」などと言っていますが、すると何か? 拉致問題の方が戦争よりも大ごとだというのかね?

  いや、実際の話、本気でそう考えている日本人が多いようなので、真底空恐ろしいです。 戦争になったら、少なくても何百人、多ければ何千万人という数の人間が死ぬわけですが、それよりも拉致の方が大きな問題だと言うのです。 怒りで目が眩んで、事の大小の判断が出来なくなっているわけです。 それもネットで三無能どもが吠えているというならまだしも、国民の大部分がそんな有様だから救いようが無い。 私はこのブログで何度も、「日本はその内、戦争を始める」と書いていますが、戦争発生の最大の要因は、≪憎悪≫ですから、まさに日本はその条件を満たしているのが分かると思います。

  ところで、今回の合意ですが、私は別の意味でまずいと思いました。 米朝間関係が安定すると、東アジアでのアメリカの負担が軽くなるので、その分、中東に力を割ける事になり、対イラン戦争を始める恐れが高まるからです。 ブッシュ政権はもはや死に体ですが、大統領権限は使えるので、「やりたかった事を任期中にすべて始めてしまおう」と考えても奇妙ではありません。 窮地に追い詰められた者ほど、一か八かに賭けようとしますから、「イランで勝利すれば、再び国民の支持を取り戻せる」と夢見る可能性は大です。

  そう考えると、米朝間合意は至ってまずいのです。 朝鮮にはもっとゴネて貰った方が良かった。 アメリカの軍事力は一般に恐れられているほど大きくないので、距離的に遠く隔たった二箇所で同時に戦争は出来ないのですが、中東に集中すれば、戦線の拡大自体はそれほどの障碍ではありません。 現にイランの核施設に対する攻撃を仄めかしているアメリカ政府の高官もおり、条件さえ整えばやるんじゃないでしょうか。 政権が死に体であるからこそ、暴挙をためらう理由が無いというわけです。 ただ、朝鮮にしても中国にしても、韓国にしてもロシアにしても、その辺の事情はよく分かっていると思うので、たぶん今回の合意内容がすんなり履行される事は無いでしょう。 アメリカも立場は逆ですが、それは読んでいると思います。 分かってないのは残る一国だけ。 一般人はもとより、政治家から外務省職員に至るまで、国際政治なんてちんぷんかんぷんなんですから、無理も無いですが。

  ヨーロッパで世論調査をすると、「世界の国々の中で最も危険なのはアメリカ」という結果が出るそうですが、これは全くその通りで、戦争を始める国が最も危険なのであり、テロ支援国よりも遥かに有害度が高いです。 アメリカが思うままに軍事力を使える期間は、最低でも今後10年以上は続くと思われますから、それ以外の国は、どうやったらアメリカに軍事力を使わせずにその期間を乗り切るか、挙って知恵を絞らなければなりません。

  それには、≪対話と圧力≫を使い分ける事が必要です。 フランスやドイツがやっているように、対話で諌める形でアメリカの暴走を抑える方法が一つ。 朝鮮、イラン、キューバがやっているように、対立する事で圧力をかけ、アメリカを動けなくする方法が一つ。 問題は、アメリカの軍事力を封じ込めるという点で、これらの国々の目的は一致しているにも拘らず、対話組と圧力組に直接の連携が無い事ですな。

  一方、日本やイギリスのように、アメリカの後についてせっせと支援している国は、世界の安定に何の貢献もしないばかりか、戦乱の後押しをしているようなものです。 ただ私は、対話にせよ圧力にせよ、効果の程には非常に懐疑的であり、今後もアメリカの起こす戦争を止められないと思っています。 世界が真に安定する為には、戦争以外の方法で世界をまとめる力を持った国が登場するのを待つしかありません。