2008/10/19

お富さん

  実は、ユーロで外貨預金をしていたのですが、この三週間ほどで、どーんと値下がりして、35万円も損してしまいました。 凄いっすねー。 三週間で35万円なんて、そうそう使いきれるもんじゃないですよ。 下がり始めた時に、さっさと売ってしまえば良かったんですが、銀行へ赴かなければならないのが、ついつい面倒臭くてねえ。 そういえば、勤め先で強制的に加入させられた確定拠出年金も、全て国内外の株になっていますが、あれも甚大な被害を受けているに違いありません。 他人事ではないね、金融危機は。 あははは!

  「何を呑気に笑っとるんじゃ! おまえ、アホけ! 金勘定できんのけ!」と、お思いの諸兄よ。 そんなキリキリした考え方では、世の中生きて行けませんぞ。 資産管理にパーフェクトはありえないのです。 リスク分散している者なら、今回のような危機に際して、部分的に資産を失うのは致し方ありません。 宇宙ロケットの打ち上げのようなもので、失敗は必ず起こるんですな。 これがもし、ほとんどの資産を株につぎ込んでいたら、35万円どころの損では済まなかったわけで、むしろ、リスク分散が効を奏して、助かったと見るべきでしょう。

  「株は、値下がりしても、売らずに持っていれば、また上がる」と思っている人が多いですが、それはその株を発行している企業が生き残った場合の話です。 もし倒産した場合、株の価値はゼロになり、いつまで待っても回復などしません。 株には、≪死≫があるんですな。 ドルやユーロなどの外貨は、基本的に死にません。 ただし、不況にインフレが重なると、価値が桁違いに落っこちて、回復不能になるケースがあります。 十分の一になるくらいはマシな方で、百分の一とか、一万分の一とか、もはや消しゴムのカスほどの価値もなくなってしまう例も多いですから、あんまり多額の資産を外貨につぎ込むのは危険ですな。

  ただ、不況が必ずインフレを伴うというわけではなく、様々な要因が絡んで、デフレになる場合もあります。 日本のバブル崩壊後が正にそうでした。 日本のバブル崩壊は、日本国内の事情だけで発生しましたが、外国には全くと言っていいほど波及せず、強いて言うなら、90年代後半のアジア通貨危機に、若干の影響があったのかなあ?という程度でした。 バブル崩壊の時期に重なって、安価な中国製品が大量に日本市場に出回り始めた為に、不況であるにも拘らず、安い商品が店に溢れ、デフレになったんですな。 私くらいの世代だと、不況というと即インフレを連想するのですが、それは単なるイメージに過ぎず、実際には、インフレやデフレが起こる原因は、好不況と直接の関係が無いのでしょう。

  今回の金融危機では、アメリカで発生したバブル崩壊が世界中に波及して、とんでもない規模に膨らんでしまいましたが、日本のバブル崩壊の時に、外国に影響がほとんど出なかったのは、日本の経済力が、アメリカのそれに比べて、比較にならないほどささやかな物である事を証明していると思います。 日本人は未だに、「世界第二位の経済大国」などと自称していますが、本当にそんな力があれば、あれだけの大不況の時に、外国に影響が及ばないなどという事はありますまい。

  今回の危機、一番まずい状況なのは、もちろん、アメリカですが、日本もかなりやばいです。 学校で習ったように、日本は加工貿易で生きている国で、原材料を輸入し、製品を輸出して、その際に付加する価値の代価で、富を貯えています。 ≪技術立国≫という言葉が盛んに使われる所以ですな。 日本社会には、無数の職業が存在しますが、外国から富を獲得しているのは、自動車や家電、工作機械など、一部の業種だけでして、他の業種は、どんなに利益を上げようが、富を国内でぐるぐる回しているだけで、外国から獲得しているわけではありません。

  そうそう、富について、「労働から生まれる」と習った人が多いと思いますが、あれは間違いです。 少なくとも、言葉が足りません。 労働は、富を集められるだけです。 そして、労働したからといって、必ず富が集まるわけではありません。 これは、卑近な例に置き換えてみれば分かります。 家の中でいろいろな労働をするとします。 掃除、洗濯、炊事、何から何までやって、朝から晩まで働き詰めだとしましょう。 しかし、家の中で働いている限り、富が集まる事はありません。 死ぬほど疲れても、増える富はゼロです。 もし、「富は労働から生まれる」のであれば、ただ働くだけで、お金がザクザク湧いてこなければなりませんが、そんな事はありえません。 富というのは、生まれてくるものではなく、集めてくるものなんですな。

  で、日本が豊かになったのは、加工貿易で外国から富を集めてきた結果なのですが、その稼ぎ先は、ここ半世紀を通して、八割がたがアメリカからだったと言っていいです。 現在、だいぶ比率が落ちましたが、それでもまだ三分の一くらいはアメリカとの貿易で富を得ています。 アメリカ経済がコケて、商品が売れなくなると、日本はもろにその波をかぶるわけですな。 特に、日本国内で作って、アメリカへ輸出している製品が大打撃を受けます。 主に、自動車と電気製品。 しかも、現在、アメリカで売られている日本製品は、ゴテゴテと不必要な機能を詰め込んで価格を吊り上げた、≪ぼったくり商品≫が多いので、家計から冗費を削減しようとした時に、真っ先に切られる口。 やばいねえ。

  日本の貿易相手として、アメリカと双璧をなしているのが中国ですが、中国もアメリカを相手に貿易をして富を稼いでいる国ですから、アメリカの代わりにはなれません。 ただ、中国の立場から見ると、今回の危機は、日本ほど、やばくはありません。 なぜというに、中国製品は、まだまだ安価な品が多い為、豊かな国にも貧しい国にも世界中に売られていて、アメリカ向けが細っても、何とかやりくりできるからです。 日本製品のように、そこそこ豊かな生活をしている人達だけを対象にしていると、世界的な不況は厳しいんですわ。

  「輸出がダメなら、内需を喚起して、経済の落ち込みを防げ」などと言っている人がいますが、富の本質が全く理解で来ていないとしか思えません。 内需を増やせば、GDP数値は上がりますが、富は国内で回っているだけで、増えるという事はありません。 増えないだけでなく、日本は食糧を輸入に頼っているので、その代金を払わねばならず、どんどん減って行きます。 こういう言い方をすると、激怒する人も多いと思いますが、まあ書いてしまいますと、サービス業なんぞいくら死ぬ気で働いても、国外からは一円の富も稼いでいないわけでして、日本の富は、すべて輸出製造業が稼いで、他業種の人達は、その≪おこぼれ≫で豊かな生活をしてるんですな。

  もし、輸出製造業が無くなるとどうなるかというと、江戸時代の水準まで、生活レベルが落ちます。 人口が4倍に増えていますから、江戸時代の四分の一の豊かさ(貧しさ)になりそうですが、農業技術が上がっているので、相殺して、丼勘定して、まあトントンくらいでしょう。 それに、貧しければ医者にもかかれないわけで、バタバタ死んで、結局は江戸時代並の人口になるというもの。

  これねえ、いいとか悪いとかじゃなくて、本来なら、住んでいる土地で得られる富しか使えないのが当然ですから、そちらの方が正常なんですな。 富を集める国があれば、奪われる国もあるわけで、他国の人々の犠牲の上に成り立っているのが、先進国の豊かな社会なわけですよ。 前世紀のSFなどではよく、全人類が先進国並の生活水準に到達している世界が描かれていましたが、全員が豊かになるなど、ありえない話です。

 「分け合えば、みんな豊かになる」という社会主義は嘘ですし、「競争こそが社会全体を豊かにする」という資本主義も、奪われる側を社会の内に含めていないという点で、偽善というべきでしょう。 分け合えば、みんな貧しくなるのであり、奪い合えば、一部分は豊かになるけれど、大部分は貧しくなるのです。 どっちも悪し。

  何だか、今回、テーマが一定しませんな。 やはり、三週間で35万円消えたのがショックで、動揺が隠し切れないか。 いや、もっとも、私がユーロを買ったのは110円の時でしたから、まだ25万円得をしているわけですがね。 なーに、その内また、回復してくるでしょう。 ヨーロッパで本当にやばいのは、金融業の比率が高いイギリスだけで、他の国は実業が多いですから、アメリカほど混乱は続きませんよ。

  そういえば、イギリスの公的資金投入の反応は速かったですな。 そりゃそうだよね。 製造業なんてとうの昔に衰えて、金融だけで富を稼いで来たんだから、金融業者がバタバタ潰れたら、国が傾いてしまいますからね。 でも、本来そういう寄生虫みたいな生き方をしている国は、衰えた方がいいと思いますけど。 今のイギリス人で尊敬に値するのは、ダイソンの創業者くらいのもんですけんのう。

  ところで、ドバイですが、なんで、連鎖してバブル崩壊しないのか、大変不思議です。 今のドバイは、バブル経済の見本のような状態なんですが、金融危機で世界が大騒ぎしているのを尻目に、「高さ千メートルのビルを建てる」などとぶち上げており、傍目に見ていて、恐怖を感じるほどです。 あそこがバブル崩壊したら、すっげー事になりますよ。 突如、砂漠に出現した大都市が、一気に砂漠に戻っていくんじゃないですかね。