2009/07/05

動物に限る

今に始まった事ではありませんが、とりわけ、ここのところ、人間のやる事なす事、何もかもが、醜く思えて仕方なく、「人間という存在自体のおぞましさに比べれば、それが作り出す文明や文化の素晴らしさなど屁ほどの価値もない」と感じられてなりません。

  やる事も無く散歩のみに明け暮れている年寄りを見れば、「早く死ね」と思い、観光地に不必要に豪華なバスで乗り付けてくるオバサンの団体を見れば、「バスごと谷底に落ちろ」と思い、前を走る車の運転手が窓を開けてタバコを吸い始めると、「肺癌で死ね」と思い、コンビニの前で車座になって弁当を食っている馬鹿小僧どもを見ると、「携帯で話しながら運転している車が突っ込んでくればいいのに」と思い、近所のガキが狂ったように騒ぎ散らしているのを聞くと、「誘拐されろ」と思い、妊婦の腹を見ると、「どうせ生まれて来たって、ろくな人間にゃなりゃしないだろう」などと思っているようでは、もはや人間もおしまいですな。 いや、私はさすがに、そこまでは思っていませんが。

  政治家は無能に加えて、汚職ばかりやらかすし、マスコミは騒ぎを大きくする事以外、何も目標としていないし、学者は小粒な研究ばかりやっていて、世界に劇的なインパクトを与えるような天才的頭脳の持ち主は影も見えません。 美術は死んで久しく、音楽も80年代以降、全く進歩無し。 映画も焼き直しばかりで、わざわざ映画館に足を運ぶ人の気が知れない。 スポーツには、そもそも興味が無いと来たもんだ。

  「もう、人間なんて、見るのも嫌だ。 いや、現実問題として、自分も人間である以上、人間を見ないわけにはいかないが、生きていく上での必要最小限にとどめて、他は、極力目を背けて暮らそう」

  と、緩~く決心したのが、4月の中頃でしたかねえ。 「では、人間以外の物なら醜くないだろう」という事で、単純に動物学の世界に逃げ込もうと思い、図書館でそちら方面の本を借りて来るようになりました。 以来、約三ヶ月、読んだ本が結構溜まったので、ざっと感想を書く事にします。 あー、長い前説だったなあ。




≪カメの文化史≫
 ペット飼育本を除くと、亀について書かれた本というのは、思いの外少ないです。 この本は、ペット・コーナーではなく、動物学コーナーにありました。
  生物学的な事も多少書いてありますが、中心テーマは、人類が亀を象徴や食料、ペットとして、どう扱って来たかという、文化面でのアプローチです。 著者はイギリス人で、小ネタ・エピソードは、イギリスの物が多いです。



≪カメのきた道≫
  これも、亀関連の本。 亀は亀でも、動物学ではなく、古生物学の方です。 化石を掘り出して、絶滅した生物について調べる、アレですな。 亀の系統に関する説明は大まかで、著者個人の研究に関するこぼれ話が中心です。 面白いんですが、ちょっと自慢話臭い所が鼻につきます。



≪新しい発見≫
  非常に珍しい、ニホントカゲの本。 日本中どこにでもいるのに、益にも害にもならないために、興味を持つ者が少なく、自動的に関連本も少ない、ニホントカゲ。 この本には期待していたんですが、研究書というより、観察日記に近く、肩透かしを喰いました。 むしろ、こんなに稀薄な内容で出版された事が不思議です。 動物学関係者には珍しく、著者の人柄が良い点が、せめてもの救い。



≪ワニと龍≫
  これまた珍しい、ワニの本。 著者の言に従えば、日本で初めて出版された、一般読者向けのワニの本なのだそうです。 「龍とは、ワニの事だった」という説を当然の前提として語り始め、ワニの生態や、人間との関わりなど、全般的な解説へと話を広げて行きます。 博学な上に、ユーモアに溢れていて、楽しい文章です。 著者の本業は古生物学で、化石屋さんなので、現生のワニに関して、種類ごとに細かくは触れていません。 そういう事は、図鑑を見るか、専門の論文を読めという事なんでしょう。



≪カエルの不思議発見≫
  これも、割合珍しい、カエルの本。 総合的な解説書で、日本のカエルを中心に、世界中の様々なカエルの生態を紹介しています。 ナガレガエル(流れ蛙)の話が面白いです。 流れがある川で産卵するのだそうですよ。 しかも、日本に結構いるらしいのです。 是非一度、見てみたいもの。 



≪金沢城のヒキガエル≫
  こちらは、ヒキガエルの本。 「金沢城の・・・」と限定している点を見ても分かるように、対象を特定区域の棲息集団に限った生態研究の記録です。 ヒキガエルがどんな生き物なのか、一般的な解説書以上によく分かります。 また、生物学の研究という物が、どの程度アバウトなのかも、よく伝わって来ます。 個体識別のためにカエルの指を切るという方法には、どうにも馴染めませんが、生物学と動物愛護は違うので、研究するとなれば、そういう手段もアリなのでしょう。



≪図説・なぜヘビには足がないか≫
  なにやら気になる題名ですが、これはキャッチ・コピーでして、読んでも、はっきりした答えは書いてありません。 というか、「この本全体を読めば、それが答えになる」という仕組みになっています。 内容は、ヘビ全般についての解説で、種類ごとの説明はありません。 毒牙の構造が、種類によって原始的なものと、進化したものとに分かれるというところが、興味深かったです。 ツチノコの正体についての、もっともありそうな推測が載っています。



≪狐狸学入門≫
  冒頭部、文系的アプローチが続くので、不安になりますが、その内、理系の話にシフトし、ぐっと科学書っぽくなります。 キタキツネとホンドギツネには種の違いが無いのに、映画やテレビの影響で、別種のように思われているという話は、目から鱗でした。 タヌキの共同トイレの話も面白いです。 高速道路で車にはねられる動物は、タヌキがトップだそうで、痛々しい反面、「まだ、そんなにいるんだなあ」と、意外な気もしました。



≪都市鳥ウォッチング≫
  街の生活に適応した鳥達を種類ごとに詳説したもの。 巻頭部に、取り上げている全種類のカラー写真が載っているので、実際の観察にも役に立つ本です。 街に馴染んだ鳥など、カラスかハトくらいのものだろうと思ってましたが、意外と多かったんですねえ。 チョウゲンボウという、猛禽類まで加わっているから凄い。



≪内科医からみた動物たち≫
  「人間の内科医の視点から、動物の生態を見た本」という触れ込みですが、かなりの羊頭狗肉でして、内科医的な分析が行なわれているのは、ほんのちょっとだけ。 後は、単なる動物の種類ごとの解説です。 この著者、動物学の専門家ではなく、ただの動物好きでして、本で読んだ知識を又書きしているわけですが、こういうのは、科学書としての価値がかなり落ちます。 子供向けの解説書としてなら有用かも知れませんが、やはり、専門家が書いた本の方が、信用度は高いでしょう。



≪イルカとクジラ≫
  イルカとクジラについての、総合的な解説書。 種類ごとではありません。 イルカというと知能が高い事で有名ですが、人間の子供や猿ほど頭が良いわけではないという事が、よく分かります。 マークの識別のような、単純な実験を行なうのも、かなり苦労するのだとか。 クジラに関しては、どうも、捕鯨推進派の肩を持っているような論調が見受けられ、科学書としては、基本から逸脱していると言わざるを得ません。 いやしくも、動物学者が、野生動物を食料資源として見ていたのでは、話になりますまい。



≪馬の科学≫
  馬の体の作りを、部位ごとに解説したもの。 著者は、競馬関係者なので、どうしても、競走馬の話が多くなります。 純粋の野生馬というのは、もはや存在しないので、仕方ないといえば仕方ないのですが、蒙古馬や挽馬など、サラブレッド以外の馬にも、もそっと焦点を当ててもらえば、もっと面白くなったと思います。



≪ペンギンたちの不思議な生活≫
  日本のペンギン学の第一人者が書いた、ペンギンの生態に関する解説書。 精細なイラストを添えた種類ごとの説明もありますが、それはほんのちょっとで、大部分のページは、ペンギン科全体の総合的な特徴を記すのに割かれています。 ペンギンの白黒模様の意味とか、ペンギンの発祥地とか、テレビの動物番組では触れないような、コアな知識がたくさん詰まっていて、実に面白いです。



≪ゾウの鼻はなぜ長い≫
  これは、かなり有名な本で、一般向け動物学入門書の古典になりつつある感があります。 書名だけ見ると勘違いし易いですが、別にゾウ専門の本ではなく、動物全般から、素人の興味を引きそうな疑問点を何十項目か選び、それぞれ一二ページで解説するという形式の本。 スイスイ読み進む事ができますが、読み終わると、内容を細かく思い出す事ができません。 なぜかというと、この本が出版された後に、類似本がたくさん出て、動物関連の疑問が常識化してしまったため、既に知っている事が多くて、印象に残らないのです。 動物学に興味を持ったら、最初の内に読むべき本なのでしょう。



  という事で、ここまでで、14冊です。 実はまだ半分残っているのですが、一遍に出すと、写真の加工が疲れるので、次回に回します。 例によって、ほとんどの本を、仕事の合間の休み時間に読みましたが、「たかだか、3ヶ月でよくこれだけ読んだなあ」と、今更ながらに驚いている次第。 私の読書速度は、決して速い方ではないんですが、会社で読むと、他にやる事が無く気が散らない為に、短い時間でもページを捲る手が捗るんでしょう、きっと。 講談社の、≪ブルー・バックス≫の本が多かったので、読み易かったという事もあります。 科学入門書のシリーズでして、新書サイズで、大抵が200ページ以下なので、三日もあれば、一冊読み終わるのです。