靴下考
人は時に、非常に下らない事で、深い苦悩に陥るものである。
というわけで、靴下が破れるんですよ。 必ず同じ所から破れる。 足の裏の前の方の、真ん中あたりに丸い穴が開きます。 以前は、爪が当たる爪先部分から破れていたのですが、いつのまにか転移したんですな。 むしろ、爪先が破れなくなった事の方が不思議。 別に爪の手入れがよくなったわけではないんですがね。
ちなみに私は、かれこれもう十年くらい、靴下は100円ショップでしか買っていません。 それより前は、衣料品を置いているホームセンターで、4足組1000円くらいのスポーツ・ソックスを買っていましたが、100円ショップで靴下を見つけてからは、2.5倍も高い品を買うのが馬鹿馬鹿しくなり、あっさり乗り換えたというわけ。
100円ショップの靴下にも、様々なブランドがあり、私が今買っているのは、ダイソーの少し厚手のカラー・リブ・ソックスです。 色が選べるので、常に薄い灰色の品一種類に決めて買うようにしています。 そうすれば、片方だけ先に穴が開いた時にも、まだ使える方を保存しておき、後々、残った物同士で組み合わせて、また穿けるからです。 衣料品店にある、4足組や5足組の靴下セットの場合、なぜだか知りませんが、色がバラバラというパターンが多く、片方穴が開くと、まだ無事な方も捨てなければなりません。 それに比べると、常に同じ色の靴下をバラで売っているダイソーは、非常にありがたい存在と言えます。
この世には、親元にいる間は親に買って来てもらい、結婚してからは妻に買って来てもらい、自分では靴下や下着を買った事が一度も無いという人が結構いると思いますが、社会人になってから数十年間、靴下を自分で買い続けている私に言わせると、耐久性と値段に相関関係が無い点に於いて、靴下ほど典型的な商品もありません。 一足1000円もするような高い物を買っても、必ず長持ちするとは限りませんし、100円だから、早く穴が開くとも限りません。 ただし、同じメーカーの同じ品なら、大体寿命は同じなようです。
衣料品店の靴下は、穿き口、つまり、足を入れる穴が開いている所ですが、そこから壊れ始めます。 布地に織り込んだゴムが延びて切れてしまい、穿き口がビロビロに広がってしまうんですな。 当然、歩いている内にずり落ちてきて、スボンの下からそのビロビロが見え、みっともなくて、穿いていられなくなります。 また、感触的にも、気持ちが悪いったらありゃしない。
一方、100円ショップの靴下は、穿き口の作りは滅法強く、半年くらいではビクともしません。 特にダイソーの品は強いです。 しかし、その代わり、冒頭に述べたように、足の裏の前方中央が、すぐに薄くなり、穴が開いてしまいます。 いずれも一長一短あり、困った事ですな。
イメージ的に、「衣料品店の靴下より、100円ショップの靴下の方が、持ちが悪いような気がする」と思っている方も多いでしょうが、そう感じるのには、買い方の違いも関わっていると思われます。 4足組や5足組で買うと、1セット使い終わるのに1年以上かかる事が多いのに比べ、100円靴下は、せいぜい一回に2足くらいしか買いませんから、しょっちゅう店に行って買い足しているような錯覚に陥るのです。
あ、そうそう、衣料品店の4・5足組でもなく、100円靴下でもなく、500~1000円もする薄手の高級靴下を買っている、≪大人の男≫の方々に、一言ご忠告があります。 あなた方の足が臭いのは、その薄手の靴下のせいです。 間違いない。 「男は大人になると、足の裏が汗ばむようになるから、通気性がいいように、極力薄い靴下を選ぶ必要がある」と思っているんでしょう? 逆ですよ、逆。 薄い靴下を履くようになるから、靴下の繊維が汗を吸い切れず、靴の中に溜まった汗に細菌が繁殖して、悪臭を放つのです。
「俺も今日から社会人だ。 スポーツ・ソックスなんて子供っぽい物は卒業して、サラリーマン定番の薄手黒靴下を履かなくちゃな!」なんて、考え足らずに決心したのが運の尽きだったんですな。 靴の中が、汗でネチョネチョしてるんだから、匂うなっていう方が無理でんがな。 活性炭入りの中敷なんか敷いたって、無駄無駄。 あんな物が汗を吸ってくれるわけないじゃありませんか。 「ああ、俺の足は、いつの間にかこんなに臭くなってしまった! 歳をとったせいなのか!」なんて、頭抱えている閑があったら、学生時代に穿いていた厚手の靴下に戻しなさいって。 すぐに匂わなくなるから。 足の汗は厚手の靴下に吸わせておいて、洗濯機で洗ってしまうのが唯一の処理方法なのですよ。
ちなみに、靴下を厚いのに戻すのと同時に、靴も新しいのに替えた方が、より効果が実感できますが、「靴は高くて捨てられない」という場合は、ホームセンターで売っている、≪除菌アルコール≫をスプレーしたり、家にいる間、靴の中に新聞紙を丸めてつっ込んでおくようすると、消臭に効果があります。 幾分、新聞紙の匂いがつきますが、なーに、汗の腐った匂いに比べれば、物の数ではありません。
足の匂いや靴下の消耗頻度は、人によっても、随分違いがあると思います。 仕事が立って動く肉体労働だったり、足で歩く外回りだったりすると、否が応でも、足に汗を掻きますし、靴下の破損も早くなります。 「通勤は車で、会社では一日中、机仕事をしている」なんて人の経験談は、全然役に立ちません。 そりゃ、足を使ってなきゃ、汗も脂も出なかろうよ。
靴下に話を戻しますが、破れた靴下を捨てるべきか、繕って穿き続けるべきかは、悩む所ですな。 「靴下を繕うなんて、半世紀前の習慣だ」などと言っている、そこのあなた! いや、私もそう思っていたのですよ。 たった、100円で買えるものですし。 でもね、最近、物の価値を、「自分で作ってみた時に、どれくらい時間と労力がかかるか」に換算して考えるようになり、徐々に宗旨が変わって来たのです。 「100円やるから、靴下一足編んでみよ」と言われたら、さて、出来るか? まず、出来ないでしょう。 靴下どころか、ただの円筒も編めやしません。 まして、そんな高度な技術と膨大な手間がかかる作業に対して、たった100円の労賃しか貰えないのでは、まるっきり割に合いませんよ。 それを考えると、「100円靴下は偉大だなあ」と、つくづく感じ入るわけですわ。 私の足など、靴下一足分の価値も無いような気がして来るのです。
ちなみに、50年くらい前までは、靴下は、穴が開いたら、繕って直すのが当然の習慣だったらしいです。 私ですら、それを小説家の随筆で読んで知ったのであって、現実に靴下を繕っている人の姿を見た事はありません。 母はもちろん、祖母もやっていませんでした。 私自身も、学生時代に繕った靴下を穿いた記憶が無いです。 随分昔から、景気よくポイポイ捨ててるんですねえ、みなさん。 うまく直せば、数ヶ月は延命できるんですが、勿体ない話ですな。 いや、エコとか、省資源とか、そういう風潮に乗って言っているのではなく、お金が惜しいと思うのですよ。
穿き口が延びてしまった場合は、直しようが無いので、これは捨てます。 しょうがないです。 延びた部分を内側に折り返して、幅の広い紐ゴムを挟んで縫うという手も考えられますが、一旦延びてしまった生地ですから、どうしても皺が出来るのであって、よほどうまく処理しても、新品のようにはなりますまい。 しかも、穿き口だと、ズボンの裾が捲れれば、即、人に見えてしまいますから、恥を掻く可能性が至って濃厚。 いかに人生を合理主義で押し通すといっても、そんな危険は冒せません。 穿き口の損傷は、諦める以外ないのです。
しかし、爪先に穴が開いたとか、足の裏に穴が開いたという場合、技術的には直せるので、後は、直すか直さないかで悩む事になります。 判断のネックは、その直した靴下を履いている時に、人前で靴を脱ぐ機会があるか無いかですな。 靴の中に隠れてしまう部位だからこそ出来る補修であって、靴を脱げば繕った跡がはっきり見えますから、さすがに、そんな有様を人前に曝すわけには参りません。
私の場合、勤め先で靴を脱ぐ機会といったら、通勤用の靴と仕事用の靴を履き替える時がそうですが、これは他人がいない所で行なっているので、問題ありません。 他は健康診断の時くらいのものですが、それは年に二日だけだから、その日だけ、無傷の靴下を穿いていけば済む事です。
私生活では、まーず、無いですね。 靴を脱がなければならないような場所に行きませんから。 病院や歯医者は、脱がされますが、これもその時だけ新品を穿けば宜しい。 旅行は、ホテルや旅館に泊まるような旅行をしなくなってから久しいので、これも考慮の必要無し。 友人は皆無ですから、友人宅へ上がる時の心配もせんでよし。 飲み会の誘いも全部断っているので、居酒屋の座敷に上がらされる恐れも無いと来たもんだ。 つまり、私の場合は、靴下の靴に隠れる部分の補修をしても、問題無いという事になります。
繕い方は簡単でして、爪先に開いた穴の場合、穴の部分を摘まんで、半円になるように平らにし、弧に沿って、まつり縫いしてしまいます。 数センチの糸と、時間が5分もあれば終わります。 靴下の色にもよりますが、同系色の糸を使えば、穿いても、補修したかどうか、ほとんど分かりません。 靴下の爪先部分は、もともと構造が入り組んでいるので、目立たないんですな。
足の裏に穴が開いた場合、糸だけだと摘まみきれないので、つぎあてをします。 靴下の色が一定なら、100円ショップで同じ色のハギレを買ってくれば、それ一枚で、3年分くらいあると思います。 穴の周囲の繊維も傷んでいるので、大きめに布を裁ちます。 丸くすれば見栄えはいいですが、このミッション自体が、補修部分を人に見せない事が前提なので、縫い易さを優先して、四角にしても充分でしょう。 切り出したら、四辺を5ミリばかり折り返し、靴下の穴あき部分を覆うように待ち針で仮止めして、やはり、まつり縫いで縫い付けて行きます。 並縫いだと、もたないので、必ず、まつり縫いにします。 縫い方を忘れてしまった方は、自分で調べて下さい。
かかと部分に穴が開いた場合も、同じようにつぎあてで補修が出来ますが、穴が小さい内にやらないと、アキレス腱の方までべリべり破れて来て、手遅れになります。 穿き口よりも大きな穴が開いてしまった場合、さすがに、お払い箱にした方がよいでしょう。 かかとの場合、補修跡が靴から食み出るかどうかが、判断の分かれ目になります。
さて、ここまで読んで来て、あまりにも貧乏臭い話なので、「倹約もここまで来ると、ついていけんなあ」と思った方も多い事でしょう。 というか、ごく一部の変人を除いて、全員そう感じたんじゃないでしょうか。 私も補修作業をしながら、「ここまでやる必要があるのかね?」と思わなかったといったら嘘になります。 「一度しか無い人生なのに、靴下の穴塞ぎで貴重な時間を無駄にしていいものか」と、冷や汗垂らして自問する事もしばしば。
ところがですね、補修すると、マジな話で、靴下の寿命が倍近く延びるんですよ。 つまりその、靴下というのは、破れる箇所が決まっていて、それ以外の部分は、破れた所より、ずっと高い耐久性を持っているんですな。 全面積の95%が使用可能な物を、たった5%の破れで、ドカドカ捨てているわけです。 もし、これが、電気製品や自動車だったら、そんな捨て方しないでしょう。 当然、直して使いますよね。
「それは、値段が高い物だからだ。 靴下なんて、100円でも買えるじゃないか」
おっと、またそこへ戻ってしまいましたな。 しかし、世界人類全体で見たら、靴下の寿命が倍になるという事は、小規模国家のGDPに匹敵する程の倹約効果を産むと思いますぜ。 「どうせ、俺の靴下なんて、誰も見てないしな」とか、「どうせ、うちの亭主の靴下なんて、誰も見てないしな」と思ったら、試してみる価値はあるんじゃないでしょうか。 あ、言わずもがなですが、女性の方は、やめた方がいいと思います。 あと、まだ、これから恋愛をして、結婚してと、カッコつけなければいけない立場にある青年もやめた方がいいでしょう。 全世界的に、「靴下は、直して使うのが当たり前」という日が来るまでは。 来ない可能性は、想像を絶するほど高いですけど。
というわけで、靴下が破れるんですよ。 必ず同じ所から破れる。 足の裏の前の方の、真ん中あたりに丸い穴が開きます。 以前は、爪が当たる爪先部分から破れていたのですが、いつのまにか転移したんですな。 むしろ、爪先が破れなくなった事の方が不思議。 別に爪の手入れがよくなったわけではないんですがね。
ちなみに私は、かれこれもう十年くらい、靴下は100円ショップでしか買っていません。 それより前は、衣料品を置いているホームセンターで、4足組1000円くらいのスポーツ・ソックスを買っていましたが、100円ショップで靴下を見つけてからは、2.5倍も高い品を買うのが馬鹿馬鹿しくなり、あっさり乗り換えたというわけ。
100円ショップの靴下にも、様々なブランドがあり、私が今買っているのは、ダイソーの少し厚手のカラー・リブ・ソックスです。 色が選べるので、常に薄い灰色の品一種類に決めて買うようにしています。 そうすれば、片方だけ先に穴が開いた時にも、まだ使える方を保存しておき、後々、残った物同士で組み合わせて、また穿けるからです。 衣料品店にある、4足組や5足組の靴下セットの場合、なぜだか知りませんが、色がバラバラというパターンが多く、片方穴が開くと、まだ無事な方も捨てなければなりません。 それに比べると、常に同じ色の靴下をバラで売っているダイソーは、非常にありがたい存在と言えます。
この世には、親元にいる間は親に買って来てもらい、結婚してからは妻に買って来てもらい、自分では靴下や下着を買った事が一度も無いという人が結構いると思いますが、社会人になってから数十年間、靴下を自分で買い続けている私に言わせると、耐久性と値段に相関関係が無い点に於いて、靴下ほど典型的な商品もありません。 一足1000円もするような高い物を買っても、必ず長持ちするとは限りませんし、100円だから、早く穴が開くとも限りません。 ただし、同じメーカーの同じ品なら、大体寿命は同じなようです。
衣料品店の靴下は、穿き口、つまり、足を入れる穴が開いている所ですが、そこから壊れ始めます。 布地に織り込んだゴムが延びて切れてしまい、穿き口がビロビロに広がってしまうんですな。 当然、歩いている内にずり落ちてきて、スボンの下からそのビロビロが見え、みっともなくて、穿いていられなくなります。 また、感触的にも、気持ちが悪いったらありゃしない。
一方、100円ショップの靴下は、穿き口の作りは滅法強く、半年くらいではビクともしません。 特にダイソーの品は強いです。 しかし、その代わり、冒頭に述べたように、足の裏の前方中央が、すぐに薄くなり、穴が開いてしまいます。 いずれも一長一短あり、困った事ですな。
イメージ的に、「衣料品店の靴下より、100円ショップの靴下の方が、持ちが悪いような気がする」と思っている方も多いでしょうが、そう感じるのには、買い方の違いも関わっていると思われます。 4足組や5足組で買うと、1セット使い終わるのに1年以上かかる事が多いのに比べ、100円靴下は、せいぜい一回に2足くらいしか買いませんから、しょっちゅう店に行って買い足しているような錯覚に陥るのです。
あ、そうそう、衣料品店の4・5足組でもなく、100円靴下でもなく、500~1000円もする薄手の高級靴下を買っている、≪大人の男≫の方々に、一言ご忠告があります。 あなた方の足が臭いのは、その薄手の靴下のせいです。 間違いない。 「男は大人になると、足の裏が汗ばむようになるから、通気性がいいように、極力薄い靴下を選ぶ必要がある」と思っているんでしょう? 逆ですよ、逆。 薄い靴下を履くようになるから、靴下の繊維が汗を吸い切れず、靴の中に溜まった汗に細菌が繁殖して、悪臭を放つのです。
「俺も今日から社会人だ。 スポーツ・ソックスなんて子供っぽい物は卒業して、サラリーマン定番の薄手黒靴下を履かなくちゃな!」なんて、考え足らずに決心したのが運の尽きだったんですな。 靴の中が、汗でネチョネチョしてるんだから、匂うなっていう方が無理でんがな。 活性炭入りの中敷なんか敷いたって、無駄無駄。 あんな物が汗を吸ってくれるわけないじゃありませんか。 「ああ、俺の足は、いつの間にかこんなに臭くなってしまった! 歳をとったせいなのか!」なんて、頭抱えている閑があったら、学生時代に穿いていた厚手の靴下に戻しなさいって。 すぐに匂わなくなるから。 足の汗は厚手の靴下に吸わせておいて、洗濯機で洗ってしまうのが唯一の処理方法なのですよ。
ちなみに、靴下を厚いのに戻すのと同時に、靴も新しいのに替えた方が、より効果が実感できますが、「靴は高くて捨てられない」という場合は、ホームセンターで売っている、≪除菌アルコール≫をスプレーしたり、家にいる間、靴の中に新聞紙を丸めてつっ込んでおくようすると、消臭に効果があります。 幾分、新聞紙の匂いがつきますが、なーに、汗の腐った匂いに比べれば、物の数ではありません。
足の匂いや靴下の消耗頻度は、人によっても、随分違いがあると思います。 仕事が立って動く肉体労働だったり、足で歩く外回りだったりすると、否が応でも、足に汗を掻きますし、靴下の破損も早くなります。 「通勤は車で、会社では一日中、机仕事をしている」なんて人の経験談は、全然役に立ちません。 そりゃ、足を使ってなきゃ、汗も脂も出なかろうよ。
靴下に話を戻しますが、破れた靴下を捨てるべきか、繕って穿き続けるべきかは、悩む所ですな。 「靴下を繕うなんて、半世紀前の習慣だ」などと言っている、そこのあなた! いや、私もそう思っていたのですよ。 たった、100円で買えるものですし。 でもね、最近、物の価値を、「自分で作ってみた時に、どれくらい時間と労力がかかるか」に換算して考えるようになり、徐々に宗旨が変わって来たのです。 「100円やるから、靴下一足編んでみよ」と言われたら、さて、出来るか? まず、出来ないでしょう。 靴下どころか、ただの円筒も編めやしません。 まして、そんな高度な技術と膨大な手間がかかる作業に対して、たった100円の労賃しか貰えないのでは、まるっきり割に合いませんよ。 それを考えると、「100円靴下は偉大だなあ」と、つくづく感じ入るわけですわ。 私の足など、靴下一足分の価値も無いような気がして来るのです。
ちなみに、50年くらい前までは、靴下は、穴が開いたら、繕って直すのが当然の習慣だったらしいです。 私ですら、それを小説家の随筆で読んで知ったのであって、現実に靴下を繕っている人の姿を見た事はありません。 母はもちろん、祖母もやっていませんでした。 私自身も、学生時代に繕った靴下を穿いた記憶が無いです。 随分昔から、景気よくポイポイ捨ててるんですねえ、みなさん。 うまく直せば、数ヶ月は延命できるんですが、勿体ない話ですな。 いや、エコとか、省資源とか、そういう風潮に乗って言っているのではなく、お金が惜しいと思うのですよ。
穿き口が延びてしまった場合は、直しようが無いので、これは捨てます。 しょうがないです。 延びた部分を内側に折り返して、幅の広い紐ゴムを挟んで縫うという手も考えられますが、一旦延びてしまった生地ですから、どうしても皺が出来るのであって、よほどうまく処理しても、新品のようにはなりますまい。 しかも、穿き口だと、ズボンの裾が捲れれば、即、人に見えてしまいますから、恥を掻く可能性が至って濃厚。 いかに人生を合理主義で押し通すといっても、そんな危険は冒せません。 穿き口の損傷は、諦める以外ないのです。
しかし、爪先に穴が開いたとか、足の裏に穴が開いたという場合、技術的には直せるので、後は、直すか直さないかで悩む事になります。 判断のネックは、その直した靴下を履いている時に、人前で靴を脱ぐ機会があるか無いかですな。 靴の中に隠れてしまう部位だからこそ出来る補修であって、靴を脱げば繕った跡がはっきり見えますから、さすがに、そんな有様を人前に曝すわけには参りません。
私の場合、勤め先で靴を脱ぐ機会といったら、通勤用の靴と仕事用の靴を履き替える時がそうですが、これは他人がいない所で行なっているので、問題ありません。 他は健康診断の時くらいのものですが、それは年に二日だけだから、その日だけ、無傷の靴下を穿いていけば済む事です。
私生活では、まーず、無いですね。 靴を脱がなければならないような場所に行きませんから。 病院や歯医者は、脱がされますが、これもその時だけ新品を穿けば宜しい。 旅行は、ホテルや旅館に泊まるような旅行をしなくなってから久しいので、これも考慮の必要無し。 友人は皆無ですから、友人宅へ上がる時の心配もせんでよし。 飲み会の誘いも全部断っているので、居酒屋の座敷に上がらされる恐れも無いと来たもんだ。 つまり、私の場合は、靴下の靴に隠れる部分の補修をしても、問題無いという事になります。
繕い方は簡単でして、爪先に開いた穴の場合、穴の部分を摘まんで、半円になるように平らにし、弧に沿って、まつり縫いしてしまいます。 数センチの糸と、時間が5分もあれば終わります。 靴下の色にもよりますが、同系色の糸を使えば、穿いても、補修したかどうか、ほとんど分かりません。 靴下の爪先部分は、もともと構造が入り組んでいるので、目立たないんですな。
足の裏に穴が開いた場合、糸だけだと摘まみきれないので、つぎあてをします。 靴下の色が一定なら、100円ショップで同じ色のハギレを買ってくれば、それ一枚で、3年分くらいあると思います。 穴の周囲の繊維も傷んでいるので、大きめに布を裁ちます。 丸くすれば見栄えはいいですが、このミッション自体が、補修部分を人に見せない事が前提なので、縫い易さを優先して、四角にしても充分でしょう。 切り出したら、四辺を5ミリばかり折り返し、靴下の穴あき部分を覆うように待ち針で仮止めして、やはり、まつり縫いで縫い付けて行きます。 並縫いだと、もたないので、必ず、まつり縫いにします。 縫い方を忘れてしまった方は、自分で調べて下さい。
かかと部分に穴が開いた場合も、同じようにつぎあてで補修が出来ますが、穴が小さい内にやらないと、アキレス腱の方までべリべり破れて来て、手遅れになります。 穿き口よりも大きな穴が開いてしまった場合、さすがに、お払い箱にした方がよいでしょう。 かかとの場合、補修跡が靴から食み出るかどうかが、判断の分かれ目になります。
さて、ここまで読んで来て、あまりにも貧乏臭い話なので、「倹約もここまで来ると、ついていけんなあ」と思った方も多い事でしょう。 というか、ごく一部の変人を除いて、全員そう感じたんじゃないでしょうか。 私も補修作業をしながら、「ここまでやる必要があるのかね?」と思わなかったといったら嘘になります。 「一度しか無い人生なのに、靴下の穴塞ぎで貴重な時間を無駄にしていいものか」と、冷や汗垂らして自問する事もしばしば。
ところがですね、補修すると、マジな話で、靴下の寿命が倍近く延びるんですよ。 つまりその、靴下というのは、破れる箇所が決まっていて、それ以外の部分は、破れた所より、ずっと高い耐久性を持っているんですな。 全面積の95%が使用可能な物を、たった5%の破れで、ドカドカ捨てているわけです。 もし、これが、電気製品や自動車だったら、そんな捨て方しないでしょう。 当然、直して使いますよね。
「それは、値段が高い物だからだ。 靴下なんて、100円でも買えるじゃないか」
おっと、またそこへ戻ってしまいましたな。 しかし、世界人類全体で見たら、靴下の寿命が倍になるという事は、小規模国家のGDPに匹敵する程の倹約効果を産むと思いますぜ。 「どうせ、俺の靴下なんて、誰も見てないしな」とか、「どうせ、うちの亭主の靴下なんて、誰も見てないしな」と思ったら、試してみる価値はあるんじゃないでしょうか。 あ、言わずもがなですが、女性の方は、やめた方がいいと思います。 あと、まだ、これから恋愛をして、結婚してと、カッコつけなければいけない立場にある青年もやめた方がいいでしょう。 全世界的に、「靴下は、直して使うのが当たり前」という日が来るまでは。 来ない可能性は、想像を絶するほど高いですけど。
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