2009/12/06

パンツ考

  パンツといっても、ズボンの事ではなく、下着のパンツの事です。 まったく、パンツに二つの意味があり、しかもカテゴリーが同じで、混乱が起きやすいのには、ほとほと困っているんですよ。 なんで、ズボンの事をパンツと言うようにしてしまったのか、最初にきっかけを作った奴は、切腹ものの重罪ですな。

  ズボンもパンツも外来語ですが、ズボンの出自はフランス語で、「jupon(ジュポン)」から変化したもの。 ただし、現代フランス語では、「jupon」は、ペティコートの事を指し、ズボンの意味は無いようです。 「ジュポン」と聞くと、「襦袢」を連想する方もいると思いますが、「ジュバン」も外来語ではあるものの、ポルトガル語。 入って来たのは遙か昔の戦国時代末期です。 ただ、フランス語もポルトガル語も、同じラテン語の子孫なので、ジュポンとジュバンは、元は同じ単語なのではないかと思われます。 指している物が、まるっきり変化してしまっているだけで。

  一方、パンツの由来は英語の「pants」ですが、これがまた厄介で、アメリカでは、ズボンの事を指し、イギリスでは、下着のパンツの事を指します。 ここに、日本語のパンツの意味の混乱の原因があるようですな。 では、アメリカでは、ズボンの事を必ず、パンツと言うのかというと、そうではないのであって、ズボンの正式名称は、「trousers(トゥルーサーズ)」です。 なに、そんな単語は聞いた事がない? ごもっとも! 知らなくても無理は無いのであって、この単語は、日本語に外来語として入っていないのです。 しかし、日本語の事情に関係なく、アメリカ人は、ズボンの事をトゥルーサーズと呼ぶのですよ。

  パンツとの関係はどうなっているかと言うと、トゥルーサーズは硬い言葉で、パンツはもっとラフな言い方に当たるとか。 しっかし、そういう使い分けも、外国人には雲を掴むようにピンと来ない話ですなあ。 やれやれ、地球はまだまだ広いわ。 私は、辞書を調べて、これを書いているわけですが、その辞書を編纂した学者は、間違いなくファッションに疎いに決まっている、オッサン・オバサン達でして、正確な記述になっているかどうかは大いに疑わしいです。 私が、「辞書に書いてあるんだ!」と主張しても、現地の人に、「そんな言い方しないよ」と否定されてしまったら、そちらが絶対に正しいのであって、勝ち目はゼロです。 そういう弱味を断った上で、話を続けさせてもらいます。

  米英に関係なく、「pants」には、女性用下着の意味もあるらしいですが、それが、日本語のパンツに男女関係無く下着の意味がある原因なのかどうかは不明です。 もう、ややこし過ぎて、耳から煙が出て来そうですな。 日本語では、下着のパンツは、狭義では男性用を指すのですが、広義だと男女どちらも含みます。 特に子供用では、男女に関係なく、一緒くたに、パンツと言います。 たとえ、ファッション業界人でも、家で子供と話す時は、パンツは必ず下着の事であって、ズボンの意味で使う事はありますまい。

  20年くらい前までは、女性用の下着の事を、パンティーと言っていましたが、いつの間にか、死語になり、今は、ショーツという言葉を使うらしいです。 由来は英語の「shorts」で、元はショート・パンツを指す言葉だったものが縮まった模様。 しかし、英語では元の意味も失っておらず、ショート・パンツを指す事もあるので、要注意ですな。 ファッション用語に於いては、生兵法は大怪我の元でして、下手に用いると、思いっきり軽蔑されてしまうので、外国に住むような事があっても、その手の会話には一切参加しないのが無難でしょう。

  ちなみに、フランス語で、ズボンを指す言葉は、「パンタロン」です。 日本語で言う、裾の広がったパンタロンだけを指すのではなく、ズボン全体の事をパンタロンと言います。 下着のパンツの事は、男性用は、「カルソン」、男女共通の単語では、「スリップ」と言います。 うわっ、こんな所に、スリップが出て来やがった! 日本で言う、女性用下着のスリップとは違いますよ。 パンツの事です。 うおおお、もう分からん! なんで、こんなに言葉が入り乱れておるのだ!

  下着を表わす言葉が混乱している責任は、すべてファッション業界にあるのであって、一般人にはどうにもしようがない事なのです。 それでなくても混乱しているのに、新しいファッションを流行らせるために、古い言葉を引っ張り出して、新しい物につけ、再登板させたりするものだから、ぐじゃぐじゃになってしまったんですな。 節操が無いにもほどがある。 なにせ、感覚だけで生きている人達なので、混乱を回避する知性など、働かせたくても、最初から持ち合わせていないのでしょう。 だけどねえ、ここまで混乱がひどくなると、自分らが生活するのにだって困ると思うんですがねえ。


  ここまで長々と書いて来て、今更こんな事を言うのも舐めた話ですが、実は今回は、別に言葉の事を書こうというつもりではないのですよ。 前に書いた、≪靴下考≫に倣って、パンツの延命処置の事をテーマにする予定だったのです。

  ああ、ちなみに、私が穿いているパンツは、トランクスの方です。 日本では、男性用下着のパンツには、トランクスとブリーフの二種があり、それぞれ、≪トランクス派≫、≪ブリーフ派≫を名乗って割拠していますが、別に、朝食の≪ごはん派≫と≪パン派≫や、≪こし餡派≫と≪つぶし餡派≫のような対立関係には無いようですな。 互いに、「好きにせい」と無視しておるのでしょう。 というか、野郎同士で、誰がどんなパンツを穿いているかなんて、気にしたりしませんよ。 そんな物、見たくもないし、知りたくもないです。 無視しあって当然というところでしょうか。

  私の場合、高校生の頃までは、白いブリーフを穿いていましたが、自分のお金で買うようになってからは、トランクス一本になってしまいました。 四六時中、下着を意識して暮らしているわけではないので、穿いてしまえば、どっちも同じようなものですが、違いが出るのは穿く時です。 ブリーフだと、小さい為に、足を通す時に、若干のためらいが生じます。 「うまく足を入れられなかったら、転ぶ危険性があるな」と恐れる、あの感覚が嫌なのです。 その昔、伊達政宗は、名器の茶碗を取り落としそうになり、何とか持ちこたえたものの、茶碗ごときにヒヤっとさせられた事が許せず、自分で庭石に叩きつけて割ってしまったとか。 それと通じる物が、ブリーフを穿く行為にはあるというわけだ。

  で、ブリーフには縁を切り、トランクス派になったのですが、トランクスにも、問題点はありました。 まずトランクスというのは、なぜか、変な柄が多い。 有名メーカーの品だと無地もありますが、私は例によって、100円ショップでしか買わないので、必ず、何かしら柄が入った物になります。 格子や縞模様くらいならいいのですが、わけが分からん絵のパターンが繰り返されている柄の物も多く、トイレに座っている時に、他に見る物が無くて、その柄を見ていると、あまりの意味不明さに、頭がくらくらして来ます。

  何なんでしょうねえ、あの種の柄が多い理由は? 以前は、「何かの布地のハギレで作っているのかもしれない」と思っていましたが、よくよく考えてみれば、頭がくらくらするほどサイケな柄の布地で、他に作れる製品があるとも思えません。 やはり、トランクス専用にデザインされた生地なのでしょう。 会えるものなら、デザイナーの頭の中を割って見てみたいものですな、是非。

  トランクスはシンプルな衣類ですが、もっとシンプルにできるのではないかと思える部分もあります。 前側の、○○○○を出す為に、開けられるようになっている部分が、それ。 ボタンがついていますが、あのボタン、いちいち外している人がいるんですかね? 会社のトイレで、こっそり他人の様子を覗っていると、そんな面倒な事をしている者など、一人も見受けられません。 ああ、ちなみに、私は他人の挙措をじろじろ見ているわけではなく、用を足す時間で大体そう判断できるのです。 決して、変態ではないので、念の為。

  そもそも、前の開口部分なんて使わないのです。 片側の裾から出すのが一番速い。 「ボタンを外して、用を足して、またボタンをかけて・・・」なんて悠長な事をやってたら、後ろで待っている奴らに蹴りを入れられてしまいますよ。 あの開口部が無ければ、製造工程を劇的に簡略化できるのは確実! 是非、どこかのメーカーに思い切って省略してもらって、コストを大幅に削減し、二枚で100円という価格革命を引き起こしていただきたいものです。

  そういえば、穿き口の部分の内側に縫い込んである紐ゴムも、もっと幅の狭い物でいいと思うんですよ。 幅が広くたって、肌への当りが柔らかくなるわけではないですから。 特に痩せ型の人は、ゴムで締め付けなくても、腰骨に引っ掛かりますから、ずれ落ちる心配はありません。 何ヶ月か穿いて、ゆるゆるになったくらいが、圧迫が無くて一番穿き易いです。

  話は更に展開しますが、腰痛で苦しんでいる方は、下着のゴムの締め付けが原因になっていないかどうか、一度確認してみる事をお薦めします。 腰痛の原因は、骨や筋肉ばかりではないのであって、衣類の圧迫感が痛みを引き起こしているケースが少なからずあります。 整形外科や接骨院に通う前に、まずパンツを疑ってみるべきですな。


  何だか、長くなってしまったので、トランクスの延命処置の事は、また次回に書きます。 うーむ、しかし、こんな下らない事で、二回もコラム書いていいのかのう?