2009/11/08

2009読書の秋

今週は6日出勤だったので、このコラムを書く暇がありませんでした。 しかし、毎週日曜に、ここを読むのを日課にしている方もいると思うので、最近読んだ本の、感想というか、紹介というか、批評を並べておきます。 依然として動物関連が多いですが、他の物も幾分混じっています。




≪ネコの行動学≫
  これは、本格的な学術書です。 イエネコを始めとする、ネコ科の動物が見せる様々な行動を観察し、詳細に記録したもの。 本というより論文に近い書き方で、読み物としては取り付き難いですが、科学的な信用度は極めて高いです。 本来、科学書とはこうあるべきものなのでしょう。 この本を読むと、ネコ科の動物が、正統派の肉食獣であり、イエネコといえども、その血が脈々と流れているのだという事を再認識させられます。 ネコが獲ったネズミを飼い主に見せに来るのは、誉めて欲しいからではなく、飼い主を仔猫だと見做していて、獲物の獲り方を教える為なのだそうです。



≪記憶とは何か≫
  これは、動物関係ではなく、脳科学の本です。 ほぼ定説として世に受け入れられている、≪大脳機能局在化論≫を否定する為に書かれた本。 「大脳は、≪言語野≫とか、≪運動野≫のように、特定の部位が、特定の機能を司っている」というのが、≪大脳機能局在化論≫ですが、それに対し、この著者は、「一つの機能には、脳全体が関わっている」という説を、脳科学の歴史を辿りながら、読者を説得するように展開して行きます。 この本だけ読むと、こちらが真理のように思えてしまいますが、あくまで、この著者の自説であり、学界全体に認められているわけではないようです。



≪非対称の起源≫
  「なぜ、右利きの人間の方が多いのか?」とか、「心臓が左にあるのはなぜか?」、「左側通行の国が、多数派ではないにも拘らず、いつまでも無くならないのはなぜか?」といったような、右と左に関する問題が、たくさん詰め込まれています。 一見、如何物的なテーマですが、純然たる科学書で、知的好奇心をいやが上にも掻き立ててくれます。 左右の起源を、小はアミノ酸から、大は宇宙まで遡って行く展開は、極めてダイナミック。



≪脳研究の最前線・上≫
  ≪理化学研究所・脳科学総合研究センター≫に所属する学者数人が、一人一章担当という形で共同執筆した本。 題名の通り、脳研究の様々なジャンルに於ける最新の成果を紹介してあります。 だけどねー・・・、この本を読んだのは、もう一ヶ月以上前になるんですが、どんな内容だったのか、ほとんど忘れてしまったのですよ。 すでにどこかで読んだような事ばかりだったので、印象に残らなかったのでしょう。 ただ、内容が薄いというわけではありません。 執筆者一人分の文章量はかなりあって、脳に関する本を初めて読む人ならば、読み応えは充分あると思います。



≪脳研究の最前線・下≫
  こちらは下巻。 上巻とは別の学者数人が共同執筆しています。 上巻があまり面白くなかったので、下巻はパスしようかと思ったのですが、副題に≪脳の疾患と数理≫とあったため、精神病について何か知見を得られるかと思って借りてみたのです。 しかし、一応読んだものの、今思い返すと、やはり何が書いてあったのか、全然覚えていません。 章ごとにテーマがバラバラだと、記憶に残り難いみたいですな。 似たような表紙イラストですが、よく見ると微妙に違います。 間違い探しか?



≪海の友だちアザラシ≫
  旧西ドイツで取り組まれた、迷子になったアザラシの仔を保護し海に返す活動を記した本。 アザラシの母乳は、牛乳よりずっと脂肪分が多くて、人工ミルクを完成させるまでに、相当な試行錯誤があったそうです。 この本の原書は、30年くらい前の出版で、毛皮目当てのアザラシ猟の生々しい記述なども出てきて、気分のいい話ばかりではありません。



≪オコジョ≫
  題名の通り、オコジョについて書かれた本です。 オコジョというのは、イタチの仲間ですが、サイズが小さくて、尻尾を入れても、20センチくらいしかないらしいです。 北半球全域に分布していて、日本にも北国の高山に棲んでいるとの事。 棲息地が特殊なために、日本ではオコジョの研究者はほとんどいないとかで、外国の文献を参考にして書いたそうですが、ページ数が少なく、一冊の本にするにはボリュームが足りない感じがします。



≪イタチとテン≫
  こちらも、同じ著者の本ですが、≪オコジョ≫とは違って、著者自身の研究成果が、かなり含まれています。 イタチは誰でも知っていますが、テンというのもイタチの仲間です。 この種の動物の毛皮というのは、寒い所に棲んでいるものほど、上質になるのだとか。 そういった雑学に近い知識が掻き集められていますが、≪オコジョ≫同様に、この本もページ数が少なく、読み応えはあまりありません。



≪野外鳥類学への招待≫
  アメリカの鳥類学者が書いた、アマチュア研究家向けの指導書。 個々の鳥について、薀蓄が書かれているわけではないので注意。 「アマチュアは、野鳥の観察だけから生態を推察して終わる事が多いけれど、今の鳥類研究は、実験を通じて仮説を証明する科学的方法を取らないと、学界に影響を与えるような成果は出せませんよ」と説き、様々な実験方法を具体的に紹介しています。 日本には、こういう本は無く、だから、翻訳したらしいのですが、アマチュアにもこのレベルを求めるアメリカ鳥類学界の質の高さには驚かされます。



≪鳥の雑学がよ~くわかる本≫
  こちらは、鳥関係の雑学書。 学者ではなく、野生動物の映像作品を作っている鳥好きの人が書いた本。 言わば、≪準・専門家≫といったところでしょうか。 特徴的な生態を持つ鳥を、数十種類取り上げて、紹介しています。 著者独自の研究も含まれていますが、いい意味でも悪い意味でも、学術的というほど、硬い内容ではないです。 この種の概説書はたくさん出版されているので、評価が難しいですが、鳥類学の面白そうな所だけ集めてあるので、読み易い点は宜しいですな。



  以上、今回は10冊まで。 簡単な解説ばかりですが、何せ暇が無いので、ご容赦。 これらすべて、会社で休み時間にコツコツ読んだものです。 家では、気が散ってしまって、全然読めませんから。 読書を捗らせるには、「他にやる事が無い」という環境が必要なんでしょうなあ。 刑務所に入る刑罰には、≪禁固刑≫と、≪懲役刑≫がありますが、無知・無教養が原因で罪を犯してしまった受刑者の為に、≪読書刑≫というのを設けたら、精神が涵養されて、更生に効果があるのではないかと思います。