2009/09/13

一眼デジカメ欲しい病

  いや、ちょっと困っておるのですよ。 欲望とは本当に恐ろしいものです。 私なんざ、すっかり枯れきって、物欲なんぞ、もう欠片も残っていないと思っていたんですが、そうではなかったんですねえ。 困った、困った。 何にどう困っているのかは、順を追って説明しなければなりませんな。

  実はその、昔使っていた一眼レフの中に、まだフィルムが残っているのを、何とかしなければいけないと思いつつ、7~8年経過してしまっていたのですが、去る夏休みに、とうとう意を決して、カメラを押入れから出してみたのです。 リコーの≪XR-8 SUPER≫という、マニュアル・カメラです。 電気を使うのは、露出計だけ。 24枚撮りのコダック・フィルムを、14枚だけ撮って、そのままになっていました。 ほとんど、ツタンカーメン王の墓を発掘した気分。

  で、残りのフィルムを家の中で撮ってしまおうと思い、三脚も出して来て、セットしたまではよかったんですが、いざ撮ろうとすると、なんと、レリーズが下りません。 巻き上げレバーは動かないので、巻き忘れでない事は確か。 「寝かし過ぎて、壊れたか! いや、それならそれで、別にいいけれど・・・」と思いつつ、レンズを外してみたら、カシャッとミラーが下がりました。 「あれ? やっぱり、撮れるのか?」と思い、もう一度トライしましたが、やはり駄目。 ミラーが上がったままで止まってしまい、レンズを外さなければ、下がりません。

  よくよく、ミラーを見てみると、固定枠から5ミリくらいズリ落ちているのを発見。 接着剤が融けて、固定枠の上を流れ下ったようです。 「こんな壊れ方があるのか!」と、しばし目を見張りました。 修理に出せば、直ると思いますが、そもそも、今後フィルムで撮るつもりが全く無いので、何万かかるか分からない修理など、検討の対象にもなりません。 カメラには気の毒ですが、このまま眠ってもらうしかありませんな。

  14枚撮影済みのフィルムを取り出して、昔利用していた近所のカメラ屋へ持って行ったんですが、ここで、またビックリ! いつの間にか、閉店していたのです。 確か、一年くらい前に見た時には、DPEのみに規模を縮小しながらも営業を続けていたような気がするんですが、その後、力尽きた模様。 うーむ、フィルム時代は遠くなりにけり。 やむなく、他の店に持って行きました。 そちらの店も、以前は、≪カメラのキムラ≫だった看板が、いつの間にか、≪カメラのキタムラ≫に変わっており、何やら隔世の感あり。 でも、まだカメラも扱っており、堅調に営業しているようでした。

  現プリ代、1185円。 高いのか安いのか分かりません。 7~8年放置されていたにも拘らず、14枚は無事に撮れていました。 ここで、またまたビックリ! 全部、我が家の犬を撮ったものだったんですが、画質が異様に良いのです。 アングルから見て、全て手持ち撮影と思われるのに、毛の一本一本まで、くっきり見えるから驚き。 コンパクト・デジカメにしてからも、犬は何十回も撮りましたが、こんな細密な写真は撮れた例しがありません。 フィルムの粒子というのは、細かかったんですねえ。 お見せしたいところですが、パソコンで表示すると、ピクセル数の制限があるので、どうせ潰れてしまうでしょう。 ≪フィルム・紙・化学反応≫という、アナログ処理だからこそ可能な画質なんですな。

  それと、一眼レフはレンズ径が大きいだけあって、開放で撮ると、ボカシがたっぷり利く事を再認識させられました。 コンパクト・デジカメだと、開放でも充分暗いので、被写界深度が広がって、綺麗にボケてくれません。 ついでに気付いたんですが、動物の写真というのは、目にピントを合わせて、開放で撮れば、とにもかくにも芸術作品風に見えるようですな。 もっとも、今のコンパクト・デジカメでは、マニュアル露出モード自体が省かれているので、開放にしようがないですけど。


  とまあ、そんな事が夏休みにあったのです。 「最後のフィルムは処理した。 フィルム一眼レフは押入れ深くにしまった。 よし、これで片付いたぞ」で、済むはずだったんですが・・・、済まなかったんですな。 久しぶりに一眼レフとレンズをいじり、それで撮った写真を目にしたばっかりに、日頃あれほど警戒していた、≪一眼デジカメ欲しい病≫に感染してしまったのです。 他人には、「一眼デジカメなんて、ガラクタだ」とか何とか言って、買わないように言って来たのに、自分が欲しがっていてどうする? 立場上、やばいじゃん!

  「カメラは壊れてしまったが、レンズはまだ使えるのだから、一眼デジカメの中古を買って来て、復活させてみちゃあどうか」 一旦そう思ったら、その計画が脳裏から離れなくなってしまったのです。 思いついた当初は、中古カメラなど、どこで売っているのか知らなかったので、そこから先へ進まなかったんですが、二週間ほどたった頃、とあるカメラ・チェーン店のサイトを見ていたら、中古品のページがあるのを発見。 どうやら、全国規模の中古品売買システムを構築している模様なのです。 試しに、私の持っているレンズを着けられる一眼デジカメの機種を調べてみたら、あるわあるわ、選びようがないくらい、うじゃうじゃ出ているじゃないですか。

  私の持っているレンズは、リコーの≪リケノン・レンズ≫なんですが、リコーのマウントはペンタックスの≪Kマウント≫と同じなので、ペンタックス機なら、着くには着くのです。 一番安い、≪ist≫系列のボディーで、18000円から、23000円くらい。 新品を買うのに比べたら、タダみたいなもんですな。 ≪ist≫系列機は、610万画素しかありませんが、私の望みは、「眠っていたレンズに、もう一度光を通してやりたい」という事だけなので、600万画素だろうが、200万画素だろうが、どうでもいいのです。

  というわけで、ふらふらと予約を入れかけて、はっと気付いたのが、≪レンズ付きキット≫の存在です。 ボディーと標準ズームのレンズがセットになっている奴。 「いや、レンズはいらないから・・・」とパスしかけて、値段を見てビックリ! なんと、ボディーのみの場合と、大して変わらないのです。 「げっ!」と、思いましたよ。 そうなんです。 一眼デジカメを手放す人には二種類いるのです。 同じメーカーの新機種を買うために、ボディーだけ売って、レンズを残す人と、他のメーカーに乗り換えるために、レンズごと売ってしまう人が。 そして、もともと、カメラとセットで販売された標準ズーム系のレンズは、大量に世に出ているため、単独では値段が付かないほど、価値が低くなっているんですな。

  「それでも、レンズはいらない!」と初心を貫徹したい所ですが、実は、まだ他に問題があるのです。 私の持っているレンズは、28-70ミリで、フィルム・カメラなら標準域なんですが、デジカメで使うと中望遠域になってしまい、非常に使い難い事が予想されるのです。 具体的に言うと、比較的近くにある物を全体を入れて撮るという事ができません。 コンパクト・デジカメで言えば、常にズーム域の真ん中辺りで撮っているようなものです。 想像するだに、不便そうでしょう?

  「それなら、保険のつもりで、レンズ付きの方にしておこうかなあ」などと、心が揺れるわけですが、今のレンズは、ピントも露出もオートですから、使い始めれば、そちらの方が便利に決まっており、私が持っているマニュアル・レンズなんぞ、押入れに逆戻りになるのは、使う前から決まったようなものです。 ダメじゃん! それじゃ、意味無いじゃん!

  自己矛盾という大きな壁にぶち当たったお蔭で、ここで一旦、欲の悪夢から覚めました。 諦めてみると、「新品に比べたら、タダみたいなもの」なんてセリフが、よく口から出たもので、冷静に考えれば、2万円前後がタダみたいものであるはずがありませんわなあ。 呆れた失言だね。 うーむ、欲に突き動かされている時には、感覚が麻痺してしまうものなんですねえ。


  というわけで、計画はあえなく頓挫し、雲散霧消したかに見えたのですが、そうはイカのキンダーランドだったんですねえ。 もう一方で、平行して進んでいた、≪野鳥撮影器材購入計画≫が破綻しやがったのです。 これは、≪デジビノ≫の回で書いたように、野鳥観察に興味を覚え始めた私が、コンパクト・デジカメと双眼鏡を組み合わせる不様な撮影器材に嫌気が差し、「高倍率ズーム機か、一眼デジカメ+超望遠レンズを買ってしまおう」と思い立ったあの一件から、しぶとく心の隅でくすぶり続けていた計画です。

  単に、「昔のレンズをもう一度使ってみたい」という動機だけで始まった、≪一眼デジカメ購入計画≫とは違い、≪野鳥撮影器材購入計画≫には、野鳥撮影という目的があるので、むしろ、そちらの方が実現性は高かったのですが、これが、完膚なきまでにコケてしまったんですな。 それはなぜかというと、野鳥サイトを作っている方々が使っているのと同じ器材を揃えようとすると、必要最低限でも10万円を超し、充分条件を揃えるとなれば、60万円くらいかかってしまう事が分かったのです。

  いくら興味が湧いたとはいえ、たかが趣味に、そんな大金をはたくわけには行きません。 それでなくても、仕事が暇で、給料が少ないというのに、趣味に10万円? わははは! 冗談も休み休み言えよ。 ちなみに野鳥を画面いっぱいの大きさで、鮮明に撮ろうと思ったら、≪EDレンズ付きのフィールド・スコープ+コンパクト・デジカメ≫か、≪連写速度の速い高級一眼デジカメ+500ミリ単焦点EDレンズ≫のどちらかにするしかないらしいのですが、前者だと10万円、後者だと60万円になるのです。 趣味に60万円とは驚き入った傾倒ぶりのようですが、考えてみれば、走り屋や各種コレクターなどは、ン百万、ン千万でも平気で使いまくっているわけで、それらに比べれば、別段突飛な浪費というわけではないのかもしれません。 だが、しかし、だけど、私には無理! そんな大出費は、金輪際できません。

  そういうわけで、≪野鳥撮影器材購入計画≫は断念せざるを得なくなったのです。 ところが、それまで二兎を追っていたのが、一兎になった途端、≪一眼デジカメ購入計画≫の方が、俄然、現実味を帯びて来てしまったんですな。 「10万円払うのに比べたら、2万円くらい安いもんだべさ」 なるほど、それはその通りだわさ。 ううう、なかなか物欲から逃れられない!


  もちろん、一番いい方法は、何も買わない事です。 そんな理屈は分かっています。 でも、「何でもいいから、何か買え~っ!」という欲望が、私の脳味噌をキリキリ締め上げるのです。 振り返れば、リーマン・ショック以降、給料が減って約一年間、高い買物をしたといえば、≪内蔵DVDドライブ≫の3000円だけ。 長い間、支出を抑制してきたから、浪費欲に飢えてやがるのでしょう。 ええい、いい歳こいて、物欲もコントロールできないとは情け無い!

  何とか断念しようと、今でも戦い続けてはいるのです。 一眼デジカメのデメリットをズラリと並べるとか。

1 大きくて重いので、ウエスト・バッグを着けなければならない。
2 ミラー・ブレがある。
3 マニュアルレンズをつけると露出が狂うので、外部露出計を使わなければならない。
4 ピントもマニュアルになるので、シャッター・チャンスを捉られない。
5 中古品は完全作動するかどうか、信用が出来ない。
6 中望遠域のレンズでは、撮れる対象が限られている。

  ところが、これらの問題点は全て、否定も可能なのです。 

1 毎週、一眼デジカメを使わなくても、用途に応じてコンパクト・デジカメと使い分ければよい。
2 今時、ミラー・ブレくらいは、ブレ補正機能でカバーできる。
3 外部露出計はフィルム時代に買った物があり、正常に作動するのを確かめた。
4 カメラ任せでなく、狙った所にピントを合わせられるので、却って表現の幅が広がる。
5 中古とはいえ、カメラ専門店がチェックしている品なので、信用度は高い。
6 対象は無限にある。 今まで見過ごしていた対象を見つけ、撮り方を工夫するのも楽しみの内ではないか。

  てな具合にね。 いやねえ、こういう言葉の上の検討は、いくらでもできるのですよ。 デメリットも無数に挙げられれば、それに対する反論も同じ数だけ並べられます。 弁証法みたいなもんですから、いくら考えたって、合理的結論なんて出やしません。 結局は、「欲しいか、欲しくないか」という、至って感情的な所に戻ってしまうのです。

  そもそもの動機が動機ですから、買ったって、二三回撮りに出れば、すぐに飽きるに決まっているのです。 撮っても、せいぜい、100枚といった所でしょう。 そのために、2万円か~! くー、厳しいなあ。 でもねえ、もう一つ、私の背中を押す理由があるのですよ。 それは、今たけなわの、≪豚インフル≫でして、もしかしたら、この冬あたり、私もくたばる可能性があるわけで、そう考えると、2万円ばっかケチるのも、馬鹿な話だと思うのです。 今の内に、買いたい物買って、やりたい事やって、悔いが残らないようにしようかなあとね。 でも、こういう考え方って、浪費家や借金魔がよく口にするんですよね。 どうしたもんだか。