2009/11/01

穀潰し管理職

  10月に入ってから、俄かに仕事が忙しくなり、毎日残業が2時間半だの3時間だのと、非常識極まりない長時間労働となったため、はっきり言わせて貰って、こんなコラムなど書く暇は無くなってしまいました。 まったく! どうせ国の減税政策が終われば、ドッカーンと爆発的に生産が落ちるのは分かっているのであって、なんで今、集中的に、こんなに苦しい思いをさせられにゃならんのか、さっぱり分かりません。

  しかも、いつもの手で、わざとラインを停止させて、残業時間を延ばしている疑いあり。 4月から9月まで、毎日定時前に仕事が終わっていた為に、ざっくり減った収入を、ここへ来て生産数が増えたのを利用し、怒濤の残業で一気に取り戻し、年収の目減りを防ごうという魂胆なのでしょう。 頭に来るのは、そういう事を企んでいる奴らが、現場でヒーヒー働いている人間ではなく、会社へ来るなり詰所にしけこんで、椅子にのけぞって、何の仕事もせず、時間が過ぎるのを待っている穀潰し野郎どもだという事です。

  よく、「日本の製造業は、極限まで無駄を省いた生産を行なっている」とか何とか言って、「乾いた雑巾を更に絞る」などと、いかにも企業神話めいた持ち上げ方をするエコノミストがいますが、冗談も休み休み言うべきですな。 偉そうに講釈並べる前に、自分が期間工にでもなって、どこの工場でもいいから半年くらい勤めてみなよ。 自分の目で現場を見てみりゃ、そんな寝言、小声で呟く気もなくなるから。

  日本の工場では、働いている人間と、働いていない人間がパックリ二つに分かれます。 働いているのは、まだ出世していない若手か、出世できない終身ヒラ工員か、最初から出世する気が無い人間性が強い人間かのいずれかです。 一方、働いていないのは、出世して現場から離れた連中です。

  終身雇用や年功序列といった制度こそ、すでに崩れていますが、残業終了後も会社に残って、私生活を犠牲にする事を厭いさえしなければ、自動的に出世するシステムになっているので、年を経るごとに、働く人間は減り続け、働かない人間は増え続けます。 会社の組織は、ピラミッド状になっているので、上に行くに従いポストが少なくなり、毎年増える出世組は、やがて飽和してしまいます。 すると、今度は同じ肩書きの人間が増え始めます。 組織の末端を細分化し、無理やり≪○長≫のポストを作って、分け与えるしかなくなるんですな。

  私の勤め先なんて、凄いですよ。 私が入社した20年前には、1人でやっていた役職を、今では、5人で分け合っています。 全体の仕事量が増えているわけではないので、1人当たりの仕事量が5分の1になっているのです。 それでも、○長は○長で、≪偉さ≫は変わりません。 現場工員とその一段上を除き、全ての段階のあらゆるポストに、この多重化現象が起きており、所在無い中間管理職ばかり、うぞろうぞろと社内をうろつき回っています。 仕事が少ないので、時間を持て余し、詰所に隠れているか、ポケットに手を突っ込んで目的地も無く歩く回っているかのどちらかしかできないんですな。

  「それは、中間管理職のワーク・シェアリングなのでは?」と思うかもしれませんが、全然違います。 とんでもない! この連中、仕事はしてないけれど、給料は○長相当分をしっかり貰っているのです。 もちろん、現場工員よりずっと多い金額を取っています。 シェアリングであれば、仕事が少なくなるのに合わせて給料も減って然るべきですが、そうではないのです。 だーから、穀潰しだって言うのよ。 そして、バブル崩壊後15年くらい新入社員が入って来なかった事情もあり、今や、正社員の内、半数近くが、この穀潰し管理職になっています。

  会社も馬鹿だねえ。 出世したい奴をどんどん出世させて行ったら、一体、誰が働くんだよ。 大体、工場なんてのは、現場が第一なのであって、管理職なんていらないんだよ。 物を作らなきゃ一円にもならないんだからさ。 物を作るのは誰だ? 管理職か? 違うだろ? 工場で出世を目指すというのが、そもそも奇異なのではありますまいか。 肉体労働のきつさから解放されたくて出世を望む者が多いですが、工場に於いては、肉体労働が利益を生むわけですから、それから解放されたいという事は、工場にとって必要ない存在になりたいと願っているようなものではありませんか。

  この連中、「いてもいなくてもいい奴ら」なら、まだ可愛気があるですが、仕事はせずに高給だけふんだくっているわけで、明らかに、「いない方がいい奴ら」になっています。 いても、会社には何の利益も齎さず、給料を持って行く分、損害だけを与えているのですからね。 それが、社員の半分を占めているというのが、どれだけの無駄か想像つきますか? 実際問題、この穀潰し管理職どもを全員クビにしたとしても、翌日も工場は何の問題も無く稼動するでしょう。

  無駄、無駄、無駄っ! 無駄が服を着て歩いているのが、日本の製造業の現場なのです。 そして、会社は、契約規定上、その穀潰しどもをクビにする事ができないのです。 定年になるのを待つか、病気や事故で死ぬのを待つか、何か天啓でも受けて、自分から辞めてくれるのを待つか、いずれにせよ待つ事しかできず、どんなに会社の業績が悪化しようが、赤字の山が築かれようが、倒産が目前に迫ろうが、この無駄な連中を切り捨てる事ができません。 やれやれ、えらい奴らを育てたものよのう。

  当人達も、自分が何の仕事もしていない事は認識していますが、悪びれた様子は小指の先ほども感じさせません。 それどころか、その待遇を、自分の有能さに対する評価だとか、今までの貢献に対する会社からのご褒美だとか、手前勝手に解釈して、現場工員に対して優越感に浸っている始末。 笑ってしまうではありませんか、会社に必要無い人間が、必要な人間に対して優越感を抱いておるのですよ。 アホか? ボケとんのか? 文字通り、何様のつもりじゃ、おどれりゃ?

  ただ、僅かですが、自分の宙ぶらりんな立場にいたたまれなくなって、役職を返上し、現場工員に戻る人もいます。 いや、戻る気になれば、それは当人の一存で出来るのですよ。 誰も止めやしません。 こういう人達は、出世組からは軽蔑され、非出世組からは異端扱いされ、その後、寂しい会社生活を余儀なくされますが、心ある者からは、「よく、無意味なポストへの執着を断ち切った」と評価されます。


  まあ、こんなのが実情なわけですよ。 工場でなくても、事務や営業の現場にも、似たような状況が発生しているんじゃないですかねえ? どこにでもいるでしょう、何の仕事もしていないのに、なぜか上で威張っている、穀潰しのクズ野郎が。 会社には、生物と同様に老化や寿命があって、発足から年月が経つに連れ、組織が劣化してきます。 ワンマンだった創業者が死んでしまって、会社の方針が定まらなくなったとか、他社と合併したら、気風が合わずに、組織がぐじゃぐじゃになってしまったとか、生き物的な弱点が多々見受けられるのは、実に興味深いですな。 そして、どの組織でも起こるのが、この穀潰し管理職の増殖なのです。

  こいつらをクビにできる方法がみつかれば、企業の利益は、即座に、倍になりますよ。 間違いないっす。 リストラを断行している所でも、クビを切られるのは、ヒラじゃなくて、高給を取っている管理職でしょう? 会社も個人と同じで、追い詰められると、真実に目を開き、誰が会社に利益を齎し、誰が損害を及ぼしているか、見分けられるようになるわけですな。