2010/01/17

2010年・冬の読書

今週は、またまた6日稼動だったので、文章を書いている時間がありません。 だもんで、恒例の読書感想文で穴埋めを図ります。 いやいや、そう言ってはいても、半分、いや、4分の1は謙遜でして、決して手抜きではなく、写真を10枚もアップしなければならないので、結構大変なのですよ、これでも。 というわけで、今回も10冊です。 例によって、全部、図書館で借りて来た本。 中には写真集も含まれていますが、まあ、大目に見てください。




≪アザラシの自然誌≫
  イギリスのウェールズ地方に棲むハイイロアザラシとゼニガタアザラシの生態や人間との関わりの歴史を詳細に記した本。 著者は、イギリスに於けるハイイロアザラシ研究の第一人者だそうです。 学術書というほど硬い内容ではありませんが、科学的アプローチによる観察や接触方法をとっていて、信用が置ける内容になっています。

  イギリスでも、60年代頃までは、普通にアザラシ猟が行なわれていたそうですが、著者達の研究によって、アザラシと漁業資源との関係が明らかになり、害獣扱いから、保護の対象に変化していったのだとか。
 野生動物の生息環境を保護するに当たって、地道な学術的調査がいかに重要かが分かります。




≪アザラシは海の犬≫
  これもイギリス人が書いたアザラシの本ですが、呆れた事に、アザラシを捕まえて来て、犬のように躾け、ドーバー海峡横断のパートナーに仕立てようと試みた記録です。 著者の本業はクレソン栽培家で、副業が発明家。 子供の悪戯のような風変わりな事が大好きで、先祖から受け継いだ広大な屋敷に住んでおり、繁殖地から捕まえて来た二頭のゼニガタアザラシの赤ん坊を、庭にある大きな池で調教しようとします。

  この著者、頭の中が子供のままでして、読んでいて、あまりの無責任さにムカムカして来ます。 アザラシ飼育の知識など全く無いのに、専門家でも難しい赤ん坊の保育を無手勝流で始め、人工乳を飲ませる事には成功するものの、魚の餌への移行に失敗し、調教どころか、生かしておく事さえ侭ならぬていたらく。

  二頭の中でいじめが起こると、途端に手に負えなくなり、いじめていた方の一頭を、≪アザラシの自然誌≫の著者に引き取ってもらいます。 ところが、自分が飼っていた方が死んでしまい、引き取ってもらった方が魚の餌への移行に成功して生き残ると、今度は、そちらを借りて来て、テレビ撮影の為にあちこち引き回し、結局は海で逃げられてしまいます。 こんな勝手放題な事をされて、≪アザラシの自然誌≫の著者が、よく怒らなかったものだと不思議でなりません。

  この引き取られたアザラシに関しては、≪アザラシの自然誌≫の中にも記述があるのですが、両者で内容が食い違っている部分があり、≪アザラシの自然誌≫の著者の方が信用度が高いので、余計にこちらの著者がいい加減に見えて来ます。

  そもそも、ドーバー横断のパートナーにするなどという、超が付くほど下らない目的の為に、アザラシの赤ん坊をさらいに行く、その神経が分かりません。 時代が60年代だから許されたのであって、今こんな事をしたら、動物愛護的にも自然保護的にも、世間から吊るし上げられるのは疑いありません。 




≪アザラシの棲む岬から≫
  アザラシの本というより、襟裳岬に住みついたカメラマンの著者の写真エッセイ集です。 アザラシの写真はあまり多くないのですが、水中で撮った一枚に、全身が写ったアザラシが、ギョロッとカメラの方を見ているものがあり、それが大迫力です。 図書館では、動物学のコーナーに置いてありましたが、内容的には、写真集に分類すべきですな。 アザラシについての学術的解説などは無いので、要注意。




≪アザラシの赤ちゃんに出会う旅≫
  カナダ東部、セントローレンス湾の流氷の上で子育てする、タテゴトアザラシの赤ちゃんを見に行くツアーがあるらしいのですが、そのツアーの魅力を紹介した本。 著者は、アザラシの赤ちゃんの写真を日本で流行らせたカメラマンで、この本にも、真っ白い毛に包まれた可愛い赤ちゃんの写真がふんだんに使われていて、写真集としても十分なボリュームがあります。

  ただ、後半、話が変な方向に進み、アザラシ猟を禁止に追い込んだ自然保護団体への批判が出て来ると、「なんじゃ、こりゃ・・・」という感じになって来ます。 著者は何度もツアーに参加している内に、元アザラシ猟師の地元民達と懇意になり、次第にそちらの主張に染まってしまったようなのです。 それでも、本文では辛うじて中立を保っているのですが、あとがきになると、はっきりと、自然保護団体を扱き下ろしてしまっています。 どうも、自分が薦めているアザラシ・ウオッチング自体が、自然保護団体の活動が無ければ実現しなかった事を、理解していないようなのです。

  「猟師だって、アザラシの赤ちゃんは可愛いと思っているのだ」という話が繰り返し出て来ますが、これも猟師の言い繕いに丸め込まれているとしか思えません。 一方で可愛いと思っているのに、一方でその頭をかち割れる人間がいたら、それは狂人でしょう。 猟師の言い分を精一杯良心的に解釈しても、「可愛いと思う時もあるが、殺す時にはそんな事は考えていられない」くらいがいい所ではないでしょうか。

  なまじ、アザラシの赤ちゃんの写真が素晴らしいだけに、猟師に同情を示す著者の態度には、強烈な違和感を覚えます。 そういう主張がしたいのなら、別の本でやればよかったのに。 恐らく、この本を手に取った人のほとんどが、読後、胸がモヤモヤし、著しく興醒めする事でしょう。




≪ネオン街に眠る鳥たち≫
  都市に適応した鳥の研究で有名になった、唐沢孝一さんの本。 前半は、ゴミ焼却場の施設内に大群で入り込んで眠るハクセキレイなど、個別事例が並べられます。 留鳥といっても、やはり冬の寒さはこたえるらしく、少しでも暖かい場所を探して、眠るのだそうです。 後半になると、「なぜ、鳥は群れて眠るのか?」の考察になり、学問の雰囲気が出て来ます。 しかし、あくまでも観察を元にした推論の域を出ず、仮説を実験で確認しようという所までは行きません。 かなり面白い内容なんですが、やはり日本の鳥類学の限界が感じられます。




≪鳥の渡りの謎≫
  鳥が長距離を移動する時に、どんな感覚を頼りに方向や目的地を決めているかを調べている学者達の研究成果を概説した本。 私がここ数年読んだ本の中で、最も科学的に厳格な内容でした。 ハトを使って、様々な実験を行なっているのですが、その実験方法の工夫の仕方が凄まじい。 「ここまでやるのか!」と、タジタジしてしまうほど細かいです。 鳥の渡りの研究をしているのは、専らドイツやアメリカの学者ですが、彼らの科学的探究心が、どれだけ強く深く高いものか、思い知らされます。 この本、対象の種類に関わらず、動物学に興味がある人は、是非一度読んでみる事をお薦めします。

  で、鳥の渡りの仕組みですが、地形の記憶や、地球の磁場、太陽の傾斜角、星の位置、匂いなど、いろいろな要素を組み合わせて利用しているらしいです。 面白かったのは、人間にも磁場を感じる能力があるという件り。 目隠しと耳栓をして回転椅子に乗せ、くるくる回した後、どっちを向いているかを訊ねると、かなりの確率で当たるらしいのです。 実験前数日の寝る時の体の方向が関係していて、地球磁場に合わせて南北方向に向いて寝ると、方向感覚がよくなるのだとか。 方向音痴に悩んでいる方は、試してみてはいかがでしょう。




≪夢の動物園≫
  泣く子も驚く旭山動物園の、現園長である坂東元さんが書いた本。 坂東さんは、テレビで旭山動物園が取り上げられると、必ず登場するので、顔を見た事がある人も多かろうと思います。 この方、恐らく、日本一有名な地方公務員なのではありますまいか。

  ペンギン館やアザラシ館など、旭山動物園の名物施設を構想した時のエピソードの他、御自身が動物と関わるようになった経緯、ボルネオ島へ野生の象を見に行った時の体験記など、盛りだくさんの内容になっています。 とりわけ、これからの動物園の果たすべき役割について語っている後半は、示唆と含蓄に飛んでおり、読み応えがあります。 ただの理想論なら誰でも言えますが、坂東さんの場合、実行に移し、しかも驚異的な成功を収めているので、説得力のインパクトが違います。




≪旭山動物園へようこそ≫
  旭山動物園本の一つ。 「文・坂東元」「写真・桜井省司」とありますが、基本的には写真集で、その合間に、ちょこちょこっと、坂東さんが書いた文章のページが挟まっている形です。 写真はどれも逸品、しかも、かなりページ数があるので、見応えはたっぷりあります。 マリンウェイに縦に浮いているアザラシの姿が、現世離れして美しいです。




≪〈旭山動物園〉革命≫
  旭山動物園が全国区で有名になった時の園長である、小菅正夫さんが書いた本。 題名の通り、旭山動物園の≪革命≫の経緯が記されています。 施設の老朽化で低迷し、閑に飽かせて夢ばかり膨らませていた頃から始まり、エキノコックス騒動で入場者数が最低に落ち込んだ危機や、市長の交代で追い風が吹き始めた時期を経て、行動展示施設の実現で日本一有名な動物園になるまで、波乱の十数年が語られています。 旭山動物園関連の本はたくさんありますが、どんな理由でこんなに有名になったのか、一冊で一通り頭に入れたいのなら、この本が一番分かり易いと思います。




≪旭山動物園のつくり方≫
  日本の動物園史のエポックになりつつある旭山動物園の特徴を、外部の人間の目で観察した本。 批判も賛美も無く、現地で見た事聞いた事を、そのまま書いているという感じを受けます。 経営者側だけでなく、飼育展示員の何人かにも取材して、本音を拾っている所は、丁寧な取材ですな。 かなり大きなサイズの本なので、写真にも迫力があります。

  後半は、前園長の小菅正夫さんと、立松和平さんの対談が納められています。 これはちょっと曲者でして、立松さんが自分の自然保護観を強く主張しすぎており、主客転倒の嫌い無きにしもあらず。 小菅さんが、立松さんに遠慮して、自分の意見を抑え気味に話しているのが分かるので、小菅さん側に立って読んでいる者にはモヤモヤ感が溜まってしまうのです。 対談は論戦と違って、ある程度、相手と話を合わせなければならないので、何かの結論を得ようとするには不向きなんですな。