腕時計性胃炎
事の起こりは、昨年暮れにあった、叔父の葬儀でした。 礼服は新たに買い、ワイシャツ、ネクタイ、靴下、靴は元からあった物を身に着けたのですが、ふと見ると、腕時計が足りません。 「やはり、して行った方が、何かと便利だろうな」と思い、机の上にいつも置いてある、カシオのデジタル腕時計をして行きました。 かれこれ20年前に買ったもので、ウレタン・ベルトが切れ、電池も切れて、数年間 抽斗の奥に死蔵していたのを、3年前に酔狂半分で復活させた物です。 他に、生きている腕時計というと、100円ショップで買った品が一つと、積立貯金の口座開設プレゼントで貰ったスポーツ・ウオッチだけで、いずれも、葬儀には相応しくないので、カシオのデジタル以外に選びようが無かったのです。
で、その日一日それを着けていたわけですが、白状しますと、なるべく人前では袖を捲らないようにしていました。 このデジタル、一度ベルトが切れたわけですが、バネ棒を使わず、特殊な整形をしてあるベルトを、本体の溝に差し込むというタイプだったため、交換用のベルトが手に入らず、市販のウレタン・ベルトを買って来て、U字にした針金で本体と繋ぎ、無理やり復活させたのです。 パッと見では、そんな小細工をしてあるとは思えないほど自然に見えるのですが、目が肥えた人が見れば一目瞭然でバレて、「貧乏臭い事してやがるなあ!」と呆れられてしまうのは避けられないところ。 こりゃもう、極力隠すしかありませんわなあ。
で、その日はそれで凌いで、「ああ、終わった終わった。 これで暫く腕時計をする事もあるまい」と思って、それっきり腕時計の事は打ち忘れていました。 ちなみに、私は普段、腕時計を全くしない生活をしています。 仕事中は、腕時計禁止ですし、通勤中はバイクなので、袖を捲って時計を見る事ができません。 時計なんか見なくても、決まった時間に家を出れば、毎日ほぼ同じ時間に会社に着きますから、何の問題も無いのです。 休みの日は休みの日で、大抵カメラを持って出かけますから、そちらで時間は分かるので、腕時計は必需品ではありません。
で、すっかり忘れていたわけですが、3週間ばかり前に、労金から、預金ポイントが溜まったという通知が来て、俄かに、「腕時計を手に入れなければ!」と思い立ってしまったのです。 「労金ポイントと腕時計に、何の関係があるねん?」と思うでしょう。 いや、それがあるのですよ。 労金ポイントというのは、50ポイント以上になると、ギフト・カタログを貰えるのです。 ギフト・カタログで貰う物といったら、腕時計に決まっているじゃありませんか。
いや、決まっているわけではありませんが、私の場合、貧乏性なので、カタログから何か選べるとなると、なるべく複雑な機械や、電気製品を選んでしまう傾向があり、安いカタログだと電気製品は大した物がありませんから、腕時計が最有力候補になるわけです。 というか、他の物が眼中に入らないくらい、腕時計のページに目が釘付けになってしまうのです。 今回の場合、すぐに頭に浮かんだのが、「葬式に着けて行けるような腕時計が欲しいな」という欲望でした。 ちょうど必要だと思っていたところだったので、渡りに舟というわけですな。
ところがねえ、ギフト・カタログの腕時計というのは、そんなに高い物ではないんですよ。 カタログの内容は、ネット上で確認できるので、予め調べてみたんですが、50ポイントで貰えるカタログに載っている腕時計は、値段にして大体2500円くらいの品なのです。 この値段だと、明らかに、≪安物≫の部類に該当します。 腕時計は100円ショップでも売っているわけですが、それらは非防水なので別格として、日常生活防水以上で一番安いというと、千円クラスからでしょうか。 私の感覚だと、腕時計の価値の上限は、一万円くらいでして、それ以上出すなら、他の物を買います。 つまり、千円から一万円が、私の腕時計の入手可能範囲なわけですな。 その内の、2500円というと、かなり低い方という事になります。
たぶん、葬式の時にしか使わないので、なるべくなら、オーソドックスなデザインが宜しい。 「葬式に、腕時計で目立ってどうする?」ってなもんです。 つまり、個性ゼロで、誰でもしているような時計がいいわけです。 ところが、ギフト・カタログというのは、そんな無個性な時計なんざ載せちゃいません。 安物を少しでも高そうに見せるために、極力派手なデザインを選んでいるフシがあります。 スポーツ系か、さもなくば、パーティー系ですな。 葬式にスポーツ・ウオッチは論外として、パーティー系は、若干トラディショナルと重なる部分もありますが、やはり、派手なのであって、葬式でもオッケーというのが、なかなかありません。 やはり、カタログで手に入れるのは無理か。
ここで、一つの裏技を思いつきました。 労金ポイントは、20ポイントで、≪QUOカード 千円分≫が貰えるので、それを2枚貰い、コンビニで、2000円分、何でもいいから買い物をしてしまいます。 その分浮いた2000円で、時計屋か通販で、自分が好きな時計を買うというのはどうでしょう。 おお、うまいやんけ。 それなら、バッチリ、葬式向けの時計が手に入るわい。 ただ、かなり面倒臭い手順になるけれど…。 考えてみれば、2000円くらい、自腹切っても大した出血ではないんですが、なまじ労金ポイントがあるもんだから、それを使わなければいけないという強迫観念に囚われて、こんなややこしい手段を思いつくわけですな。
そうそう、労金ポイントには、期限がありまして、私の場合、夏までに使わないと、10ポイント失効してしまうのです。 これが強迫観念を呼び覚まさずにいられましょうか。 いいや、いられるわけがない! 自他共に認める吝嗇家である私が、ポイントを失効させたりした日には、おめおめと生き恥を曝すわけに参りません。 ええい、是が非でも、否が応でも、使ってくれるわ!
で、ネット上で、2000円くらいの時計を調べてみたんですが、いろいろとあるんですな、これが。 カシオのスタンダード系列に、オーソドックスなデザインの物があり、それがなかなかの風格。 三針式で、日付・曜日表示。 1960年代に一般的に見られた、大人の男の腕時計を彷彿とさせ、とても、2000円とは思えない外観です。 おそらく、同じ物を持っているか、同じ物を買おうとした人でなければ、これが2000円とは見破れないでしょう。 シチズンにも、Q&Qブランドあたりに、同様のデザインの品がありますが、見た目の風格はだいぶ安っぽくなります。 さすが、カシオ。 G-SHOCKのような高い時計を主力にするようになっても、安い時計のファンを見捨てず、低価格で高く見える品を揃えてくれています。
「じゃ、それにすれば?」と思うでしょうが、ここで重大な障碍が立ちはだかりました。 「葬式なんて、滅多に起こらないんだから、クオーツはまずいんじゃねーの?」と言うのです。 つまり、抽斗にしまって、親戚が死ぬのを待ってる間に、時計の方が先に死んでしまうというわけ。 そのつど、電池を入れ替えていたのでは、本体を安く買っても、電池代で高くついてしまいます。 ちなみに、交換は自分でやるにしても、電池代だけで、400円くらいします。 カシオのスタンダード時計の場合、電池寿命は2年なので、10年経つと、電池代が時計本体の値段を超えてしまいます。
「なら、むしろ、奮発して、自動巻きを買うか」なんて、思ってしまったから、さあ大変。 確かに、自動巻きなら、機械式ですから、電池は要らないわけですが、その代わり、値段が高い。 最も多く出回っているセイコー5でも、最低5000円はします。 5000円なら、そんなに高くはありませんが、あいにく、私は裏蓋スケルトンが嫌いなのです。 ステンレス裏蓋よりも、1.5ミリも厚くなり、腕に着けると、時計が浮き上がっているように見えるのが、たまらなく嫌。 そして、今売られているセイコー5は、みんな裏蓋スケルトンなのです。 つまり、セイコー5は買えないわけですな。 それ以外となると、いきなり値段が跳ね上がって、1万円前後になります。
うーむ、労金ポイントを消化するのが本来の目的だったのに、もはや、そんな物どこかへすっ飛んでしまって、一万円の時計を見比べて、「どれにするか」と悩んでいる有様。 どこで間違えて、こんな事になってしまったのでしょう。 この時点で、すっかり、≪腕時計欲しい病≫に罹っており、もはや、何かしら腕時計を買わなければ気が済まないという精神状態に陥っています。
葬式用という条件すら怪しくなって来て、ネット上の腕時計サイトをあちらこちらと見て回り、ああでもないこうでもないと不毛な吟味を続ける毎日。 だけどねえ、いくら悩んだって、決まるわけないんですよ。 もともと、どうしても必要というわけではない上に、欲しいかどうかすらはっきりしてないんですから。 ただ、事の成り行きで、欲しがっているような錯覚に陥っているだけなのです。
そもそも、葬式に時計なんて、して行かなくたって一向に構わないのです。 今はケータイで時間を見る人の方が多いですから、他人の時計なんざ誰も気にしちゃいません。 よせよせ、やめちまえ。 …と、何度も諦めようと思ったのですが、「いや、どうせ他に欲しい物も無いんだし、道楽だと思って、一万円くらい使ってしまおうか」などと、吝嗇家にあるまじき不心得を起こして、性懲りもなく品定めを続ける毎日。
「長持ちさせるのなら、やはり金属ベルトでなければなるまい」とか、
「革ベルトでも、腐ったら交換すればいいわけだが、動物愛護を考えると、ワニ革はまずいだろう」とか、
「葬式にだけ使うなら、日付・曜日は無い方が、前日に時間だけ合わせれば済むから、都合が良いのではなかろうか」とか、
「クオーツでも、使わない時に電池を抜いておけば、かなり長持ちするのではないか」とか、
「電池を抜くなら、裏蓋を外せなければ困るが、スクリュー式だと特殊な工具が必要になって、却って高くついてしまう。 やはり、機械式の方がいいか」とか、
「葬式用なら、礼服の色に合わせて、白黒デザインの時計がいいんじゃないか」とか、
まあ、自分でも呆れるくらい、あれこれと、くっだらねー事が頭の中を去来しました。 そればかりか、腕時計の通販サイトで、店長がやっているブログに読み入って、過度の親近感を抱き、「いい時計ですねえ」などと、コメントを打ち出すに至っては、もう自分でも何をやっているのか分かりません。 店長と知り合いになってどうする? わけ分からんわ。
と、そんな事を一週間も思い悩んでいる内に、突如、激しい腹痛に襲われました。 腸が重苦しく痛み、胃にも下から押し上げられるような痛み。 便通が滞り、腹全体が膨れ上がって、外見的にも尋常な健康状態ではありません。 腸の方は原因不明ですが、胃の方は疑いなく、考え過ぎの悩み過ぎで、胃炎を起こしたのです。 このままで行けば、胃潰瘍の恐れすらあり。 まずいまずい、こんな下らない事で、胃に穴を開けてどうする?
数日苦しんだ挙句、少しずつ便が出て、腸の方は回復したのですが、胃は良くなったり悪くなったりで、一向に本復しません。 体が弱ってくると、追い討ちをかけるように、つまらない事が気になり始めるもので、「そもそも、葬式用の腕時計を用意しておこうなどと思ったのが罰当たりだったか。 まるで、親戚が死ぬのを待っているみたいではないか」と思うと、気分が落ち込み、落ち込むとますます胃が痛くなります。
この胃痛を治すには、腕時計問題を解決するしか無いと思うのですが、あまりにも考え過ぎたために、むすぼれが雪達磨式に膨れ上がって、解決の糸口が見つからなくなってまったのです。 悩み始めたきっかけは、労金ポイントなのですから、何でもいいから引き替えてしまって、ポイントを消化してしまえば、すっきり治ると思うんですが、なまじ選択肢がたくさんあるものだから、どれが最良の道と決める事ができません。
同じ50ポイントで、髭剃り機を貰ってしまう、というのも考えました。 髭剃り機は必ず壊れますから、貰うだけ貰って、しまっておけば、今使っているのが壊れ次第、確実に出番が回って来ます。 いつ使うか分からない葬式用腕時計なんぞより、なんぼか実用的です。 しかし、実用的であるがゆえに、気分が乗らないのです。 髭剃り機には、買い物としてのロマンがありません。 そもそも、髭剃り機にロマンを求めるのがおかしいですが。
で、どうしていいか決まらんのですわ、いまだに。 前にも書きましたが、私、金が絡むと、判断力や決断力が著しく鈍る欠点があります。 こうして、これを書いている間も、胃が痛くて仕方ありません。 とにかく、今週中には、何とかするつもりでいます。 ほんとに、死んだらつまらんですから。
で、その日一日それを着けていたわけですが、白状しますと、なるべく人前では袖を捲らないようにしていました。 このデジタル、一度ベルトが切れたわけですが、バネ棒を使わず、特殊な整形をしてあるベルトを、本体の溝に差し込むというタイプだったため、交換用のベルトが手に入らず、市販のウレタン・ベルトを買って来て、U字にした針金で本体と繋ぎ、無理やり復活させたのです。 パッと見では、そんな小細工をしてあるとは思えないほど自然に見えるのですが、目が肥えた人が見れば一目瞭然でバレて、「貧乏臭い事してやがるなあ!」と呆れられてしまうのは避けられないところ。 こりゃもう、極力隠すしかありませんわなあ。
で、その日はそれで凌いで、「ああ、終わった終わった。 これで暫く腕時計をする事もあるまい」と思って、それっきり腕時計の事は打ち忘れていました。 ちなみに、私は普段、腕時計を全くしない生活をしています。 仕事中は、腕時計禁止ですし、通勤中はバイクなので、袖を捲って時計を見る事ができません。 時計なんか見なくても、決まった時間に家を出れば、毎日ほぼ同じ時間に会社に着きますから、何の問題も無いのです。 休みの日は休みの日で、大抵カメラを持って出かけますから、そちらで時間は分かるので、腕時計は必需品ではありません。
で、すっかり忘れていたわけですが、3週間ばかり前に、労金から、預金ポイントが溜まったという通知が来て、俄かに、「腕時計を手に入れなければ!」と思い立ってしまったのです。 「労金ポイントと腕時計に、何の関係があるねん?」と思うでしょう。 いや、それがあるのですよ。 労金ポイントというのは、50ポイント以上になると、ギフト・カタログを貰えるのです。 ギフト・カタログで貰う物といったら、腕時計に決まっているじゃありませんか。
いや、決まっているわけではありませんが、私の場合、貧乏性なので、カタログから何か選べるとなると、なるべく複雑な機械や、電気製品を選んでしまう傾向があり、安いカタログだと電気製品は大した物がありませんから、腕時計が最有力候補になるわけです。 というか、他の物が眼中に入らないくらい、腕時計のページに目が釘付けになってしまうのです。 今回の場合、すぐに頭に浮かんだのが、「葬式に着けて行けるような腕時計が欲しいな」という欲望でした。 ちょうど必要だと思っていたところだったので、渡りに舟というわけですな。
ところがねえ、ギフト・カタログの腕時計というのは、そんなに高い物ではないんですよ。 カタログの内容は、ネット上で確認できるので、予め調べてみたんですが、50ポイントで貰えるカタログに載っている腕時計は、値段にして大体2500円くらいの品なのです。 この値段だと、明らかに、≪安物≫の部類に該当します。 腕時計は100円ショップでも売っているわけですが、それらは非防水なので別格として、日常生活防水以上で一番安いというと、千円クラスからでしょうか。 私の感覚だと、腕時計の価値の上限は、一万円くらいでして、それ以上出すなら、他の物を買います。 つまり、千円から一万円が、私の腕時計の入手可能範囲なわけですな。 その内の、2500円というと、かなり低い方という事になります。
たぶん、葬式の時にしか使わないので、なるべくなら、オーソドックスなデザインが宜しい。 「葬式に、腕時計で目立ってどうする?」ってなもんです。 つまり、個性ゼロで、誰でもしているような時計がいいわけです。 ところが、ギフト・カタログというのは、そんな無個性な時計なんざ載せちゃいません。 安物を少しでも高そうに見せるために、極力派手なデザインを選んでいるフシがあります。 スポーツ系か、さもなくば、パーティー系ですな。 葬式にスポーツ・ウオッチは論外として、パーティー系は、若干トラディショナルと重なる部分もありますが、やはり、派手なのであって、葬式でもオッケーというのが、なかなかありません。 やはり、カタログで手に入れるのは無理か。
ここで、一つの裏技を思いつきました。 労金ポイントは、20ポイントで、≪QUOカード 千円分≫が貰えるので、それを2枚貰い、コンビニで、2000円分、何でもいいから買い物をしてしまいます。 その分浮いた2000円で、時計屋か通販で、自分が好きな時計を買うというのはどうでしょう。 おお、うまいやんけ。 それなら、バッチリ、葬式向けの時計が手に入るわい。 ただ、かなり面倒臭い手順になるけれど…。 考えてみれば、2000円くらい、自腹切っても大した出血ではないんですが、なまじ労金ポイントがあるもんだから、それを使わなければいけないという強迫観念に囚われて、こんなややこしい手段を思いつくわけですな。
そうそう、労金ポイントには、期限がありまして、私の場合、夏までに使わないと、10ポイント失効してしまうのです。 これが強迫観念を呼び覚まさずにいられましょうか。 いいや、いられるわけがない! 自他共に認める吝嗇家である私が、ポイントを失効させたりした日には、おめおめと生き恥を曝すわけに参りません。 ええい、是が非でも、否が応でも、使ってくれるわ!
で、ネット上で、2000円くらいの時計を調べてみたんですが、いろいろとあるんですな、これが。 カシオのスタンダード系列に、オーソドックスなデザインの物があり、それがなかなかの風格。 三針式で、日付・曜日表示。 1960年代に一般的に見られた、大人の男の腕時計を彷彿とさせ、とても、2000円とは思えない外観です。 おそらく、同じ物を持っているか、同じ物を買おうとした人でなければ、これが2000円とは見破れないでしょう。 シチズンにも、Q&Qブランドあたりに、同様のデザインの品がありますが、見た目の風格はだいぶ安っぽくなります。 さすが、カシオ。 G-SHOCKのような高い時計を主力にするようになっても、安い時計のファンを見捨てず、低価格で高く見える品を揃えてくれています。
「じゃ、それにすれば?」と思うでしょうが、ここで重大な障碍が立ちはだかりました。 「葬式なんて、滅多に起こらないんだから、クオーツはまずいんじゃねーの?」と言うのです。 つまり、抽斗にしまって、親戚が死ぬのを待ってる間に、時計の方が先に死んでしまうというわけ。 そのつど、電池を入れ替えていたのでは、本体を安く買っても、電池代で高くついてしまいます。 ちなみに、交換は自分でやるにしても、電池代だけで、400円くらいします。 カシオのスタンダード時計の場合、電池寿命は2年なので、10年経つと、電池代が時計本体の値段を超えてしまいます。
「なら、むしろ、奮発して、自動巻きを買うか」なんて、思ってしまったから、さあ大変。 確かに、自動巻きなら、機械式ですから、電池は要らないわけですが、その代わり、値段が高い。 最も多く出回っているセイコー5でも、最低5000円はします。 5000円なら、そんなに高くはありませんが、あいにく、私は裏蓋スケルトンが嫌いなのです。 ステンレス裏蓋よりも、1.5ミリも厚くなり、腕に着けると、時計が浮き上がっているように見えるのが、たまらなく嫌。 そして、今売られているセイコー5は、みんな裏蓋スケルトンなのです。 つまり、セイコー5は買えないわけですな。 それ以外となると、いきなり値段が跳ね上がって、1万円前後になります。
うーむ、労金ポイントを消化するのが本来の目的だったのに、もはや、そんな物どこかへすっ飛んでしまって、一万円の時計を見比べて、「どれにするか」と悩んでいる有様。 どこで間違えて、こんな事になってしまったのでしょう。 この時点で、すっかり、≪腕時計欲しい病≫に罹っており、もはや、何かしら腕時計を買わなければ気が済まないという精神状態に陥っています。
葬式用という条件すら怪しくなって来て、ネット上の腕時計サイトをあちらこちらと見て回り、ああでもないこうでもないと不毛な吟味を続ける毎日。 だけどねえ、いくら悩んだって、決まるわけないんですよ。 もともと、どうしても必要というわけではない上に、欲しいかどうかすらはっきりしてないんですから。 ただ、事の成り行きで、欲しがっているような錯覚に陥っているだけなのです。
そもそも、葬式に時計なんて、して行かなくたって一向に構わないのです。 今はケータイで時間を見る人の方が多いですから、他人の時計なんざ誰も気にしちゃいません。 よせよせ、やめちまえ。 …と、何度も諦めようと思ったのですが、「いや、どうせ他に欲しい物も無いんだし、道楽だと思って、一万円くらい使ってしまおうか」などと、吝嗇家にあるまじき不心得を起こして、性懲りもなく品定めを続ける毎日。
「長持ちさせるのなら、やはり金属ベルトでなければなるまい」とか、
「革ベルトでも、腐ったら交換すればいいわけだが、動物愛護を考えると、ワニ革はまずいだろう」とか、
「葬式にだけ使うなら、日付・曜日は無い方が、前日に時間だけ合わせれば済むから、都合が良いのではなかろうか」とか、
「クオーツでも、使わない時に電池を抜いておけば、かなり長持ちするのではないか」とか、
「電池を抜くなら、裏蓋を外せなければ困るが、スクリュー式だと特殊な工具が必要になって、却って高くついてしまう。 やはり、機械式の方がいいか」とか、
「葬式用なら、礼服の色に合わせて、白黒デザインの時計がいいんじゃないか」とか、
まあ、自分でも呆れるくらい、あれこれと、くっだらねー事が頭の中を去来しました。 そればかりか、腕時計の通販サイトで、店長がやっているブログに読み入って、過度の親近感を抱き、「いい時計ですねえ」などと、コメントを打ち出すに至っては、もう自分でも何をやっているのか分かりません。 店長と知り合いになってどうする? わけ分からんわ。
と、そんな事を一週間も思い悩んでいる内に、突如、激しい腹痛に襲われました。 腸が重苦しく痛み、胃にも下から押し上げられるような痛み。 便通が滞り、腹全体が膨れ上がって、外見的にも尋常な健康状態ではありません。 腸の方は原因不明ですが、胃の方は疑いなく、考え過ぎの悩み過ぎで、胃炎を起こしたのです。 このままで行けば、胃潰瘍の恐れすらあり。 まずいまずい、こんな下らない事で、胃に穴を開けてどうする?
数日苦しんだ挙句、少しずつ便が出て、腸の方は回復したのですが、胃は良くなったり悪くなったりで、一向に本復しません。 体が弱ってくると、追い討ちをかけるように、つまらない事が気になり始めるもので、「そもそも、葬式用の腕時計を用意しておこうなどと思ったのが罰当たりだったか。 まるで、親戚が死ぬのを待っているみたいではないか」と思うと、気分が落ち込み、落ち込むとますます胃が痛くなります。
この胃痛を治すには、腕時計問題を解決するしか無いと思うのですが、あまりにも考え過ぎたために、むすぼれが雪達磨式に膨れ上がって、解決の糸口が見つからなくなってまったのです。 悩み始めたきっかけは、労金ポイントなのですから、何でもいいから引き替えてしまって、ポイントを消化してしまえば、すっきり治ると思うんですが、なまじ選択肢がたくさんあるものだから、どれが最良の道と決める事ができません。
同じ50ポイントで、髭剃り機を貰ってしまう、というのも考えました。 髭剃り機は必ず壊れますから、貰うだけ貰って、しまっておけば、今使っているのが壊れ次第、確実に出番が回って来ます。 いつ使うか分からない葬式用腕時計なんぞより、なんぼか実用的です。 しかし、実用的であるがゆえに、気分が乗らないのです。 髭剃り機には、買い物としてのロマンがありません。 そもそも、髭剃り機にロマンを求めるのがおかしいですが。
で、どうしていいか決まらんのですわ、いまだに。 前にも書きましたが、私、金が絡むと、判断力や決断力が著しく鈍る欠点があります。 こうして、これを書いている間も、胃が痛くて仕方ありません。 とにかく、今週中には、何とかするつもりでいます。 ほんとに、死んだらつまらんですから。
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