2011/05/22

汚染列島

  全然、駄目ですなあ、福島第一。 メルトダウンが明らかになっても、工程表を見直す必要は無いとの事。 そりゃそうだわな。 元々、丼勘定で作った工程表なんだから、事情に応じて、調整するほどの繊細さなどあるわけがありません。 それ以前に、原子炉の状態がどうなっているかによって、処置方法がまるで変わってくると思うのですが、原子炉建屋の中に入れなかった段階で、工程表なんか、よく発表できたなあと、そちらの方に驚きます。

  建屋の中といえば、ロボットですが、今使っているのはアメリカ製、次は、スエーデン製ですと。 くっくっく・・・、笑うなと言われても、笑っちゃうよねえ。 誰だよ、「日本は、ロボット大国」なんて言ってた奴は。 今でも、言えるか? ちったあ、恥ずかしいと思うなら、二度と口にするなよ、「ロボット大国」という言葉。

  それにしても、アメリカ製のロボットなんて、えらい単純な構造で、汎用部品を寄せ集めて、ロボ・コンの高専学生に組ませたって、二週間くらいで作れそうに見えますが、そんなものですら、日本では実用化されていなかったとはねえ。 いや、10年前に、電機会社が作るには作ったんだけど、電力会社に買ってくれって、持って行ったら、「原発で事故は起こらないから、そんな物は要らない」と、足蹴にされたのだとか。 ちっ・・・、救いようがねーな。

  戦時中、東北大学の八木教授が、≪八木アンテナ≫という、世界でも最先端の技術を発見して、電波兵器の開発に協力できるかもしれないと、陸軍に話を持って行ったら、「帝国陸軍は、そんな兵器に頼らなくても、敵に勝てる」と言われて、追い返されたという話を聞いた事がありますが、その時から、全く進歩してないねえ。 日本人らしいっつやー、実に日本人らしいが。

  そういえば、原発敷地内の瓦礫を撤去するのに、ドーザーをつけた74式戦車を、東富士から持って行ったのは、その後どうなったんですかねえ? 遠隔操作の重機も使っているそうですが、そういう重機があるなら、人間が乗らなければ動かない戦車は、要らなかったでしょうに。 戦車は、安くないよ。 74式でも、3億円くらいしたんじゃないの? 一度、ああいう用途に使ってしまったら、元の配属場所には戻せないと思うのですが、それも、国民の税金で払うのか? やれやれ。 天井知らずに、経費が膨らんで行くのう。

  も一つそういえば、バブル時代に、科学技術庁と重工企業が技術実験のお遊びで作ったものの、使い道が無くて、分割して、清水港に運ばれ、釣堀にされていた、≪メガ・フロート≫が、福島第一に到着したとか。 放射性汚染水を入れるタンクとして使うそうですが、これにも、74式戦車と同じ危なっかしさを感じますな。

  素人の思いつきで、「おお、あれが使えるじゃないか!」と、掌を打ったのでしょうが、もともと、水を入れるために設計した構造物ではないのですから、問題なくタンクに使えるとは、到底思えません。 水漏れしたら、どうやって直すの? 潜水具着けて、放射線数万倍の海へ潜るのかい? 誰が?

  メガ・フロートをタンクに使うためには、原発の前の海に係留しておかなければならないわけですが、大きな余震が起こって、また津波が押し寄せてきたら、どうするつもりなんですかね? そういう事は、全く懸念していないのか? メガ・フロートが津波に押されて、原発敷地に乗り上げてきたら、何もかも一巻の終わりですぜ。 どうも、関係者は、福島第一が片付くまで、次の地震が待っていてくれると思っているように見えるのですが、相手は自然なのですから、そんな心遣いは持ち合わせていますまい。

  最初の頃、原発学者が、「タンカーを持っていって、汚染水を入れろ」とか言っていましたが、あれも、余震で津波が来る可能性には、全く考えが及んでいなかったんでしょうなあ。 どいつもこいつも、考え足らずに、適当な事を、ポンポン口にする事よ。 海運会社は、断って正解でしたねえ。 一回、放射性汚染水なんか入れられちゃったら、もう使えなくなってしまいますよ。 安くないよ、タンカーは。

  メガ・フロートも、使い終わったら、どうするつもりなんだか。 清水に戻す? 引き取らないでしょう。 釣堀なんかより、健康の方が大事だものねえ。 解体する? その作業は、どこでやるんですか? 解体したゴミは、どこに持って行くんですか? ほーれほれ、全然考えてない。 行き当たりばったりもいいところ。

  そもそも、事故が起こらない事を前提に、原発を作っていたんだから、実際に事故が起きた時に、どうすればいいかなんて、言~隹も、イ~可にも考えていなかったんでしょうなあ。 ニュースを見ていると、福島第一の内部では、専門家達が叡智を結集して、できうる限り最良の対策を取っているようなイメージがありますが、その実、≪原発事故の専門家≫などという者は、日本には一人もいないのであって、みーんな、素人なわけだ。

  事故対策マニュアルすら、あったかどうか疑わしい。 だって、「原発では、事故が起こらない」と思っていたんだから、そんなもん用意しているわけないわなあ。 素人が寄り集まって、その場で考えて、あれやこれやと、やっとるのよ。 ぞーっとする話ですが。 せめて、メガ・フロートのような巨大浮遊物が目の前の海にある時、次の津波が、どういう惨事を引き起こすかくらい、想像してくれ。 おまいらも、死にたかあるまい。


  3月11日に福島第一を襲った津波の高さについて、東電が、ここへ来て、「14、5メートル」を強調しているのも、何だか醜いねえ。 つまり、「そんな大津波だったのだから、対応できなくても仕方がない。 俺達のせいではない」と言いたいんでしょうが、なーにを虫のいー事を言ってるだーか。 そもそも、そういう大津波にも対応できなければ、原発を作っちゃいけないんじゃないんですか? ええ? 「想定外」は、聞き飽きたよ。

  大体、おまえら、そんな屁理屈捏ねてまで、責任逃れする必要無いんじゃないの? 東電社員に、自腹を切って、賠償しろと言っているわけではないんだから。 おまえらの勘定であっても、結局、ツケは国民全体で払うのさ。 どんなに大赤字になろうが、国が支援してくれるし、電気料金の値上げで、利用者に負担を押し付ける事もできる。 最悪、会社が解体されても、結局、関東圏の電気事業者は必要なわけだから、どうせ、ほとんどが再雇用されるに決まっている。 となれば、何をそんなに焦る事がある?


  何が驚いたと言って、福島第一の事故が起こった後に行なわれた世論調査でも、6割の人間が、原発の推進・容認側に回った事です。 これは、凄い! 毎日のように、ニュースで、原発事故の齎す甚大な被害を見せつけられていながら、まだ、賛成なんだとさ。

  原子力に関する知識が、そんなに普及しているとは思えませんから、この人達、「安全だから、推進・容認」なのではなく、「今のところ、他人事だから、自分の住んでいる所が停電しない方が大事」とでも考えているのでしょう。 危機に対する認識力が完全に欠如しているのは、ある意味、社会学や心理学の研究対象になりうるほど、興味深い現象です。

  浜岡原発運転停止の要請が、政府から出された時の、地元自治体の反応も凄かった。 不平たらたらですよ。 「停止に反対しているわけじゃない。 やり方に問題があると言っているんだ」と、怒りも露わに、ぶつくつぶつくさ。 なんですか、「やり方」って? 要請じゃなくて、命令なら良かったのかな? いやいや、皮肉が通じる相手ではなさそうだ。 とどのつまり、自治体に入る金が減るのが、嫌で嫌で我慢がならないのでしょう。

  しっかしなあ、えー、おい、あんたら。 福島のニュースを見ていないのかね? 浜岡で同様の事故が起これば、真っ先に自分の家を追い出されるのは、あんたらなんだぜ。 永久に帰れなくなる可能性も高いのに、それでも、金の方が大事かい? まさか、「追い出された後も、国の金で暮らせるから、損は無い」なんて算盤弾いているわけでもあるまいに。 とても、帳尻が合わない事くらい、直感的に分かるよな?

  静岡県は、富士川以東が東京電力、以西が中部電力で、テレビの県内局は、中部電力管内の静岡市にあります。 で、その県内局の報道番組での、キャスター達の反応が面白かった。 浜岡原発停止と聞いて、何とも言えぬ複雑な表情を見せていたのです。 「安全性を考えると、やむをえないという気もしますが・・・・、地元の人達には生活もあるわけで・・・・」と、ごにょごにょ、ごにょごにょ。 つまり、停止に対して、不満があるらしいのです。

  「地元の人達の生活」云々は、あまりにも建前臭いので、真に受けないとして、彼らが気にしているのは、「自分達が住んでいる静岡市で、停電になったら困る」というところではないでしょうか。 いや、十中八九そうだと思います。 「計画停電になったら、ビデオの予約録画ができなくなる」とか、「節電しなければならなくなったら、コンセントを抜いたり、エアコンの設定温度を落としたり、何かと面倒臭い」とか、そんなとこでしょう。

  「家から追い出される」と、「面倒臭い」を天秤にかけて、「面倒臭い」が勝ってしまっているのだから、もう、しょーもないです。 「家から追い出されるのは、将来の可能性に過ぎないが、面倒臭いのは確実に起こるのだから、当座の面倒臭さを避ける方が優先だ」とでも、考えているんでしょうかね? 実際に、家から追い出された後に訊けば、絶対に同じ事は言わないと思いますけど。 この人達、一応、報道関係者のはしくれなんですが、情報があっても、判断力が無ければ、こんな結論しか出せないんですなあ。

  キー局のテレビも、浜岡停止について、「首相のやり方」を槍玉にあげて、ああだこうだと文句を言っていますが、それを口にしているのが、福島第一の惨状を伝えて、東電や政府の対応を、「遅い」だの、「拙い」だのと、ボロクソに貶しているのと同じキャスターだから、奇怪至極です。 一体、原発に反対なのか、賛成なのか、どっちなんだよ?

  こやつらの場合、たぶん、上から、「東電や政府を吊るし上げるのは構わないが、原発そのものに反対するのはやめろ」と言われたのでしょう。 圧力の出元は、CMスポンサーである、産業界だと思います。 「一日も早く生産を回復させたいのに、電力供給がこれ以上滞ったら、足を引っ張られてしまう」と、原発反対世論が盛り上がるのを恐れているのに違いありません。 そういう裏事情を踏まえた上で、キャスター達の態度を観察していると、滑稽で笑ってしまいます。

 「歯に衣着せず、言いたい事をズバズバ言う」のを売りにしていて、「天下のご意見番」、「世論の代弁者」を気取っている奴ほど、矛盾した主張を、屁理屈で無理やり擦り合わせようとするものだから、滑稽度が高くなります。 論を弄ぶ者は、論に溺れる。 不様で、惨めなやつらよのう。 全く正反対の意見を、並べて言っていて、自分の頭がおかしくなるような感じはせんか?


  もし、日本で原発を全廃するとしたら、今が最大の好機である事は、疑いないです。 福島第一の事故のせいで、原発の恐怖が、ビジュアルで全国民の目に届いており、原発事故の記録を文章で読むよりも、桁違いに強烈な印象を、人々の脳裏に焼き付けているからです。 スリーマイルやチェルノブイリは、日本人にとって、「所詮、他人事」だったわけですが、今度は違う。

  実際に、自分の家を追い出され、荷物を取りに行くのも思うに任せず、老人や病人は、移動の負担でバタバタ死に、家族の一員のはずだったペットは、置き去りで餓死or行方不明。 その上、避難した先では、放射線と放物線の区別もつかない馬鹿どもに、謂れの無い差別を受けるという、理不尽さ。 あの日を境に、一気に地獄に突き落とされたような人々の様子が、テレビをつければ、毎日のように、目に入って来るのです。

  と・こ・ろ・が・だ。 本来、最も反原発の世論が沸騰してしかるべき、この情況においても、実際の、反対意見は、この程度なのです。 反対どころか、堂々と推進を口にしている者まで、うようよいる始末。 ニュース、見とらんのか? それとも、頭おかしいのか? 「馬鹿は死ななきゃ治らない」は、真理だったのか?

  浜岡原発の停止にしてからが、「防潮堤が完成して、安全性が確保されるまでの、2年ほど」という期限付きです。 福島第一の例を見ても、防潮堤が出来たからといって、安全性が保証されるとはとても思えないと思うのですが、そうは思わない人間の方が、多いという事なんでしょうなあ。 防潮堤というのは、低くすれば津波に乗り越えられますし、高くすれば構造が脆くなって、津波に押し流されてしまいます。 映像を見れば、感覚的に理解できると思うのですが、あの津波の、真っ黒でどっしり重たい水を、人工構造物で受け止められると思う方がおかしいです。

  今の、この情況にありながら、「安全性」という言葉が、軽々しく使われているのも、非常に気になります。 「では、福島第一は、安全ではないのに運転していたのか?」と問われれば、そうではないでしょう? あれで、安全だと思っていたのです。 危険性を隠していたわけですらありません。 東電も国も、本当に、「事故は起こらない」と、思い、考え、判断し、信じていたのです。 ところが、事故は起こった。

  これは、危険性を隠して運転していた場合より、当事者達の力では防ぎようが無いという点で、より深刻な事態と言えます。 当人達は、危険だと思っていないのだから、防ぐ努力なんかするわけないですわな。 赤ん坊が、高い所を平気で這って歩くのと同じです。 「落ちたら死ぬ」という認識がないから、恐怖心が湧きません。 安全だと信じていれば、それ以上の安全対策は取らないものです。

  浜岡の場合、防潮堤が完成すれば、その時点で、「安全になった」と判断され、運転再開となるわけですが、そんな「安全性」に、どれほどの信頼性があるでしょうか。 つまるところ、「安全性が確保された」という言葉が欲しいだけなのであって、実際に安全になったかどうかなど、どうでもいいと思っているのでしょう。

  「そんな事を言い出したら、原発なんか作れない」とは、某御用学者の言い分と同じですが、皮肉にも、まさにその言葉通りなのでして、絶対の安全性が確保できないのであれば、原発は作るべきではないのです。 それを無視した結果が、今の福島の情況を招いたわけですな。


  だ・け・ど・ね・え・・・・、 残念ながら、日本の原発は無くならないと思うのですよ。 それでなくても、論理的思考のできない民族ですから、合理的な判断を下して、原発を全廃するなんて、できるわけがないです。 この点、ドイツ人と比較すると、面白いですな。 ちなみに、日本人とドイツ人は、「極端思考に走り易い」、「異民族を人間だと思っていない」といった点で似ていますが、それ以外には、何の共通点もありません。 むしろ、ものの考え方には、正反対なところがあります。

  日本人の行動原理は、論理性とは対極にある、至って動物的な、≪恐れ≫の感情に突き動かされている面が大きいです。 ≪むつ≫の事故以降、原子力船には手を出していませんが、その理由は、「原子力船は手に余る」と、論理的に判断を下したからではなく、あの、長年にわたる盥回しに辟易し、同じような情況を再現する事への「恐れ」が、決定的な影響を与えたのだと思うのです。

  今回の福島第一の事故ですが、どれだけの≪恐れ≫を日本人に植えつけるかが、原発に対する意識を変える鍵になると思います。 被害が、地元自治体に限られている間は、他の土地、特に他都道府県民は、「所詮、他人事」という意識を乗り越えられないでしょう。 「頑張れ、ニッポン!」などと言っている事自体、自分の事だとは思っていない証拠です。 実際に、家を追い立てられた福島の人達は、「頑張れ、ニッポン!」なんて、言ってないですよ。 自分が頑張るのに手一杯でね。


  未だに、放射性物質の漏出が止まっておらず、土壌に蓄積される放射性物質の量は、加算されていく一方ですから、最悪の場合、関東と南東北が、居住不能になる可能性もありますが、そうなれば、もう、否も応も無く、原発は全廃になるでしょう。 だけど、たぶん、そこまでは行かないと思うのです。 というか、そこまで行かなければ、方針変更ができないようでは、もうこの島に住む資格が無いでしょう。 まったく、日本列島も、えらいやつらに住み着かれたものだて。 このままでは、虫も棲めなくされてしまうよ。

  そういや、大気中の放射線量は発表されるけど、土壌の蓄積量は、発表しませんな。 IAEAが飯館村で計測した時には、地表面の放射線量の方を測っていましたが、なんで、日本では、地表を測らぬ? 一日たてば消えてなくなって、次の朝から、また溜まり直すというわけではなく、どんどん足されていくわけですから、日が経てば経つほど、放射性物質は増えて行く事になります。

  ちなみに、チェルノブイリでは、爆発した原子炉を、コンクリートで固めてしまったので、10日で放射性物質の漏出は止まりました。 こんなに長期間に渡って漏出が続いているのは、福島第一が世界初という事になります。 前人未到の怪挙ですな。 ギネス・ブックは、こういうのも扱ってるんですかねえ?