2011/11/13

恐慌の足音

  いやあ、ヨーロッパの経済危機で、綱渡り状態が続いていますなあ。 ソ連が崩壊して、社会主義陣営が総崩れになった頃には、まさか、勝ったはずの資本主義がこんなに脆いとは、思いもしませんでした。 憶えているぞ、忘れてないぞ、確か、勝ち誇ってたよねえ。 あまりにも勝ち誇り過ぎて、旧社会主義諸国を、憐れみの目で見下していたくらいに。

  たぶん、「社会主義か、資本主義か」という二項対立で、経済のパターンを捉えていた考え方自体が間違いだったのであって、「社会主義も資本主義も、唯一の正解にはなり得ない」というのが、当たりだったのでしょう。 そして、真の正解が何なのか?、いや、それ以前に、真の正解など本当にあるのか?、と、それすらも分からないのが現状なわけだ。 何とも、情けない事よ。 経済学者よ、この情況を何と見る? おまいらのやっている学問は、子供の戯れ事か?

  日本人の中には、「ヨーロッパの話だから」と、対岸の火事のように思っている、呑気な輩も多いようですが、とんでもない思い違いなのであって、対岸の火事どころか、他山の石とのんびり構えてさえいられないのであって、ヨーロッパ経済が破綻しようものなら、日本経済にも、ほとんど直撃に近い影響が出ます。 空中分解、もしくは、轟沈とでも言うべきか。 あんたら、みんな、失業するでよ、破産するでよ。

  資本主義世界、つまり、現在の地球上の国々のほとんどが組み込まれている世界という事になりますが、その資本主義世界では、ここ10年ほどの間にグローバル化が著しく進み、相互の関連が強まって、もはや、「地域経済圏」など想定するのが無意味なほどになってしまっています。

  ヨーロッパ経済がコケれば、古くから密接なつながりがあるアメリカ経済もコケ、ヨーロッパとアメリカに製品を輸出している中国もコケます。 アメリカと中国がコケれば、両国の市場に深く依存している日本経済がコケるのは、火を見るよりも明らか。 自分の所だけ助かると思ったら、大間違いです。

  毎日のように、テレビや新聞で、ヨーロッパ経済危機の解説が繰り返されているので、ここでまたおさらいをするつもりはありませんが、大掴みに言うと、

「資本主義体制を取っている民主主義国は、必ずと言っていいほど、収入よりも支出の方が多いため、国債を発行して金を借りているが、その額が増え過ぎたせいで、返済不能に陥り、経済破綻する可能性がある国が出て来た。 破綻されてしまうと、借りている方だけでなく、貸している方も、大損害を被るので、破綻を食い止めるために、資金援助をしようとしているが、ユーロ圏は寄り合い所帯であるため、方針を円滑に決められず、それが金融市場に信用不安を齎して、ますます、危機を深刻化させている」

  といったところでしょうか。

  大騒ぎになったのはギリシャからで、国の経済が破綻しそうなのに、国民は、「ユーロ圏他国の支援策は条件が厳しいから、受け入れると、暮らしが更に苦しくなる」といって、デモやストばかり繰り返しているため、「観光以外に産業が無いくせに、ユーロ導入で国債を発行し易くなったのをいい事に、借金を膨れ上がらせたのは、自分達ではないか」と呆れられ、優等生ドイツなどからは、呆れを通り越して、軽蔑や憎悪さえ抱かれているという有様。

  しかし、この問題は、ギリシャに限った事ではなく、資本主義体制の民主主義国家なら、どこでも起こりうる事で、実際に、ほとんどの国が借金体質になっています。 特に、日本は、最悪の例になっており、借金の金額は、対GDP比で、断トツ世界一でして、ギリシャどころの話ではありません。 「ギリシャの経済規模など、たかが知れているのに、ユーロ圏が事態を収拾できないのには、驚かざるを得ない」などと、利いた風な事を言っている日本人がいますが、大方、自分の国の借金額を知らん、能天気おじさんなのでしょう。

  単に、資本主義というだけでは、そうはならないと思うのですが、そこに、民主主義が重なると、借金体質になってしまいます。 なぜというに、民主主義に於いては、政治家は、まず選挙に勝たなければならず、選挙に勝つためには、経済運営が常にうまく行っていなければなりません。 つまり、常に景気が良く、常に成長し続けていなければならないのです。 少なくとも、有権者の目に、そう映るように、装わなければなりません。 

  しかし、そもそも、こういう前提に無理があります。 成長するとは、経済規模が拡大し続ける事を意味しているのですが、すでに先進国化した国では、人口増加が止まるのが普通ですから、衣食住プラス、車も家電も足りている状態で、人口が増えないとしたら、経済の拡大など、望む方が無体というものです。 むしろ、縮小するのが自然というもの。 ところが、縮小しているなどと発表すれば、選挙で負けてしまいますから、≪嘘≫でも≪無理やり≫でも、成長率をプラスにしようとします。

  ≪嘘≫に関しては、日本は常習犯ですな。 今年なんか、大震災で、2万人以上死んだ上に、膨大な数の建物やインフラが壊滅して、経済が縮小しているのは間違いないというのに、そんな状態でも、「成長率が鈍化した」程度で、まだ、「成長している」と言い続けています。 どういう手品を使えば、そんな数字が出て来るのか、首を傾げすぎて、ムチウチになりそうです。

  ≪無理やり≫の方は、無駄な公共事業が、それにあたります。 民間の経済が奮わないものだから、経済規模を縮小させまいと、道路だの橋だの空港だの、得体の知れない特殊法人だの、バンバン作って、お金を世の中に回そうというんですな。 これも、見ての通り、日本は凄まじいです。 「金があるから、やる」というなら、問題はありませんが、「金は無いけど、借金して、やる」というから、ぞーーーーっとします。

  個人に譬えれば、借金で首が回らないオヤジが、「家を建て替える」だの、「居酒屋を始める」だの、「ベンツを買う」だの、「子供を大学院まで行かせる」だのと言い出すようなものですが、そんな奴を見つけたら、搦め手から説得するより、正門から精神病院に担ぎ込んだ方がいいでしょう。 「困った人ねえ・・・」じゃ済みませんぜ、奥さん。 お宅のご主人、お気が触れあそばされているのですよ。

  それと同じ事を、国家レベルで長年続けてきた結果、日本などは、借金1000兆円の金字塔を打ち立ててしまったわけですが、どうやって返すのよ、こんな天文学的な金額。 一人当たりで割ると、800万円くらいらしいですが、これは子供も老人も全て含めた場合の話で、家族四人なら、3200万円になります。 そんなに払えますか? そもそも、資産が1000万円以上ある世帯にしてからが、珍しいというのに。

  「日本の国債は、国内の金融機関が持っているから、大丈夫」などという、わけの分からない事を言って、安心感に浸ろうとしている人達がいますが、なんで、国内の金融機関が持っていれば大丈夫なのか、その理由が分かりません。 国債を踏み倒す気なのかもしれませんが、そんな事をしたら、国内の金融機関は全滅しますから、結局、国の経済は破綻しますぜ。

  むしろ、国内の金融機関が持っているから、より危ないんじゃないすか? ユーロ圏のギリシャ支援策では、債務の50%減額が盛り込まれましたが、あれは、ギリシャ国債を持っているのが外国の金融機関で、外国政府が減額で被った損害を補填できるから、そういう支援策を打ち出せるのです。 翻って、日本ですが、国債を持っている国内の金融機関に、借り手である日本政府が、「50%減額せよ」と、命じるわけですか? で、消えた50%は、誰が補填してくれるの?

  日本は、どこかの通貨圏に加盟しているわけではないですから、外国は助けてくれませんよ。 アメリカ? 馬鹿も休み休み言いなさい! アメリカだって、財政事情は、日本と似たり寄ったりです。 リビア侵略の際、巡航ミサイル160億円分撃って、「金が無いから、これ以上続けられん」と言って、手を引いてしまったほど、お金に困っているのです。 160億円で音を上げている状態なのに、どうして、日本という外国のために、1000兆円出すんじゃい? そもそも、どこに、そんな金がある!

  ちなみに、国内の金融機関は、国債を買うお金をどこから手に入れているかというと、預金者の預金からです。 100%でも50パーセントでも踏み倒された場合、銀行も潰れますが、最終的にお金を失うのは、預金者です。 「預金保険機構で、1000万円まで補償されるはず」? わははは! 冗談じゃないですよ。 日本の金融機関が全部コケしてしまうというのに、預金保険機構ごときの微々たる準備金で、全て穴埋めできるわけがないでしょう。

  踏み倒し以外の手としては、大増税が考えられますが、これは、やらない、いや、やれないと思います。 なぜなら、上述した通り、民主主義体制下では、有権者の不評を買うような政策は取れませんから、増税など、以ての外なわけです。 いやはや、困ったねえ。 ジレンマだねえ。

  感覚的・心情的に、受け入れ難いかもしれませんが、日本政府は、預金者の預金をすでに、使ってしまっているんですな。 この世に無いんですよ、あなた方のお金は、もう。 みんな、道路とか橋とか、役人の給料とかに化けてしまっているわけです。 で、道路や橋や、得体の知れぬ特殊法人が、将来的に利益を生み出すのかと言うと、そんな事は全く期待できません。 有料道路は、料金を徴収できるわけですが、人口が今後減る事を考えると、道路の利用者も減るわけで、償還までに何百年掛かるか、分かったもんじゃありません。

  そういや、地方空港は、もっとひどいですな。 開業の年から赤字なんだから、話にならねえ。 需要予測を出した連中に、赤字額を全て贖わせるべきではありますまいか。 当然、責任があるでしょう。 搭乗率補償で、県が航空会社に損失を補填しているなどと聞くと、納税者として、地団駄踏まずにゃいられません。 「誰が、そんなもの作れと頼んだ!」 まったく、馬鹿馬っ鹿りでよー。 地方空港じゃなくて、痴呆空港なんじゃないか?


  話を戻しますが、日本経済は、一旦、躓いたら、ヨーロッパどころでない、大ゴケをします。 日本企業の国際競争力が急激に低下しているのも、不気味極まりない不安要因です。 大震災だけでも、フラフラなのに、タイの洪水で、スリップ・ダウン。 この上、ヨーロッパ経済危機が波及したら、ノック・アウトですな。

  ちょっと脱線しますが、また、どうして、タイにばかり集中して、進出したものかねえ。 タイの投資環境が良いとは、とても思えせんが。 国内政治は、体制派と反体制派の衝突やら、軍事クーデターやら、しょっちゅうだし、隣国と国境紛争も抱えています。 そういう事は、テレビ・ニュースを見ているだけでも分かる事ですが、バラエティー番組で、気楽に行ける国のイメージばかり刷り込まれているものだから、判断を誤ったのでしょう。

  政情不安で、天災付きなんて、リスクの塊やんけ。 「百年に一度の洪水」と言ってますが、次に起こるのが、100年後とは限りませんぜ。 温暖化の影響だとしたら、今後は、10年に一度になるかも知れません。 5年に一度になるかも知れぬ。 どうすんのよ。 その度に、高価な設備を水浸しにするの?


  話を戻します。 国の経済がコケるのは、避けられないとしても、個人の資産をどうにか守れないものかとは、誰もが考えるところ。 踏み倒されない内に、国内金融機関に預けている預金を引き出してしまえばいいわけですが、引き出しても、預け替える所がありません。 外貨にするにしても、ユーロは、もちろん駄目。 ドルも危ない。 人民元は、制度上、まだ買えぬ。 スイス・フランの人気が急上昇しているそうですが、スイス自体に大きな経済力があるわけではないので、金融バブルの可能性が高く、弾けた時が怖いです。

  「不動産でも買っておくか」と考える人は多そうですが、不動産価格は下落しており、使わない土地でも、所有しているだけで税金を取られる事を考えると、気軽に購入するわけには行きません。 大体、人口が減っているのに、不動産が値上がりするわけがないんですよ。 自明の理。 アパート経営? 冗談じゃない。 あんな面倒臭い事。 今時、入居者は、ろくでなしか、死に損ないばっかりですぜ。

  結局、純金にしておくのが、最も無難という事になりますが、純金も、結構値段の変動があって、今が最高値という見方もでき、そうなると、今後は下がるしかないわけで、やはり、損をする事になります。 「下がっても、ゼロにはならない」? いや、まあ、そりゃ、そうすけどね。

  でも、10年くらい前は、1グラム、1500円くらいだったのが、今は、4500円です。 3倍になっているわけで、3倍になるという事は、それだけ変動幅があるという事ですから、今後、3分の1になる事も、可能性としてはありえます。 例えば、今、3000万円分、純金を買ったとして、それが、1000万円になってしまったら、「ゼロにはならない」という言葉など、慰めにもならんでしょう。


  うぬぬぬぬ、畢竟、資産を確実に守る手立ては存在しないのか。 恐るべし、資本主義経済。 死ぬまで、ホームレス化を覚悟して暮らさなければならないのは、つらいっすねー。