2022/11/06

物不足インフレとプーチン氏の目的

  ここ半年ばかり、父の七回忌・その他、いろいろな厄介事があり、とどめに、バイクでコケて腰を痛めるなど、私事で手一杯。 その上、加齢に因る、世事に対する興味の減退もあり、時事問題について、考える事はあっても、文章にする機会がありませんでした。 ウクライナ問題なんぞ、うっちゃらかしだったのですが、先日、少し、日記ブログの方に書く事があったので、それを移植します。 まずは、その基になった、8月の日記から。 例によって、日記には、他の事も書いていますが、関係のない部分は、削除してあります。





【2022/08/17 水】

  西側諸国の中央銀行、及び、政府の面々よ。 いくら金利を操作しても、このインフレの大波は、解消せんぞ。 中国やロシアに対する経済制裁で、様々な品目の輸入ができなくなり、物不足が原因で起こっているインフレですから、金利操作程度では、果物ナイフで、鯨を解体するようなもの。 全く、力が足りません。

  数字で説明するなら、物不足で起こるインフレが、10000くらいの影響力を持つとしたら、金利操作で戻せるのは、1とか、10とか、そのレベルであって、焼け石に水以外の何ものでもないです。 日本で、延々と、超低金利政策を続けて来たのに、人為的なインフレを引き起こすのに、完全に失敗していたのを見ても分かる事。 物不足になったら、2パーセントのインフレ目標なんて、たちまち、突破してしまいましたけど。

  アメリカの場合、そもそもは、トランプ政権が始めた、中国製品の高関税化が発端ですが、「中国からの輸入品を制限すれば、アメリカ国内に雇用が戻ってくる」というのは、世界経済のメカニズムを無視した、大変、軽薄な見通しでして、そんな事には、絶対なりません。 高価な品ならいざ知らず、中国から輸入していたのは、安い価格帯の製品ですから、それを、アメリカ国内で作ったら、賃金が高い分、値段が高くなってしまい、全く採算が合わなくなるのは、よほどの経済音痴でも分かる事だと思います。

  たとえば、バケツのような単純な製品を、アメリカで作ったとして、10年経っても、中国からの輸入品と、価格で戦えるところまで、値段を下げられないと思います。 「少々高くても、国産品を買う」という人がいたとしても、10倍も値段の差があれば、さすがに、安い方を選ぶのでは? インフレが続けば、尚の事です。

  1990年代の半ば頃から、物のやり取りは、世界規模になっていて、今更、一部の国の都合で、変える事はできないのです。 人体に譬えれば、血管網の血流を、部分的に止められないのと同じです。 無理に止めたら、下流の細胞が壊死してしまいます。 アメリカが、中国やロシアに対してやっている事は、自分の体を壊死させているのと同じ、と言ったら、このインフレの恐ろしさが、少しは想像できるでしょうか。

「冷戦時代には、共産圏に対して、ずっと経済制裁をしていたが、アメリカ経済は健全に発展して来たではないか」

  その頃とは、世界経済の構造が変わっているのです。 言わば、冷戦時代は、人体が、二つ、もしくは、それ以上あったわけだ。 今のように、世界全体がリンクしていたわけではありません。 今、同じ事をやれば、体は一つしかありませんから、血流を止めた先は壊死するだけです。

  それを理解する前に、西側諸国は死んでしまいそうだな。 残念ながら、日本も含む。 日本のインフレが、欧米ほどではないのは、中国との貿易を、ほんの一部しか止めていないからです。 頼むから、軽々しく、アメリカに同調して、中国製品に高関税をかけるなんて言い出さないでくれよ。 たちどころに、壊死してしまうぞ。




【2022/10/21 金】

  なに、イギリスの首相が、1ヵ月半で辞任? まあ、それはいいとして、有力な後継者が、前首相? 冗談はよしなさい。

  辞任の主な理由は、インフレと、エネルギー不足だそうですが、対中輸入制限と、対ロ制裁が、物不足・エネルギー不足を引き起こし、それが、インフレの原因になっているのだから、対ロ強硬派の前首相が返り咲いたら、もっと、悪化するでしょう。 結局、ハイパー・インフレまで行ってしまうのでは?

  イギリスだけでなく、西側諸国は、軒並み、インフレに苦しんでいますが、前にも書いたように、金利操作なんて、いくら思い切ってやっても、焼け石に水ですよ。 物不足で起こるインフレは、物不足が解消しない限り、収まりません。 だって、必要な物がないんだもの。 そりゃ、値段は上がりますよ。 金利が変わったって、ない物が、降って湧くわけではありません。

  そんな事は、各国の中央銀行関係者も分かっているはずですが、他にやれる事がないし、何かやっていないと、文句を言われてしまうので、「最大限の努力はしている」というポーズとして、金利操作をしているのでしょう。 情けない話だて。 経済学の限界を見るようだ。 結局、その程度の学問でしかなかったわけだな。

  ちなみに、日本を襲っている円安も、アメリカのインフレ対策である、金利上げが原因で起きているので、日本も巻き込まれている事になります。 ただし、今のところ、日本の物不足は、欧米ほどではないです。 本格的に巻き込まれない為には、

「ロシア非難は、するなとは言わないが、程々にしておくべし」
「中国との貿易を阻害する行為は、絶対に避けるべし」

  この二つを、愚直に守る事ですな。 ハイパー・インフレになってからでは、もう、グッチャグチャになってしまうのだぜ。 給料は、もらった次の日には、一桁価値が下がり、預金は、1000万が、10万や、1万の価値になってしまうのだぜ。 コロナ禍どころではない。 食い詰めた自殺者続出で、火葬場に棺桶の行列が出来る事でしょう。

  「エネルギーは、ロシア以外から買えばいいい」と、安直に考えない方がいいです。 他の国も、同じ事を考えているのだから、取り合いになって、やはり、価格は高騰します。


  うーむ・・・、これは、多くの部分を推測で補った見方ですが、もしかしたら、プーチン氏が、ウクライナ侵攻を実行した目的は、西側諸国の経済を破壊して、世界史の流れを変える事なのかも知れませんなあ。

  どうも、「ドンバス地方の併合」程度では、やっている事と、目的のスケール感が合わないと思っていたのです。 それが、「ウクライナ全土の併合」であっても、やはり、これほど大掛かりな侵攻をするにしては、得られる利益と、バランスが取れない。 しかし、「世界史の流れを変える」のが、真の目的であれば、スケール感は合います。

「ウクライナに攻め込めば、西側諸国は、経済制裁をかけて来るに決まっている。 そうなれば、経済的に困るのは、西側諸国の方である。 下地として、対中輸入制限があり、物不足になっているところへ、ロシアからのエネルギーが止まれば、猛烈なインフレに見舞われ、致命的な大打撃を受けるであろう。 一方、ロシア経済は、中国と貿易をしていれば、インフレになる事はない。 西側諸国で作っている物で、中国で作っていない物は、贅沢なブランド品くらいのものだが、必要な物は、量的質的に、全て、中国から買う事ができるからだ」

  たぶん、侵攻前に、この驚くべき大胆な構想について、中国とインドには、それとなく、相談をしてあったのでは? かつて、植民地化や半植民地化で、西側諸国から辛酸を舐めさせられた、中国・インドですから、「それは、面白い」と思ったはず。 協力はしないが、見て見ぬフリくらいならしてやろうと・・・。

  もし、そうだとすればですが、対ロ制裁の強化をすればするほど、プーチン氏の思惑通りになるわけで、西側諸国は、完全に罠に嵌まっている事になります。 「ロシアのウクライナ侵攻は、大誤算の大失敗」などという批判は、そもそもが、全くの的外れで、「西側諸国経済の破壊」という的は、見事にど真ん中を射抜き、大当たりのコンコンチキ状態、という事になります。

  発案者は、プーチン氏本人でしょうな。 他人が思いついた構想を採用したにしては、やる事が大掛かり過ぎるからです。 プーチン氏から、構想について打ち明けられているのは、政府や軍の上層部の、ごく僅かな人数でしょうが、その面々、聞かされた時には、「そんなに、うまく行くのか?」と思っていたのが、現実に、西側諸国の経済が大激震に揺さぶられ始めると、魔法を見るかのように驚いたのではありますまいか。

  そう考えると、プーチン氏が、戦争の状況に、関心がないように見えるのが、説明できます。 「プーチンは、追い詰められている」と言っているのは、そう思いたい、西側諸国の政府やマスコミであって、普通に見たら、笑顔か、無表情かのどちらか。 ゼレンスキー氏の、眉間の皺がどんどん深くなる、苦虫噛み潰した顔とは、対照的です。 気の毒なのは、ウクライナで、西側諸国を潰す為のダシに使われているわけですが、プーチン氏にしてみれば、乾坤一擲、ロシアの国運を賭けた、世界史レベルの大博打であり、ウクライナの犠牲は、念頭にないのでは?

  さっさと占領してしまおうとせず、せっかく、包囲しかけた首都近郊から撤退してしまうなど、戦争を長引かせているように見えるのも、説明できます。 長引けば長引くほど、西側諸国経済の打撃が大きくなるからです。 プーチン氏が軍に対して求めたのは、具体的な目標ではなく、長引かせる事だけで、やり方は、軍に任せているのかも知れません。 だから、戦局に関心がないんだわ。

  ロシア軍の兵士が、「劣勢になると、大型の兵器を置いて逃げてしまう」というのも、説明できる。 要は、戦争を続けて、西側諸国の対ロ制裁を長引かせればいいのであって、どんな場所であっても、「死守する」など、馬鹿げた話。 「いいから、やられそうになったら、逃げろ」と、命令されているのではないでしょうか。

  ちょっと、いろんな説明が、でき過ぎかな? 却って、嘘臭くなってしまうな。

「西側諸国との貿易を遮断したいだけなら、何も、戦争を起こす必要はないではないか。 一方的に、貿易をやめてしまえばいいではないか」

  ところが、何の理由もなしに、それをやろうとすると、ロシア国内の経済界を説得できないでしょう。 対外貿易で儲けている政商なんて、真っ先に、猛反対しますわな。 しかし、戦争を始めてしまえば、経済界は、何も言えなくなってしまうんですよ。 そういうものなのです。

  さて、西側諸国ですが、現下の経済危機を脱する為に、最も効果的なのは、対ロ制裁をやめてしまう事だと思います。 ロシアの都合を無視して、やめてしまうわけです。 否が応でも、貿易を再開せざるを得なくしてしまえば、恐らく、プーチン氏は、大弱りするでしょう。 だけど、アメリカ大統領を始め、西側諸国の首脳達に、そんな大胆な決断ができるとは、到底、思えませんな。 エネルギー危機から逃れられる、国民の多くは、秘かに歓迎すると思いますが。


  とまあ、好き勝手に、想像を逞しくして書きまくりましたが、あくまで、「もしかしたら」の話に過ぎないので、大いに納得して、よそで吹聴などしないように。 間違っていて、後々、大恥を掻いても、私は責任を持ちません。





  日記からの移植は、以上です。

  物不足インフレについて、私のインフレ感覚の元になっているのは、本で読んだ知識でして、日本の敗戦後、長期間、包囲された、満州・新京で、外部から、全く物が入って来なくなったせいで、「大根一本、三億円」になったというエピソードです。

  インフレというのは、為替相場や金融政策でも左右されますが、それらの影響は、微々たるもので、必要な物が手に入らなくなる事の方が、本質的、且つ、圧倒的に大きな原因となりうるわけですな。 「制裁」などという、おこがましい発想で、輸入をどんどん止めてしまえば、物がなくなるのは、理の当然。 それが、予想できなかったというのが、不思議です。

  「サプライ・チェーンの再構築」なんて、一体、何十年かかるのよ? 目前に迫る冬を越すエネルギーが買えないというのに、何十年も先の話をしていて、何とする? 「サプライ・チェーンの再構築」こそ、無責任な言葉遊びの、最たるものではありますまいか。 大体、誰が主導して、再構築するのだ? 言葉を口に出せば、勝手に再構築がなされると思っているのか? いい加減な。 民間企業は、経済原則に従うので、損をしてまで、政治に合わせて、再構築に努力したりしません。

  「世界経済のデカップリング」というのは、トランプ氏が始めた事ですが、あの人、企業経営者の癖に、世界経済については、基礎知識すらなかったようですな。 デカップリングしたら、どうなるか、分からなかったんでしょう。 こうなるんですよ。 今、物不足、エネルギー不足で、インフレの大波に襲われ、一気に崖っ縁に追い込まれている西側諸国の様が、デカップリングの結果です。


  プーチン氏の目的については、想像の域を出ませんが、もし、当っているとすると、報道番組やワイド・ショーで、軍事専門家をよんで、戦争の帰趨だけ議論しているのは、途轍もない的外れである事になり、あまりの頓珍漢ぶりに、背筋が凍る思いがします。 「ハイマースが、ゲーム・チェンジャーになる」? わははは! 何を寝ぼけた事を言っているんだ。 考えている事の次元が、全く違うではないか。

  もし、プーチン氏が、ウクライナの領土を欲しがっているだけだと言うのなら、今、目の前で起こっている、破壊的なインフレを、どう、説明するのだ? ウクライナ侵攻とは何の関係もなく、偶然、ロシアの得になる状況が出現したと言うのか? そんな、うまい偶然があるものかね。

  プーチン氏がやろうとしているのは、正に、「世界経済のデカップリング」そのものですが、トランプ氏が言い始めた時、プーチン氏は、他の人間とは、全然違う捉え方をして、「これは、使える」と思ったんでしょう。 トランプ氏のように、ただ、ライバル(中国)が気に食わないから、絶交するといった、子供的発想ではなく、世界戦略として使えると判断したわけだ。


  西側諸国を経済的に破滅させて、世界の主導的地位から追い落とし、露・中・印の三国連合で、取って代わる。 そうなる可能性もありますが、世界は、複雑な構造をしているので、そう単純には進まないかも知れません。 対ロ制裁に加わっている西側諸国の中から、インフレに耐え兼ねて、制裁解除に流れる国が出て来るという事も考えられます。

  一国出て来ると、その国は、インフレが収まり、急速に経済が立ち直りますから、右倣えする国が続いて、対ロ制裁グループは、崩壊して行く事になるのでは? 対ロ制裁をしている時と、やめた後で、何が変わるかというと、西側という括りが希薄になって、アメリカの主導力が衰退する事でしょうな。

「アメリカの言う事を聞いていたら、国が潰れてしまう。 コロナでもそうだったが、もう、アメリカには、世界をリードする能力はない」

  そう考える国が増えるだけでも、世界史の大きな転換点になるでしょう。 プーチン氏が、現実的に狙っているのは、その辺りかも知れません。