2024/02/04

読書感想文・蔵出し (112)

  読書感想文です。 今回も、2冊です。 読書意欲というのは、一度、衰えると、なかなか、回復しないものですなあ。 今でも、2週間に一度、借りに行っていますが、たった1冊なのに、すぐに読み始める気になれません。 困ったもんだ。





≪人形つかい≫

ハヤカワ文庫
早川書房 2005年12月15日 初版
ロバート・A・ハインライン 著
福島正美 訳

  沼津図書館にあった、文庫です。 長編1作を収録。 コピー・ライトは、1951年になっています。 431ページ。 まずまず、常識的な長さですな。


  2007年のアメリカ合衆国、アイオワ州に、異星人の宇宙船が下りた。 瞬く間に、州の住人のほとんど全員が、背中に貼り付く大きなナメクジ様の寄生体に、精神を乗っ取られてしまった。 大統領直下の、捜査官らが、土星の衛星タイタンから来た、この恐るべき生物と、死闘を繰り広げつつ、根本的に打ち勝つ方法を探る話。

  まあ、よくある、人間乗っ取り宇宙生物ものですな。 1951年で、だいぶ、古いですが、この作品が、その系列の嚆矢というわけでもないようです。 似たような話は、映画で、どれだけ、作られてきた事か。 一番有名なのは、≪エイリアン≫ですかね? あちらの場合、寄生された人間は、死んでしまいますが、この作品の大ナメクジは、寄生された人間が頑丈ならば、引き剥がして、人間に戻る事ができます。 その点、少し、ゆとりがあるわけで、甘いといえば甘い。

  ストーリー展開は、スピード感があって、面白いですが、中盤、主人公と、ヒロインの恋愛に、多くのページが割かれ、テーマから遠ざかってしまうので、ムカムカして来ます。 特に、ヒロインは、「なんだ、この女は! こんな登場人物は、いらんだろうに!」と腹が立つこと、請け合い。 しかし、更に読み進むと、このヒロインが、大変、重要な役どころを担っている事が分かります。 やはり、名のある作家は、無駄な要素など、書き込まないものなんですな。

  大ナメクジが背中に貼り付いていないかを証明する為に、上半身 裸になったり、下半身まで、極小の布で覆うだけになったりする作戦が、実行されるのが、面白い。 役職、性別、年齢、関係なし。 大統領まで、裸。 これは、≪裸の王様≫のパロディーなのかも知れませんな。 ただし、笑えません。 そうする以外に、取り付かれていない事を証明する方法がないのです。

  大ナメクジは、アメリカより先に、ソ連を襲っていた事が分かるのですが、この作品での共産圏は、かなり、敵意が籠った書かれ方をしています。 51年では、朝鮮戦争が真っ最中で、米ソ対立がキンキンだった頃ですから、無理もないか。 ハイラインさんが、共産圏嫌いだったというより、アメリカのどんな作家も、そう振舞わなければ、赤狩りの対象にされてしまったんですな。

  この作品自体、映画化されても、ちっとも、おかしくない内容ですが、1994年になって、一本、作られただけとの事。 日本では未公開だったというから、さほど、面白くなかったのかも知れませんな。




≪華氏451度  〔新約版〕≫

ハヤカワ文庫
早川書房 2014年6月25日 発行 2019年7月15日 10刷
レイ・ブラッドベリ 著
伊藤典夫 訳

  沼津図書館にあった、文庫です。 長編1作を収録。 コピー・ライトは、1953年になっています。 266ページ。 SFとして、非常に、有名な作品。 映画化もされています。


  あらゆる知識が、ダイジェスト化され、本(書物)が、読む事も、所有する事も禁止された社会。 本を燃やす、「昇火士」を職業とする男が、全く違う世界観を語る近所の少女と、本の為に命を捨てた女性から、衝撃的な影響を受け、本を守る側に転向する話。

  映画は、イギリスが舞台でしたが、原作者は、アメリカ人で、小説の舞台も、アメリカです。 時代設定は、50年くらい先の事を書いたとありますから、2000年前後でしょうか。 「統治し易いように、市民に知識を与えず、愚かなままにしておく」という、「愚民政策」が浸透している社会ですが、ダイジェストは、問題なく読めるわけで、それで、問題が起こらないなら、それでもいいような気がしますねえ。 今現在の状況を見れば、禁止しなくても、本を読む人間は減る一方ですから。

  政治に対する批判というより、テレビの登場で、本を読む者が減る事に対する危惧から、この小説が書かれたとの事。 そりゃあ、本が読まれなくなったら、小説家は、困りますわなあ。 しかし、テレビに興味を持って行かれるのと、本を禁止するのは、別の問題でして、本を禁止する理由について、「下らない」程度の事しか挙げられておらず、ちと、設定が甘いような気がせんでもなし。

  ストーリーは、まずまず、分かり易く、しかも、テンポよく進みます。 中ほど過ぎて、主人公が、「昇火士」の上司と、決着をつける場面が、最大の読ませどころ。 しかし、残酷といえば、残酷ですな。 そのせいで、当局から追われる身となり、後は、逃避行が描かれます。 そちらは、オマケみたいなもの。

  本を所有できない社会で、どうやって、知識を伝えるかについて、対応策が示されていますが、現実離れしていて、これまた、設定が甘い感じがせんでもなし。 この作品全体が、深く考えて構成されたわけではなく、ポッと思いついて、筆の勢いで書き上げたようなものなのかも知れません。

  作品の評価は高いですが、実際に読んでみると、そんなに面白いものではありません。 自分で自分の文章に酔っているような、アメリカの小説家特有の悪い癖が出ています。 主人公が、前半では、悩み続け、後半では、追われる身になって、終始、不安定な精神状態でいるのも、読む側としては、落ち着かないものがあります。




  以上、2冊です。 読んだ期間は、2023年の、

≪人形つかい≫が、10月27日から、29日。
≪華氏451度  〔新約版〕≫が、11月11日から、14日。

  ≪人形つかい≫は、読書意欲が衰えているので、薄さで選んだ本。 ≪華氏451度≫は、有名なので、いつかは読もうと思っていたのを、やはり、薄さで選んで、借りて来ました。 どうも、動機が不純ですな。