2024/01/07

読書感想文・蔵出し (111)

  読書感想文です。 先月、予告した通り、読書意欲の減退により、図書館で借りて来る本の数が、半分になったので、今回からは、感想文も、2冊ずつになります。 敢えて、他人事のように言うと、何にでも、衰える時はあるという事ですな。





【ロボットの時代 〔決定版〕】

ハヤカワ文庫
早川書房 2004年8月15日 初版
アイザック・アシモフ 著
小尾芙佐 訳

  沼津図書館にあった、文庫です。 短編8作を収録。 コピー・ライトは、1964年になっています。 本全体のページ数は、306ページ。 原題を直訳すると、≪ロボットの残り≫で、≪われはロボット≫に収録されなかった、ロボット物の作品を集めたもの。


【AL76号失踪す】 約27ページ (1942年)

  月面に送られて、砕解機を操作するはずだったロボットの一体が、なぜか、地球上に迷い出てしまった。 任務に忠実なロボットは、修理屋のガラクタ置き場から、部品を集めて、自分で、砕解機を作るが・・・、という話。   コメディー。 テーマは、これといって、ありません。 ≪われはロボット≫の続きで読む人も多いと思いますが、全く、毛色が違う話なので、頭を切り替えてから読み始めないと、楽しめないと思います。 かなり、ぶっとんだ笑わせ方です。 月面で使っている砕解機と、ロボットが作った砕解機では、使用エネルギー量が、比較にならないほど違うというのが、面白い。


【思わざる勝利】 約45ページ (1942年)

  木星の衛星、ガニメデにある、地球人の基地から、木星内の陸地に下りた宇宙船には、3体のロボットが乗り組んでいた。 木星人は、攻撃を始めるが、ロボット達は、ビクともしない。 誇り高き木星人から、彼らの都市と文明を見せられると、ロボット達は、地球人の負けを確信する。 ところが、ロボット達が乗って来た宇宙船に、与圧機構や気温調節機構がないと事を知ると、木星人の態度が、急に変わり・・・、という話。

  これも、落とし話。 あまり、面白くはないですけど。 異星人なんて、誰も見た事がないから、人間なのか、ロボットなのか、分らないという事もあるでしょうな。 しかし、この後、事実が知れるのは確実で、そうなったら、やはり、地球人は、負けるのでは? 木星は巨大なので、木星人の人口も、桁外れに多い、というのは、説得力があります。

  この話、「木星人」という、存在しないものを出してしまっている点で、≪われはロボット≫の諸作品とは、次元が違うSFになっています。 1942年だと、まだ、宇宙ロケットも飛んでいない頃ですから、火星人や、木星人の存在を否定しきれなかったのかも知れませんな。 現代の知識で、駄目出しするのは、卑怯か。


【第一条】 約8ページ (1956年)

  ロボット三原則の、第一条に違反した例。 土星の衛星タイタンで、ロボットが一台、不可解な行動をとった後、行方不明になる。 ロボットは、暴風が吹く荒野で、人間が危険な野生動物に遭遇した場面で、姿を見せるが、人間を守らずに、動物の方を連れて逃げてしまった。 その理由は・・・、という話。

  短か過ぎる点は指摘しないとしても、伏線の張りが弱すぎるせいで、オチが、分かり難いです。 ロボットが、母性本能を発揮するというのも、理解し難い。 つまり、狂っていたという事ですかね。


【みんな集まれ】 約36ページ (1957年)

  敵陣営により、アメリカに送り込まれた、人間そっくりのロボット、10体。 全部が集まると、核爆弾以上に強力な爆弾を爆発させる事ができる。 対処を押し付けられたロボット技術局の局長は、爆弾を爆発させる事よりも、アメリカ社会の混乱を狙った作戦ではないかと推測し、罠を仕掛けて・・・、という話。

  ロボットSFというより、スパイ物ですな。 爆弾を持ち込んだのが、ロボットでなく、人間のスパイでも、この話を成り立たせる事はできます。 スパイ物には、「してやられたと見せかけて、実は、それは罠で・・・」というパターンが多いのですが、この作品も、忠実に、それを取り入れています。 「上には上がいる」、「裏の裏をかく」という語り方。 しかし、あまり、上に積み上げたり、裏表をくるくる引っ繰り返すと、白けてしまいますな。


【お気に召すことうけあい】 約30ページ (1951年)

  ある夫婦の元に、家事ロボットが、試験的に預けられる。 夫が出張している間、妻は、ロボットの力を借りて、魅力的な女になり、家の内装も、見違えるほど、素晴らしいものになった。 ロボットは美男で、妻は彼と、恋に落ちてしまい・・・、という話。

  この作品が発表された直後、女性読者が増えたそうですが、恋愛云々は、別にしても、こういうロボットがいたら、いいだろうなと、どんな女性でも思うでしょう。 それに留まらず、人間の夫は要らないと思うのでは?

  サイボーグなら、元が人間だから、恋愛対象になるわけですが、この作品に出て来るロボットの脳は、人間以上に肌理細やかに出来ているようなので、外見も良し、中身も良しなら、ロボットでも、恋愛対象になりうると思います。


【危険】 約51ページ (1955年)

  超空間航行の実験船に、操縦士として、ロボットを乗せたが、予定時刻になっても、船は発進しない。 どんな問題が発生しているのか分からず、いつ、動き出すかも分からない。 調べに行くのは、命がけであるにも拘らず、ロボットではなく、人間の技術者が選ばれて、送り込まれた。 問題の原因は、単純な事だったが、自分の命を蔑ろにされた技術者は、怒っていて・・・、という話。

  ロボットではなく、人間を送り込んだのには、理由があったのですが、それしても、危険な任務でして、その程度の理由で、人命を懸ける事が許されるのか、ちと、首を傾げてしまいますな。 まあ、本人は、説明されて、納得したようだから、他人の私が、どうこういう事もありませんが。

  それにしても、ロボット心理学者、本人が行けば良かったんじゃないですかねえ。 高齢だから、不適任? それはそれで、そんなに高齢になるまで、後継者を育てていなかったというのは、大きな手落ちですな。


【レニイ】 約29ページ (1958年)

  ロボット工学の志望者を増やす事を、目的の一つとして、一般人に、ロボット工場の見学をさせていたが、見学者の一人が、悪戯で、入力装置を滅茶苦茶に操作したせいで、一台のロボットの電子頭脳が、赤ん坊レベルになってしまった。 ロボット心理学者は、廃棄に反対し、ロボット工学の志望者を増やすのに役立つロボットに育てると主張するが、その本当の目的は・・・、という話。

  テーマとしては、【第一条】と同じで、母性本能です。 分からないではないですが、話として、面白いわけではありません。 ちなみに、一連の作品に登場する、実質的中心人物のロボット心理学者は、女性です。 「人間の姿をしたロボット」と陰口を叩かれるような人格ですが、そうであるが故に、魅力があります。


【校正】 約68ページ (1957年)

  ある大学に、試験的に貸し出された、校正ロボット。 論文や、著作を、校正するのが仕事。 そのロボットが、勝手に、論文の改竄をやったというので、ロボット会社が、学者から、告訴される。 ロボット心理学者達は、事前の公判で、原告の学者に精神的な揺さぶりをかけた上で、当のロボットを、法廷に運び込み・・・、という話。

  テーマは、三原則の第一条の拡大で、目新しいものではありません。 ロボットSFとして、というより、法廷物として、よく出来ており、迫力があります。 特に、法廷に、ロボットを運び入れる際、ロボット心理学者が、「おいで!」という場面が、妙にカッコいいです。 自分達が作っているロボットに、絶対の自信がある事の証明のようで、職業人としての輝きを感じさせるのです。




【月は無慈悲な夜の女王】

ハヤカワ文庫
早川書房 2010年3月15日 初版
ロバート・A・ハインライン 著
矢野徹 訳

  沼津図書館にあった、文庫です。 長編1作を収録。 コピー・ライトは、1966年になっています。 671ページ。 一冊で出すには、長過ぎ。 こんな厚い文庫が、あっていいものか。 元は、雑誌に連載された作品らしいですが、なるほど、書下ろしでは、出版社側が、二の足を踏む長さですな。 こういう大長編は、面白いという評価が先に広まっていなければ、売れないものです。


  2075年の月世界。 専ら、地下に造られた幾つかの都市に、元、流刑囚だった人々が、300万人住んで、地球政府の統治下に置かれていた。 市民の間で、行政府に対する不満が高まり、入念に準備されたクーデターが発生する。 その背景には、月に設置された、高性能コンピューターが、何かの拍子に、意思をもち、人間と会話ができるようになった事実があった。 月世界を支配した市民は、地球政府に独立を認めさせる為に、成功率の低い戦いに挑む事になる。

  月世界独立の戦いを描いたもの。 革命という言葉も出て来ますが、手本にしているのは、アメリカ独立戦争です。  原題は、≪THE MOON IS A HARSH MISTRESS≫で、邦題は、ほぼ、直訳。 「harsh」は、「ひどい」とか、「意地悪な」という意味の形容詞で、これが付いているせいで、戦いは、負けに終わるのではないかと予想してしまうところですが、その一方で、アメリカ独立戦争は、成功しているので、やっぱり、勝つのかなあとも、思うところ。

  うまく、読者の目をごまかしているとも思えますが、雑誌に連載された作品だから、単に、題名をつけた時点では、結末を決めていなかっただけなのかもしれません。 ちなみに、本作の結末は、期待通りの部分と、落胆してしまう部分が、並列していて、読み終わった後、大長編に相応しい、脱力感を覚えます。 解説に、「バランスがいい」と書かれていますが、その通りだと思います。 話の作り方が、大変、巧みなのです。

  三章に分かれていて、第一章は、クーデターが成功するまで。 第二章は、二人の代表が、地球政府に乗り込んで、交渉するところまで。 そして、第三章は、戦争になります。 圧巻は、やはり、第三章で、この作品全体が、仮想戦記物だと言っても、大きく外れてはいないでしょう。

  地球側は、戦闘艦まで使えるのに対し、月世界は、宇宙船を一隻も持っておらず、地球に向かって、農産物を送っていた射出機で、岩石を打ち出すのだけが、攻撃用の武器になります。 これが、凄いんだわ。 爆弾ではないんですが、高速で落下するので、地表で大爆発を起こし、地球に住む者を、恐怖のどん底に叩き落します。 最初、どこそこへ落とすと警告しているのに、月世界の力を小馬鹿にしている馬鹿どもが、わざわざ、見に行って、あの世行きになる件りは、痛快。 つくづく、馬鹿につける薬はない。 非日常的な事に対して、安全か危険かの判断ができないんですな。

  射出するのは、ただの岩石ではなく、磁場を使う関係で、鉄製の器に入れなければなりません。 その鉄の量が限られているので、無限に射出し続けるわけには行かず、弾切れになる前に、いかに、地球側を屈服させるかが、鍵となります。 話が、うまく出来ていますねえ。 戦記物というのは、一方が、圧倒的に強いなどというのは、最悪につまらないのでして、力が拮抗している設定が、最も、手に汗握らせてくれるのです。

  月世界の、婚姻制度や、裁判制度は、独特なもので、それに関する記述に、結構なページ数を割いていますが、そういう架空の習慣は、頭に入れても、意味がないので、読み飛ばした方がいいと思います。 婚姻制度に関しては、第二章で、主人公が地球政府に逮捕される件りで、少し関係して来るのですが、そんなに大ごとにはなりませんから、やはり、無視してもいいと思います。

  さて、この作品、人工知能が出て来る事でも、有名。 たまたま、意思を獲得し、自分で喋れるようになったコンピューター、「マイク」ですが、書かれたのが、1966年ですから、パソコンもなかった時代でして、作者が想像していたのは、今で言う、人工知能とは、だいぶ違ったものだったと思います。 しかし、とにかく、大規模な計算ができるという点は、スーパー・コンピューターそのものですし、膨大な量のデータを記憶している点は、ビッグ・データそのもので、この二つの能力が合わさった時に、人工知能と呼ばれるものが出て来るわけですから、作者の先読みの方向性は、正しかったわけです。

  「マイク」とは、平凡な名前のようですが、これは、シャーロック・ホームズの兄、「マイクロフト」の略で、マイクロフト・ホームズと言ったら、話だけ聞いて、事件の謎を解いてしまう、揺り椅子探偵の嚆矢。 コンピューター、「マイク」の性格をよく表していると思います。 電話があるところでは、受話器が外れているか否かに拘らず、盗聴ができるというのは、趣味の悪い能力ですが。

  ちなみに、2075年と言っても、インター・ネットも、携帯・スマホもないです。 一流のSF作家でも、それらを予測できなかったんですな。 民主主義社会で、民衆が、アホ化して、アホしか選出されなくなってしまう事も、予測外。 それ以前に、宇宙へ人間を送るには、お金がかかり過ぎて、月を流刑地にするなど、経済的に全く引き合わず、ありえない話だという事も、頭に入れて置いた方がいいです。




  以上、2冊です。 読んだ期間は、2023年の、

≪ロボットの時代 〔決定版〕≫が、10月3日から、5日。
≪月は無慈悲な夜の女王≫が、10月13日から、21日。


  今回の2冊とも、「AI SF小説」で、検索して、引っ掛かった作品。 映画では、人類の敵に回る、支配者的AIが出て来る作品は多いですが、小説だと、驚くほど、少ないです。 ロボット物と合わせても、指を折って数える程度。

  そういえば、日本では、「ロボット物」というと、人間が操縦する、人の形をした機械が出て来る作品を、主に指しますが、アメリカでは、イの一番に、「ロボット三原則」を発想するようで、AIを搭載して、自分で考えられるものでなければ、ロボットの内に入れないようです。