2024/04/21

実話風小説 (27) 【恐るべきカタギ】

  「実話風小説」の27作目です。 2月下旬後半に書いたもの。 実話風小説を看板にしているこのシリーズですが、今回は、「神視点三人称」を採用しているので、実話風とは言い難いです。 「この記録は誰が取ったのか?」といった疑問が湧いても、スルーしてもらえば、幸いです。 これが、映像作品なら、そんな事は当たり前で、わざわざ、断るまでもないのですが、意外と不便だな、小説は・・・。




【恐るべきカタギ】

  地方都市にある、A商会は、この事件が起こる1年前の、1992年に、暴力団から、会社組織に変身した。 バブル時代は、地上げで、さんざん稼ぎ、バブル崩壊後は、債権の取り立てを、主な業務にしていた。 バブル時代に、投資や投機に狂奔した人間は、バブル崩壊後、借金を抱え続けていた。 その連中をカモにしていた、元組長で、現社長のAは、目端が利く人間だったのだ。

  組員、いや、社員は、社長も入れて、30人。 舎弟二人が、専務、常務。 若頭が、部長。 課長2人。 係長4人の下に、それぞれ、5人ずつ、平社員がいるが、それらは、一応、表向きの肩書きだけであって、課長以下は、暴力団時代と変わらない、兄貴分・弟分の関係で構成されていた。 まあ、そんな事は、この話のストーリー上、大した問題ではない。


  で、1993年の7月、ある日の宵である。 社長は、部長から、借金の取り立てに行った平社員二人が戻って来ないという報告を受けた。 報告と言っても、事務所で、「あいつら、戻って来ないんですよ」と言われただけなのだが。 その債務者は、山の中に住んでいる、一人暮らしの中年男だった。 金額は、300万円。 ちなみに、A商会は、基本的に、住所が分かっている債務者の債権しか、買い取っていない。 人探しは、取り立てとは、別物の難しさがあり、それだけで、金がかかってしまうからだ。

  最初の取り立てなので、専ら、脅しをかけるのが目的で、「二人もいれば、充分だろう」と、柄の悪そうな奴らを行かせたのだが、半日経っても、何の連絡もないというのだ。 「あいつら、電話一本よこさねえんですよ」。 携帯電話が普及するのは、1990年代後半なので、この頃は、使うとしたら、債務者の家の電話か、公衆電話である。

  社長は、今までになかった事なので、心中、穏やかでなくなった。 その表情を見ていた常務が、代弁するように言った。

「まさか、やられちまったんじゃねえだろうな」

  事務所内にいた、10人ほどが、一瞬、静まり返った。 専務が、部長に訊いた。

「相手は、どんな奴なんだ?」

  部長は、書類を見た。 借用書や、債権譲渡書類と一緒に綴ってあるものだ。 取り立て行く者は、とりあえず、それらのコピーを持って行く。 実際に、金の回収ができる時まで、本物は、事務所に保管しておくのである。

「名前は、B。 農業ですよ。 この住所じゃ、山奥ですね。 ビニール・ハウスを作るのに、借金したって書いてあります」
「何か、武道でもやってたのか?」
「そういう事は、書いてありませんね」
「誰か、この、Bって奴を知ってるか?」

  この質問は、都会では、奇妙かも知れないが、地方都市では、世間が狭いので、10人もいれば、一人くらいは、知っている者がいる事があるのだ。 しかし、この時は、誰も答えなかった。 課長の一人が言った。

「行ったのは、CとDでしょう? Dのガタイを見て、やっちまおうなんて思うカタギはいないんじゃないですか?」

  専務と常務は、顔を見合わせた。 専務が、ぼそっと言った。

「それは、分からねえ。 3年くらい前の事だが、地上げで行った先に、剣道5段の奴がいて、組員が 5人も病院送りにされた事がある」

  常務が言った。

「あん時は凄かったな。 こっちが、長ドスまで持ってかせたのに、ビニール傘一本で、5人とも、のされちまった。 カタギでも、そういうのが、いるんだ。 たまにな」

  課長の一人が訊いた。

「で、そいつ、どうしたんです?」

  専務。

「どうもしねえよ。 それっきりさ。 相手がカタギじゃ、ハジキを持ち出すわけにもいかん。 サツが黙ってねえからな」

  そうなのだ。 ヤクザが出て来る、映画やドラマを見ていて、「自分は、今までの人生で、ヤクザと関わった事なんか、一度もない。 なぜ、助かっているのだろう?」と、不思議な感じを抱いている人もいるだろうが、それは、あなたが、カタギ、つまり、法律を守って生きている一般人だからなのである。

  ちなみに、ヤクザが、カタギに手を出さないのは、別に、任侠道を奉じているからではない。 もっと、ドライな事情があるのだ。 カタギは、違法行為をしていないから、警察を始めとする、司法制度を、ためらいなく利用できる。 ヤクザが、苦手としているのは、あなたではなく、あなたを守っている、司法制度なのだ。 いかに向こう見ずなヤクザといえども、国家の巨大な暴力装置には抗しようがないのである。

  あなた個人なんか、どんなにしょぼいヤクザだって、怖がるものかね。 たとえば、無人島に、ヤクザと二人で流れ着いたら、奴隷として扱き使われるか、言う事を聞かずに殺されるかのどちらかである事は、想像してみれば、分かる事ではないか。

  ヤクザは、一般人から利益を得て、生活の糧にしているが、その対象は、一般人全てではない。 法律を守っていない、一部の一般人なのだ。 違法薬物、賭博、異性絡み、その他、犯罪に手を染めている者には、司法制度を頼れない事情がある。 そこをヤクザに、つけ込まれてしまうのである。 ちなみに、借金は、別に違法ではないから、カタギでも手を出す。 取り立て業のヤクザと、カタギが接する、ごく稀な例外である。


  話を、A商会の事務所に戻す。 社長が言った。

「とにかく、明日の朝まで待って、連絡がなかったら、今度は、4人 行かせろ」


  恐れていた通り、翌日の朝になっても、CとDは戻らず、電話もなかった。 前の晩の内に、二人が行きつけにしている飲み屋を、他の平社員が見て回ったが、姿を見つけられなかった。

  社長の指示通り、今度は、平社員4人が、B家へ出かけて行った。

「あいつら、どこ行きやがったんだ」
「使えねーなー」

  係が違うので、前の二人とは、兄貴分・弟分の関係ではない。 ブチブチ、不満を漏らしながら、事務所を出て行った。 見送った社長、専務、常務の三人は、不安が隠せないような顔をしていた。


  夜になっても、4人は、帰って来なかった。 残った平社員達は、他の仕事から戻った者も含めて、繁華街の飲み屋や、パチンコ屋を、虱潰しに調べて回った。 「山奥へ行ったのだから、山奥へ捜しに行けばいいのに」と思うかも知れないが、ヤクザというのは、街なかの生き物であり、上から、「捜して来い」と言われると、自分達が普段 入り浸っているような所にしか行かないのである。

  深夜に、重役会議。 社長、専務、常務に、部長も加わっている。 以下、誰の発言というわけでもない。

「4人もやられるなんて、信じられん」
「しかし、剣道5段の例もありますし・・・」
「今日行った奴らの中に、Eが入ってたよな。 あいつは、元・剣道3段だろう?」
「3段では、5段に敵わないぜ」
「そもそも、Bって奴が、剣道5段かどうかも、分かってない」
「武道系じゃなくて、催涙スプレーとか、スタンガンとか・・・」
「向こうは、一人だ。 4人相手に、そんな小手先の武器じゃあな・・・」
「じゃあ、ハジキを?」
「まさか。 Bは、カタギなんだぞ。 借金取りを、ハジキで撃ち殺すカタギがいるか? 世も末だ」
「落とし穴は?」
「子供じゃあるまいし」
「いやいや、ガキの頃、怪人二十面相とかで読んだんですよ。 家の中に落とし穴が仕掛けてあって、地下室へ落とされちまうんです。 そこには、出口がないんですよ」
「それは、怖いな」
「落とし穴がありなら、吊り天井もありだな」
「あの、ビッシリ棘が生えた天井が、ジワジワ、下りて来るやつ?」
「ジワジワとは限らん。 ズドーンと落ちて来る方が、怖い。 玄関の天井に仕掛けとけば、4人くらい、一遍に殺せる。 玄関は、血の海になるが、洗い流し易いように、プラスチックのような素材を貼ってあるに違いない」
「死体をどうするんです?」
「山ん中の農家だぞ。 そこらに埋めちまえば、誰にも分からん」
「大量殺人じゃないですか。 警察に通報しましょうか」
「おまえ、それはないだろう。 それだけはないだろう。 俺らは、ヤクザなんだぞ」

  社長が、決然と言った。

「とにかく、明日の朝まで待って、連絡がなかったら、今度は、8人 行かせろ」

  恐れていた通り、翌日の朝になっても、4人は戻らず、電話もなかった。 もう、他の仕事なんか、やっていられない。 8人掻き集めて、送り出した。 中に、係長が一人 含まれている。 係長は、B家より手前の、電話がある場所で待機し、平社員の中の一人を連絡係にして、先遣隊と往復させ、事務所に、一時間ごとに、電話を入れるという取り決めだった。 もう、軍事作戦だな。

  最初の電話。 専務が取った。

「どこから、かけてる?」
「ここは、Z村の、食品雑貨店です。 連絡係が、一度戻って来て、登山口で、車を2台、見つけたと言って来ました。 1台は、Cの車で、もう1台は、会社の車だったそうです」
「そこから、Bの家は遠いのか?」
「Z村からじゃ見えません。 登山口まで行けば、屋根が見えるそうです。 直線距離で、300メートルくらいと言ってました」
「すぐ、そこじゃねえか。 登山道で、Bの家まで行けるのか?」
「はい。 でも、村のもんの話じゃ、歩きでしか通れないから、B本人も、その道は使わないと言ってます。 車で行ける道だと、ここから、片道2時間かかるそうです」
「そんな遠回りしてたら、夜になっちまう。 登山道を歩いてけ。 険しいのか?」
「よく分かりませんが、『アップ・ダウンがある、ザレ場が多い』って言ってます」
「よく分からんな。 つまり、どうなんだ?」
「割と、登り易い道らしいです」
「だったら、行け! 家が見えてるんなら、迷いもしねえだろう」
「俺は、どうしましょうか? 電話のある所に残りますか?」
「いや、そこまで、事情が分かれば、充分だ。 お前も行け。 人数は多い方がいい。 もし、やられそうだったら、お前一人だけでも、報告に帰って来い」
「分かりました」
「ちょっと待て。 成り行き次第じゃ、Bを始末する事になるかも知れん。 話をした村の連中には、口止めしとけよ」
「分かりました。 たっぷり、脅しときます」

  最初の電話が、最後の電話になった。 8人は、夜になっても、帰って来なかった。


  二夜連続、深夜の重役会議。 以下、誰の発言というわけでもない。

「こうなったら、弔い合戦だ!」
「残った16人全員で、襲撃するぞ!」
「Bの奴、ナメやがって! ヤクザの怖さを、思い知らせてやる!」
「どうします、組長?」
「社長と呼べ」
「社長」
「Bの借金は、300万か。 しょぼいと言えば、しょぼいが、もう、金の問題じゃねえ。 組員の、いや、社員の半分もやられちまって、おめおめ、引っ込んだら、組の、いや、社の面子に関わる。 やるか、久しぶりに、大出入りを!」
「やりましょう」
「全員にハジキを持たせろ。 どうせ、山ん中だ、バンバン撃ちまくって、蜂の巣にしてやれ」


  翌日の昼過ぎ。 腹拵えを終えたA商会の面々16人が、5台の車に分乗して、雨の中を、Z村方面へ出発した。 1時間ほどで、食品雑貨店に到着。 とりあえず、車列を停め、部長が、店に入った。 事情を訊く為である。 出て来た部長は、社長と重役が乗った車に近づき、運転手に窓を開けさせて、首を中に突っ込んだ。

「うちの社のやつらは、昨日、登山口方面へ行ったきり、一人も戻って来てないそうです」
「Bが、どんな奴か、訊いて来たか?」
「一度、都会へ出て、30過ぎてから、Uターンして来たと言ってました。 家が村から離れてるんで、つきあいは、あまり ないそうです。 あと、妙な事が・・・」
「なんだ?」
「最初の二人が行った日ですが、ちょうど、二人が山に入った頃に、『ドーン!』という、爆発音が聞こえたとか・・・」
「なにっ! 爆弾!? そっち系の奴だったのか!」
「どうします、組長?」
「社長と呼べ」
「社長!」
「過激派だろうが、武道家だろうが、関係ねえ! 今更、引けるか! 腹ぁ括れ! 行くぞ!」


  登山口には、4台の車が乗り捨ててあった。 すぐ隣の敷地が、廃車置き場になっていて、紛らわしかったが、近づいてみると、その4台だけは、見覚えがある車だった。 4台とも、キーは、抜かれていた。 今日、更に、5台が加わったわけだ。

  朝から、ポツポツ降っていた雨が、いつの間にか、本降りになった。 梅雨時の分厚い雲で、昼過ぎなのに、異様に暗い。 村人から聞いた話では、登山口から、Bの家まで、30分くらいだという。 こんな天気で、山に登るなど、非常識だが、ヤクザというのは、本来、非常識なものである。 危険について、あまり、深く考える者はいなかった。

  社長が、一番年長だが、まだ、60代前半で、体力にも自信があり、一人だけ残る気はなかった。 Bの最期を、自分の目で見たかったのだ。 傘は、社長用に一本だけ持って来ていたが、社長が邪魔だと言うので、車に置いて行った。 A商会の16人は、なだらかなザレ場の道を、ぞろぞろと、列を作って、登り始めた。 これだけ、山に似合わないパーティーもなかろう。 革靴を履いている者が多いが、ザレ道なんか歩いたら、傷だらけになってしまうよ。 そんな心配は、余計なお世話か。

  一般市民である私だったら、片道2時間かかっても、車で行ける道があるなら、そちらを選ぶが、ヤクザは、そういう、まどろっこしい安全策を、嫌う傾向がある。 石橋を叩いて渡るなど、最も、ヤクザらしくない考え方なのだ。 直情径行、正面突破、思い切りがいいと言えば言えるが、そういう性格だから、命を落とし易いとも言える。

  最初の2人も、次の4人も、その次の8人も、最後の16人も、誰一人として、遠回りを選ばなかった。 それが、悲劇を産んだのだ。 実にヤクザらしい判断ではないか。 Bの家を襲撃するのが、目的だったのだが、彼らは、そこまで辿り着けなかった。 修羅場は、もっと手前に待っていた。 先に行った14人と同じ場所で、残りの16人も、骸と化す事になったのである。

  以下、A商会の最期の様子を、発話オンリーで、お送りする。 「会話」ではなく、「発話」である。 なぜなら、ほとんど、てんでんバラバラに喋っており、「会話」になっていないからだ。

「こっちは駄目だ! そっちへ行け!」
「馬鹿野郎! 下りて来るなって言ってるのが、聞こえねえのか!」
「どどど毒ガスだっ!」
「苦しい! 苦しいっ!」
「助けてくれ、アニキっ!」
「くそっ! 出て来い、B!」 パン! パン!
「馬鹿っ! 視界が悪いのに撃つな! 身内に当たるぞ!」
「Bの野郎! 殺してやるっ!」
「ちがう! ちがう! ゲホゲホ!」
「ちきしょー! こういう事だったのか! ゲホゲホ!」
「社長!」
「最期くらい、組長と呼べ」
「組長! ご無事ですか・・・、ゲホゲホ!」
「跡目は、生き残った奴に譲る・・・」

  雨は、どんどん激しくなり、3メートル先も定かに見えない、凄まじい豪雨となっていた。 やがて、山の上の方から、「ゴーーーーッ!!」という、地響きを伴った重低音が聞こえて来た。 まだ息があった者だけが、それを聞いた。

「あれも、Bの仕業か?」
「いや・・・、鉄砲水だ」

  言葉らしいものが拾えたのは、以上である。 A商会の面々がいた場所は、浅い谷間だった。 押し寄せた土石流が、一瞬で、谷全体を覆い尽くした。



  30年後の、2023年。 ハイカー・グループの一人が、休憩中に、金属の光が目に入り、地面に何かが埋まっているのに気づいた。 拾った小枝で、少し掘ってみると、なんと、拳銃だった。 ほとんど、錆びていたが、メッキが一部だけ残って、光っていたのだ。 拳銃を掘り出そうとすると、人間の指の骨が出て来た。 警察が呼ばれた。

  骨を掘り出して行くと、一人分ではない事が分かった。 次から次へ、折り重なって白骨化した死体が出て来た。 全部で、30体。 みな、拳銃や、刃物を所持していた。 もちろん、ボロボロに錆びている。 作業が終わり、掘った大穴を、埋め戻すか、そのままにするか、相談が行なわれていた時、「変なニオイがする」と言う者がいた。

「まずい! 火山ガスだ! 退避っ! 退避ーっ!!」

  慌てて避難したが、鑑識課員4人が、入院する騒ぎになった。 A商会の面々を、身動き取れなくしたのも、この有毒ガスだったのだ。 村人が聞いたという、「ドーン!」という爆発音は、小噴火して、ガスの噴気口が出来た時のものだったに違いない。 30年間、登山者に被害がなかったのは、被さった土石の圧力で、噴気が押さえられていたからだろう。

  30体の死体が、何者なのか判明するのに、時間はかからなかった。 30年前に、事務所を空にして、全員 失踪してしまった会社があったからだ。 家族からは、捜索願いが出ていたが、警察は、暴力団が隠れ蓑にしている会社だと知っていたので、真面目に捜査する気はなかった。

  行き先を聞いていた家族が一人もいなかった点は、一般人なら、不自然だが、この場合は、当て嵌まらない。 ヤクザは、仕事の内容を、いちいち、家族に話したりしないものなのである。 大抵、違法行為だから、自慢できる事ではないし、秘密が漏れるのを避ける目的もある。 また、若い者には、同居している家族そのものがいなかったのだ。

  失踪では、事件にならないので、たっぷり脅されていたZ村の人々も、自ら通報する事はなかった。 そもそも、A商会の面々が、その後、どうなったのかも知らなかったのだ。 乗り捨てられた9台の車は、放置一ヵ月後に、廃車解体業者が、素知らぬ顔で、バラバラにし、部品単位で売ってしまった。 誰の車かなど、知った事ではない。 置いて行った方が悪い、という理屈である。

  部長の着衣から、チャック付きビニール袋に入った、Bの借用書と債権譲渡書類が出て来た。 社長Aには、妻子がいて、債権は相続できたのだが、債務者のBが、すでに他界しており、土地・家屋・山林は、換金された上で、国庫に収められていて、回収のしようがなかった。


  半年後、あるテレビ番組が、Bの家を、衛星写真で見つけ、訪ねて来たが、とっくに、空き家になっていた。 取材スタッフは、Z村の食品雑貨店で、何気なく、Bの事を訊いた。

「どんな方だったんですか?」
「うーん。 小柄で、病弱で、痩せてたけど、大人しくて、虫一匹殺せない、優しい人でしたよ」