時代を語る車達 ⑭

【スズキ・9代目アルト】
2021年から、現行車種。 私は、初代を知っている世代ですが、もう、9代も経ていたんですなあ。 全代、形は思い出せますが、どれが何代目かは、写真付きの一覧表でも作らないと、分かりません。
色が白で、3台並んでいるところを見ると、どこかの会社の、営業車なのでしょう。 アルトは、8代目からこっち、個人でもっている人は少なくて、社有車の方を、多く目にします。 そもそも、新聞に、スズキの折り込み広告が入って来ても、アルトが載っていないのだから、販売店が、個人客に売る気があるのかどうかも怪しい。 「売れないから、宣伝してもしょうがない」→「宣伝しないから、売れない」の、悪循環に陥っていると見ました。
「中車高の軽だから、売れない」というわけではないのは、ダイハツ・2代目ミライースが、大変良く見かける車になっている事で、証明されています。 アルトに、個人客に欲しいと思わせる、魅力が欠けているとしか言えません。 膨らませて、車内容積を大きくしさえすれば、使い勝手が良くなるというわけではないのですよ。 広さを求めている人は、ワゴンRや、スペーシアを選べばいいのです。 なぜ、アルトまで、膨らませるのか、金輪際、理解に苦しむ。
8代目は、それでもまだ、個性がありましたが、9代目のデザインは、どんな形にしたかったのかも、測り兼ねるところがあります。 まさかとは思いますが、あの、車の形とすら思えなかった、2代目アルトをオマージュしたんじゃないでしょうね。 もっとも、2代目に比べたら、遥かに、まともな形だとは思いますけど。
アルトは、低価格で大ヒットした初代の後、女性の運転免許取得が流行していた事から、女性向けに、可愛いさを狙った2代目が登場するのですが、全体の形を考えず、小手先でごまかしたようなデザインで、一目見るなり、顔が引き攣るのを抑えられませんでした。 初代ミラより、レベルが落ちていた、2代目ミラにも、遠く及ばなかったのですが、当時の女性が、車のデザインについて、何の見識もなかった事で救われ、名前だけで売れて、そこそこのヒットとなったという、複雑怪奇な歴史があります。 買う方が、カッコいいも、醜いも、分からなかったんですな。
トール・ワゴンやハイト・ワゴンが売れているところを見ると、今の女性のデザイン感覚も、さほど進歩したわけではなさそうですが、それでも、8代目や、9代目のアルトが、自分達のイメージと掛け離れている事は、分かるようです。 特に、9代目は、明らかに、女性向けのデザインなのに、肝心の女性にそっぽを向かれているのですから、男性には尚更で、仕事で使う営業車でもなければ、乗ろうとはしないでしょう。
うーむ・・・、やはり、現行車を批判するのは、販売妨害になってしまうなあ。 セルボ・モードに乗っている私ですから、決して、スズキに対して悪意があるわけではないのですが・・・。 なんで、アルトが売れずに、ミライースが売れているのか、そこを考えてもらいたいのです。 次の10代目も、膨らませ路線で考えているのなら、いっその事、もう、アルトはやめにした方が、いいのでは? 折り込み広告に載せないほど、売れないのなら、モデル・チェンジにかける費用がもったいないではありませんか。
【スズキ・ツイン】
2003年1月から、2005年12月まで、3年間、生産・販売されていた車種。 ダイハツ・ミゼットⅡ(1996年から、2001年まで)の対抗馬として作られたのだと思いますが、どちらも、一代限りで終わりました。 なぜ、2代目が作られなかったかというと、期待していたほど、売れなかったからでしょう。 こういう、主流から外れた車型、実験的な車型、遊び感覚で企画された車型というのは、社内に必ず、頑強な反対者がいるものでして、売れないと、「それ見た事か!」と批判され、モデル・チェンジの費用が認められないわけだ。
「ツイン」というカタカナ名ですが、元は、英語の、「twin」ですから、「トゥイン」と呼んでいた人も多いのでは。 販売店の人は、どちらを使っていいか、悩んだと思います。 特に、若い世代は、「トゥイン」と、苦もなく発音できるのに、「ツイン」と言うのには、抵抗感があったはず。 ルノー・トゥインゴを、「ツインゴ」と発音する人は、いませんし。 ホテル業界で、シングル・ベッド2台の部屋を、「ツイン」と言うから、そちらに従ったのだろうか?
ちなみに、意味は、「双子」で、英語では、普通、複数形になります。 双子の内の一人を指す場合は、「a twin」。 そういえば、シュワルツネッガーさん主演の映画では、邦題が、「ツインズ」になっていましたな。 この車では、二人乗りだから、そういう名前になったようですが、英語母語話者が聞くと、本来、別の意味がある言葉ですから、違和感を覚えるかも知れません。
現行の軽規格一杯のサイズより、全長は短いのですが、全幅は同じです。 私が、2016年、父の通院に対処する為に、中古車を買わなければならなくなった時、ミゼットⅡは、候補に入れたのに対し、ツインは、最初から念頭に置きませんでした。 うちの車置き場の幅が狭くて、現行規格の軽では、ドアを開けるのが、厳しいと思われたからです。 狭い隙間から、這い入ったり、這い出たりするのは、毎回となると、結構な負担。
世の中、いろんな家があり、いろんな形・大きさの車置き場があるので、中には、全長が短い車が欲しいという人もいるでしょうが、このツインを選んだ人は、そういう実用的な事情ではなく、遊び感覚が、主な理由だったんじゃないかと思います。 見るなり、「これは、面白い!」と、惚れ込んでしまい、実用性の欠点など、頭からふっとんでしまったのでしょう。
後席がないわけですから、当然、二人までしか乗れませんし、荷物置き場も、ラゲッジ・ルームしかないわけで、買い出しに使うにも、一週間分、ドカッと買うというわけには行きません。 常に、一人で買い出しに行くなら、助手席も使えますが、助手席に荷物を置いた場合、ちょっと急なブレーキを踏むと、荷物が床に落ちてしまうなど、使い難さもあります。 二人で行った時の方が、買い物が多いのに、それを載せる場所が足りないというのは、ジレンマとしか言いようがありません。
実用性の低さに目を瞑ってまで、この車を選ぶ理由があるかというと、些か、疑問。 その点は、二人乗りタイプですら、窮屈だった、ミゼットⅡも、似たようなもので、あちらは、荷台があったものの、露天ですから、更に、不便さがあったはず。 よほど好きな人でなければ、長く維持しようという気になれなかったのも、頷けます。 どちらも、モデル・チェンジするほど売れなくて、当然だったんですな。
ところで、この写真の車のツートン色ですが、変わっています。 新車の時に、こういうのが選べたのか、後で塗り直したのか、不明。 当時のカタログを調べるほど、興味が湧きません。 実用性で選ぶ車なら、派手過ぎですが、遊び感覚で乗る車なら、充分、アリでして、むしろ、この形に、よく似合っていると思います。
この車が企画されたのは、日本の自動車産業が、最後の輝きを放った時期でして、自動車文化が豊かだったからこそ、ミゼットⅡや、ツインが生まれて来る、ゆとりがあったんでしょうな。 実用性が足りないのを承知の上で、買ってくれる人がいたわけだ。 遊び感覚がなくなった時に、その業界の文化性は、死滅するわけですが、今の日本の自動車産業を見ると、確かに、その通りになっていると思います。 もっとも、遊び感覚だけというのも問題で、実用性がなければ、そもそも、自動車産業は成り立たないのですが。
【ダイハツ・6代目ミラ】
2002年から、2006年まで、生産販売されていた車型。 ボンバンは、2007年まで。 セルフマチックは、2009年まで。
前に、この車について解説文を書いた記憶がおぼろげに残っていて、調べたら、 2017年12月6日更新の、「6756 ≪茶虎猫 / 6代目ミラ≫」 2018年4月8日更新の、≪時代を語る車達 ③≫ で、シルバーのボンバンを、後ろから撮った写真を出していました。 閑な人は、過去ログを辿ってみてください。 大した事は書いてありませんが。
ミラは、1・2・3代目までが、ミラ・デザイン。 4代目が、セルボ・モード似になり、5代目は、2代目マーチ似になり、6代目で、この形になりました。 何を真似たというわけでもない様子。 シャープというか、スマートというか、いいデザインだと思います。 もし、私が、この車の現行当時、バイク通勤していなかったら、買ったかも知れません。 もちろん、中古ですが。
少し前に、「フォルクスワーゲン・up!」を取り上げた時、「この形が、日本の軽自動車に出て来なかったのは、不思議」と書きましたが、前半分に限れば、この6代目ミラが、近いですかね。 後ろ半分は、似ても似つきませんが。 「up!」の登場は、2011年なので、こちらの方が、遥かに早いですが、参考にされたかどうかは、不明。 小さい車を作ろうというのだから、日本の軽自動車も、一通り 見たかも知れませんな。
インター・ネット時代になってから、デザイン業界は、パクリが日常茶飯事化しましたから、怒るような事ではありません。 その結果、みーんな、似たようなデザインになってしまったのは、残念至極。 特に、SUVはひどい有様で、個別車種は言うに及ばず、どの会社の車なのかすら、近づいて、マークを見なければ、判別できません。 「車のデザインは、終わった」と言ってもいいでしょう。 あんな没個性な代物を、高い金出して、喜んで買っている面々の気が、ほとほと、知れぬ。
閑話休題。 話を、写真の車に戻します。
1997年式のセルボ・モードに乗っている私が言うのも変ですが、最も新しくても、2007年の車を、今でも乗っているというのは、もちがいいですな。 18年間ですか。 結構結構。 そのくらいは、充分、乗れます。 たぶん、気に入っているのでしょうが、その気持ちも分かります。 今の、2代目ミライースもいいと思いますが、アイドリング・ストップがない分、この頃の車の方が、扱い易いでしょう。
【日産・4代目AD】
≪写真上≫
日産のバン、4代目ADです。 2006年から現行。 ADというと、初代は、バン・ワゴン・デザインの歴史に残る名作。 2代目、3代目は、特に印象がなく、4代目が、これ。 現行車ですから、本来、批判は控えるべきですが、基本的に、商用車なので、個人で買う人は、稀。 会社で買うのなら、デザインは、選定の理由になりませんから、まあ、いいでしょう。
これを初めて見た時には、こめかみに脂汗が流れました。 欧米車の下手なパクリが幅を利かせていた、80年代末までなら、いざ知らず、日本車がヨーロッパ車に追いついた90年代を経て、2千ゼロ年代に入っても、まだ、こんな醜いデザインが出て来るのかと・・・。 顎が外れなかったのが、不思議なくらい。
はっきり言って、私の感覚では、このデザインを、全く理解できません。 80年代末までの日本車のように、デザインについて、センスが欠けていたり、造形技術が足りなかったりする事から来る、稚拙さゆえの醜さではなく、全然 次元の違う観点から、自動車デザインの何たるかを捉えている人が、既存のデザインを否定する目的で、わざと作ったとしか思えない。
ヘッド・ライトの形と言い、前バンパーと車体の接合部の角度と言い、機能的な合理性を、全く無視しているのは、とても、実用車であるバンのデザインとは思えません。 デザイナーの頭の中がどうなっているのかを見てみたいです。 いやいや、脳味噌を見たいわけじゃありませんよ。 どういう脈絡で、こういうデザインを思いついたのか、その過程を知りたいのです。 と、言いつつ、本人から説明されても、たぶん、理解できないと思いますが。
≪写真下≫
斜め後ろから。 リヤ・コンも、本来、真後ろから見られるものである事を考えると、側面に回りこんでいる部分の方が面積が多いのは、理屈上の違和感を覚えるところ。 リヤコンから続く格好で、バック・ドアにプレス・ラインが入っていますが、それに、何の意味があるのかも、分かりません。
最も奇妙なのが、ドア・サッシュの上の線が、荷室部分の窓の上の線と、なだらかに繋がっていない点です。 後ろドアが終わった所で、ガクンと角度がついています。 セダン・タイプがあるのなら、分かるのですが、そういうものは、存在していない模様。 では、このガクンは、一体、何の為につけたんでしょう? 分からぬ。 解せぬ。
もしかしたら、初代ADや、プロボックス/サクシードのような、バン・ワゴンの完成形に対する、アンチテーゼなんでしょうか? わざと、奇怪な形を狙ったというのなら、大成功しています。 カッコの良し悪しとか、美醜といった基準で測らず、独自性、個性という観点だけで評価するなら、100点満点でして、世界中 見渡しても、これ以上 独自性に溢れ、個性的なデザインの車はないと思います。 私は、乗りたいと思いませんけど。
今回は、以上、4台まで。 前月に予告した通り、これからは、一回、4台までに減らします。
出かけた時には、極力、古い車を探そうとしているのですが、まーあ、減りましたねえ。 昨今、巷に溢れている車と言ったら、軽のハイト・ワゴンと、SUVばかり。 どうしてまた、猫も杓子も、そういう車ばかり、乗りたがるかな? 車高が高い車なんて、肝腎の運転が全然面白くないのですが、それに気づかぬか? そんなに高い視点が欲しいなら、トラックかバスに乗りなさいよ。 どちらの業界も、運転手不足で困っているから、大歓迎される事でしょう。
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