SFアニメ三本
先週末、ツタヤでまた半額キャンペーンをやっていたので、アニメ映画を三本ばかり借りて来ました。
≪スチーム・ボーイ≫
ハッと目が覚めるような作品。 ただし、あまりにもつまらないので、何度も居眠りしかけては、ハッと目が覚めるという意味です。 超駄作。 恐らく、莫大な資金を投じ、膨大な時間を費やし、大量の人間を動員して作った作品なのでしょうが、元の話がスカなばかりに、一切合財すべての努力が無駄になっています。
19世紀後半、ロンドン博覧会がアメリカのある財団によって各種新型兵器のデモンストレーションの場にされてしまうという話。 こう書くと、真っ当な話のように聞こえますが、とーんでもない! グチャグチャなのです。 まず、戦闘が見せ場なのに、対立の構図が出来ていません。 実の親子が理念の相違を巡って争っているので、真剣な憎悪が感じられず、「大勢の死人を出した上に、街をメチャメチャに破壊してまでやるほどの事なのか?」と、見ていて馬鹿馬鹿しくなってきます。 もう、この設定のいい加減さで、この作品が駄作にしかなりえないのは決まったも同然です。 強いてテーマを探すなら、兵器産業批判が込められていますが、こんなテキトーなストーリーで批判など展開されても、真面目に取る気になる人はいないでしょう。
大友克洋さんは、つくづくアニメの才能が無いですなあ。 この人、アニメの表現技術に強烈な興味を抱いていて、新作毎にいろいろと新しい試みに手を出すんですが、そのほとんどが空振りしています。 元の話が面白くなければ、どんな技法を使っても無意味なのだという事に、いつまでたっても気付かないのです。 これ、劇場に見に行った人は、「金返せ!」「時間返せ!」と、はらわた煮えくり返った事でしょう。 こんな物でお金を取ろうなんざ、縁日の≪大板血≫より性質が悪いですぜ。
≪アップル・シード≫
士郎正宗原作の2004年の劇場用アニメ。 基本的にCGアニメなんですが、人間の動きを体につけたセンサーで読み込んでキャラクターに移す、≪モーション・キャプチャー≫という技術を使った事で話題になりました。 他にも、CGの立体的な絵を手描きアニメ風に処理する技術も使われています。
総合的な感想は、グッド。 ケチをつけるところが無いので、減点法なら100点です。 新技術を売り物にした作品には、ストーリーがいい加減な物が多いですが、これは例外的にしっかりした物語になっています。 一級のSFといっていいでしょう。 基本のSFアイデアは、≪ブレード・ランナー≫に似ています。 人間と人間を元に作られたバイオロイドの、社会内に於ける関係がテーマ。 結構複雑な構成の話なので、ストーリーだけでも充分楽しめます。
しかしやはり、この作品の特徴は、手描きアニメ風CGと、その動きですな。 全く違和感が無いというと嘘になりますが、ぎこちなさの類は気にならず、むしろ、良い方向に違和感があります。 これ以前の作品では、こういう絵は全く見られませんでしたから、画期的といっていいですな。 ≪ファイナル・ファンタジー≫のCGアニメを見た方は、CG独特の不快な違和感を多少なりとも抱いたと思いますが、それがこの作品には無いのです。 時に、見惚れるくらい美しいさえと感じました。
実写やアニメのSFを見慣れていて、ガン・アクション物にも抵抗が無い人にはお薦めの作品です。 おそらく、完成度の高さに、「はーっ・・・・」と、感心すると思います。 いや、ほんと。
≪イノセンス≫
≪攻殻機動隊≫の劇場版第二作。 ≪攻殻機動隊≫のアニメには、劇場版二作とテレビ・シリーズ二本がありますが、監督が異なっていて、劇場版は押井守監督、テレビ・シリーズは神山健治監督が作っています。 双方高い評価を得ているんですが、それぞれの監督の強い個性のせいで、少々ややこしい事が起きています。 同じ原作を元にしていて、登場人物を共有していながら、世界設定がズレているのです。 この≪イノセンス≫は、間違いなく劇場版第一作≪ゴースト・イン・ザ・シェル≫の続編ですが、テレビ・シリーズの方とは世界設定上・ストーリー上の関連がありません。 押井監督は押井監督で自分の好きなものを作り、神山監督は神山監督で自分の好む世界を作ってしまったわけですな。
世界設定の違いで顕著なのは、劇場版では国名がぼかされている事です。 見手は、「近未来の北東アジアのどこか」という情報しか与えられません。 第一作・第二作ともにそうなっている所を見ると、故意にぼかしてあるのでしょう。 街並の様子は、どう見ても香港としか思えませんが、登場人物には日本人の名前が多く、強いて推測するなら、≪香港型中国文化の浸透が進んだ未来の日本≫という感じです。 テレビ・シリーズの方は白けるくらい日本そのまんまなので、押井監督が香港風街並に拘った事は非常に面白いです。
細部の描き込みが第一作より更に緻密になっていて、思わず見入ってしまいます。 手描き部分もCG部分も、素晴らしいの一語に尽きます。 手描きアニメとしては技術の極北に到達したといっても過言ではありません。 誉めすぎか? いや、OKでしょう。 特にチャプター≪祝祭≫の辺りは出色。 主人公と犬の生活部分の描写も素晴らしい。 残酷な場面も多いですが、手慣れた監督らしく、適度に抑えられています。
話の方は、社会を揺るがす大事件が起こるというわけではなく、刑事物の一エピソードに過ぎない地味な話です。 しかし、起承転結はしっかりしていますし、クライマックスの盛り上げ方も巧く、ストーリーの出来は申し分ありません。 もっとも、「血湧き肉踊り、物凄く面白い!」というほどではないので、期待のしすぎにご注意。 実は後半、セリフに格言・箴言の類が頻発するようになり、些か不自然になるんですが、まあ欠点とは言えないでしょう。 昨今の井の中の蛙的な若者には、このくらいの教養を見せ付けてやって、世界が広いのだという事を教えてやった方がよいです。
総合評価で、100点。 「この作品に100点を付けられないのでは、批評なぞやめた方がいい」というくらい、堂々とした満点です。
≪スチーム・ボーイ≫
ハッと目が覚めるような作品。 ただし、あまりにもつまらないので、何度も居眠りしかけては、ハッと目が覚めるという意味です。 超駄作。 恐らく、莫大な資金を投じ、膨大な時間を費やし、大量の人間を動員して作った作品なのでしょうが、元の話がスカなばかりに、一切合財すべての努力が無駄になっています。
19世紀後半、ロンドン博覧会がアメリカのある財団によって各種新型兵器のデモンストレーションの場にされてしまうという話。 こう書くと、真っ当な話のように聞こえますが、とーんでもない! グチャグチャなのです。 まず、戦闘が見せ場なのに、対立の構図が出来ていません。 実の親子が理念の相違を巡って争っているので、真剣な憎悪が感じられず、「大勢の死人を出した上に、街をメチャメチャに破壊してまでやるほどの事なのか?」と、見ていて馬鹿馬鹿しくなってきます。 もう、この設定のいい加減さで、この作品が駄作にしかなりえないのは決まったも同然です。 強いてテーマを探すなら、兵器産業批判が込められていますが、こんなテキトーなストーリーで批判など展開されても、真面目に取る気になる人はいないでしょう。
大友克洋さんは、つくづくアニメの才能が無いですなあ。 この人、アニメの表現技術に強烈な興味を抱いていて、新作毎にいろいろと新しい試みに手を出すんですが、そのほとんどが空振りしています。 元の話が面白くなければ、どんな技法を使っても無意味なのだという事に、いつまでたっても気付かないのです。 これ、劇場に見に行った人は、「金返せ!」「時間返せ!」と、はらわた煮えくり返った事でしょう。 こんな物でお金を取ろうなんざ、縁日の≪大板血≫より性質が悪いですぜ。
≪アップル・シード≫
士郎正宗原作の2004年の劇場用アニメ。 基本的にCGアニメなんですが、人間の動きを体につけたセンサーで読み込んでキャラクターに移す、≪モーション・キャプチャー≫という技術を使った事で話題になりました。 他にも、CGの立体的な絵を手描きアニメ風に処理する技術も使われています。
総合的な感想は、グッド。 ケチをつけるところが無いので、減点法なら100点です。 新技術を売り物にした作品には、ストーリーがいい加減な物が多いですが、これは例外的にしっかりした物語になっています。 一級のSFといっていいでしょう。 基本のSFアイデアは、≪ブレード・ランナー≫に似ています。 人間と人間を元に作られたバイオロイドの、社会内に於ける関係がテーマ。 結構複雑な構成の話なので、ストーリーだけでも充分楽しめます。
しかしやはり、この作品の特徴は、手描きアニメ風CGと、その動きですな。 全く違和感が無いというと嘘になりますが、ぎこちなさの類は気にならず、むしろ、良い方向に違和感があります。 これ以前の作品では、こういう絵は全く見られませんでしたから、画期的といっていいですな。 ≪ファイナル・ファンタジー≫のCGアニメを見た方は、CG独特の不快な違和感を多少なりとも抱いたと思いますが、それがこの作品には無いのです。 時に、見惚れるくらい美しいさえと感じました。
実写やアニメのSFを見慣れていて、ガン・アクション物にも抵抗が無い人にはお薦めの作品です。 おそらく、完成度の高さに、「はーっ・・・・」と、感心すると思います。 いや、ほんと。
≪イノセンス≫
≪攻殻機動隊≫の劇場版第二作。 ≪攻殻機動隊≫のアニメには、劇場版二作とテレビ・シリーズ二本がありますが、監督が異なっていて、劇場版は押井守監督、テレビ・シリーズは神山健治監督が作っています。 双方高い評価を得ているんですが、それぞれの監督の強い個性のせいで、少々ややこしい事が起きています。 同じ原作を元にしていて、登場人物を共有していながら、世界設定がズレているのです。 この≪イノセンス≫は、間違いなく劇場版第一作≪ゴースト・イン・ザ・シェル≫の続編ですが、テレビ・シリーズの方とは世界設定上・ストーリー上の関連がありません。 押井監督は押井監督で自分の好きなものを作り、神山監督は神山監督で自分の好む世界を作ってしまったわけですな。
世界設定の違いで顕著なのは、劇場版では国名がぼかされている事です。 見手は、「近未来の北東アジアのどこか」という情報しか与えられません。 第一作・第二作ともにそうなっている所を見ると、故意にぼかしてあるのでしょう。 街並の様子は、どう見ても香港としか思えませんが、登場人物には日本人の名前が多く、強いて推測するなら、≪香港型中国文化の浸透が進んだ未来の日本≫という感じです。 テレビ・シリーズの方は白けるくらい日本そのまんまなので、押井監督が香港風街並に拘った事は非常に面白いです。
細部の描き込みが第一作より更に緻密になっていて、思わず見入ってしまいます。 手描き部分もCG部分も、素晴らしいの一語に尽きます。 手描きアニメとしては技術の極北に到達したといっても過言ではありません。 誉めすぎか? いや、OKでしょう。 特にチャプター≪祝祭≫の辺りは出色。 主人公と犬の生活部分の描写も素晴らしい。 残酷な場面も多いですが、手慣れた監督らしく、適度に抑えられています。
話の方は、社会を揺るがす大事件が起こるというわけではなく、刑事物の一エピソードに過ぎない地味な話です。 しかし、起承転結はしっかりしていますし、クライマックスの盛り上げ方も巧く、ストーリーの出来は申し分ありません。 もっとも、「血湧き肉踊り、物凄く面白い!」というほどではないので、期待のしすぎにご注意。 実は後半、セリフに格言・箴言の類が頻発するようになり、些か不自然になるんですが、まあ欠点とは言えないでしょう。 昨今の井の中の蛙的な若者には、このくらいの教養を見せ付けてやって、世界が広いのだという事を教えてやった方がよいです。
総合評価で、100点。 「この作品に100点を付けられないのでは、批評なぞやめた方がいい」というくらい、堂々とした満点です。
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