2007/09/30

時事0709

  何だか、最近、書く事がありません。 達観してしまったか? それなら、今までにも何度もあったので、そのうち達観に飽きてきて、またつまらん事をチマチマ考え始めると思いますが。

  しょうがないので、時事コメントを。

  新首相で新内閣が誕生しましたが、早くも不祥事が続々と表沙汰になっています。 つまり、日本の政治家というのは、叩くと埃が出る人ばかりなんですね。 「世の中を良くしたい」なんて思っている人は一人もいなくて、「自分の理想に沿った世の中にしたい」というのさえ表向きのパフォーマンスに過ぎず、実際には「金持ちになれる」から政治家になったという下司が大半なのでしょう。

  不正に金を儲けたがるという政治家の特性は、自民党だけに限られるとは思えないので、よしんば民主党が政権を取っても、不祥事閣僚は続々と現れると思われます。 しかし、私は、それを承知の上でも、与野党の政権交代は頻繁にした方がいいと思っています。 食いっぱぐれる危機感が無いから、「何をやっても、どうにかごまかせる」と考えるのだと思うからです。 与野党が頻繁に入れ替わると政治が安定しないのも事実ですが、本来政治とはそういうものではありますまいか。

  福田さん自身は、どちらかというとリベラル的な考えの持ち主のようですが、年齢が一世代戻ってしまったのは、痛し痒しですな。 前首相や絆創膏元農相、民主党の前代表、メール偽造議員など、ここ数年の実例で、「若い政治家は考えの足りない馬鹿ばかりだ」というイメージが固着してしまった為、今や世を挙げて、「ベテラン政治家の方が信頼できる」という雰囲気になっているわけですが、高齢者はやがて引退していくわけで、いつまでも頼れるわけではありません。 どんなにスカタンだろうが、大馬鹿野郎だろうが、ズバリ・キチガイだろうが、いずれは、若い政治家に政権を委ねる事になるのです。 福田さんで、ほっと一息ついたとしても、先の事を考えると、暗澹としてきますな。


  そういえば、自民党の総裁選のさなかに、ぎょっとするような事を耳にしました。 麻生氏の遊説の内容です。 対朝政策について述べた部分で、「あの国が今までに、圧力以外で動いた事がありますか。 私の記憶にある限り、そんな事は一度も無い。 六者協議が進展したのは、日本が中心になって、国連で制裁決議を成立させたからです」というような事を言っていましたが、これにはビックリ! 驚愕すべき誤認識ですな。 自国中心的思考もここまで来ると、症例として興味深いです。

  新聞の国際面を漫然と読んでいても分かる事ですが、六者協議が進展したのは、アメリカの対朝政策が対立から対話へ変わったからです。 なぜ変わったかというと、核実験で朝鮮の核兵器保有が確実になったので、「核兵器保有国とは戦争をしない」というアメリカの≪事実上の国是≫に従い、対立路線は消去され、残った対話路線に舵を切ったわけです。 この辺り、論理が分かるアメリカ人ならではの理詰めの発想で、論理が分からない日本人には分かり難い、というか、「全く分からん」という人が多かろうと思うのですが、論理的思考とは、すなわち、こういうものなのです。

  も一つオマケに、厳密に言うと、進展したのは六者協議ではなく、米朝協議です。 もともと六者協議というのは、アメリカが朝鮮との直接対話を拒否していた為に、その≪直接≫を避ける目的で、中国やロシアが、「じゃあ、周辺国も含めて、六カ国協議なら、アメリカも参加しやすいだろう」という事で取り持った席でした。 アメリカを朝鮮との協議に引っ張り出す為の、≪方便≫だったんですな。 すなわち、米朝が直接対話するというのであれば、六者協議なんぞ、無用な形骸に過ぎません。 二国間の作業部会などが設けられていますが、ほんの形式的なもので、実体は稀薄です。 そもそも、中露韓の三国は、朝鮮との間に重大な衝突点が無いので、作業部会など必要としていません。 作業部会の成果に拘っているのは、日本だけですが、もともと六者協議は米朝対話のお膳立てに過ぎなかったわけですから、米朝間で話がついてしまえば、日本が何を言おうが、どう思っていようが、自然消滅すると思います。

  さて、麻生氏の恐るべき誤認識のもう一つは、「あの国が圧力以外で動いた事がありますか。 私の記憶にある限り、そんな事は一度も無い」という部分です。 これは全く、物の見事に正反対でして、朝鮮という国は、今まで外国の圧力に屈した事は一度もありません。 「取り引きならする。 しかし、圧力に屈して一方的な譲歩はしない」 それが朝鮮外交の特徴なのです。 相手国のいいなりになるくらいなら、協議を打ち切ってしまいます。 麻生氏は、「圧力以外で動いた事がありますか」と言っていましたが、≪圧力で動いた≫とは、一体どの事例の事なのか、それを聞いてみたいです。

  朝鮮という国は、日本や韓国がアメリカに対して持っているような≪大国に対する借り≫が無い国で、朝鮮にとって外交とは、相手の国と≪対等≫である事が前提になっています。 よく、「北朝鮮に対して影響力を持つ中国は・・・」といった書き方をしている記事を見かけますが、これもとんだ思い違いで、朝鮮が中国の言う事を聞いた例など、私は一つも知りません。 朝鮮の中国に対する態度を見ていると、≪貸し≫こそあれ、≪借り≫など無いと考えているのではないかと思うほどです。

  中国が朝鮮に対して及ぼせる影響力というのは、せいぜい、≪要請≫程度のもので、≪命令≫など以ての外、≪要求≫さえ出来ないのは、まず疑いないところです。 米朝協議が、バンコ・デルタ・アジアの送金問題で滞った時、朝鮮代表が勝手に帰国してしまい、「議長国の中国は面子を潰された格好だ」などと書いている新聞がありましたが、その記者も中朝関係が全然分かってません。 中国の朝鮮に対する立場は、面子ごときで怒るようなものではないのです。

  この関係は、両国の政権の成立時にまで遡るもので、日本がアメリカに対して持っているような≪引け目≫や≪畏怖≫を、朝中関係にも当て嵌められるなどと漠然と想像していると、とんでもない思い違いを起こします。 全歴史を通じて、日本には対等な≪友邦≫が存在しなかった為に、日本人には二国間の友好関係というのが想像し難いのですが、世界には現実に、そういう関係にある国々が存在するのです。

  ちなみに、バンコ・デルタ・アジアの送金問題の時も、朝鮮外交の特徴がよく顕れていました。 一方的に協議を中断させてしまった事に対し、他の五カ国や諸外国は、「たかが送金問題くらいで・・・」と、呆れていたわけですが、まさか、その≪たかが送金問題≫があんなに長引くとは誰も想像できなかったでしょう。 ところが、朝鮮外交部だけは、それを見抜いていたわけですな。 いや、恐らく当のアメリカも分かっていたと思います。 だから、協議全体を投げ出さなかったのでしょう。

  そういえば、協議の停滞中に、ライス国務長官が、「忍耐にも限界がある」といったような事を口にしましたが、私は、「ああ、揺さぶりをかけているんだな」と思いました。 ところが、それを追いかけて、安倍前首相が、米朝協議の当事者でもないくせに、ライス氏と同じセリフを口にしたのには、思いっきり引きました。 恐らく、前首相は、ライス氏が本気で怒っていると思って、尻馬に乗ったんでしょうな。 違うって。 そういう交渉手法なのよ。 分からんかなあ。 基礎的な事なんですがねえ。 もっとも、前首相だけでなく、日本人の99.9%は分からなかった思いますが・・・・。

  結局、朝鮮は、ライス氏の揺さぶりには眉一つ動かさず、送金問題が解決するまで、頑として協議の場に戻らなかったわけですが、この一件でアメリカも、朝鮮外交の基本方針がはっきり分かったわけですな。 ほーら、見なさい、朝鮮という国は、圧力に屈して譲歩なんてしないでしょう? ≪対等の取り引き≫でなければ、乗って来ないのです。

  麻生氏は、ついこないだまで、外相を務めていたわけですが、外相ですら、こんな簡単な分析が出来ないのですから、これが恐れ戦かずにいられましょうか。 麻生氏は、圧倒的に不利といわれながらも、総裁選で4割の得票を集めたわけですが、そのダシに使った≪対朝政策の方針≫が党員に対して効果をあげた可能性は極めて高いです。 他の争点は、あまりはっきりしていませんでしたから。 つまり、自民党員の4割は、麻生氏と同じ対朝意識を持っていると見るべきだと思いますが、それが根本的に間違った認識なのですから、頭痛がせずにはいられません。

≪注釈1≫ 日本人はよく、「中国人は面子を何よりも気にかける」と言います。 新聞記事などもそれを念頭に置いて、中国というと、決まり文句のように「面子、面子」と繰り返しますが、これも典型的な誤認識です。 清代以前ならいざ知らず、現代中国の政治家は、徹底した現実主義者が揃っていて、面子なんぞほとんど気にしません。 それは、昨今の抜け目無い資源外交を見ても、はっきり分かる事。 むしろ、日本人の方が下らない対面に拘ります。

≪注釈2≫ アメリカは、核兵器保有国とは戦争をしないと書きましたが、「イラク戦争では、大量破壊兵器保有疑惑を理由に戦争を仕掛けたではないか」と思う方もいるでしょう。 私はあれは、「イラクに核兵器があるかもしれないから」戦争を仕掛けたのではなく、「イラクに核兵器が無いと分かったから」戦争を仕掛けたのだと見ています。 もし、イラクが核実験をやって、核兵器保有を明確にしていたら、アメリカはインド・パキスタン・朝鮮に対してそうしたように、対話路線にシフトしていたと思います。

  アメリカは世界中で核兵器の恐ろしさを最もよく知っている国で、「核兵器及びその運搬方法である弾道ミサイルを持った国とは、絶対に戦争できない」と考えています。 核兵器というのは、ほんの10発もあれば、アメリカほどの大国でも一気に沈黙させられる力があるという事を知っているのです。 ちなみに、日本人は、広島・長崎の被害をがなり立てる割には、核兵器の戦略的な意味合いなどにはとんと無知で、「大都市圏に数発食らえば、国が亡んでしまうのだ」という事が理解できません。 朝鮮のミサイル実験の際に日本国内で出てきた、馬鹿丸出しの≪先制攻撃論≫などが良い例です。 でんでん分かっとらんのよ。


  書く事が無いと言いながら、ずいぶん長く書いてしまいましたが、長くなったついでに、ミャンマーのデモの事も書いておきます。

  たとえ、デモ隊が軍隊に何百人殺されようが、外国は一切干渉すべきではないと思います。 干渉の先には国連多国籍軍の武力行使が待っています。 いざ、そうなったら、中心になるのは欧米の軍隊だと思いますが、彼らはミャンマーに対しては、文化的にも歴史的にも何の遠慮も無いので、ミャンマー政府を完全に破壊してしまうでしょう。 民主化勢力というのがいますが、彼らは一度も政権を担った事が無いですから、ミャンマーが今以上の混乱に陥る事は目に見えています。 アフガニスタンやイラク、東チモールなどを見れば、権威を持つ政府を失う事がどれほど大混乱を引き起こすかは、現実として分かるはずです。 断言しますが、外国が干渉すれば、死者は桁違いに増えます。 良くするつもりで悪くしていたのでは本末転倒です。

  日本人のカメラマンが撃ち殺されましたが、デモ隊を蹴散らそうと怒り立った兵士の前に、ビデオ・カメラを掲げて接近していけば、撃ち殺されるのは無理もない成り行きです。 私だったら、たとえ相手が兵隊でなくても、銃を持った人間のすぐ近くで、そちらに向けてカメラを構えたりはしません。 「撃ってくれ」と言わんばかりではありませんか。 いや、銃を持っていなくても、怒って興奮している人間にカメラを向けたら、もっと怒らせる事になるのは、日常的経験から想像できます。 故人はあちこちの戦場を経験していたそうですが、なんでまたあのように兵隊を挑発するような行為をしたのか分かりません。

  犠牲者が日本人だったからといって、俄か同朋意識など発揮して、ミャンマー人を憎んだりしないようにしましょう。 日本の外相が国連で、怒り心頭という顔でミャンマー批判をしていましたが、日本軍がビルマで何をしたか、爪の先ほども念頭に無いようですな。 竪琴を弾いていただけじゃないんだよ。