2007/07/22

虚報ダンス

  例の、≪ダンボール肉まん騒動≫ですが、「終わった後なら何とでも言える」と謗られるのを承知の上で書きますと・・・・。

  最初にそのニュースを聞いた時、感覚的に、「変だな」と思いました。 「劇物に漬けて刻んだダンボールを肉まんの具に使っていた。 しかも10年も前から続けていた」、というのですが、ありえますかね、そんな事が? いくら、紙の原料は植物だとはいえ、人間は山羊じゃないんだから、食物として食べられないでしょう。 しかも一回きりで、中毒患者が出て表沙汰になったというならともかく、10年も続けていたなると、今に至るまで被害者が出ていないのは、何とも不自然です。

  もう一つ、決定的に変だと思ったのが、起こった国が中国だという点です。 食べられないものを10年も売っていたというのは他の国でも奇妙なのに、美食文化圏の代表たる中国で、お客が味の異常に気付かないはずがないではありませんか。 百歩譲って、ダンボール肉まんが食べても健康に差し支えない物であったとしても、うまいはずがなく、うまくない物が中国で10年も売れ続けるはずがないと思うのです。

  あの隠し撮り映像も随分と疑わしかったです。 隠しカメラというのは、どんなにうまく按配しても、あんなにバッチリと作業者の手元が写せるものではありません。 嘘だと思ったら、自分でデジカメを使って試してみると宜しい。 手元どころか、相手の上半身を構図に納めるのにも大変な苦労をするはずです。 隠し撮りでないとしたら、製造業者の了解の上で撮影していた事になりますが、そんな材料を使っている事がテレビで報道されたら、この業者には何の得もないばかりか、摘発されるのは疑いないですから、了解など与えるはずがありません。 もう、この映像を見ただけでも、嘘だと気付くべきでしょう。 最低限、「何か変だな・・・」くらいは感じて然るべきです。

  最終的に、このニュースは、北京テレビの臨時記者が捏造した虚報だと分かったわけですが、中国国内の主要報道機関もスクープとして取り上げていた為、全国的な大ニュースになってしまっていて、北京テレビの訂正・謝罪発表がなされると、≪食の安全性≫の問題が、一瞬にして、≪報道の信頼性≫の問題に切り替わってしまいました。 でも、私としては、「美食文化圏の人々が、ダンボール肉まんを気付かずに食べていた」というよりは、「一記者が、偽スクープを捏造した」という方が、起こり得る度合いが遥かに高いので、納得し易いです。


  さて、問題は、この騒動に対する日本のマスコミ、及び一般日本人の反応の事です。 このダンボール肉まんは輸出品ではなく、北京市内の露店で売られていたという設定だったので、もし捏造でなかったとしても中国の国内事件だったのですが、なぜか、日本で大々的に取り上げられました。 日本のマスコミは、「この問題は、アメリカや日本で大きく取り上げられ・・・・」などと報道していましたが、私がネット上読んだ限り、アメリカのニュースで、ダンボール肉まん事件が何度も取り上げられたという事はありませんでした。 アメリカが問題にするのは、自国に輸入されているか、輸入される可能性のある製品の事で、中国国内で何が売られていようが、さほど気にはしないのです。 理屈から言えば、これは日本でも同じはずですが、なぜ、こんなに大騒ぎになったのでしょう?

  そりゃ、決まってますわな。 日本のマスコミや一般の日本人が、中国製品の質を扱き下ろしたくて仕方がなかったからです。 よくもまあ、これだけ露骨に罵れるものだと呆れるくらいに。 まさに、鬼の首でも取ったかのように、侮蔑の限りを尽くしていました。 ついこないだ、≪ミートホープ事件≫があり、まだ記憶に新しい所でも、≪雪印事件≫、≪不二家事件≫など、国内にも同様の例がいくらもあるにも拘らず、自分の事を棚に上げて、「これだから、中国製品は信用できない」といった論調でテレビや一部の新聞は埋め尽くされていました。

  私は、我が家で取っている新聞でも、同じような騒ぎ方をするのではないかと目を光らせていたんですが、その新聞は、このスクープの胡散臭さに勘付いていたのか、割と控え目の報道をしていました。 尻馬に乗って騒がなくて正解でしたな。 他の新聞でギャンギャン大騒ぎしていた所は、捏造発覚後、「中国当局が騒ぎを押さえ込む為に、ヤラセだったという事にして決着をはかろうとしているのでは?」などと書いていましたが、自分達が虚報に踊り捲って、ダンス・パーティーまでぶちかましてしまった事をごまかす為に、疑り深いふりをして体面を取り繕おうとしているのが見え見えです。 まったく、新聞記者というのは、大衆の前に見解を曝さなければならないだけに、重大な間違いをやらかすと、とことん不様極まりないものですな。

  もっとも、テレビはもっとひどかったですけどね。 昨日までダンボール肉まん事件を罵り、ついでに中国製品全体を貶し捲っていたニュース・キャスターが、捏造発覚のニュースを淡々と報じている姿は、≪白ばっくれ≫の神が具現化したかのようでした。 よく恥かしくないなあ。 日本全国に向けて、重大事件だといって、大真面目に報道していた人間が、同じ口で取り消しか? もう、報道なんてやめたら? 結局あんたは、嘘でも何でも平気で伝えるんだろう? アメリカのニュース番組の真似をして、≪アンカー≫などと称してすかしていますが、その実、スタッフが用意した原稿を読むだけの木偶人形なのであって、自分が取材したわけでもなければ、専門家としての分析が出来るわけでもないのです。 それどころか、常識的判断力すらない。 自分がやっている事に職業人として疑念を抱いた事がないんでしょうかね?

  ご存知のように現代は、虚実入り乱れてニュースが溢れている時代ですが、こんな時代に報道関係者に必要とされるのは、その事件が、≪ニュース・ネタ≫か、≪ワイドショー・ネタ≫かを見分ける能力ですな。 特に外国の事件などは、ほとんど外電頼みですから、取材能力よりも、識別能力の方がずっと重要になります。 中国の文化について一通りの知識を持っていれば、今回の事件が、≪ワイドショー・ネタ≫だという事に気付くことが出来たはず。 少なくとも、胡散臭いと思えば、報道の仕方も変わったでしょう。 日本の報道関係者の知識・教養が著しく低下している事を図らずも露呈する結果になったわけですな。

  捏造発覚後、テーマを≪食の安全性≫から≪報道の信頼性≫に切り替えて、中国扱き下ろしを続行しようとする姿勢が一部に見られましたが、日本の報道関係者は、よく外国の報道を批判できるものだと呆れました。 他所の事を言えないだろう? 学説を捏造する科学番組だの、珊瑚にイニシャルを彫るカメラマンだの、月とコウノトリを合成する記者だの、他紙の記事を盗用する記者だの、ウィキペディアに素人が書いた妄想文を定説だと思い込んで丸写しにする記者だの、日本の報道の信頼性だって地に堕ちているじゃないか。 他者を罵る前に、まず、己を正せよ。

  オマケですが、テレビ・ニュースで流される映像を見る時、「こんな映像は撮れるはずがない」と思ったら、捏造である事を疑ったほうが良いです。 典型的なのは、≪軍事独裁国家の強制収容所に潜入リポート≫の類で、まあ、常識的に判断すれば、そんな所に外部の人間が入り込めるわけがなく、まして撮影など金輪際不可能である事は分かるはずです。 戦前の日本の軍事施設の映像など、宣伝用に作ったもの以外、全く残されていないでしょう? アメリカは軍事独裁国家ではありませんが、テロ容疑者を強制収容しているグアンタナモ基地に潜入取材した映像なんて見た事ないでしょ? そもそも入れないんですよ。 強制収容所というのは、そういうものなのです。 どの国でも一番見せたくない所ですからね。 今では超小型のカメラがありますが、よほど小さな物でも、ボディー・チェックを受ければすぐにバレてしまいます。 まして、揺れのない映像や、顔がしっかり構図に治まっている映像などは、隠しカメラでは絶対に撮れませんから、判断の基準になるはずです。

  身近な所では、キー局がよく流す、≪万引きの現場を激撮!≫などの映像なども疑わしいです。 同じ犯罪物でも、≪警察24時≫などの場合、実在する警察官が登場するので捏造は考え難いですが、万引き映像で、警官が呼ばれない場合、やっている可能性があります。 万引きは犯罪ですが、犯罪者にも人権はありますから、テレビで放送するとなれば、当人の許可を得なければなりません。 「顔は隠すから」と言われても、服装や体格で知り合いにバレる事は充分考えられますから、承諾する人は稀でしょう。 捏造でもしなければ、あんな映像がホイホイ手に入る事はありえないと考える方が妥当です。 

  この種の映像を捏造するのは、現代ではわけないんですよ。 金で言われた通りの事をする素人役者なんていくらでもいますから。 特に外国の様子を写した映像だと、違和感が感じ取れないので、ごまかし易くなります。 これらを見分ける為には、知識・教養を蓄え、良識的感覚を磨く以外にありません。  ・・・・まあ、無理だと思いますが。