2007/09/09

報道の客観性

  雑誌・テレビはもちろん、ネットや、ここ10年ほどは新聞までがそうなりつつありますが、≪報道の客観性≫というものを完全に失念している関係者が多い事には、驚かされます。 おそらく、当人は客観的に物事を見ているつもりなのでしょうが、どこかにレールが抉れた所があって、脱線を引き起こすのです。 列車と違って、脱線しても大体の軌道を走り続けるので、気付かないのではないかと思われます。

  一番分かり易い例ですと、スポーツの報道があります。 国際大会や、日本人と外国人が対戦するような試合が近づくと、マスコミが挙って日本チーム・日本選手の応援に血道を上げますが、あんなのは、客観性からは最も遠い行為です。 個人的なファンが応援する分には客観性は不要ですが、いやしくも報道する立場にある者が、客観性を捨てて、一方の応援に猛り狂うなど、あってはならない事です。 「どこの国のマスコミもやっている」などというのは言い訳になりません。 やっている者すべてが間違っているのであって、間違っていると思ったら自分はやらないようにするのが、理性ある態度というものでしょう。

  高校野球の甲子園大会では、地元のテレビ局が、同じ都道府県のチームに偏った報道を堂々とやっていますが、とんでもない事です。 相手チームの選手に対する情報を集めていても、それはチクチクと嫌味たっぷりに貶す為の材料なのだから、その下劣な動機には呆れ果てます。 ≪客観性≫という言葉を知らないのか、忘れたのか、それとも、元々性格が拗けていて、自己中心的な物の考え方しか出来ないのか、いずれにせよ、≪報道の社会的使命≫などとは縁もゆかりもない、≪下司のしゃかりき≫としか形容しようがありません。

  NHKの正午のニュースで必ず取り上げられる、≪大リーグ情報≫というのを見た事があるでしょうか? 大リーグ情報といっても、大リーグに在籍している日本人選手の成績だけを、毎日毎日これでもかというほど律儀に伝えるのです。 「イチローが、ヒット二本を打ちました」だの、「松井秀喜が守備でチームの勝利に貢献しました」だの、同じような内容ばかり。 日本人選手絡みの事しか言わないので、大リーグ全体の順位などはほとんど分かりません。 イチローが渡米してからずっとですから、もう何年こんな事を続けているのやら。 NHKは、日本のテレビ局の中では、最も客観性を重視している組織なのですが、この無神経ぶりには呆れざるを得ません。 恐らく、意図を訊ねれば、「知りたがっている人がいるから」と答えると思いますが、スポーツ選手の成績は、海外で起きた事故の被害者名を伝えるのとは、緊急度・重要度が全く違います。 毎日、数分を割いて報道するような事ではありますまい。

  ちなみに、「海外で起きた事故の被害者名を報道する時に、日本人の事しか言わないのは、外国人を差別しているのだ」という指摘が昔からありますが、あれは必ずしもそういうわけではありません。 日本の報道機関は、日本国内に向けての報道義務を負っているので、日本国内に家族・親類がいると思われる被害者が出た場合、それを伝えなければならないのです。 何でもかんでも、批判すればいいというわけではないので、注意が必要です。

  昨今、異様に増えてきたのは、報道番組で外国の悪口を何のためらいもなく口にする傾向です。 ついこの間までは朝鮮が、最近は中国が、まるで悪魔でも住んでいる国のような言い方で罵り倒されていますが、もう狂っているとしかいいようがありません。 報道の客観性などかけらも無く、最初から悪意を持って番組の製作方針を決定し、その国の悪い面だけを取材してきて、「こんなにひどい!」と罵詈讒謗の限りを尽くしているのですが、ここまで下劣になると、もはや報道以前の問題で、≪報道人を≫ではなく、≪人間を≫やめた方が良いでしょう。 およそ、悪口などという物は、言おうと思えば際限なく言える物なのであって、最初から悪意をもっていたのでは、対象の実相に迫るどころか、遠ざかる一方です。 そういう番組を見て感じるのは、「この番組の製作者は、この国に猛烈な悪意を抱いているのだな」というその一点のみであり、番組の内容に関係なく、それ以外の何も視聴者に伝えません。 そんな番組を見て喜んでいる方も、同次元の下司である事は明らかで、人間として尊敬できる部分など一ヶ所たりともありません。

  「外国を見る時に、どんな所を見るべきか」には、ちゃんとした目安があります。 自国よりも優れた所を見るのです。 なぜなら、外国から優れた所を取り入れてこそ、自国をよりよい社会に出来るからです。 わざわざ悪い所をほじくり出して罵り倒すなど、ただ単に下賎な仕業というだけに留まらず、何の利益にもなりません。 上にも書いたように、悪い所などというのは、どんな国でもどんな人でも、探せばいくらでも出て来るのであって、そんな事ばかり報道しても、二国間の好感度が下がるばかりで、何の得もないではありませんか。 一体、どういうつもりなのかね? 戦争でも起こしたいのかい? 確かに、戦争になれば、ニュース・ネタがどっと増えるから、報道機関は≪嬉しい悲鳴で、ホクホク顔≫だろうが、まさか本当にそんな事を期待しているのではなかろうね?

  私はしょっちゅう中国や韓国のポータルサイトへ行って、ニュースを読んでいるのですが、日本関係のニュースを見ると、ジャンルによって貶す誉めるがきっちり別れています。 政治・軍事方面では批判的記事が多いですが、科学技術・経済方面では、完全な客観報道がなされていて、日本の報道に見られるような浅薄な下劣さは全く見られません。 ≪浅薄な下劣さ≫とは、たとえば、「どこそこの国で、こういう物が開発された」という記事を書いたその末尾に、「しかし、実用的かどうかには疑問が残る」といった、記者の私的感想を付け加える事です。 もちろん、記者というのはべたべたの文系であって、技術なんぞ門外漢もいい所なのですが、「外国の技術は日本よりも劣っているに決まっている」という偏見に満ち満ちている為、こういう悪態を付け加えずにはいられないのです。 分かったようなふりをして、却って自分の底の浅さを露呈しているのですが、当人はしてやったりと得意満面。 救い難し・・・。

  マスコミばかり批判して来ましたが、明らかに悪意を元に作られた番組や記事を見て、何の疑問も抱かず、「そうだそうだ」と囃し立てている馬鹿な民衆にも、絶望を禁じ得ません。 これだから、民主主義は限界が見えているっつーのよ。 そういう番組で、いとも容易に洗脳された連中が、外国批難だけで飯を食っているような低劣な議員に投票するから、日本の外交能力は落ちる一方だ。 自分の頭でよーく考えてみれば、外国を貶す以外に能がないような馬鹿どもに、外国と交渉なんか出来るわけがない事くらい、分かりそうなもんですがねえ。 罵っていれば、相手が恐れ入るとでも思っているのかね? 頭おかしいんじゃないの?

  ところで、報道の客観性というと、思い浮かぶのは、やはり、某民放局の≪○○特集≫の変貌ぶりですな。 この番組、以前はその局の看板報道番組で、歴史も長く、民放ではダントツの客観性を誇っていました。 他の番組では得られないような、世界の最先端の情報を伝えてくれるので、私も毎週欠かさず見ていました。 日本では珍しく、≪リベラル志向≫の番組だったんですな。 ところが、あーた、驚いちゃうじゃありませんか。 裏番組で民放他局が外国罵倒を売りにした報道番組を始めると、それに対抗して、それ以上の外国罵倒番組に変身してしまったんですな。 毎週毎週同じようなテーマばかりで、とても見られたものではなく、何時の間にか、その番組だけは見ないという正反対の生活になってしまいました。 同じ番組名で、あれだけ方針が変わった番組も他に無いと思います。 もはや、客観性など、ゼロを通り越してマイナスの領域。 あれほど偏っているのに、未だに打ち切りにならない所を見ると、そこそこの視聴率を取っているんでしょうが、それがまた恐ろしいです。 作っている方も、見ている方も、自分のドタマが腐っている事に気付いていないのでしょう。

  テレビ・新聞・雑誌・ネット、全ての報道に言える事ですが、客観性があるか無いかは、その製作者の知性レベルを測るいい基準になります。 報道にとって客観性とは、「あった方が良い」というものではなく、「無くてはならない」ものだからです。 残念ながら、その点、日本の報道機関は、ほとんど失格です。 「少々偏っているくらいでないと、視聴者や読者に受けない」などと考えているのなら、思い違いも甚だしいです。 もしそんな雰囲気が充満している職場なら、個人的に辞表を提出すべきでしょう。 客観性の無い報道で世の中に火種を撒き散らすくらいなら、報道などしない方が遥かに良心的です。