2008/03/30

亡命政治家

  さて、チベットの暴動ですが、まったく奇妙といえば奇妙なもので、暴動を起こしている方より、鎮圧している方が批判されているのだから、偏頭痛がして来ます。 映像を見ても分かるように、あれは平和的デモなどというものではなく、市街地の破壊行為で、当局が放って置いたら、その方が異常です。 坊主どもが、法衣を着たまま、力任せにガンガン器物損壊をぶちかましているのには、お釈迦様もびっくりだね。 一体、何者なんだよ。 僧侶なのは外見だけで、仏教について何も学んでいないのか?

  破壊行動をともなう暴動を平和的に鎮圧するのは非常に困難、というか、実際問題として不可能です。 「放水車を使えば」と思った人もいるでしょうが、放水車というのは、暴徒の目的地が決まっていて、そこへ向けて突入して来るのを蹴散らす時にだけ有効なのです。 市街地に分散して商店を片っ端から破壊するような暴動では、放水車の据え場所が決められません。 「銃器を使わなくても」と思う人もいるでしょうが、盾と警棒だけで立ち向かう場合、暴徒側は怖がりませんから、抑え込む為には数倍の数の鎮圧部隊が必要になります。 一口に暴動と言っても、様々な形態があるのですよ。


  ダライ・ラマ14世率いるチベット亡命政府が、中国当局の鎮圧行動を、「武力弾圧」といって批判するのは、別段おかしくありません。 対立しているのだから相手を罵るのは当然ですな。 しかし、第三者がこの問題に関して中国を批判する場合、資格の有無が問題になります。 自分の国が、同じような少数民族との対立を抱えている場合は、批判する資格がありません。 この事は、その国の政府だけでなく、その国に所属する国民すべてに当て嵌まります。

  まず、イギリスですが、他国の事をどうこう言う前に、北アイルランドを独立させるべきでしょう。 中国政府に、「ダライ・ラマと対話せよ」と言っていますが、これはつまり、「ダライ・ラマの要求を受け入れよ」と言っているわけで、それなら、まず自分の国がIRAの要求を受け入れる方が先です。 そういえば、スコットランドにも独立運動があるようですが、正式に独立要求が出たら、当然二つ返事で承諾するんでしょうね。 他国に偉そうな事を言うくらいだから、まず自国が範を垂れねばなりませんな。

  次に、フランス。 ニューカレドニアやグアドループを手放し、アフリカの旧植民地に謝罪と弁償、旧状復元を果たしてから、チベット問題を語るべきです。 北京オリンピックのボイコットを検討中だそうですが、オリンピックを人質にするなど、≪スポーツに政治を持ち込む≫の典型例で、今回の暴動の扇動者達と全く同じ発想です。 恐怖で圧力をかける事をテロリズムと言うわけですが、オリンピック・ボイコットをちらつかせて圧力をかけるのと、テロリズムとどこが違うのかな? 数年前、フランスで青年層が雇用関係の法案に反対して全国規模の暴動を起こしましたが、もしあの時、中国政府がフランス政府の対応について何か批判したとしたら、聞き入れましたかね? 「内政干渉だ!」といって激怒したんじゃないですかね?

  次、日本。 よく批判なんかできるね。 まず、自分が過去を反省し、謝罪・賠償・旧状復元してから言いなよ。 一般犯罪に譬えれば、強盗放火殺人犯が被害者の家庭内の問題についてあれこれ批判しているわけですが、そんな事が出来る立場だと思っているんですかね? 更に言えば、チベット独立を支持するのなら、日本も当然の義務として、アイヌモシリと琉球を独立させる必要があります。 アイヌモシリの方は、入植した日本人を全員引き上げなければ旧状復元できませんから、大変だと思いますが、チベット独立を正しい事だと思うなら、当然自ら率先垂範すべきですな。 よろしく努力されたし。

  お次、アメリカ。 ここが一番すごい事になりそうです。 チベット独立を支持する為には、ネイティブ・アメリカン以外の入植者をすべて、出身国に戻す必要があります。 アメリカで生まれた場合は、先祖の出身国に戻る事になります。 また、アメリカ合衆国自体が移民によって建てられた国なので、国そのものも解体しなければなりません。 いや、本当に大変でしょうが、何といってもチベット独立を支持する為には、最低限必要な資格ですから、勇躍実行していただきたい。

  最後に、台湾。 ちょうど総統選挙に重なったので、チベット暴動とその鎮圧のニュースが、反中国政府票になって民進党に流れるかと思ったんですが、そうはならなかったようですな。 やはり、経済停滞を克服したいという欲求には勝てないか。 中国政府を批判すれば溜飲は下がるでしょうが、金は一台湾ドルも入って来ませんからねえ。


  実は私、基本的には、民族自決を支持する立場です。 グローバル化が進めば進むほど、文化の多様性が重要になると思いますから、文化の基礎である民族が自治権を持つ事は、独自文化を維持・発展させる為に不可欠だと考えているわけです。 ただねえ、チベットに関していうと、事は複雑になるのです。

  まず、ダライ・ラマ14世という人がよくわかりません。 チベット自治区内に住んでいて、反政府活動をしているなら分かるんですが、この人、外国へ亡命してしまっていますよね。 この亡命者というのが曲者でして、およそ信用ならんのですよ。

  最近の例としては、イラクがあります。 イラク戦争の前にアメリカに亡命していたイラク人が大勢いて、ブッシュ政権にイラク侵攻を唆す役割を果たしました。 彼らは、亡命政府のような組織も作っていました。 で、その中の代表的な人物が、フセイン政権崩壊後にイラク入りして、暫定政府の要職についたんですが、こやつが食わせ者でね。 糞の役にも立たぬばかりか、犯罪やら汚職やら、ろくでもない事ばかりして、結局アメリカに逮捕されてしまいました。 ただのゴロツキだったんですな。

  東チモールの例もあります。 国外亡命してインドネシアからの独立支援を諸外国に訴えていた人達が、独立達成後、国に帰ったわけですが、いざ政権についてみると、肝心の統治能力が全く無かったのです。 かつての同志同士で権力闘争に突入し、あっという間に治安能力を失ってしまいました。 で、結局、オーストラリア軍に進駐してもらって、治安回復したわけですが、そんな様じゃ、何の為にインドネシアから独立したか分かりませんわな。 インドネシア軍もオーストラリア軍も、外国軍である事に変わりがないではないですか。 なぜ再び、しかも自分達の手で外国軍を受け入れるような真似をしたんでしょう。

  それと、アフガニスタンのカルザイ政権。 このカルザイという人も亡命していた人ですが、大統領就任当初うまく行っているのかなと思っていたら、実際には軍閥割拠状態は変わっていないそうで、カルザイ政権の勢力範囲は、カブールの周辺だけだというじゃありませんか。 タリバンは復活するし、ドイツ軍を筆頭に駐留外国軍はアフガニスタン人を殺し続けているし、何もよくなっていません。 がっかりしたね、これには。

  亡命していた政治家というのは、大概そんなもののようですな。 政治家が亡命する場合、身の危険を避けて外国へ逃げるわけですが、一番苦しい時に外国へ逃げていた人物を、国に残っていた民衆は信用しないんですよ。 「危険だから逃げる」、「旧政権が倒れた。 これで安全に国に帰れる」って、随分と虫がいい考え方でしょう。 亡命政権で過去に成功した事例というと、第二次大戦時のフランスのド・ゴールのそれが有名ですが、他にはあまり思いつきません。 独立運動で最大の成果を上げた人物というと、ガンジーがいます。 彼は、若い頃にイギリスや南アフリカへ行っていましたが、留学や仕事で行っていたのであって、亡命していたわけではありません。 イギリス統治下のインドで、何度も逮捕されていますが、亡命はしませんでした。

  さて、ダライ・ラマ14世ですが、あの人、本当にチベットを独立に導けると思いますか? ガンジーのように、逮捕されてまでチベット自治区内にいようという気はないようですな。 ダライ・ラマだけでなく、外国へ亡命して、独立への支援を呼び掛けているチベット人達がたくさんいますが、独立達成後、チベットに戻って、普通の生活が出来ると思ったら、とんだ当て外れになると思いますよ。 恐らく、残っていた人達は、彼らを仲間だと認めないでしょう。 死ぬまで家に篭りきりで、人目を避けて暮らす事になると思います。

  もし外国の支援を受けて独立を達成したとして、チベット文化を純粋な形で維持・発展させられるかというと、それも大いに疑問です。 中国とは対立する事になりますから、強大な軍隊が必要ですが、チベット人だけでは人口が少ないですから、とても足りません。 中国から分離すれば、中国経済と切り離されますから、成長どころか、経済の大収縮が起こるのは必至で、武器を買う金も捻出できないでしょう。 となれば、インドを頼りにする事になりますが、それでは、東チモールと同じでして、威嚇される対象が中国からインドに変わるだけです。

  恐らく、ダライ・ラマは、独立まではインドに身を寄せても、独立達成後は距離を置いて、インドと中国と牽制させあい、夷を以って夷を制すつもりでいるのだと思いますが、チベットが独立すれば、地理的に離れる事でインドにとって中国は目の上のたんこぶではなくなるので、むしろ両国の関係はよくなるはずです。 ダライ・ラマにとってもう一つの道は、インドでも中国でもなく、アメリカやEUを頼る事ですが、これがどういう結果を招くかは、容易に想像がつきます。 ラサ市街にマクドナルドやセブンイレブンが溢れ、Tシャツ・ジーパンで、チベット中が埋め尽くされるわけです。 チベット文化の危機を訴えて独立したのに、自分から文化を磨り潰してどうする?

  ところで、自覚がない人も多いと思いますが、日本の文化も、明治以降自主的に磨り潰し、戦後はアメリカ文化の流入で磨り潰されて、ほぼ絶滅状態です。 江戸時代の人を連れて来て、今の日本を見せたら、感想はたった一言、「バテレン」でしょう。 韓国も似たような状態ですが、韓国ではまだ時代劇が盛んに作られているのに対し、日本ではテレビの時代劇枠がほとんどなくなってしまいました。 今後は江戸時代の風習すら記憶から消え去っていくでしょう。 もはや、何人なのか分かりませんわな。


  今回の暴動と鎮圧、中国政府が一方的に批判されていますが、天安門事件の時のそれに比べると、批判のトーンは遥かに低いです。 天安門事件の時には、民主国家のマスコミが、まるで中国政府がすぐにでも転覆するかのような報道をしていましたが、今になって振り返ると、民主国家のマスコミに未来を見通す目が如何に無かったかを痛感させられます。 転覆どころか、グイグイ成長して、経済力世界一までもう一歩という所まで来ているではありませんか。 それに対して、当時学生運動の指導者として名を売った人達がどうなったかといえば、外国へ亡命した後は只の人になってしまい、生きているのか死んでいるのかも分からない有様です。

  今回も同じパターンになると思いますよ。 「今こそ好機! ここで言わなきゃ、いつ言うんだ!」とばかりに中国政府を批判している方々、少し頭を冷やしなさいな。 オリンピックを人質に取られたくらいで、チベット自治区ほどに広大な領土を手放す国などありえませんよ。 主だった外国が全てボイコットしたところで、北京オリンピックは行なわれると思いますし、よしんば、国際オリンピック委員会が中止をちらつかせたところで、中国政府がオリンピックと引き換えにチベットを独立させる事などありえません。 どちらを取るかとなれば、当然チベットを取るはずです。 とどのつまり、オリンピックなどやらなくたって、どうという事はないのですから。

  それにつけても思うのは、今回の暴動を起こしている側の考え方です。 まさに、オリンピックを人質にして、中国政府を恫喝しているわけですが、オリンピックは、どの国で行なわれるかという以前に、全世界のスポーツの祭典ではありませんか。 自分達の目的を遂行するためなら、オリンピックを中止に追い込んでも構わないという、その発想が恐ろしいです。 また、便乗して抗議行動を始めるNGOも、うじゃうじゃ出て来ましたが、全くもって、NGOなどという連中は、ヤクザ以外の何者でもありませんな。 採火式を妨害した、≪国境なき記者団≫ですが、何なんだ、その名称は? ≪国境なき医師団≫をもじっているんでしょうが、やっている事は完全に政治活動家のそれで、とても報道関係者の所業とは思えません。 報道の命である客観性・中立性を放棄している事に気付いていないのかな?