2008/06/22

境遇は通り魔を産まない

  やれやれ、テレビも新聞も、ろくなニュースが無いねえ。 人生が嫌になっちゃうよ。

  人生が嫌になるといえば、≪秋葉原通り魔事件≫ですが、実は私、犯人が働いていた、≪関○自動車・東富士工場≫とは少々因縁のある人間でして、工場の中の様子も、割とよく知っています。 どのくらいの因縁かというと、毎日門前を通ってるくらいの因縁。 最初にテレビでニュース速報が流れた時に、「静岡県裾野市の派遣社員」というので、「え!」と思ったんですが、その後、「自動車部品工場に勤務」と聞き、「おや、≪矢○電線≫かな?」と思っていたら、翌日になると、≪関○自動車≫の建物がテレビにモロに出たので、驚いた次第。

  裾野市は、全国的にはあまり知られていませんが、市全体が広大且つ緩やかな傾斜地で、大きな工場が幾つもあります。 ただ、自動車関係というと、≪関○自動車≫か、≪矢○電線≫のどちらかに絞られるというわけ。 マスコミが、「部品工場」なんて言うから、てっきり、ハーネス(車の中に張り巡らされている束ねた電線の事)を作っている、≪矢○電線≫だと思ってしまったのですが、≪関○自動車≫の方だったんですな。 地元の人間なら大概知っていますが、≪関○自動車≫は、ト○タ系の完成車組み立て会社ですから、作っているのは自動車そのものでして、部品なんか作ってません。  一体誰が、「部品工場」などと言い出したのか、奇怪千万。 別に企業秘密でも何でもない、事業内容そのものですから、調べればすぐに分かったはずなんですがねえ。

  テレビも新聞も、日曜日に事件が起こってから、日月火水と四日間ずっと、「自動車部品工場」と報じていて、木曜日になって漸く、「車体工場」と書く新聞が出て来ました。 別に訂正記事のようなものは無く、昨日まで、「部品工場」と書いていたのを、いきなり、「車体工場」に変えたわけで、さぞや読者は混乱した事でしょう。 犯人が働いていたのは、塗装工程だったわけですが、≪関○自動車≫で、塗装工程といえば、もう車体の塗装に決まっています。 それを、マスコミの連中は、部品工場だと思い込んでいたわけですから、何の塗装なのか分からずに困ったんでしょうな。 想像を逞しくして、「部品の塗装の検査をしていた」などと、ありもしない仕事を捏造していた記事もありました。 それを書いた記者、車体工場だと分かった後で、顔から火が出たんじゃないでしょうか?

  だーから、簡単に確認できる事を確認せずに、想像で記事を書くなっつーのよ。 少なくとも、静岡県の東部地域では、その新聞の信用度に相当キズがついたと思われます。 マスコミっていうのは、いい加減なんですねえ。 これじゃあ、ネットで素人が流すテケトー情報と変わらないではありませんか。 しかも、間違いと分かっても、訂正する気骨すら無いのです。 視聴者・読者が詳しい事情を知らないのをいい事に、きっと他のニュースでも、いい加減な事を言い捲ってるんでしょうな。

  で、私は毎日毎晩、≪関○自動車・東富士工場≫の前を通っているわけですが、この歳になって初めて、マスコミの一団のというのを目にしました。 門前で捕まった、≪関○自動車≫の社員が、カメラや収録マイクを持った集団に取り囲まれて、インタビューを受けているのですよ。 「こんな田舎にマスコミが来るとしたら、富士山が噴火した時だけだろう」と踏んでいた私の予想は見事に外れたわけです。 ちなみに、裾野市の名前は、≪富士山の裾野≫という所から来ていて、この工場の門前からも、富士山がよく見えます。

  マスコミの大半は首都圏から来ていたようですが、都会の人間だから、少しは派手な格好をしているのかと思いきや、男も女も、上から下まで黒ずくめだったのは意外でした。 しかもシャツは白。 葬式か、おまいら? もしかしたら、殺人事件で犠牲者が出ているから、こういう色の服装にしてるんですかね? それにしても、黒ずくめの一団が門前にたむろしているのは、何とも不気味な光景でした。 何十年に一度も無いような事なので、写真を撮りたい衝動に駆られましたが、やはり、犠牲者が出ている事に配慮して、やめておきました。 そういえば、マスコミの人達、夜中にもいましたよ。 夜の部は、カメラなどは持っていなかったから、たぶん、雑誌かなんかの記者だったんでしょうな。 昼の部よりもガラが悪く、言葉遣いが丁寧でなかったら、ヤクザにしか見えない風体でした。


  個人的な経験談はこのくらいにして、事件そのものの感想ですが、まあ、恐ろしいの一語に尽きますな。 言うまでもないですが、すべての責任は、派遣会社でも派遣先の工場でもなく、レンタカー会社でもミリタリー・ショップでもなく、両親でもなく国の政治でもなく、犯人当人にあります。

  まず、仕事関係ですが、「人材派遣会社の社員で、工場に派遣されていたのが、契約を切られて、二ヵ月後にやめさせられる事が決まっていた」 その程度の理由で、大量殺人を起こされたのでは、人間社会が成立しません。 ほぼ同じ境遇、もしくはそれ以下の状態で働いている人間は全世界に無数にいるわけですが、その人達がみんな人殺しに走るわけではありますまい。 というか、そんな理由で人を殺す奴なんて、限り無くゼロに近いです。 この犯人個人が、異常者中の異常者だと見るべきであって、「気持ちは分かる」などという戯言は、たとえ寝言であっても口にすべきではないと思います。 派遣社員の立場が弱く、急にやめさせられる事があるのは、勤める前から分かっている事ではありませんか。 その度毎にブチ切れて、通り魔に出撃されては、派遣会社そのものが成り立ちません。

  派遣先の工場も、とんだとばっちりというものでしょう。 世間に謝罪する必要など全くありません。 そんな事を言い出したら、雇った派遣社員を仕事が減ってもやめさせられないという事になり、人件費の負担で会社が潰れてしまいます。 ちなみに、自動車業界では、6月から軒並み、生産台数が急減したのですが、元を辿れば、サブプライム・ローン問題でアメリカ向けの輸出が減った事が原因です。 ≪関○自動車≫のせいという以前に、生産台数の割り当てを減らした≪ト○タ自動車≫のせい、車が売れなくなったアメリカ市場のせい、サブプライム・ローンのバブルに踊ったアメリカ市民のせい、と際限なく責任の所在が遡って行きます。 アメリカ市民に向けて声明でも出しますかね、「秋葉原の通り魔事件は、お前らのせいで起こったのだから、謝罪せよ」と。 おっ門違いも甚だしい!

  レンタカー会社は、まったく無実ですな。 借りたいという客に車を貸すのが仕事ですから。 むしろ、最初要求された4トン車を、免許の住所が地元に変更されていない事を理由に貸さなかったのは、チェック機能がちゃんと働いていたわけで、誉めるべきでしょう。

  ミリタリー・ショップは、人殺しにしか用途が無いナイフを売ったということで、問題点もありますが、今回の事件の責任となると、ほとんど問えないと思います。 なぜなら、その店でダガー・ナイフを売らなかった所で、犯人は犯行を諦めなかっただろうと思うからです。 刺す事自体は、どこにでも売っている果物ナイフでも出来ますから。 普通のナイフを買って、艶消しの塗料を塗るくらい、あの計画立案・実行能力の高い犯人なら、容易にこなすでしょう。 しかし、ダガー・ナイフの販売は、今後取り止める方が賢明でしょうな。 今回の事件で、ダガー・ナイフの実力を知って、真似する奴が出て来る可能性が高いですから。

  次、両親の責任。 どんなものですかねえ。 犯人がとっくに成人している上に、長い間、家に帰っていなかったとなると、いかに親とはいえ、そこまで責任持たなければならないのか、大いに疑問です。 法律上は、連座制ではないので、親の責任が問われる事はありません。 道義的責任を感じた親が、自発的に被害者や遺族に謝罪するのなら、止める理由は無いですが、マスコミを筆頭に世間の方から親の責任を追求するのは筋違いだと思います。 親の立場になってみれば、どうにもしようがないのが分かるではありませんか。

  親を吊るし上げようとしている方々、まあ、落ち着いて考えてみなさいな。 自分の子供が殺人を犯してしまった場合の事を。 子供が、自分の見ていない所でどんな事をやっているか、何を考えているかなんて、全然知らんでしょうに。 さあ、責任が持てるかな? もし、親にも責任があるというなら、これほどの大事件となれば、謝罪くらいでは到底すまないわけですが、連座して、子供と一緒に絞首刑になる覚悟があって言っているのかな? 自分が同じ立場になったら受け入れられない事を、他人に求めるのは、それもまた罪ですぜ。

  最後、国の責任。 アホ臭い。 国に責任なんてあるものかね! 「派遣社員の待遇を法的に保証しないから、こんな事件を誘引したんだ」などと、難癖に近い批判を繰り広げている連中がいますが、現場の事情を知らないにも程があります。 今、日本中の工場で、派遣社員の契約打ち切りが続出しているのは、皮肉にも、国が、≪派遣法≫を整備したからです。 それまで、法の網の目をくぐる形で、派遣社員という安い労働力を得ていた企業が、≪派遣法≫の締め付けに抗しきれなくなり、法・に・従・っ・た・結・果、派遣社員をやめさせざるを得なくなったのです。

  作業訓練には時間も費用もかかるのに、「三ヶ月以上、同じ職場で働かせてはいけない」などと言われれば、そんな短期間で移動させなければならないような人材を雇うのは不効率ですから、派遣社員は使い難くなり、正社員や直接雇用の期間工に切り替えざるを得ません。 ところが、派遣社員はあくまで、派遣会社の所属ですから、企業側の一存で、派遣会社から引き抜いて、雇い直すわけには行きません。 結局、今まで働いていた派遣社員をクビにして、新たに正社員や期間工を雇う事になるのです。

  国はやるべき事はやっているのであって、ただ、今はそれが裏目に出ているだけです。 労働界全体のシステムを変更するには時間がかかります。 各企業が派遣社員を減らして、正社員主体に舵を切り直すには、何年も要するでしょう。 現在は過渡期と見るべきです。 悪くすると、企業が、今後人件費が嵩む事になる国内での生産に見切りをつけて、工場を海外移転してしまう可能性もあり、そうなったら裏目を通り越して、泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目です。 しかし、たとえそうなったとしても、それは世界経済の流れなのであって、国の責任とは言えますまい。

  昨今、フリーターの労働運動が俄かに盛んになり、国の政策を槍玉に挙げる風潮が出て来ましたが、何でもかんでも国のせいにすれば解決すると思ったら大間違いです。 私の経験から言わせて貰えば、そんな事をしている閑があったら、少しでも条件のいい正規採用の口を探し回った方が、人生にプラスになること疑いありません。 そもそも就職もしていない立場では、労働者の唯一の武器であるストを打つ事も出来ないではありませんか。 デモなんかやったって、就職している人間は賛同しませんから、決して多数派にはなれず、多数派になれない限り、民主国家で政策に影響を及ぼす事は不可能です。


  私は若い頃に、人材派遣会社にいた事があって、コピー機工場に派遣されていました。 派遣先の面接の時には、「長く続けられますか? すぐにやめられてしまうと、こちらとしては困るわけです」などと言われたのですが、三ヶ月たったら、「生産台数が減ったので・・・・」と、派遣会社ごとクビになりました。 今回の事件の犯人同様、割とその仕事が気に入っていたし、正社員の人達からも、「おまえは、よく働くね」などと評価されていたので、クビを宣告された時にはドタマに来ました。

  でもね・・・・、どんなに頭に来ても、人殺しなんか、微塵も考えませんでしたよ。 当たり前でしょ、そんなの。 「クビになったから、歩行者天国へトラックで突っ込んで、大量殺人」なんて、正気の沙汰かね? ≪クビで自殺≫なら、まだ分かりますが、≪クビで殺人≫なんて、異常者でなければ、そんな人の道に外れた事が出来るわけが無いではありませんか。

 「自分も同じ境遇だから、犯人の気持ちがよく分かる」なんてほざいている連中は、模倣犯になりかねないですから、警察で身元を調べ、カウンセラーでも送り込んで、幼稚極まりない心得違いを正し、犯行を未然に防ぐべきですな。 何が、「気持ちが分かる」だよ。 そんな答えしか出てこない頭なんぞ、トイレへ流してしまえ。