2008/07/20

マンション幻想

  ここ十数年ほど・・・・というか、バブル崩壊からこっちずっとですが、市街でも郊外でも、古い建物が壊された後、ちょっと広い土地だなと思うと、次に建てられるのは、必ずマンションです。 というか、もう基礎工事でパイルを打っているビルは、全部マンションなのです。 新規にオフィス・ビルが建てられないという事は、その地方の経済が停滞しているという証明なのですが、なぜか、マンションの需要だけは旺盛なようですな。 実に奇々怪々。 誰が買っとんねん? というか、マンションがどういう物なのか、分かってて買ってるんかいな?


  マンションの良い点は、

1. 一戸建てより、近所づきあいが少なくて済む。
2. 一戸建てより安い。
3. 台風や洪水など、特定の災害に強い。
4. 出かける時に、玄関の鍵をかけるだけで済む。
5. 家の外回りの掃除をしなくて済む。
6. 何となく都会的でかっこいい。

  といった所でしょうか。 一戸建ての欠点を嫌う人が、マンションを選んでいるのではないかと思うのです。 特に、1と2のウェイトが最も大きく、それ以外は副産物的オマケという感じがしますな。 「1と2の順番は、逆ではないのか?」と思われるかもしれませんが、いーえいえ、たぶん、これで正解だと思います。 値段がトップではないのです。

  不動産を買おうとする時、値段の問題は、言うまでもなく重要なポイントです。 一戸建ては、土地代と建物代の合計になるので、マンションの1.5倍くらいかかるイメージがあります。 しかし、それはあくまで、イメージの話。 実際には、マンションも一戸建ても、値段はピンからキリでして、マンションより安い一戸建てなど、探せばいくらでもあります。 

  不動産を買おうと企んでいる人は、毎日四六時中、新聞広告や情報誌と睨めっこしているので、金銭感覚が麻痺しています。 「あっちは、5000万円か。 こっちは5300万円だけど、一部屋多いから、こっちの方がいいな」などと、いとも簡単に天秤にかけちゃってくれます。 だけど、300万っつったら、かなり収入がある人でも、貯めるのに一年以上かかりますぜ。 そんなに軽々と、未来の一年を売りに出しちゃっていいんですかい、旦那?

  家を欲しがる年代というのがありまして、30代後半くらいで、結婚して子供が生まれて、「子供は、持ち家で育てたやりたいな」と夢想する夫婦あたりが、不動産広告の愛読者になります。 「借家だと、子供が友達を招びにくいんじゃないだろうか?」、「プライバシー尊重の時代だから、一人一部屋用意してやりたいな」などと、すべて子供中心で考えるので、自分の資金力以上の物件を選び易い危険な年代なのです。

  この人達、当然ローンを組むつもりで計画しているのですが、なにせ、「子供の為」で凝り固まって、明るい未来のイメージしか見えなくなっているので、住宅ローンの恐ろしさが全く分かっていません。 「子供が幸せに暮らせるなら、300万円くらい増えたって、どうってことないよ。 俺が頑張ればいい事さ」なんて、軽薄なセリフがどれだけ交わされていることか。 すぐそこに取立屋が来ていて、「300万返せ!」と凄んでいれば絶対に考えもしない借金を、ローンだと思うと切迫感が無いので、何のためらいもなくサインするんですな。 つまりね、この人達にとって、予算なんてあってないようなものなんですよ。

 「本当にお金が無いんだ。 格安物件のマンションしか買えないんだ」と力説する方に言いたいのですが、そんなに貧しいのなら、貧乏人として確固たる自覚を持ち、不動産を買おうなどという大それた望みを抱くのはおやめなさいな。 一生、借家で暮らす人だってたくさんいるんだから。 ≪分相応≫という言葉は、身分差別上は死滅しましたが、階級差別上はギンギンに生きています。 自分の分を知り、それを弁えた生活レベルを守る事が、幸福の持続に繋がるのです。


  さて、ローンを組めば、分不相応な値段の一戸建てでも買えるのに、なぜ、マンションに人気があるのか? それは、やはり、「一戸建てより気楽だから」なんでしょうな。 少なくとも、そういうイメージを持っている人が多いわけです。 だけどねえ、それは錯覚だと思うのですよ。 いや、錯覚に決まってます。 一つずつ崩していきましょうか。


【一戸建てより、近所づきあいが少なくて済む】
  嘘です。 マンションには、管理組合というものがあり、住民になれば、否が応でもそれに加わらなければなりません。 一戸建てに於ける、町内会の≪組≫と同じです。 組合長や役員の番が回ってくれば、勤め先でも仕事、家に帰っても仕事という地獄の日々になります。 何でも、ワンルーム・マンションという奴は、建てて数年もしない内に、建物全体がゴミ屋敷のような状態になってしまうらしいですが、あれは、どの家も一人暮らしで、組合活動をやろうとしない為に、荒廃を抑える事が出来ないのだと思われます。

  ちなみに、マンションには管理人というのがいますが、ほとんど何もせず、日がな一日テレビを見て暮らしているらしいです。 「共用部分の掃除くらいしろ」というと、「私が管理人室を離れたら、誰か用事がある人が訪ねてきた時、困るでしょ」と嘯くとか。 頭に来て、管理人をクビにする組合もあるらしいですが、そんな事をすれば、組合の仕事がますます増えるのであって、自分で自分の首を絞めているようなものです。


【台風や洪水など、特定の災害に強い】
  台風と洪水には強いですが、火事や地震にはそんなに強くありません。 火事は分かり易いですな。 一軒で火が出れば、同じ建物ですから、延焼によるとばっちりは避けられません。 ただ、マンションは、一戸建てよりも、火災報知器の設置率が高いので、実際には建物が全焼するような大火災は起き難いです。

  一方、地震ですが、ある程度の震度までは、一戸建てより強いです。 しかし、阪神大震災では、新築間もないマンションが、一階部分の腰砕けで潰れる例が出ました。 街が廃墟と化すほどの大地震になると、鉄骨鉄筋コンクリートのビルは、木造軸組み住宅の次くらいに弱いんですな。 つまり、2×4はもちろん、プレハブ住宅にも劣るという事です。 特に、地階や一階を駐車場にしているマンションは要注意です。 基底になる階が、柱だけで壁がほとんど無いのでは、どんなに鉄骨を太くしても、上に載っている多数の階を支えられるはずが無いではありませんか。 そんな設計でも、構造計算でOKが出てしまうのだから、耐震設計という奴が如何にいい加減かが分かろうというものです。

  自分の持分が無事でも、下の階が潰れたのでは、建物全体を建て直さざるを得ません。 これが大ごとなんだわ。 たとえば、5000万円出して買ったマンションが、大地震に見舞われて倒壊し、建て直す以外なくなったとします。 マンションを販売した会社が建て直してくれるのか? 馬鹿言っちゃいけません。 分譲マンションは、住民が買ったものなのですから、建て直す主体は当然、住民です。 同じ建物を同じ数の住民で建て直そうと思ったら、また5000万円ずつ払わなければなりません。

  最初の購入から大地震発生までの時間が30年くらいあれば、まだ納得も行きますが、大地震は一年後に来るかも知れず、買ったその日に来るかもしれません。 それでも、やはり、5000万円は追加支出しなければならないのです。 一戸建てと違って、2×4やプレハブを建てて地震に備えるという事もできませんし、地震の後、「うちは、そんなお金ないから、敷地の隅に小屋を建てて暮らします」というわけにも行きません。 倒壊したマンションの建物部分の資産価値は当然ゼロ、いや解体費用がかかるのでマイナスですし、僅かな土地分の権利だけ残っていても、切り売りなど出来ませんから、黙って5000万円出すか、権利を放棄するかのどちらかしか選べません。 まあ、マンションで一番怖いのは、このケースでしょうな。


【出かける時に、玄関の鍵をかけるだけで済む】
  それはそうなんですが、一戸建てと比較して、外出が気楽かというと、そんな事は無いと思います。 一戸建ての場合、家中を回って戸締りをするわけですが、どんなにゆっくりやっても、5分もあれば終わります。 それに対し、マンションは、鍵こそ玄関ドアだけですが、建物から出るのに時間がかかります。 廊下を歩き、エレベーターで一階に下り、更に駐車場や駐輪場まで歩き、ぐるぐる回って、漸く敷地から出るのに、5分以内というマンションは稀でしょう。 駐車場が立体の機械式だったりしたら、もう出かける気力も失せます。

  防犯の面からも、マンションが一戸建てより安全という事はありません。 ピッキング犯に代表されるように、マンションを専門に狙う泥棒は実にたくさんいますが、なぜ、マンションが狙い易いかというと、共用部分に人目が少ないのもさる事ながら、どの部屋も同じタイプの錠をつけている為に、一つの方法で、何軒も荒らし回るのに都合がいいからです。 一戸建てに入る泥棒が、≪手作り≫ならば、マンションに入る泥棒は≪流れ作業の大量生産≫なんですな。 錠を取り替えるぐらいでは生ぬるいのであって、ドアごと交換し、鉄格子つきの二重ドアにするくらいの覚悟が入ります。 もっとも、そんな改造をすると、ますます出入りに時間がかかるようになりますが。


【家の外回りの掃除をしなくて済む】
  これは本当で、真夏に汗ダクダクで草むしりをしている一戸建て住まいの人達は羨ましいでしょう。 しかし、その代わり、庭いじりもできません。 「植物に興味なんて無いから、そんな事どうでもいい」と思うのは、若気の至りでして、 歳を取って来ると、覿面にやる事が無くなり、「ちょっと、朝顔でも咲かせてみたい」と思うようになるのです。 その点、マンション住まいだと、もうどうにもなりません。 庭がある家だと、季節ごとに何かしら花が咲くので、切ってきて花瓶に生ければ、簡単に部屋の中が潤いますが、マンションでは、花一輪手に入れるのにも、そのつど花屋で購入しなければなりません。 何だか、砂漠のようだね。 いや、そう言っちゃあ、砂漠に失礼か。 マンションの部屋の中ほど、砂漠は不毛じゃないですけんのう。


【何となく都会的でかっこいい】
  そういう発想が田舎者の証明だというのよ。 しかも、このイメージは嘘です。 今日日マンションは都会、田舎に関係なく、どこにでもいくらでもあるのであって、特段、都会的などという事は全くありません。 コンビニと同じですよ。 コンビニは都会にも、地の果てにもありますが、私なんぞは、ツーリング先でしかコンビニを利用しないせいか、地の果てイメージの方が強く、都会でコンビニを見ると、「どうして、こんな所に、コンビニが?」とこめかみに汗が流れる有様。 ちなみに、私が、マンションに住んでいる人達に対して漠然と抱いているイメージは、≪ものぐさ≫とか、≪合理主義≫とか、≪他人嫌い≫とか、≪機械的生活≫とか、混然としたもので、≪マンション=かっこいい≫という観念は、頭の隅に浮かんだ事もありません。

  実際の所、マンション住まいの方々は、周囲の一戸建ての住民から、ご近所扱いなんて受けた事が無いでしょう? まあ、引っ越してきても、マンションの外へ挨拶へ行く人なんかいないし、町内会の組も違うから、つきあいも出来ないわけで、仲間扱いされないのは当然なんですがね。 ご近所扱いどころか、日照問題や、夜間の駐車場への出入り問題、ゴミ出し問題など、軋轢ガタピシで、激怒寸前まで迷惑がられていて、人間扱いすらされていないというのが、現実ではないでしょうか。 ぶっちゃけ、「早く死ね」と思われているわけですよ。 「都会的でかっこいい」? おほほほほ! 後生がいい思い込みだこと。


  さて、マンションの最大の問題点は何かというと、やはり建て替えではないかと思います。 大地震が来なくても、建物には寿命がありますから、やはりいつかは建て替えをしなければなりません。 マメに修繕をしていても、50年以上は持ちませんから、30代後半で購入したとしたら、確実に一度は建て替えがあるわけですな。 その時には、購入したときと同じくらいの金額がかかるわけです。 80代後半といえば、確実に年金生活に入っているわけですが、5000万円も貯金があるんですかねえ? これが一戸建てなら、修理をし続ければ、どんなボロ家でも住み続ける事が出来ますが、マンションでは、管理組合が建て替えを決めたが最後、大地震の時と同様、「金を出すか、さもなくば出て行くか」の選択を迫られる事になります。 そんな、よぼよぼの年寄りがどこへ出て行くというのよ?

  建て替えの危機を免れたとしても、年金暮らしの老人では、管理費や修繕積立金の支払いが苦しくなってくるのは、充分予測されます。 安アパートと同じくらいの金額を毎月払わなければならないわけですが、自分の持ち家なのに、お金を払い続けるというのは、何だか奇妙な話じゃありませんか。 それでいて、固定資産税はやはりかかってくるわけで、お金はいくらあっても足りません。 マンションが一戸建てより安いというのは、完全な幻想なんですな。 結局、生活が成り立たなくなって、安アパートに引っ越して、惨めな死を迎える羽目になるんじゃないでしょうか。 子供の支援無しで、マンションで人生を全うできるケースなど、稀なのではないかと思います。