2008/11/23

薄ら寒い話

  私の勤め先ですが、製品の三分の一がアメリカ市場向けであるにも拘らず、なんと11月に入ってから、二割近く増産し、残業が一時間半になりました。 「金融危機で世界が引っ繰り返っているというのに、何を考えてるんだ、この会社は?」と、こめかみに脂汗を流していたら、月の半ばから一転して減産に。 一気に残業がなくなりました。 扶養家族のいない私としては、目の色変えて金を稼ぐ必要が無いので、残業は減れば減るほど大歓迎! 善き哉善き哉、泣くほど嬉しい年末となりました。

  しかし、都合が悪い人も少なからずいるようです。 日本の製造業従事者は、基本給は低くて、残業代で稼ぐ形になっているので、それが無くなると、手取りが一気に三分の二くらいに減ってしまうのです。 残業が毎日一時間以上ある事を前提にして生活計画を立てている人達には、嬉しいどころか、血の気が引く時節の到来となったわけですな。

  工場勤めでないと、こういう事情は信じられないかもしれませんが、残業が減ると、わざとラインを停止させる輩が出てきます。 それまで何ヶ月もノー・アクシデントで動いていた機械設備が、残業が無くなった途端に、故障するのです。 確率的に言って、そんな事が起こるはずがないのですが、現実に止まるのだから、こりゃもう、人為的に故障させているとしか考えられません。 一日の生産台数は決まっているので、30分停止すれば、残業が30分延びて、千円か二千円給料が増えるという寸法。

  「そんな不正は、上司が放っておかないだろう」と思うでしょうが、ところがどっこいしょ、その上司が指示して、故障させているのですよ。 工場長、部長、工長クラスまでは結託してると見られます。 一番お金を欲しがっているのは、子供の学費を稼ぎ出さねばならない、その年齢帯のオッサン達でして、「給料が増える分には、誰も文句は言わないだろう」という理屈で、会社の不利益などお構い無しに停めまくります。 まさか、工場でそんな事をしているとは思わない経営陣が知ったらびっくりですが、グループの下位企業や子会社の場合、経営陣までが、この種の不正に暗黙の了解を与えている場合があります。 「どうせ、親会社が金を出してくれるから、少しくらい残業を増やしたって、構やしない」ってなわけですな。

  恐ろしい習慣ですが、日本全国のあらゆる業種の工場で、こういう事は普通に行なわれていると思いますよ。 これが、独立経営の中小企業だったら、言語道断な話ですわなあ。 社長が従業員の給料を払う為に、金策に駆けずり回っているというのに、工場で、残業代を増やす為に、わざとラインを停めていると知ったら、社長ブチ切れでしょう。 そんな悪事を企む社員は、会社の癌以外の何者でもないのであって、即懲戒解雇、いや、それでも生ぬるい! 背任罪で訴えるでしょう。 ところが、大きな会社になると、そんな言語道断な事が、日常茶飯事として行なわれているんですな。


  私の勤め先では、まだ行なわれていませんが、派遣社員や期間工があちこちで切られているらしいですね。 生産量が減った時に切り捨てる事が出来るように、派遣社員や期間工を雇うわけですから、当然と言えば当然ですが、実際に放り出される立場になってみたら、血の気が凍る思いでしょう。 世の中が不景気で、どの会社も人を減らしているのに、再就職先なんて見つかるわけがありません。 近々切られる事に決まった派遣社員達がストをやったというニュースがありましたが、何だか虚しい抵抗ですねえ。 会社側は、もう切るつもりでいるんだから、ストなんぞ全く怖くないのであって、人員削減後の態勢に移行するのを前倒しすれば済む事。 むしろ、ストは好都合ではありますまいか。

  今回の不況、未曾有の大波ですから、現在、正社員で職に就いている人でも、油断は禁物です。 いや、油断しなくても、乗り切れない可能性が高いです。 何十年勤めた会社でも、「すまんが、人を減らさなければ会社が潰れてしまうから、辞めてくれ」と言われたら、抵抗のしようがありません。 採用契約を盾に食い下がっても、会社が無くなってしまえば、結局、路頭に迷うわけですから、ほんのちょっとの時間稼ぎにしかなりませんな。 一旦クビを宣告された人間が、職場に戻って、以前と同じように円満に仕事を続けたなんて事例は、古今稀でしょう。

  だけどねえ、「俺をクビにするような見る目の無い会社に将来は無い。 こんな所、こっちから見限って、さっさと次の勤め先を探した方が利口だ」なんて決断を下すのは、勇み足の最たるものというべきです。 だからよー、世の中全部、不景気なんだよ。 クビになったような奴をホイホイ拾ってくれる会社なんてあるわけねーっぺよ。 どんなに格好悪くても、どんなに自分が醜く見えても、ギリギリまで粘って、失業を遅らせるのが正解だと思います。

  こういう時に、普段、貯金を全くしない方針の人間は脆いんだよねえ。 何というか、「給料というものは、貰ったら、生活費を除いて、全部使うものだ」と思い込んでいるパッパラプーが少なからずいるんですな。 いや、生活費と遊興費の違いを区別できていないと見るべきか。 仕事のキャリアを学生時代のアルバイトから始めた奴に、こういうタイプが多いです。 「働いて得た金は、自分の小遣いだから、好きに使うのが当たり前」という図式が大脳皮質に刷り込まれてしまっていて、「持ち金は、人生全体の為の運営資金なのだ」という意識にスイッチできないままでいるのです。 「貯金しといた方がいいんじゃないの?」と言うと、「そういう人もいるね」と他人事のような返事。 馬鹿だね~。

  でもって、リストラで早期退職者募集なんて話になってくると、後先考えず仕事を辞めて、あっという間に文無しになり、ホームレス化していくんですな。 こういう連中に共通している特徴は、「人生なるようになる。 金なんか気にする必要は無い」といった考え方です。 ホームレス化しても、寝床が確保できて、一息つくと、「ほら、やっぱり何とかなった」と納得してしまいます。 だけどね、ならないんですよ。 「なんとかなる」と思っている限り、ブレーキがかかりませんから、落ちる所まで落ちていって、≪死≫まで止まりません。

  同じホームレスでも、野郎の場合そうでもないですが、お婆さんが、垢だらけの真っ黒になって、ボロキレみたいな服にくるまり、体を丸めて寝ているのを見ると、「ああ、これは厳しい末路だなあ……」と身に凍みて感じますね。 そういう時つくづくと、「どうこう言っても、お金は大事だわ」と痛感するのです。 普通の生活をしている時は、「自分に、ご褒美」などといって、要りもしないのに高い物を買ったり、興味も無いのに、見栄を張って海外旅行に出かけたりしますが、ホームレスになって、その日の食べ物の当ても無くなったら、「ああっ、あの時、どうして、あんな無駄遣いしたんだろう!」と地団駄踏んで悔しがるのは必定。 備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖、貯金は一円でも多くしといた方がいいですわ。

  おっと、そうそう、「俺は金の事は気にしないようにしている。 小遣いだけ貰って、後は全て女房に任せている」と、同僚達に妙な自慢をしているあなた。 時々、預金通帳をチェックしといた方がいいですぜ。 あんたの配偶者に、まともな金銭感覚があるかどうか、誰も保証なんぞしてくれないのだからね。 特に、結婚前にブランド道楽だった女で、専業主婦になったような奴は要注意です。 気晴らしに何を買っているか分かったもんじゃありません。 亭主の稼ぎをみんな使ってしまって、「食えなくなったら、実家に戻ればいい」という作戦計画を温めているのだから、もはや新手の妖怪ですな。


  今の世界経済の状況を見ていると、大恐慌が再来する可能性は極めて高いと言わざるを得ません。 なぜかというと、大恐慌を避けられると判断する材料が少ないからです。 震源地のアメリカでは、オバマ次期大統領が、まだ就任しない内から、≪ニューディール政策≫のリメイクをやるような事を宣言していますが、そううまく行くものなのか、首を傾げているのは、私だけではありますまい。 ≪ニューディール政策≫の時は、恐慌が進んで、落ちるところまで落ちたから、「もう他に手は無い」という事で、社会主義的政策に国民全体の支持を集める事が出来たわけですが、現在の状況はまだそこまで行ってません。

  大恐慌の時は、1929年の株価大暴落から、≪ニューディール政策≫が始まる1933年まで、四年間も恐慌の嵐が吹き荒れたのです。 へろへろになっていたからこそ、カンフル注射が効いたんですな。 それに比べると、今はまだダメージが少なすぎます。 富裕層はほとんどそのまま残っていますし、貧困層でも、まだ失業者が爆発的に増えたわけではなく、せいぜい、「将来に不安がある」という程度。 オバマ氏の大統領就任時になっても、この状態はさして変わらないでしょう。 この段階で、社会主義政策を実行したら、反発必至ではありますまいか? 極端な話、失業してもいない人間を、無理やりダム工事に刈り出すようなものですな。 誰がそんな政策についていくのよ?

  すなわち、≪ニューディール政策≫をやるにしても、その前提として大恐慌を避ける事は出来ないという、ジレンマが存在するのです。 結局、大恐慌じゃん! どうすんねん?


  以下オマケ。

  アメリカの自動車ビッグ3がコケそうだというので、日本の軽薄人士どもが、「これで、トヨタが世界一になる」と喜んでいるようですが………、馬鹿か、おんどれら? ビッグ3がコケたら、アメリカは失業者の海になってしまうのだぞ。 そうなりゃ、誰も車なんか買ってくれません。 専らアメリカ市場で利益を稼ぎ出している日本の自動車メーカーも、致命的打撃を受けるのが目に見えています。 そんな単純な事がわからんのけ?

  フォードが、マツダ株を手放すというので、まるで、独立を勝ち取ったかのように寿いでいる日本人がいるようですが………、何か途轍もない勘違いをしているようですな。 青くなってるのは、マツダの方じゃないの? マツダという会社は、日本のバブル崩壊後に一度コケた会社で、倒産寸前の所を、フォードに助けてもらったという経緯があります。 フォードは、マツダの経営を立て直すために、どれだけ資金を使ったか分かりません。

  今はもうやっていませんが、ついこの間まで、アメリカのフォードのサイトへ行くと、自社ブランドの紹介ページに、「この車と同じ車格の車に、マツダの○○があります」といった文面が添えてありました。 グループ内企業だから、広告面でも支援していたんですな。 マツダは、関係が切れたとしても、大恩人フォードには足を向けて寝られますまい。

  そもそも、マツダが単独で世界戦略を立てて、これからの熾烈な国際競争に生き残っていけるかどうか、一番恐れているのは、マツダの経営陣でしょう。 私は、判官贔屓なので、昔はトヨタ・日産など大嫌いで、マツダの隠れファンでした。 マツダ車は早くからヨーロッパ風デザインを取り入れていたので、未来好きだった私の趣味に合ったのです。 80年代の車で、今見てもさほど古さを感じないといったら、マツダ車だけだったといっても宜しい。 ところが、今のマツダ車には、何の魅力も感じません。 全く欲しいと思わないばかりか、ただ眺める気にすらなりません。 他社の車と比べてどこが悪いというわけではありませんが、マツダの特徴だった個性が無くなってしまったんですな。

  「フォード、ドル箱を手放す」? 何を利いた風なセリフを。 本当にドル箱なら、手放す馬鹿などいるものか。