2009/04/12

異常尽くし

  あっさり通り過ぎてしまったので、「このまま忘れてしまってもいいかな」と思っていたんですが、何かしら触れておかないと、わざとその話題を避けていると思われるのが心外なので、一応、私の考えを書いておきましょう。 日本で、3月後半から4月5日まで、半月ちょっとほど続いた、大・空騒ぎの事です。

  基本的に・・・、いや、基本も特例もありませんが、宇宙ロケットを打ち上げる権利は、すべての国にあります。 そして、近隣の国が打ち上げるからといって、反対する権利は、どの国にもありません。 ましてや、自分の国が宇宙ロケットを恒常的に打ち上げているにも拘らず、近隣の国が打ち上げるのを批難するのは、まるで筋の通らない、常識を疑われる要求というものです。 個人に譬えれば、精神異常者の反応ですな。

  次に、当の国が、「宇宙ロケットを打ち上げる」と言っているのに、それを、「弾道ミサイルだ」と決め付けるのは、やはり異常です。 一体、何を根拠に、それを弾道ミサイルだと断定しているのか、全く見当がつきません。 自分で制作に携わっているか、計画に関与しているか、もしくは、諜報員でもなければ、それが弾道ミサイルだという証拠を手に入れられますまい。 裁判でも、基本は、「疑わしきは罰せず」ですが、こんな簡単な応用を利かせる事すら出来ないとは、裁判員制度施行を前にして、大変心許ない。 明確な証拠も持っていないくせに、見て来たような断定を下すのは、事が重大な問題だけに、講釈師より性質が悪いです。

  「過去の例から言って、弾道ミサイルに決まっている」という人に訊きたいのですが、一体、過去のどの例の事を言っているのかな? 朝鮮が長距離誘導ロケットを打ち上げたというと、今回を除くと、二回だけですが、いずれも予告無しでした。 二回目の時には、撹乱用に複数の短距離ミサイルを同時発射している点から考えて、ほぼ確実に弾道ミサイル実験だったと見做せますが、その時は、予告が無かったのです。 今回は、宇宙ロケット打ち上げの国際慣例に従った予告があったわけで、明らかに前回とは違います。 この事実から、ごく自然に導き出せる法則は一つしかありません。 「弾道ミサイル実験なら予告が無い。 宇宙ロケットなら予告がある」 ところが、日本では、最初から、弾道ミサイルと決め付けていました。 政府も、マスコミも、民衆もです。 論理的思考のかけらも無し。 ある意味、驚嘆に値する現象ですな。

  次、≪弾道ミサイル≫と、≪弾道ミサイル実験≫を混同してるケースが、非常に多く見られました。 いや、正直に言わせて貰うと、日本人のほとんど全員が、この両者の区別をつけずに、あれこれ意見を表明していたと言うべきでしょう。 この二つは、どう違うのか? 大違いです。 ≪弾道ミサイル≫を撃ったら、弾頭が付いているわけですから、落下地点が外国ならば、即、軍事的攻撃になります。 「事故だった」と通告して、謝罪や遺憾の意の表明をしないと、宣戦布告と取られても仕方ありません。

  しかし、≪弾道ミサイル実験≫であれば、ロケットの能力を試すのが目的ですから、普通は弾頭はつけません。 長距離弾道ミサイルの場合、最大で地球を半周するほど飛びますから、外国の領土や領海を通過しないわけには行きませんが、その事で国際的な問題になったという事例はあまり聞きません。 ただの実験であって、攻撃ではないのですから、まるで、戦争でも起こるかのように大騒ぎする国など無いわけです。

  「宇宙ロケットと、弾道ミサイルは同じ技術だ」というのは、確かにその通りですが、だからといって、≪宇宙ロケット=弾道ミサイル≫という事にはなりません。 それでは、「日本が打ち上げている宇宙ロケットも、すべて弾道ミサイルだ」と、自分で言っているようなものです。 実際に、日本の宇宙ロケットも、弾道ミサイルの技術開発を兼ねている可能性が低くありませんが、だからと言って、外国が、「日本が打ち上げている宇宙ロケットは、弾道ミサイルだ」と言ったら、「何を馬鹿馬鹿しい事を言っているのだ?」と思うでしょう。 それと同じ事を、日本も朝鮮に対してやっているわけです。 確かに馬鹿馬鹿しい。

  さて、百歩譲って、今回の長距離誘導ロケットが、宇宙ロケットではなく、弾道ミサイル実験だったとしましょう。 それが、何かいけない事なのかな? アメリカは、恒常的に弾道ミサイル迎撃実験をやっていて、標的として、本物の弾道ミサイルから弾頭を外した物を使っていますが、それを批判する国はありません。 ちなみに、日本もその実験に参加しています。 なぜ、アメリカや日本がやるのはよくて、朝鮮がやるといけないのか、その理由を説明できますか? 現在の世界では、国の上に、それらを統括する上位の存在は無く、国の立場は全て対等です。 アメリカや日本だけが、特権を持っているわけではありません。

  「安保理決議違反だから」? あはははは! アホけ? その安保理決議自体が、おかしいんだよ。 おかしいのは、もう、そこから始まっているのです。 だからよー、第二回目の長距離誘導ロケット発射の後に、安保理で朝鮮に対する批難と制裁決議が行なわれたわけですが、それは、安保理が勝手に決めた事であって、朝鮮が受け入れたわけではありません。 安保理は、専らアメリカが動かしているのですから、反米国家敵視の決議が通りやすいのは当然でして、そんなのは公正とは言えますまい。 更に根本を糺せば、安保理のシステム自体がおかしいです。 一部の国だけが特権を持っているのでは、それらの国に有利に事が運ぶに決まっています。

  本来、国際社会における全ての国は対等であるにも拘らず、国連という組織が安保理に不平等なシステムを持っている為、一部の国が、自国に特権があるものと思い込んでしまっているのです。 「現実には対等」、「国連というフィルターを通してみると不平等」、そのギャップが、今回の日本に於ける馬鹿馬鹿しい騒ぎの原因の一つになったのは疑いありません。 大体、≪制裁≫とは何事だ? 何様のつもりだ? 一国として、他の国に対して、≪対抗措置≫なら取れますが、制裁などという上から見下すような行為は、どんな国も取れないのです。 立場は、対等なのですから。 分かるまで何回でも言うよ。 対等なんだよ、対等! た~い~と~おっ!

  あー、ちなみに、国連は国際的問題の調停の場に過ぎず、国々を超越した権威ではありません。 本来なら、≪国連軍≫などという組織もおかしいです。 国連軍が、国連加盟国の領土内に展開する事がよくありますが、一体、誰の許しを得てやっているのか、考え出すと夜も眠れません。 その国の許可が無ければ、外国の連合軍による侵略と選ぶ所がありますまい。 まして、国連軍が、国連加盟国の軍隊と戦うなど、蛇が自分の尻尾を喰っているようなものです。 加盟国があってこそ、国連が成り立つのであって、特定の加盟国を、国連軍が攻めるのがアリとなれば、加盟国などなくなってしまいます。

  そういえば、国連軍と多国籍軍を混同している人も、嫌になるほど多いですが、全然違うので、ちゃんと区別するように。 どこが違うかというと・・・・・、あー面倒臭い! 自分で調べな! 調べても分からなかったら、それだけの知能しかないのですから、スパッと諦めて、今後は国際問題について意見を述べようなどと考えない事です。 恥を掻くだけじゃて。 ≪コードギアス≫や、≪ガンダム00≫を見て、「パワー・ゲームだな~」などと感心しているようでは、寿命が300年あっても基礎レベルまで辿り着けませんから、つまらん事に首を突っ込まず、自分の身の周りの心配だけして、一生を終えなされ。


  話を元に戻します。 「たとえ、宇宙ロケットだとしても、日本の領土の上を通るのは不愉快だ」と言った政府高官がいましたが、それなら当然、日本の宇宙ロケット打ち上げも控えるのだろうね。 日本のロケットも、太平洋諸国の領土上を、バンバン通ってるからねえ。 ははは、もしかしたら、太平洋には、国が無いと思ってる人がいるかな? いそうだから、怖いな。 何年か前に、日本のロケットが連続失敗して、その内の一回は、かなりの高度に達してから制御不能になって、自爆させましたが、あれも、落下地点の事を考えた上でやったんだかどうだか。 爆破した後で、破片がどこへ落ちるかなんて、計算のしようがないものねえ。

  自分の国は、平気で外国の上にロケット飛ばしているくせに、外国が自国の上にロケットを飛ばすと、怒るのかい? 一体、何を基準に、善悪の判断をしているんだ? 自分に都合が良い事は善で、都合の悪い事は悪のなのか? 原始人か? 無人島のヌシか? 生まれてこの方、公正・不公正について、一度も真面目に考えた事が無いのか?

  「そんなこと言ったって、現実に破片が落ちて来たら、危ないだろう。 重大問題じゃないか」 いやいや、落ちて来る物体が危ないというなら、航空機の方がよっぽど危ないです。 住宅地はもちろん、大都市の上空ですら、連日連夜、何千機の航空機が飛び交っているか分かりませんが、それらのすべてに墜落や部品落下の危険性があります。 「そんなのは、国の許可を得て飛んでいるのだから、問題無いのだ」と言いますか? 自分の頭の上に落ちてきても、まだ問題無いと言うかな? 実際、戦闘機やヘリコプターが住宅に突っ込んで、大悲劇になった事例がうじゃうじゃあります。 毎日毎日、定期的に何千と飛んでいる航空機には眉一つ動かさないくせに、数年に一度上空を横切るのロケットにめくじらを立てるのは、正に、感覚異常というものでしょう。


  今回の一件で、私が最も震え上がったのは、日本政府が、「領土上に落ちて来たら、破片を迎撃する」方針を打ち出した事です。 実際に迎撃ミサイルが移動・配備されましたが、ほとんど、狂気の沙汰としか思えませんでした。 たとえば、太平洋諸国が、「日本が宇宙ロケットと称して、弾道ミサイルを発射するから、迎撃態勢を整える」と言い出したら、ぎょっとするでしょう。 「どうして、そんな物騒な話が出てくるのだ?」と、脂汗が流れるでしょう。 しかし、日本が今回やったことは、それと全く同じですぜ。 たとえ、弾道ミサイル実験であっても、外国が打ち上げた物を、他の国が撃墜したら、重大問題です。 逆に宣戦布告をしたと取られても仕方ないほどのね。

  政府の方針には、「領土上に落ちて来たら」という条件がついていましたが、マスコミの手にかかった途端、そんな条件は消えてしまい、「発射したら撃墜する」に変わってしまったのが、輪を掛けて恐ろしい。 実際、マスコミから情報を受け取った民衆の雰囲気は、「迎撃ミサイルで撃墜すれば大丈夫」といった、戦時下そのものの感覚でした。 一体、どこでどんな函数に掛かれば、≪宇宙ロケットの打ち上げ≫が、「撃墜すれば大丈夫」などという感想を惹起するのか、空恐ろしいにも程があります。

  日本のマスコミが、最初から今現在に至るまで、一度も、≪宇宙ロケット≫という言葉を使わず、≪弾道ミサイル≫で押し通している点も、その執念深さに、ほとほと呆れ果てます。 恐らく、「日本政府がそう言っているから」と言うでしょうが、それは嘘でしょう? あんたらの頭の中に抜き難い偏見があって、「朝鮮のやる事は全て悪事だから、宇宙ロケットというのはごまかしで、弾道ミサイルに決まっている」と、思い込んで、信じ込んで、他の可能性が頭に浮かばないのでしょう?

  しっかし、報道機関なんて言っても、客観視点なんぞ、かけらも見当たらないねえ。 なんなんだ? 本当に報道の自由がある社会のマスコミなのか? 週刊誌、ワイドショー、報道番組、新聞、揃いも揃って、政府に右倣えしているのは、不気味極まりないです。 戦中・戦前とどこが違う? それにとどまらず、政府の言う事を増幅し、民衆を煽り立てているのだから、始末が悪い。 そりゃ、騒ぎが大きくなればなるほど、マスコミの得は大きいけどねえ。 企業や政治家の倫理をどうこう言う前に、まず自分の襟を正すべきなんじゃないの?

  今までにも何度も指摘しているように、マスコミ関係者というのは、文系の吹き溜まりでして、科学技術知識は皆無、理工系の常識も絶無に近いです。 番組を作っているスタッフにしてからが、ロケットとミサイルの区別が分からず、記事を書いている記者にしてからが、≪確率≫の概念など持ち合わせていないのですから、嘘でもこじつけでも、個人的妄想でも、平気で報道します。 今回は特別にひどかったですなあ。 北京五輪のキチガイ報道以上だよ。 なにせ、一触即発の戦争寸前まで行ってしまったわけで、その責任の60%くらいがマスコミにあります。 残りの20%が政府、20%が民衆といった所でしょうか。

  民衆も民衆だよねえ。 なるほど、こういう民族なればこそ、≪外国人皆殺し戦争≫なんぞ始めたわけだわ。 野っ蛮極まりない。 野蛮人にとって、戦争を始める理由は、どこにでも転がっているというわけですな。 現に、アメリカも、韓国も、日本の十分の一も騒いでなかったものねえ。 アメリカなんて、打ち上げの日のトップ・ニュースは、国内の乱射事件でしたぜ。 韓国のニュースも、打ち上げ前は、全然騒いでいませんでした。 だからよー、インターネットをやってるんだから、外国のニュース・サイトを見に行けっつーのよ。 翻訳ソフトや翻訳サイトを利用すれば、英語や韓国朝鮮語は、簡単に読めるんだから。 外国の様子を観察していれば、自分達の騒ぎ方がいかに狂乱しているか、比較で分かるでしょう。

  そういえば、フランスやドイツでは、トップ・ニュースどころか、トピック一覧にも入っておらず、≪世界ニュース≫まで下らないと、見つけられませんでした。 日本だけが狂乱してたんですな。 ちなみに、日本以外の国では、一般に、≪宇宙ロケット≫と報道していて、ちょっと詳しく書く時には、≪人工衛星を積んだ~≫という修飾語がつき、たまに、≪弾道ミサイル実験を兼ねる事が出来る≫という説明が添えられていました。 アメリカ政府でさえ、「宇宙ロケットだが、人工衛星の軌道投入には失敗した」と言っており、「弾道ミサイルだ」と未だに言い続けているのは、日本政府、日本のマスコミ、それと、日本の民衆の大多数だけです。

  「人工衛星の存在が確認できないから、弾道ミサイルだ」という言い方をした政府発表がありましたが、もはや、論理が滅茶苦茶です。 その前提から導き出される結論は幾つもあるはずで、一つに決められるわけがないでしょうが。 そんな事を平気で言った所を見ると、おそらく、自分の言っている事がおかしい事に気付かないほど、論理に蒙いのでしょう。 これが、加藤周一さんなら、「論理は分かっているが、自分が悪意を抱いている事をはっきり表明したいので、分からぬフリをしている」と分析するかも知れませんが、私としては、日本人の論理性の低さを素直に評価したいと思います。 言った当人も、伝えたマスコミも、聞いた民衆も、でんでん分かっとらんのよ。 まったく、恐ろしい民族に生まれてしまったものじゃて。 いっそ、勉強などせず、アホなままでいた方が、幸せに暮らせたかも知れぬ。


  そうそう、今回の騒ぎで最も強烈だった意見が、ネット上で紹介されていました。

「ミサイルが失敗して落ちて来たら、日本が滅亡しちゃうんでしょ?」

  ごく普通の、20代半ばの女性が、真顔で質問して来たのだそうです。 これも、論理はぐじゃぐじゃで、そもそも、「失敗したら日本に落ちる」というなら、成功とはどんな状態を指すのか、それが分かりません。 大方、そんな論理的な事は考えてないんでしょう。 ≪失敗≫だの、≪落ちる≫だの、≪滅亡≫だの、悪いイメージのみ思い浮かべ、意味の成立を無視して、単語を並べただけのように見えます。 明らかに、核弾頭が搭載されていると思い込んでいるようですが、どこにどう尾鰭がつけば、核弾頭が出て来るんですかねえ? 知る事は悩み多いが、その一方で、無知ほど怖いものは無い。

  おいよ。 政府、マスコミ、及び、民衆の大多数よ。 こんな所まで追い込んだのは、おまいらだぞ。 悪意でデマを増幅するのが、どんなに恐ろしい事か、分かっているのか? 何の反省もしていないようなので、今後も同じような状態になるたびに、同じような騒ぎを繰り返し、いつか踏み外して、戦争をおっ始めるのでしょうが、それこそ、最終的に滅亡するような事になっても、外国のせいとは言わせないからな。 もっとも、そうなってしまえば、言う奴も言われる奴もいないわけですが。