2011/07/10

千々に乱れる

  いやはや、国際的な見ものになるくらい、甚だしく混乱しておりますな、日本の政治は。 ≪小田原評定≫の時も、北条家の中は、こんな感じだったんでしょうかねえ。

  事態の変化が急激で、ころころと情況が変わるので、ブログで政治論評を書いている人達は、せっかく書いた文章を没にせざるを得なくなったりして、さぞかし、怒髪天を衝いている事でしょう。 だけど、そんな個人的な怒りは、この際どうでも宜しい。


  前復興相の暴言、及び、異常行動に関しては、現実世界でも、ネットでも、マスコミでも、ほぼ全員の意見が一致しているようなので、くどさを避けるために、あまり細かく書きませんが、「呆れる外は無い」というのが、率直な感想です。

  これは、皮肉ではなく、真面目な提案ですが、あの人、精神科へ行って診て貰った方がいいと思います。 普通の感覚では、ああいう態度や言動は出ませんよ。 「菅政権への自爆テロだ」などと深読みしている向きもあるようですが、すでに退陣を予告している政権を潰すのに、自分自身の政治生命を懸ける人間がいたら、それはやはり、精神異常でしょう。

  世間の猛烈な非難を浴びている情況でありながら、自分の行動をサッカーに喩えたり、実際に、知事にサッカーボールを蹴りつけたり、謝罪会見をビルの屋上でやって、「なぜ、屋上なんですか?」と訊かれると、「屋上が好きだから」と答えたり、とても、正常な精神の持ち主とは思えません。 他人に迷惑を掛けない範囲なら、「変わり者」で済みますが、被災者だけでも、数十万人に迷惑を掛けているのですから、これは、病院に連れて行くのに充分な症状と言えるでしょう。

  暴言、妄言と、頭がおかしくなった閣僚というのは、さほど珍しくないのですが、今回の騒動が重大なのは、決着の仕方が、罷免ではなく、辞任だったという点にあります。 言動と態度が報道された時点で、首相が、すぐに罷免していれば、むしろ、政権の評価を高める方向へ働いたかもしれないのですが、首相がやった事といえば、罷免どころか、辞任申し出の慰留だったというから、これまた、どーしょもない。 この一件の、どこをどう見れば、慰留しなければならない材料が見つかるのよ?

  たぶん、無理やり頼み込んで任命した立場上、慰留してみせたんでしょうが、それは政治家同士の人間関係の都合なのであって、見ている国民がどう取るかについて想像してみないのは、あまりにも、考え足らずというもの。 首相以外にも、「大した問題ではない」とか、「批判する方が、どうかしている」などという呆れた意見が与党内から出ていましたが、「ああ、こりゃあ、本当に、政権末期なんだなあ・・・」と、つくづく思いましたよ。

  そういえば、この一件、ニューヨーク・タイムズでも、≪WORLD≫ページに出ていました。 日本のテレビや新聞を見ていると、世界中が、震災後の日本に暖かい支援の手を差し伸べているかのような錯覚に陥りますが、実は、海外で頻繁に報道されていたのは、4月の中頃くらいまでで、その後は全然・・・。 ニューヨーク・タイムズでも、JAPANのJの字のすら見当たらなくなっていました。 それが、前復興相の暴言・異常行動のおかげで、少し注目が戻ったという次第。

  もっとも、記事の内容は、「被災した地方に、より大きな役割分担を求めた復興相の態度は、保守的な日本社会では受け入れられなかった」といった、何とも的外れなものでした。 たぶん、暴言の暴言レベルが、日本語から英語に訳した時に、うまく伝わらなかったのでしょう。 あまりにも低レベルの事件なので、間違いを指摘する気にもなりませんが。


  次に、玄海原発ですが、地元自治体の首長が、再稼動をあっさり認めてしまったのには、ガッカリする一方で、「ああ、所詮、日本人なんて、こんなもんなんだなあ・・・」と、妙に納得してしまいました。 いずれ、そういう所が出て来るとは思ってはいましたが、随分と早かったです。 まだ、福島第一の事故発生から、半年も経っていないのに・・・。 一番乗りを買って出たのは、ある意味、勇気があると言えますが、もちろん、誉めるつもりなど、小指の爪の先ほどもありません。

  同意の理由は、「国が安全宣言を出して、責任を取ると言ったから」だそうですが、安全宣言と言っても、言葉でそう言ってるだけでしょう? そんなこと言い出したら、福島第一だって、震災前は、「絶対、安全」という国のお墨付きで運営されてたんですぜ。 「事故なんか、起こるはずが無い」と、原発関係者全員が、胸を叩いて請合って、運転しておったのですよ。 それが、あの様ですわ。 この経緯を、リアルタイムで見ていながら、国の安全宣言を信用するという、その感覚が分かりません。

  「国が責任を取る」というのも、具体的に、どう責任を取るのやら。 福島第一の現状を見て、ああいう対策を取るのが、責任の取り方だというのなら、そんなの、お話にもなりますまい。 放射能汚染で住めなくされてしまったら、責任を取る方法自体、あり得ないと言うのですよ。 いくら補償金を貰っても、割に合わない事くらい、誰にだって、分かるはず。 住民が住む土地を失ったら、自治体そのものが消滅してしまうのですよ。

  首長といったら、大概は、その土地で生まれ育った人であるわけですが、自分の故郷の存亡に対して、責任を感じていないんですかね? 原発が無くなって、職場が減り、人が減っても、故郷が無くなるわけではありませんが、原発事故が起きたら、故郷そのものが無くなるんですぜ。 そんな重大な決断を、個人で背負えると思う、その感覚が分かりません。 いや、自治体の議会で議決しても、まだ全然、背負いきれないでしょう。

  もっとも、首長や議会の判断に任せず、住民投票で決めたとしても、原発地元自治体の住民は、多くが、原発に依存して暮らしていますから、結局、再稼動OKになってしまう可能性は高いですな。 で、再稼動に賛成したくせに、事故が起きたら、反対派と同じように、被害者ヅラして避難するわけだ。 何とも、虫がいい話だねえ。 日本人らしいといえば、実に、日本人らしいですが。

  国も国で、政治家というのが、一体何を基準に自分の行動を律しているのかが、皆目分かりません。 彼ら自身は、科学者や技術者でないどころか、理工系でも無く、いや、文系とすら言えず、専門知識など、どの分野に関しても、趣味レベル以上のものは持ち合わせていないわけですが、分からないなら分からないで、素人としての感覚を発揮して、疑わしい物には、警戒してかかるのが、良識的態度というものでしょう。 そして、今一番疑わしいのが、≪原発の安全性≫なわけです。 二番手につけている、≪相撲協会の健全性≫と比べても、100倍くらい疑わしい。

  震災直後、テレビに出ずっぱりだった原子力工学の学者ども、ここのところ、パッタリと顔を見なくなりましたが、「安全です」、「健康に影響はありません」、「打つ手はあります」と、厚顔無恥に大嘘こきまくったせいで、恥知らずでは人後に落ちないテレビ局にさえも愛想を尽かされたのは、滑稽至極です。 もはや、原子力工学など信じている人間は、誰もいなくなった証拠ではありますまいか。

  現時点に於いては、原発が危険なのは、誰もが分かっているのです。 しかし、「危険と言っても、すぐにすぐ、事故にならないのなら、当面は運転した方が、お金が入る分、得だ」と判断している、甘い考えの持ち主が多いのも事実。 原発自治体の首長なんて、ほとんど全員がそういうタイプでしょう。 だけどねえ、事故が起こってからじゃ、文字通り、取り返しはつかないんだよ。

  どうしても、再稼動させるというのなら、一筆書いたらどうでしょう。 「もし事故が起きて、人が住めない町にしてしまったら、決断の責任を取って、その時、現職であるか否かに関わらず、自害します」とでも。 一人の命で償える事ではありませんが、ぬけぬけと生き続けるよりは、まだしも、責任者らしい態度と言えるでしょう。

  原発再稼動への賛成を遠回しに表明したいのか、「夏場の大規模停電は避けなければなりませんし・・・」と、お題目のように繰り返している人がいますが、本当に避けなければならないのは、新たな原発事故であって、福島第一のような、いつ果てるとも知れない大惨事が、もう一箇所、二箇所と重ねて起こるのに比べたら、大規模停電なんて、何が怖いものですかね。 比較の対象にもなりません。 節電の推奨なんてまどろっこしい。 いいから、遠慮せんと、ザクザク停電させればいいのですよ。


  と、↑ここまで書いたところで、≪ストレス・テスト≫で、また新たな揉め事が起こりました。 別に、念の為のテストを、上積みして行なうというのですから、再稼動に賛成でも反対でも、異論は無いような気がするのですが、玄海原発の地元自治体の首長は、自分が下した再稼動同意の決定が、ストレス・テストの結果次第では、無効になってしまうかもしれないので、「何のために、決断したのか分からない」と、怒ったらしいのです。 そして、ストレス・テスト問題と、やらせメール問題を理由に、同意を撤回しました。

  再稼動反対派は、首長が同意を撤回した事に喝采を送っている事でしょうが、糠喜びに苦い思いをしたくなかったら、冷静に事態の推移を見守る事です。 怒りというのは、収まればそれまでですから、今後の国の出方次第で、また、再稼動に再同意すると思います。 この首長は、本音としては再稼動したいのでしょう。 そうでなければ、一度でも、再稼動に同意するわけがないのですから。

  ちなみに、日本人は論理に弱いので、二つ以上の問題が絡み合っていると、頭が混乱して、何が焦点になっているのか分からなくなってしまうと思うのですが、「ストレス・テストをやるかやらないか」という問題と、「ストレス・テストをやる事を、突然持ち出された」という問題は、別物です。 首長が怒っているのは、「突然」の方に対してであって、ストレス・テストそのものに対してではないと思います。

  ストレス・テスト自体は、突然持ち出されようが、根回し後に持ち出されようが、原発を再稼動するためには、当座、マイナスに働きます。 逆に言えば、再稼動を阻止するためには、当座、プラスに働くわけです。 ただし、テストの内容によっては、結果を利用されて、再稼動の根拠にされる恐れがあります。 言わば、諸刃の剣ですな。 

  この首長に限らず、福島を除く、原発立地自治体の首長や議会は、ほぼ全て、再稼動を切望していると思います。 それは、「安全性が確認されたから」ではなく、「お金が貰えなくなると、困るから」なのです。 見ている所、考えている事、興味の対象が、他の自治体とは、全然違っているんですな。 「お金が、最重要問題」と考えている自治体に、自分達の未来が握られていると思うと、周辺自治体の人間は、思わず背筋に冷たい物が走るのではないでしょうか。

  本来、一地方自治体が、そんな重大な決定を下す立場に置かれるというのがおかしいのであって、原発をどうするかは、政府が決めるべき事柄なのですが、国会議員や政党の支援者、及び、官僚らに、原発推進・容認派が多いものだから、政府が板挟みになって、どうしていいのか分からず、現状の如く、方針が醜く迷走しているのでしょう。 せめて、政府内だけでも、原発続行か、脱原発か、はっきり決めなければ、今後も混迷は続くでしょう。

  しかし、ものは考えようで、脱原発派としては、原発続行を決定されては困るのであって、むしろ、今の、どっちつかずのフラフラ状態の方が、まだ希望が持てるかもしれません。 「はっきりしろ!」と迫って、「じゃあ、原発続行で行きます」と答えられてしまったら、そこで、アウト! 「脱原発」という言葉自体が瞬く間に死語化し、次に事故が起こるまで、誰も思い出さなくなるでしょう。 不用意な政府批判は、藪蛇になる恐れあり。

  この国が、とことん救われないのは、今の政府を攻撃している野党に政権が移ったとしても、その野党が、原発政策を推進して来た張本人なのであって、政権についたからといって、脱原発などやるはずがない、という事です。 むしろ、民主党には無い指導力を発揮して、停止している原発を、どんどん再稼動させると思います。 だって、自民党で、原発に反対している人なんて、指折って数える程もいませんからねえ。

  そういえば、≪脱原発解散≫が取り沙汰されていますが、面白いから、やってみたらいいんじゃないでしょうか。 その結果で、日本国民の蒙昧度を、はっきり知る事ができます。 これだけ、グッチャグチャな状態になっていても、まだ、原発を有用だと考えている人が、山ほどいる事が分かって、仰天させられる事でしょう。 何度も言うようですが、こういう人達は、自分が家を追い出されるまでは、原発事故など、他人事に過ぎないと思っているのです。