いきなり、手術
もう、15年以上前ですが、風邪を引いて、近所の医院へ行きました。 今じゃ、風邪を引いても、医者には行きませんが、その頃は、風邪のメカニズムが分かっていなかったので、とりあえず、行っていたのです。 いや、私の風邪は、どうでも宜しい。
で、待合室で順番を待っていたのですが、だんだん進んで、座り換える椅子が診察室に近づき、次が私の番という所まで来た時の事です。 私の前に診察室に入ったのは、40歳くらいの女性でしたが、医師と話を始めたかと思うと、急に嗚咽が聞こえて来ました。 聞き耳を立てるまでもなく、自然に聞こえて来た言葉が、
「・・・痔みたいなんです・・・」
続いて、医師の慰める言葉。 しかし、何と言って慰めていたかは、忘れてしまいました。
何が言いたいかというと、この女性にとって、痔を告白するというのは、泣くほど恥ずかしい事だったわけですな。 私も、漠然と、≪痔 = 恥ずかしい病気≫というイメージは持っていましたが、泣くほどとは思っていなかったので、少なからず、衝撃を受けた次第。
一方、同じ頃、会社にいた同僚の一人が、疣痔になりました。 こちらは、仕事に差し支えるので、上司や同僚にあっさり告白し、工程から離れて、軽作業をやっていましたが、人に知られても、別に、恥ずかしさは感じていない様子でした。 年齢は、23歳くらいの男でしたが、性別が違うと、こうも違うものかと、感服した次第です。
このように、何となく、恥ずかしいイメージがある疣痔ですが、正式名称は、≪痔核≫というそうで、成人の3人に1人は罹っているそうですから、かなり、ポピュラーな病気と言えないでもなし。 性病などと違って、当人の過ちが原因で罹るわけではありませんから、そんなに恥ずかしがるのもおかしな感じがしますが、なぜ、恥ずかしいのかと考えてみるに、やはり、肛門という、≪恥部≫に出来る病気だからでしょうか。
「いぼじ」という音の響きが、また、よくありませんなあ。 実際に、疣状の膨らみが出来るわけですから、簡潔に態を表した、分かり易い名前なのですが、疣そのものに悪いイメージがあるために、≪疣 + 肛門≫で、恥ずかしいイメージが増幅してしまうのでしょう。 困ったもんだ。
で、前置きが長くなりましたが、何を隠そう、この私も、疣痔になりました。 そんな前の話じゃありません。 つい、一週間前の月曜日に、突然、青天の霹靂的に、なったのです。
もともと、便秘体質なので、排便は数日置きなのですが、ここのところ、腹の具合が思わしくなく、月曜の夜に、かなりの量が纏めて出て来ました。 その時、肛門の辺りに、何か引っ掛かっているような違和感を覚えたのですが、「まあ、出る物が出たんだから、よかろう」と思って、そのまま寝てしまいました。
ところが、寝ている間も、肛門部の異物感が消えません。 朝になると、何だか、痛みさえ感じるようになっていました。 しかし、この時点では、まだ、便の方の問題だと思っていたので、痔だとは考えもせず、そのまま、仕事へ出かけました。
私が今やっている仕事には、踏み段の昇降作業が含まれていて、普通の階段より少し高さがある段を、二段、下がっては上がるという動作を、一日に300回くらい、繰り返します。 で、火曜の朝から、これを始めると、肛門付近が、痛い痛い! こんな事は、初めてです。 明らかに、異常状態ですが、まだ、便の問題だと思っており、自分が、「恥ずかしい疣痔野郎」になっているとは、思いもしていません。
「もしや、痔では?」と、初めて気付いたのが、水曜の夜です。 しかし、なにせ、今まで、痔になった事がなかったので、確信がもてるはずもなく、また、心情的にも、自分が、「汚らしい疣痔野郎」になった事を、簡単に認める気になりませんでした。
木曜日の夜、下利便になり、腹の中が空っぽになると、肛門部の痛みも、一時、和らぎました。 それで、「なんだ、やっぱり、便の問題だったんだ。 痔だなんて、おどかしやがって。 これで、一晩眠れば、すっかり、元の体調に戻るに違いない」と、思って、気分も軽く、床に就きました。
ところがぎっちょん、戻らなかったんですな。 ピリピリピリピリ、赤切れが切れるような痛みが取れないのです。 仕事をしていれば、踏み段を下りるたびに、ビリっと来ますし、普通にしていても、疼くような痛みが続いています。 歩いている時は、むしろ楽で、座るとズシンと来ます。 バイクのシートに跨っても、尻の間に何かが挟まっているような、気持ち悪~い感触が・・・。
金曜に、会社から帰って来てから、≪ボラギノール≫だの、≪プリザA≫だのといった薬の名前が、脳裏をチラチラ掠めるようになりました。 いずれも、テレビCMで知っていた名前ですが、まさか、自分が購入を検討する事になろうとは、思ってもいませんでした。 ネットで調べてみると、軟膏タイプが、千円前後で売っているようです。 その程度の値段なら、駄目元で、一度塗ってみてもいいでしょう。
しかし、土曜の朝になって、軟膏計画は、没になりました。 鏡を使って患部を見てみたところ、「あらま!」と思わず叫んでしまうほど、大きな疣が膨らんでいる事が分かり、「とてもじゃないが、軟膏ごときで、勝てる相手ではないわ・・・」と、悟ってしまったのです。 「鶏を割くに、牛刀を以てす」の逆で、「牛を割くに、果物ナイフを以てす」という奴ですな。 割けるか、んなもん。
「月曜から土曜まで、5日も経っているのに、その間一度も、患部の様子を確かめなかったのか?」と訝る向きもあるでしょうが、いや、そんなもんですよ。 場所が場所だけに、普段、滅多に見ませんからのう。 というか、自分の肛門の様子を、定期的に確認している人って、いるんでしょうか? 健康診断の申告書でも、そういう項目は見た事がありません。
まして、痛みが続いていて、出血さえ疑われる情況に於いては、いくら、自分の体とはいえ、そんな所、ホイホイ見る気にならんでしょう。 想定外に気持ちの悪い物を見てしまった日には、飯がまずくなるくらいでは済まず、気分が鬱屈して、一気に世を儚んでしまう恐れさえあります。 肛門の痛みくらいで、いちいち、死んでられるか。
でもねえ、疣が膨らんでいる以外は、別段、汚い光景ではなかったですよ。 疣自体も、色は、普通の肌色で、そこだけ、クローズ・アップして見たら、綺麗なものでした。 トイレでウォシュレットを使っているお蔭もありますかねえ。 紙しか無かった頃は、疣痔になったら、大変だったでしょうなあ。
こうなった以上、市販薬を買って来て、自分で密かに治すなど、無茶無謀もいいところ。 こういう時のために、医者というプロがスタンバってるわけですから、利用しない手はありません。 ネットで、患者の体験談を読むと、「長年、市販薬に10万円以上注ぎ込んで、一向に治らなかったのが、病院に行って手術したら、あっさり治った」などとあり、水虫同様、市販薬がアテにならない病種のようです。 かくあらば、行かずばなるまい、病院へ!
早速、ネットで、近所の肛門科を調べたところ、すぐに、良さそうな所が見つかりました。 「切らずに、注射で治します」と書いてあったので、他の病院を調べずに、決めてしまいました。 私は、どちらかというと、病院での切った貼ったには慣れている方ですが、それでもやはり、切らずに済めば、それに越した事はないですから。
その時点で、午前11時10分。 診療時間を見ると、「土曜は、12時まで」と書いてあるので、急いで支度し、父の車を借りて、土砂降りの中を出掛けました。 初めて行く所なので、入る道が分からず、一度通り過ぎてしまい、7/11の駐車場で転回して、戻って来ました。
医院の駐車場は25台分。 八割方埋まっていましたが、中に入ると、待ち客は5組くらいしかいませんでした。 新しい建物で、待合室は広かったです。 受付で保険証を出し、健康状態や症状を書き込む用紙の該当する項目に○をつけて、提出しました。
待っている間、待合室や外の風景を観察していました。 壁に、医師の認定証や受講証などが、額装して、十枚くらい掛けてあります。 中に、≪剣道四段≫というのがありました。 どうやら、体育会系らしいです。 ものの10分程で呼ばれました。 待合室の奥に廊下があり、診察室は、その一番手前でした。 医師は、40代くらいの男性。 女性の看護士が助手。 ここから先、アップ・テンポで、事態が進行します。 会話部分は、アップ・テンポで読んで下さい。
「いつから?」
「痛くなったのは、月曜からです」
「飛び出してる?」
「はい」
「血は出てる?」
「出てません」
「じゃ、ちょっと見せて」
尻だけ出して、診察台に横になります。 急に壁が下がり出したので、ぎょっとしましたが、考えてみると、壁が下がっているのではなく、診察台が持ち上がっているのでした。 壁には、モニターが付いています。 医師は、ぱっと見て、すぐにどんな症状か、分かったらしいです。 カメラを肛門に押し込んで、
「ここが痛んでる、ここが」
と、モニターで血が溜まっている所を見せてくれたのですが、こちらは痛くて、観察どころではありません。
「今から切っちゃうから」
と言います。 びっくりしましたが、こちらは俎板の上の鯉ですから、反対などできるわけがありません。
「麻酔掛けて、なるべく痛くないようにやるから」
との事。 瞬く間に、注射で局所麻酔。 ほんの30秒ほど、チク、チクっとする内に、
「はい、終わった。 ちょっと見て、これが今出した血栓」
と言って、ガーゼの上の血の塊を見せてくれました。 うにゅうにゅしていますが、量的には、弁当に入っている醤油の袋の中身くらいでしょうか。
「内視鏡はやった事がある? 胃カメラとか」
「胃カメラはあります」
「大腸カメラは?」
「いいえ、ありません」
「やっておいた方がいい。 40過ぎると、大腸癌とか、ポリープとかある場合があるから」
「分かりました。 お願いします」
患部にはガーゼが当てられましたが、排便の時は、取ってしまっていいとの事。 その後、診察台から下り、椅子に戻ると、痔の種類を紹介したパンフを開いて、痔核のイラストに字を書き込みながら、
「あなたの病気は、血栓性外痔核。 2、3ミリ切って、中の血栓を出したの」
と、説明してくれました。 インフォームド・コンセントなわけですが、そういうのは、切る前にやって欲しかったです。 そもそも、注射で治すと言うから、ここを選んだと言うのに・・・。
「月曜に、もう一度、見せて。 その時、内視鏡の事も決めよう」
「はい、ありがとうございました」
これで、診察は終わり。 いや、診察ではなく、手術だったわけですが。 それにしても、いきなり、手術するかね、普通? さすが、体育会系の人は、決断力が勝っている。 いや、別に、誉めているわけではありませんが。
受付で、5860円払い、診察カードと処方箋を貰いました。 近くに、薬局があると言ので、傘を差し、歩いて、薬局へ。 ここでも、用紙に、健康状態や症状を書かされました。 書き終えて渡した直後に呼ばれ、痛み止め、化膿止め、胃薬を貰いました。 一つは、一日一錠(朝食後)、残りの二つは毎食後一錠。 代金は、660円。 処方箋薬局は、薬の効能や服用法を、実に丁寧に説明してくれるのですが、ちと、丁寧すぎる気がせんでもなし。
帰って、12時20分。 たった一時間で、「恥ずかしい疣痔野郎」から、「さほど恥ずかしくない、元疣痔野郎」に出世した事になります。 あの痛みから解放されたのですから、6千円ちょいくらいは、安いものです。 いやあ、痔の治療は、病院に直行するに限りますな。
午後、風呂に入ってから、患部を鏡で見てみたら、疣は完全に無くなったわけではなく、真ん中が凹んで、コーヒー豆のような形になっていいました。 切っただけだから、仕方ないですか。 それとも、また再発し、治療に来るように、完全には治さないつもりなんでしょうか。 端から疑るのは、よくないですけど。
とまあ、以上が、一週間に亘った、疣痔闘病記でした。 これで、本当に治ればいいんですがね。
で、待合室で順番を待っていたのですが、だんだん進んで、座り換える椅子が診察室に近づき、次が私の番という所まで来た時の事です。 私の前に診察室に入ったのは、40歳くらいの女性でしたが、医師と話を始めたかと思うと、急に嗚咽が聞こえて来ました。 聞き耳を立てるまでもなく、自然に聞こえて来た言葉が、
「・・・痔みたいなんです・・・」
続いて、医師の慰める言葉。 しかし、何と言って慰めていたかは、忘れてしまいました。
何が言いたいかというと、この女性にとって、痔を告白するというのは、泣くほど恥ずかしい事だったわけですな。 私も、漠然と、≪痔 = 恥ずかしい病気≫というイメージは持っていましたが、泣くほどとは思っていなかったので、少なからず、衝撃を受けた次第。
一方、同じ頃、会社にいた同僚の一人が、疣痔になりました。 こちらは、仕事に差し支えるので、上司や同僚にあっさり告白し、工程から離れて、軽作業をやっていましたが、人に知られても、別に、恥ずかしさは感じていない様子でした。 年齢は、23歳くらいの男でしたが、性別が違うと、こうも違うものかと、感服した次第です。
このように、何となく、恥ずかしいイメージがある疣痔ですが、正式名称は、≪痔核≫というそうで、成人の3人に1人は罹っているそうですから、かなり、ポピュラーな病気と言えないでもなし。 性病などと違って、当人の過ちが原因で罹るわけではありませんから、そんなに恥ずかしがるのもおかしな感じがしますが、なぜ、恥ずかしいのかと考えてみるに、やはり、肛門という、≪恥部≫に出来る病気だからでしょうか。
「いぼじ」という音の響きが、また、よくありませんなあ。 実際に、疣状の膨らみが出来るわけですから、簡潔に態を表した、分かり易い名前なのですが、疣そのものに悪いイメージがあるために、≪疣 + 肛門≫で、恥ずかしいイメージが増幅してしまうのでしょう。 困ったもんだ。
で、前置きが長くなりましたが、何を隠そう、この私も、疣痔になりました。 そんな前の話じゃありません。 つい、一週間前の月曜日に、突然、青天の霹靂的に、なったのです。
もともと、便秘体質なので、排便は数日置きなのですが、ここのところ、腹の具合が思わしくなく、月曜の夜に、かなりの量が纏めて出て来ました。 その時、肛門の辺りに、何か引っ掛かっているような違和感を覚えたのですが、「まあ、出る物が出たんだから、よかろう」と思って、そのまま寝てしまいました。
ところが、寝ている間も、肛門部の異物感が消えません。 朝になると、何だか、痛みさえ感じるようになっていました。 しかし、この時点では、まだ、便の方の問題だと思っていたので、痔だとは考えもせず、そのまま、仕事へ出かけました。
私が今やっている仕事には、踏み段の昇降作業が含まれていて、普通の階段より少し高さがある段を、二段、下がっては上がるという動作を、一日に300回くらい、繰り返します。 で、火曜の朝から、これを始めると、肛門付近が、痛い痛い! こんな事は、初めてです。 明らかに、異常状態ですが、まだ、便の問題だと思っており、自分が、「恥ずかしい疣痔野郎」になっているとは、思いもしていません。
「もしや、痔では?」と、初めて気付いたのが、水曜の夜です。 しかし、なにせ、今まで、痔になった事がなかったので、確信がもてるはずもなく、また、心情的にも、自分が、「汚らしい疣痔野郎」になった事を、簡単に認める気になりませんでした。
木曜日の夜、下利便になり、腹の中が空っぽになると、肛門部の痛みも、一時、和らぎました。 それで、「なんだ、やっぱり、便の問題だったんだ。 痔だなんて、おどかしやがって。 これで、一晩眠れば、すっかり、元の体調に戻るに違いない」と、思って、気分も軽く、床に就きました。
ところがぎっちょん、戻らなかったんですな。 ピリピリピリピリ、赤切れが切れるような痛みが取れないのです。 仕事をしていれば、踏み段を下りるたびに、ビリっと来ますし、普通にしていても、疼くような痛みが続いています。 歩いている時は、むしろ楽で、座るとズシンと来ます。 バイクのシートに跨っても、尻の間に何かが挟まっているような、気持ち悪~い感触が・・・。
金曜に、会社から帰って来てから、≪ボラギノール≫だの、≪プリザA≫だのといった薬の名前が、脳裏をチラチラ掠めるようになりました。 いずれも、テレビCMで知っていた名前ですが、まさか、自分が購入を検討する事になろうとは、思ってもいませんでした。 ネットで調べてみると、軟膏タイプが、千円前後で売っているようです。 その程度の値段なら、駄目元で、一度塗ってみてもいいでしょう。
しかし、土曜の朝になって、軟膏計画は、没になりました。 鏡を使って患部を見てみたところ、「あらま!」と思わず叫んでしまうほど、大きな疣が膨らんでいる事が分かり、「とてもじゃないが、軟膏ごときで、勝てる相手ではないわ・・・」と、悟ってしまったのです。 「鶏を割くに、牛刀を以てす」の逆で、「牛を割くに、果物ナイフを以てす」という奴ですな。 割けるか、んなもん。
「月曜から土曜まで、5日も経っているのに、その間一度も、患部の様子を確かめなかったのか?」と訝る向きもあるでしょうが、いや、そんなもんですよ。 場所が場所だけに、普段、滅多に見ませんからのう。 というか、自分の肛門の様子を、定期的に確認している人って、いるんでしょうか? 健康診断の申告書でも、そういう項目は見た事がありません。
まして、痛みが続いていて、出血さえ疑われる情況に於いては、いくら、自分の体とはいえ、そんな所、ホイホイ見る気にならんでしょう。 想定外に気持ちの悪い物を見てしまった日には、飯がまずくなるくらいでは済まず、気分が鬱屈して、一気に世を儚んでしまう恐れさえあります。 肛門の痛みくらいで、いちいち、死んでられるか。
でもねえ、疣が膨らんでいる以外は、別段、汚い光景ではなかったですよ。 疣自体も、色は、普通の肌色で、そこだけ、クローズ・アップして見たら、綺麗なものでした。 トイレでウォシュレットを使っているお蔭もありますかねえ。 紙しか無かった頃は、疣痔になったら、大変だったでしょうなあ。
こうなった以上、市販薬を買って来て、自分で密かに治すなど、無茶無謀もいいところ。 こういう時のために、医者というプロがスタンバってるわけですから、利用しない手はありません。 ネットで、患者の体験談を読むと、「長年、市販薬に10万円以上注ぎ込んで、一向に治らなかったのが、病院に行って手術したら、あっさり治った」などとあり、水虫同様、市販薬がアテにならない病種のようです。 かくあらば、行かずばなるまい、病院へ!
早速、ネットで、近所の肛門科を調べたところ、すぐに、良さそうな所が見つかりました。 「切らずに、注射で治します」と書いてあったので、他の病院を調べずに、決めてしまいました。 私は、どちらかというと、病院での切った貼ったには慣れている方ですが、それでもやはり、切らずに済めば、それに越した事はないですから。
その時点で、午前11時10分。 診療時間を見ると、「土曜は、12時まで」と書いてあるので、急いで支度し、父の車を借りて、土砂降りの中を出掛けました。 初めて行く所なので、入る道が分からず、一度通り過ぎてしまい、7/11の駐車場で転回して、戻って来ました。
医院の駐車場は25台分。 八割方埋まっていましたが、中に入ると、待ち客は5組くらいしかいませんでした。 新しい建物で、待合室は広かったです。 受付で保険証を出し、健康状態や症状を書き込む用紙の該当する項目に○をつけて、提出しました。
待っている間、待合室や外の風景を観察していました。 壁に、医師の認定証や受講証などが、額装して、十枚くらい掛けてあります。 中に、≪剣道四段≫というのがありました。 どうやら、体育会系らしいです。 ものの10分程で呼ばれました。 待合室の奥に廊下があり、診察室は、その一番手前でした。 医師は、40代くらいの男性。 女性の看護士が助手。 ここから先、アップ・テンポで、事態が進行します。 会話部分は、アップ・テンポで読んで下さい。
「いつから?」
「痛くなったのは、月曜からです」
「飛び出してる?」
「はい」
「血は出てる?」
「出てません」
「じゃ、ちょっと見せて」
尻だけ出して、診察台に横になります。 急に壁が下がり出したので、ぎょっとしましたが、考えてみると、壁が下がっているのではなく、診察台が持ち上がっているのでした。 壁には、モニターが付いています。 医師は、ぱっと見て、すぐにどんな症状か、分かったらしいです。 カメラを肛門に押し込んで、
「ここが痛んでる、ここが」
と、モニターで血が溜まっている所を見せてくれたのですが、こちらは痛くて、観察どころではありません。
「今から切っちゃうから」
と言います。 びっくりしましたが、こちらは俎板の上の鯉ですから、反対などできるわけがありません。
「麻酔掛けて、なるべく痛くないようにやるから」
との事。 瞬く間に、注射で局所麻酔。 ほんの30秒ほど、チク、チクっとする内に、
「はい、終わった。 ちょっと見て、これが今出した血栓」
と言って、ガーゼの上の血の塊を見せてくれました。 うにゅうにゅしていますが、量的には、弁当に入っている醤油の袋の中身くらいでしょうか。
「内視鏡はやった事がある? 胃カメラとか」
「胃カメラはあります」
「大腸カメラは?」
「いいえ、ありません」
「やっておいた方がいい。 40過ぎると、大腸癌とか、ポリープとかある場合があるから」
「分かりました。 お願いします」
患部にはガーゼが当てられましたが、排便の時は、取ってしまっていいとの事。 その後、診察台から下り、椅子に戻ると、痔の種類を紹介したパンフを開いて、痔核のイラストに字を書き込みながら、
「あなたの病気は、血栓性外痔核。 2、3ミリ切って、中の血栓を出したの」
と、説明してくれました。 インフォームド・コンセントなわけですが、そういうのは、切る前にやって欲しかったです。 そもそも、注射で治すと言うから、ここを選んだと言うのに・・・。
「月曜に、もう一度、見せて。 その時、内視鏡の事も決めよう」
「はい、ありがとうございました」
これで、診察は終わり。 いや、診察ではなく、手術だったわけですが。 それにしても、いきなり、手術するかね、普通? さすが、体育会系の人は、決断力が勝っている。 いや、別に、誉めているわけではありませんが。
受付で、5860円払い、診察カードと処方箋を貰いました。 近くに、薬局があると言ので、傘を差し、歩いて、薬局へ。 ここでも、用紙に、健康状態や症状を書かされました。 書き終えて渡した直後に呼ばれ、痛み止め、化膿止め、胃薬を貰いました。 一つは、一日一錠(朝食後)、残りの二つは毎食後一錠。 代金は、660円。 処方箋薬局は、薬の効能や服用法を、実に丁寧に説明してくれるのですが、ちと、丁寧すぎる気がせんでもなし。
帰って、12時20分。 たった一時間で、「恥ずかしい疣痔野郎」から、「さほど恥ずかしくない、元疣痔野郎」に出世した事になります。 あの痛みから解放されたのですから、6千円ちょいくらいは、安いものです。 いやあ、痔の治療は、病院に直行するに限りますな。
午後、風呂に入ってから、患部を鏡で見てみたら、疣は完全に無くなったわけではなく、真ん中が凹んで、コーヒー豆のような形になっていいました。 切っただけだから、仕方ないですか。 それとも、また再発し、治療に来るように、完全には治さないつもりなんでしょうか。 端から疑るのは、よくないですけど。
とまあ、以上が、一週間に亘った、疣痔闘病記でした。 これで、本当に治ればいいんですがね。
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