2012/10/07

愛車遍歴

  いえ、私の愛車遍歴を書こうというわけではありません。 今までに、所有した事がある車といったら、一台きりですから、語ろうにも、話になりませんな。 家族の車を入れれば、6台乗ってますが、ちょっと変わっていたというと、ホンダの初代トゥデイだけで、他は、これといって、思い出無し。 やはり、語るに足りません。

  語りたいのは、BS日テレで、水曜の夜10時から放送している、≪おぎやはぎの愛車遍歴≫の事です。 おぎやはぎのお二方と、自動車評論家の竹岡圭さんが、毎回一人、有名人のゲストを迎えて、愛車遍歴を辿る事で、その人の人生を振り返ろうという企画の番組。

  昨年(2011年)の10月から始まって、現在、40人弱のゲストが登場しています。 俳優、スポーツ選手、歌手、落語家、戦場カメラマン、芸人など、およそ、様々なジャンルの有名人が顔を見せます。

  ゲストが現在乗っている車は、最後に紹介されますが、それは、当然、当人の車です。 過去に乗っていた車は、番組スタッフが、同型の車を所有している人を探し、収録現場まで乗って来てもらう形式をとっています。 広島から来たという人もいましたが、収録現場は、関東なので、どえらい距離を、古い車で移動して来た事になり、大丈夫なのか、他人事ながら心配になります。

  今までで、面白かったというと、女優の高橋ひとみさんと、風水建築家のDr.コパさん。 車がどうこうと言うより、話が面白くて、爆笑しました。 このお二方は、人間そのものが面白いんですな。 もちろん、高価な車を乗り継いでいるわけですが、カッコよさよりも、コミカルなエピソードから来る、親しみ易さの方が勝っていました。

  凄かったというと、飛び抜けているのが、漫画家の池沢早人師さんで、かの名作、≪サーキットの狼≫を描いた人ですが、もう、断然、突出して、別格です。 フェラーリだけでも、数十台。 博物館が出来るほどで、他の人と比較する方に無理があります。

  凄さで、それに次ぐのが、雅楽師の東儀秀樹さんと、歌手の横山剣さん。 お二方とも、車が多過ぎて、二回に分けて放送されました。 他にも、車の数が多い人はいるんですが、このお二方は、セミクラ以前の古い車に思い入れが強く、語る事が多かったために、特別扱いになったのでしょう。

  「変わっているけど、こういう趣味もありか」と思ったのが、春風亭昇太さん。 昔のミニと、日本車のセミクラ車二台しか遍歴が無く、これから欲しいと思っている車を足しても、四台しか出て来なかったのですが、全て古い車ばかりだったので、とりわけて、印象に残っています。


  とまあ、ここまでは、よし。 問題は、それ以外のゲストでして、程度の差はあるものの、「しょーがねーな、この人・・・」と呆れるような人が、やけに多いのです。 車好きは、確かに、車好きなのですが、いかにも、「金が余っているから、高い車に乗っている」という感じで、いやらしいったら、ありゃしない。

  何ともつまらんのは、スポーツ選手で、ベンツ、ポルシェ、フェラーリばかり。 判で押したようです。 チーム・メイトの真似をして買っているから、似たような車ばかりになるんですな。 また、大抵のスポーツ選手は、現役ではなく、「元」なので、話の内容が、昔話ばかりで、これまた、興味が湧きません。 スポーツの話題なんて、一週間単位で消費されて行くのに、10年も前の試合の話なんて、思い出せませんよ。

  それでも、スポーツ選手は、真面目に一つの道を追求していた人達だから、つまらないながらも、まだ、まともに話を聞けるのです。 ひでーのは、俳優陣です。 「何なんだ、この人? 遊び人か?」というような、爛れた生活の体験談ばかり。

  当人は、「若気の至りだから、もう時効」と思っているのでしょうが、視聴者にしてみれば、今初めて聞かされる話なのであって、「こんな人だったのか・・・」と、それまでの評価が、一気にマイナスまで落ち込んでしまいます。 雉も鳴かずば、撃たれまいに。

  聞いていて一番嫌なのが、「趣味は大事にしたいから」と言いつつ、金をドブに捨てるような使い方をしたエピソードで、当人は、自慢のつもりで語っていても、一般人の感覚からは、狂気としか思えません。 車が好きなのではなく、金を湯水のように使って、金持ちぶりたいだけなのではありますまいか。 成功者などと言っても、所詮、こんなものか・・・。 何だか、人間全体が、つまらないもののように思えて来ます。

  俳優に限りませんが、乗った車の数は多くても、「愛車など、一台も無かっただろう」と思われる人もいます。 すぐに飽きて、ホイホイと乗り換えて行くのです。 これも、一般人の感覚からすると、軽薄にしか見えません。 本当に、車を、オモチャだと思っているんですな。

  車を必需品にしている地方人にとって、車とは、何よりもまず第一に、「日常生活の道具」であるわけですが、この番組に出て来る有名人達は、軒並み東京在住で、地方人は一人もいないので、何歳になっても、車が、オモチャの域から出ないのでしょう。 車好きを自認しながら、車の本当の使い方を知らないわけで、ある意味、哀れな人達とも言えます。

  こういう人達は、引退したら、地方に住んでみるといいと思います。 たぶん、引退前の自分が、車という道具の事を、根本的に勘違いしていた事に、気づくと思います。 東京に住んでいる限りは、駄目だねえ。 大体、東京は、車を使わない方が、便利な街でしょうに。


  東京も地方も無い、一般論ですが、車に拘っている人というのは、バブルの頃に比べると、随分と減りました。 休みの日に、自転車で住宅街をぶらぶら走っていても、洗車をしている光景を、滅多に見なくなったので、それが分かります。 車は、完全に、道具と化してしまって、もはや、ステイタス・シンボルでも、何でもないんですな。

  高価な車に乗っている人間が、羨ましいどころか、お金の価値を知らない馬鹿に見えてしまうのですから、バブルの頃と比べたら、隔世の感があります。 今では信じられない話ですが、バブルの頃には、乗っている車で男を選ぶ女というのが、本当にいたんですよ。 ちなみに、私の従妹の一人も、ソアラに乗っているというだけの理由で、結婚相手を選びました。 (馬鹿ですよ、馬鹿・・・)

  トポロジー的発想で、道具としてみれば、車とバイクの違いは、屋根が付いていて、雨の日でも濡れずに乗れる事だけ。 バイクと自転車の違いは、エンジンが付いている事だけ。 屋根が付いていれば、タタ・ナノでも、ベンツでも、全く同じ機能だという事になります。 なんで、同じ機能の道具に、30倍も高い金を払わねばならないのか、馬鹿馬鹿しいと思わないのが不思議。

  幸福度が違う? 馬鹿おっしゃい。 幸福が金で買えるわけが無いでしょう。 試しに、しばらく、徒歩生活をして、何ヶ月かしたら、近所で一番安い、中古の軽を買ってみなさい。 車のありがたみを知って、未だ嘗て経験した事のない、幸福感に酔いしれるから。


  この番組、他の新型車紹介番組などに比べると、ずっと、一般人向けで、面白いんですが、やはり、古い皮袋である事には逆らえず、回を重ねる内に、時代との矛盾がどんどん広がって来た感じがします。 今現在、人気があって、視聴者が私生活を知りたいと思っているような世代の有名人は、車に興味が無いため、愛車遍歴も存在せず、出て来ません。 勢い、呼ばれるゲストは、「過去の人」ばかり。

  かまやつさんや、柳生さんが出て来ても、視聴者の方は、半数以上が、「誰、この人?」という反応になってしまうのではないでしょうか。 結構、歳が行っている私でさえ、お二方が活躍していた時代を、直接には知らないのです。 そもそも、どんな人なのか知らないのに、その人が、どんな車に乗って来たかなんて、興味を湧かせろという方が無理じゃありませんか。

  有名人は、運転手付きの車で移動する事が多いので、自分では車を所有していない人も多く、今後、ますます、ゲスト探しは難しくなると思います。 範囲を広げ、作家や画家などを含めれば、かなり出て来るかもしれませんが、芸術家は普通、テレビに顔を出さないので、いきなり出て来られても、視聴者の方が馴染めません。

  実業家にも、結構、車好きがいそうですが、芸術家と同様の理由で、この番組には呼べないでしょうなあ。 つまらんでしょう、どこそこの会社の社長の、身の上話なんて。 時代の寵児になっている人なら別ですが、実業家で、そんなに有名になる人は、趣味よりも仕事に割く時間の方が多いわけで、車にばかりかまけてはいないと思います。


  この番組、今後もしばらくは続くと思いますが、一通り、出る車は出尽くしたようなので、私としては、興味が失せつつあります。 ベンツやアウディーなんて、何台見ても、同じですな。 まあ、ゲスト次第ですかねえ。 同じ過去の人でも、まだ忘れ去られていない人なら、見たいと思うかも知れません。


  そういえば、司会のおぎやはぎさんですが、≪ぶらぶら美術・博物館≫に出ている時と比べると、活き活き度が、まるで違いますな。 ぶら美の時には、数寄者の旦那(山田五郎さん)に引っ張り回される哀れな丁稚みたいな顔をしていますが、こちらでは、水を得た魚のような、活きのいいノリを見せています。

  竹岡圭さんは、自動車評論家という肩書きで来ているわけですが、評論家らしい事は何も言わず、スタッフが用意したと思われる車やゲストの資料を紹介するのが、主な役回り。 実質的には、この人が司会で、おぎやはぎさんは、ゲストのトークの相手をしているだけです。

  竹岡さんを探して来たのが、この番組が、そこそこの人気を博した主な理由かもしれませんな。 おぎやはぎさんより歳上なのに、妙に可愛く見えるんですよ。 可愛いというより、華があるというべきか。 それでいて、評論家の強味で、口を開けば、含蓄のある事も言えるわけです。 もし、もっと若い、顔だけのアシスタントみたいな人だったら、ずっと、薄っぺらい番組になっていた事でしょう。