2012/11/25

映画批評②

  仕事は、毎日、定時。 実は、定時まですら働いてなくて、30分前に終わって、定時まで、雑用で潰して帰って来ているという、深刻な閑さ。 いよいよ、日本の自動車業界も危ないか。 で、閑だと、家に帰ってからの時間が長くなるわけで、私の場合、それは、テレビで見る映画の本数が増える事に繋がります。

  現在、平均して、一日に二本は見ている計算。 映画専門チャンネルを契約しているわけではないのですが、地上波とBSのチャンネルだけでも、週に15本くらいは、未見の映画が放送されているんですなあ。 この世は、映画に溢れている。 というわけで、映画批評の第二回です。 例によって、辛口なので、気に入っている映画を貶されたくない方は、ご遠慮下さい。


≪コニャックの男≫ 1970年 フランス・イタリア
  ジャン・ポール・ベルモンドさん主演。 アメリカで再婚する事になって、離婚手続きのために、革命直後のフランスへ戻って来た男が、妻と再会するものの、妻は妻で貴族と結婚しようと画策中で、共和国軍と王侯派の戦いに巻き込まれつつ、別れる別れないで、大もめする話。 時代物・アクション・コメディーですな。

  主人公が、本当に離婚したいのか、妻とよりを戻したいのか、はっきりせず、ストーリーの軸が見通し難いです。 ラストが、また、どうしてそうなって行くのか、説明不足。 アクションは結構凝っていますが、基本はコメディーなので、それが見所にはなっていません。

  人物の表情の変化を細かいカットで繋いで、考えている事を表現しようとしているのですが、これが今風でないので、見ていて、何とも、まどろっこしいです。 映像による表現手法を、あれこれ工夫しようとしていたんでしょうが、戦前ならいざ知らず、70年で、まだこんな事をやっていたというのは驚きです。


≪オールド・ルーキー≫ 2002年 アメリカ
  デニス・クエイドさん主演の、野球物。 マイナー・リーグを故障で引退し、地元の高校で物理教師と野球部顧問をして暮らしてしていた男が、35歳になって、若い頃よりも、速い球を投げられるようになっている事に気づき、「お前達が地区大会で優勝したら、俺は、もう一度、プロに挑戦する」と約束をして部員を奮起させ、破竹の勢いで勝ち進むまでが、前半。

  プロ・テストを受けて、合格し、マイナーで何ヶ月か投げた後、メジャー・リーグに昇格して、子供の頃からの夢を果たすのが後半。 ストーリーの説明を二つに分けたのは、この映画が、前半と後半で、違う話を語っているからです。 巧みに接合されてはいますが、融合はしておらず、脚本家が大いに悩んだらしき形跡が窺えます。

「弱小チームが、ある事をきっかけに強くなり、大会で優勝するまでを描く」
「一度引退した男が、再びやる気を起こして、夢を実現する」

  この二つは、アメリカのスポーツ物映画の定番パターンですが、この作品では、両方とも取り込んでおり、相当欲張っています。 ただ、それだけで批判できないのは、この話が、実話だからです。 本当に、若い頃より、球速が速くなるなんて事があるんですねえ。

  監督は、ジョン・リー・ハンコックという人で、これが監督初作品だそうですが、道理で、描写が、えらい細かいです。 演出にも、凝りまくったのではないでしょうか。 実話が元という事もあるでしょうが、とにかく、作り方が、懇切丁寧。

  サブ・ストーリーで、主人公と、子供の頃、彼を理解してくれなかった父親との関係を、きっちり描いている点も、人間ドラマとして、大変優れています。 欲張り過ぎではあるものの、良い作品だと思うので、90点。


≪バビロンA.D.≫ 2008年 アメリカ・フランス・イギリス
  ビン・ディーゼルさん主演のSF戦闘アクション。 世界中で戦争が繰り返されている近未来、地球の裏側まで、一人の少女を護衛して運ぶ仕事を引き受けた傭兵崩れの男が、危難を掻い潜りつつ、モンゴルから東回りで、アメリカへ向かう話。

  少女の正体という事で、一応、SF設定がなされていますが、見せ場は、戦闘アクションです。 ただし、どう見ても、二流。 ストーリーも、脚本も、映像への拘りも、到底、一流作品とは言えません。 普通の団地の公園で、廃材を燃やしているだけなのに、それで、「戦争で荒廃した街」を演出しようというのは、あまりにも安直。

  ビン・ディーゼルさんを本気でスターにする気なら、スタッフに一流どころを揃えて、うんと予算をかけて、一本、凄いのを撮るしかありませんな。


≪ワーロック≫ 1959年 アメリカ
  ヘンリー・フォンダさん主演の西部劇。 無法者のカウボーイ一味のせいで、人殺しが絶えない町、ワーロックで、治安を回復する為に雇われた凄腕の保安官が、悪と戦いつつも、自分の生き方への疑問を抱き、相棒との信頼関係の綻びに悩む話。

  これは、秀逸。 西部劇とは思えないほど、人間ドラマが、よく練り込まれています。 善玉悪玉の単純な対立を避けているだけでも、他の西部劇とは、一線を画しています。 ただ、誰が主人公なのか、ちょっと分かり難くなっているのが、難点。


≪三人の名付親≫ 1948年 アメリカ
  ジョン・フォード監督作品。 ジョン・ウェインさん主演の西部劇。 三人組の銀行強盗が、保安官達に追われて、砂漠を逃げる途中、打ち捨てられた馬車の中で、出産間近の女から赤ん坊を取り上げてやり、名付け親を頼まれるものの、女は死んでしまい、赤ん坊を連れて、乾ききった大地を彷徨する話。

  カラー作品ですが、デジタル・リマスターされているのか、映像がどえりゃあ綺麗で、とても、48年作とは思えません。 この年代で、これだけの完成度を実現しているのは、驚嘆すべき事。 道理で、黒澤明監督が、師と仰ぐわけだ。

  後半、立て続けに主要登場人物が死んでしまう点、些か唐突で、物語の進行を急ぎ過ぎている感じもしますが、善悪バランスが絶妙に按配されているため、見終わった後の気分は、そんなに悪くはありません。


≪エンド・オブ・デイズ≫ 1999年 アメリカ
  数年前に最後の30分くらいだけ見たのですが、今回、放送前に番組表で察知したので、始めから見てみました。

  「1999年の大晦日に、サタンと人間の女が交わる事で、神の世界が滅び、悪魔の世界が始まる」という言い伝えが、現実のものとなり、事件に巻き込まれた警備会社の社員が、サタンの妻に選ばれた女を守って、死闘を繰り広げる話。

  シュワルツェネッガーさんが主演だというだけで、一級レベルを期待して見ていると、がっかりします。 相手がサタンというのが、問題でして、主人公はただの人間ですから、どんなにドンパチやったって、勝てるわけがありません。 その点、≪プレデター≫より、尚悪いです。

  こういう設定の話を作る時には、サタンの弱点を決めておいて、人間は、それを利用して戦うという形式にするべきですな。 そういう、脚本ノウハウは、アメリカ映画界では、常識になっているはずなんですがねえ。


≪南極料理人≫ 2009年 日本
  これは、素晴らしい。 とにかく、面白い。 こういう映画こそ、国際映画祭に出品すべきです。 1997年の南極、≪ドームふじ基地≫で、一年以上、共同生活をする事になった8人の隊員達の、食生活を巡るエピソードを、調理担当者が記録した、実話。

  男ばかりの生活模様ですが、これが、無茶苦茶、面白いのです。 ≪大脱走≫の、脱走前のような、閉鎖空間独特の人間関係が見られます。 家を遥かに離れ、自分の意思では帰れない環境で暮らす辛さは、私にもよーく分かるのですが、この映画を見ていると、なんとなく自分も、そこに加わってみたい気分になるから不思議です。

  主演は堺雅人さん。 他に、生瀬勝久さん、きたろうさんなど。 堺さんは、同じ年に、≪ゴールデン・スランバー≫に主演していますが、こちらの方が、千倍いい映画です。 話にならぬ。 比較にならぬ。

  夜食に盗み食いを重ね、ラーメンを喰い尽してしまった隊長が、「僕の体は、ラーメンで出来ているんだよ・・・」と嘆く場面は、恐らく、きたろうさんの演技歴の中で、最高のものではないでしょうか。

  彼氏が南極で、死ぬほど寂しい思いをしているというのに、「他に好きな人が出来た」と、電話で告げる、女の無神経な事よ。 自殺させる気か? 実話だというから、本当にそういう女がいたんでしょうが、この映画を見て、どう思うでしょうね? 「私だって、寂しかったんだ」なんて言っても、誰も味方はおらんぞ。 環境の苛酷さが、違い過ぎ。


≪エクスペンダブルズ≫ 2010年 アメリカ
  シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレンなど、スター級俳優がぞろぞろ出て来る、戦争アクション映画。 世界を舞台に、汚い仕事を引き受ける傭兵部隊が、軍事政権による恐怖政治が行われている南米の島国で、独裁者を陰で操る経済顧問を倒す話。

  スタローンさん自ら監督した作品で、ドンパチの凄まじさは、なかなかのもの。 ただ、それだけの映画という感じもして、ストーリーが、あまりにも単純過ぎます。 スターをたくさん集めれば、宣伝効果は高いですが、全員に見せ場を配分するのは大変で、悪い見本のようなキャスティングになってしまっています。


≪グラン・プリ≫ 1966年 アメリカ
  F1レースに挑むドライバー達の話。 イブ・モンタン、三船敏郎といった人達が、出演者の有名どころ。 ただし、三船さんは、ドライバーではなく、日本の自動車メーカーの社長の役です。 レース物映画としては、歴史的な作品だとの事。 確かに、レース・シーンの撮影は緊迫感に溢れていて、並々ならぬ映像表現への拘りを感じさせます。

  問題は、ストーリーの組み立てです。 とにかく、長い。 180分もあります。 なんで、こんなに長くなるのかというと、人間ドラマを欲張り過ぎているからです。 主要登場人物は、ドライバーだけでも四人いて、それぞれが、妻・恋人・愛人などと、色恋沙汰で絡むために、延びる延びる。

  更に、レース場が、ヨーロッパ各地を転戦するので、そのつど、レース場面が入り、いくら迫力がある映像と言っても、こう何度も見ていたのでは、飽きてしまいます。 主要登場人物を二人、レースを二つくらいに絞れば、ずっと面白くなったと思うのですが。

  女優陣が、全般的に老け過ぎなのも、気になるところ。 もう、盛りを過ぎてしまった人達ばかり、選んで集めたような感があります。 演技はうまいと思うんですがねえ。 ただし、60年代なので、ファッション・センスは、宜しいです。


≪殿方ご免遊ばせ≫ 1957年 フランス
  ブリジッド・バルドーさん主演の、お色気コメディー。 フランス大統領の娘が、秘書官に熱を上げ、何とか、結婚に持ち込むものの、浮気性の亭主に腹を立て、訪仏中の外国君主を誘惑して、夫を嫉妬させようと目論む話。

  一種のシチュエーション・コメディーなので、ストーリーは、かなり練られていますが、大笑いするほど面白いわけではなく、アメリカの同時代の映画、たとえば、オードリー・ヘップバーンさん主演のコメディーなどと比べると、構成が雑な感じがします。

  しかし、この映画の主目的は、ブリジッド・バルドーさんを、いかに可愛らしく、且つ、色っぽく撮るかにあり、その点では、楽勝で成功しています。 基本的に、男性向けの映画ですな。 公開時、ブリジッド・バルドーさんが、23歳だったのに対し、夫役のシャルル・ボワイエさんは、60歳だったというのには驚き。 とてもそうは見えない若さです。



  以上、今回は、10本まで。 ちなみに、≪南極料理人≫は、その後、原作本を読んでみたところ、私が面白いと感じたエピソードのほとんどが、映画にする際に創作・追加されたものである事が分かりました。 電話で、「他に好きなが出来た」と告げた女の話も、創作だった模様。 まあ、それはそれでいいんですがね。