2013/07/28

決して減らない

 参院選挙も終わった事なので、政治的な思惑から離れて、純粋に、この問題を検討する条件が整ったと判断されるわけですが、それでも尚、「石橋を叩いて帰る」的な慎重さを忘れずに、庭に掘った深い穴の中に小声で問いかけるが如く、恐る恐る申しますと・・・。

「福島第一原発って、結局、駄目なんじゃないの?」

  と、最近、つくづく思うわけです。 「駄目」の中身が問題ですが、これは、「結局、廃炉にするしかない」などという、甘っちょろい意味ではなく、

「結局、放射性物質の漏出を止められずに終わるのではないか?」

  という、絶望的な意味合いです。 この、「終わる」が、また問題ですが、「事故の処理が終わる」という意味ではなく、放射性物質を封じ込められないまま、現場の作業者全員が撤退し、半永久的に、放射性物質を放出し続ける原発の廃墟だけが残り、放射性物質が太平洋全域に拡散し、いずれは、世界中に広まって、人類も、他の動植物も、悪ければ死に絶え、良くても病的に変質し、生態系全体が破壊されるという、お先真っ暗な「終り方」です。

  ポツポツと断続的に、細々と伝わって来る情報を聞いていると、どうにも、処置がうまく進んでいるように見えません。 冷却に使った汚染水は、増える一方で、いつの間にか、福島第一の敷地内は、汚染水を溜めるタンクとプールだらけなってしまいましたし、海への流出も明らかになり、弥が上にも、不安の増大を加速させる形勢。

  奇妙奇天烈な事に、一年半も前の民主党政権時代に、時の首相によって、原発事故の≪収束宣言≫が出されていて、大方の日本国民は、その宣言が、政治的ポーズに過ぎない事を感じ取っていたにも拘らず、いい加減、大震災から続いていた非常事態の緊張感にうんざりしていたために、嘘と知りつつ受け入れて、自分を騙して安心させ、無理やり日常的生活に戻っていたわけですが、ここへ来て、さすがに、建屋が爆発するほどの重大な原発事故が、そう簡単には片付かない事を認めざるを得なくなったという次第・・・。

  冷却に使った水は、放射性物質に汚染されるので、そのまま、海へ排出する事はできません。 よって、基本的には、汚染水は、増える一方です。 増えるペースを減らすために、濾過装置に入れて、放射性物質の濃度を下げ、再使用しているわけですが、勘違いし易いので、きちんと認識しておかなければならないのは、濾過装置を使っていても、汚染水が減る事は無いという点です。 単に、増えるペースが遅くなるだけで、増え続けている事に変わりはありません。

  日々・・・いや、時々刻々、増えているからには、それをどこかに保存しなければならないわけで、敷地内にタンクを並べ、それでも足りずに、プールを掘って、露天で溜めているわけですが、考えてみれば、露天というのは、放射性物質を保存するには、随分と乱暴なやり方です。 密封できるタンクですら、放射性物質の性質から考えると、放射線が出るのを防げるわけではありません。

  汚染水は、どんどん増えるので、タンクもプールも、どんどん増える。 いずれ、福島第一の敷地内では収まりきらなくなって、周囲へ拡大せざるを得なくなると思います。 除染した避難地域への、住民の帰還について、あれこれ言われていますが、帰還どころの話ではないのであって、次のタンクをどこへ置くか、次のプールをどこへ掘るか、そちらの方が差し迫った問題でしょう。

  繰り返しますが、どんなに濾過装置を増強しようが、汚染水は、決して、減りません。 増え続ける一方なのです。 そういう仕組みなのを承知でやっているのですから。 減らないものを減らすためには、海へ流すしかありませんが、それも、一度流せば、それで終わるというものではないのであって、半永久的に流し続けるしかありません。 いいのか、そんな事しちゃって・・・。


  このところ、海への流出がニュースになっていますが、大気中にも、まだまだ、結構な量が出ているのではありますまいか。 爆発直後と、外観的に変わったところと言えば、一号機にカバーがかかった点だけですが、素朴な疑問として、あんな薄っぺらなもので、放射性物質を封じ込められるとは思えません。 そう言えば、「一回、外す」とかいうニュースも耳にしましたが、もし、カバー内に、放射性物質を封じ込めているのだとしたら、それを外してしまったら、また外に、どっと出てくるんじゃないでしょうか?

  あのカバーは、放射性物質を封じ込めるのが目的ではなく、雨水が原子炉建屋内の汚染部分に流れ込むのを防ぐためなのかもしれませんが、それなら、なぜ、2・3・4号機にはかけないのか、それがまた、不可解です。 単に、瓦礫隠しのためにかけたとか? とりあえず、1号機だけ覆って、どうなるか見てみたけれど、結果が思わしくないので、わざわざ、危険な作業をしてまで、他の3機にかける事もないと判断したのか。

  「モニタリング・ポストの値に変化は無い」という言葉には、そろそろ、耳にタコが出来つつありますが、その、モニタリング・ポストの精度や信頼性が、どの程度なのか疑わしいから、また、困るのです。 一方で、「汚染水の流出が確認された」と言い、一方で、「モニタリング・ポストの値に変化は無い」と言っていたら、そりゃ、モニタリング・ポストが壊れてる事を疑った方がいいんじゃないでしょうか。 


  汚染水が、地下を通って、海へ流れ出しているというのは、どうにも、頭の痛い事実でして、「手の打ちようが無い」というのが、現場の正直な意見ではありますまいか。 地上ですら、放射線が強過ぎて、瓦礫を片付ける事も侭ならないんですぜ。 時折、福島第一の現在の様子が、ニュース映像で出て来ますが、未だに、ごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃで、呆然としてしまいます。 地上があれでは、地下など、どうにもしようがありますまい。

  「地下に薬品を注入して、土を固め、汚染水が通らなくする」とか何とか言ってますが、「そんな物があるなら、最初から使え」と思う一方、落ち着いて考えると、それ自体が変な方法でして、海に流れ出さなくなれば、地上に溢れて来るしか、汚染水の行き場は無いわけですから、程なく、福島第一全体が、汚染水プールになってしまうと思うのですが、如何か?


  そういえば、事故当時の所長が、他界しましたが、そのニュースにも、ぞっとするものがありました。 脳出血で手術を受けた半年後、食道癌で亡くなったらしいですが、他の原因が重なっているとはいえ、直截の死因が、「癌」だったというのは、周囲の人間に与えた精神的ショックが、並々ならず大きかったろうと推測されるところです。 被曝の影響が無かったと信じるのは、放射線医学の専門家ならぬ身には、非常に難しい。

  ちなみに、この元所長、事故直後の処置判断が正しかったとかで、英雄扱いされていましたが、それも奇妙な話で、所長といえば、責任者なわけですから、事故を起こした施設の責任者を英雄視するのは、どう考えても、おかしいでしょう。 譬えて言えば、自ら火事を出した消防士が、懸命に消火作業に当たったからと言って、英雄扱いするのがおかしいのと同じ事です。

  元所長の評価はさておき、怖いのは、今後、現場の作業員が、癌で、次々と亡くなっていく事態が発生した場合でして、一旦、そういう流れになってしまうと、行く人間がいなくなるのは必定。 誰が、死ぬと分かっていて、ほいほい出かけていくものかね。 しかも、「自分さえ犠牲になれば、他のみんなが助かる」という、自己犠牲欲が満たされるシチュエーションならいざ知らず、何千人死のうが、何万人死のうが、放射性物質は容赦してくれないのですから、命を捨てるだけ、損というもの。

  そうなったら、強制的に人を送り込むしかありませんが、東電社員の頭数には限りがありますし、他の電力会社の社員にも限りがありますし、それらがみんな死んでしまったら、次は、誰が行くんでしょう? 先が無い年寄りから順に、義務化しますか? 冗談じゃないぜよ。 こちとら、原発なんぞ、とっくからやめればいいと思って、選挙でも、原発推進派の政党や候補には、一度も入れた事が無いのに、他人のアホの尻拭いで、被曝作業の強制かいな? まるっきり、特攻隊やんけ。


  さて、この現状を見て、青くならない人というのは、単細胞的な能天気か、判断力が無いか、あまり絶望的なので考えないようにしているかのいずれかでしょう。 このままの状態が続いた場合、先々に待っているのが、福島県の無人化に留まらず、日本列島の無人化、人類の滅亡、地球生物の滅亡だと思うと、どっと脱力して、何もやる気が起こらなくなってしまいます。

  この問題は、「反原発」とか、「脱原発」とかいう運動とは、全然、別の次元の話でして、もし万が一、今すぐ、原発全廃が決定したところで、破滅コースに変化はありません。 だって、放射性物質の漏出を止められないんですから。 「せめて、これ以上、原発を作るな」とか、「再稼動反対」とかいう次元とも違います。 他の原発がどうであるかに関係なく、福島第一だけで、充分に、破滅コースを維持できるからです。


  原子炉内部や、冷却プールから、溶けた核燃料を取り出して、汚染水を出さずに冷却できる施設に移せば、それ以上の放射性物質の放出は防げるわけですが、これがまた、前人未到の難題と来たもんだ。 チェルノブイリの事故からは、もう27年経っていますが、まだ、手付かずの状態です。 資金の問題というより、技術の問題でして、取り出すための技術が確立していないのですから、手のつけようが無い。

  ここでも、またぞろ、根拠不明の、≪日本のハイテク神話≫が出て来そうですが、駄目駄目、そんな技術、ありゃしません。 話にならんわ。 とんだ、連合艦隊だぜ。 だって、「原発は、絶対安全だから」と言って、メルト・ダウン時の対処技術なんて、何も開発して来なかったんだもの。

  基礎的な研究も無いところから始めて、実用段階の技術を確立するまで、何十年かかるやら。 いや、地震予知や、核融合炉みたいに、莫大な資金を使って、すぐにでも実現するような事を言っておきながら、その実、まるで成果が出ないというトンデモ研究もあるので、事によったら、永久に駄目かもしれません。 半導体技術のように、時間の経過に従って、着実に発展していくような分野とは、質が違うのです。

  技術が無いにも拘らず、「取り出し時期を前倒しする」などと言っていますが、実際問題、どうやるつもりなのか、皆目見当がつきません。 マスコミもマスコミで、そういう発表があったら、具体的にどうやるのか、しつこく、問い詰めればいいんですよ。 方法があれば、それに越した事は無いし、無ければ無いで、「いい加減な事を言うな!」と、怒鳴りつけてやればいいのです。

  芸能人のイベントや、スポーツ選手の成績ばかり、熱心に報じてないで、ちったあ、危機意識を逞しくして、自分達に許されている取材力・報道力を、有効に使えってうのよ。 自分自身や、自分の子孫の命に関わる問題ですぜ。 分かっとるんかいな?

  いや、事この問題に関しては、マスコミを責めるのは、筋違いか。 私が、上に書いたような情報を得られたという事は、マスコミが、積極的でないながらも、それだけの報道はして来たという事で、満更、怠慢を極めていたわけでない証拠。 なのに、なぜ、この恐るべき危機が、大騒ぎにならないのか? 笛吹けど踊らない、民衆の方に問題があるのか・・・。


  ふと思ったんですが、アメリカは、福島第一の現状を、どう見ているんでしょうか? 日本政府に任せてしまって、問題ないと思っているのか、大部分の日本国民がそうであるように、建前上、「もう、済んだ事」として、目を背けているのか。 しかし、太平洋で繋がっているわけですから、今後、汚染水を溜めきれなくなって、大規模に海に放出するなんて事になったら、対岸の火事と、おっとり構えているわけにもいかんでしょう。 津波で流された物が、あれだけ流れ着くんだから、放射性物質だって、当然、アメリカまで行くはず。

  アメリカだけではなく、環太平洋の国々は、糞マジな話、福島第一の状況を監視した方がいいと思いますぜ。 環太平洋パートナー・シップどころの話ではなく、環太平洋で、地獄へ道行きになりかねません。